駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『Shakespeare/HOT EYES!!』

2016年03月29日 | 観劇記/タイトルさ行
 宝塚大劇場、2016年1月1日(初日)、2日マチネ、ソワレ、3日マチネ、9日ソワレ、10日マチネ、17日マチネ、19日マチネ、ソワレ(新公)。
 東京宝塚劇場、2月19日ソワレ(東京初日)、20日マチネ、23日ソワレ、28日ソワレ、3月3日ソワレ(新公)、5日マチネ、10日ソワレ、15日ソワレ、17日マチネ、21日ソワレ、26日マチネ、27日ソワレ(大千秋楽)。

 時は16世紀末、ペストの流行により死と隣り合う暮らしを人々が強いられていた時代。ロンドンでは日常を忘れさせてくれる演劇が人気を博し、連日多くの市民が劇場に押し寄せていた。そんな中、新作の芝居『ロミオとジュリエット』が開幕する。脚本を手がけたのはウィリアム・シェイクスピア(朝夏まなと)、まだ無名の新人作家である。しかし彼と妻アン(実咲凜音)は、明日にはロンドン中が彼の名を知ることになるだろうと確信していた。舞台上で繰り広げられる愛の物語を見つめながら、ふたりは6年前に思いを馳せる。『ロミオとジュリエット』はふたりの物語でもあったのだ…
 スーパーバイザー/小田島雄志、作・演出/生田大和、作曲・編曲/太田健。シェイクスピア没後400年メモリアル、と銘打たれたのはたまたまだったそうですが、新生宙組本公演第二作となるオリジナル・ミュージカル。

 大劇場初日雑感はこちら、大劇場新公雑感はこちら、脚本つっこみはこちら
 ハードルを下げて臨もうと思い、それでも怒り暴れる気満々で、なのに「え…? これっておもしろいんじゃ…? てかすごくよくできてる…?」となった元日初日幕間のとまどいから早三か月。尻上がりに好評を博し他組ファンからもお褒めいただきたくさんチケット頼んでいただけて楽しく観ていただけて取り次ぎし甲斐がありアテンドし甲斐もあって、自身も本当に楽しく通いまくりました。夢のようです。
 よく考えたら、本当に、ごく普通の、あたりまえの出来ではあると思うのですよ。登場人物が役者の個性に合っていて好感が持てるキャラクターで、その行動や心理に無理がなく、ストーリー展開にも強引さや破綻がなく、配役が適材適所で、笑いあり涙ありロマンチックで後味が良く、差別その他ストレスとなる不快な要素がない。ある程度定期的に製作され一定の人気があり収益もあげている創作物として、ごく基本的な基準をクリアしているにすぎないのですけれど、宝塚歌劇においてはこれがとても稀で奇跡的なことであり、それだけで世紀の大傑作にすら見えかねないのだからそれはそれで困ったものです。宝塚歌劇の演目がいかに普段、出演者の魅力と技能に頼りきりの、情けない出来の脚本・演出しか作れていないか、これを機に猛省してほしいものだと思いました。
 ウェルメイド、という言葉は、「ただ良くできているだけ」というニュアンスを感じないこともなくて、なかなか使い方が難しいと思うこともあるのですが、私はもともと、「荒削りだが目新しさがある」とか「足りない点も多いが尖っているところが魅力」とかいうタイプの作品より、全方向に丸く滑らかでまず平均点をきちんとクリアしていることを買いたい派なので、この作品に関してもいい意味でも悪い意味でも堂々と「ウェルメイドな作品であった」と評価したいし、たとえばよそからも、別に賞とかがすべてではないけれど、そういうなんらかの形で評価され顕彰されるといいなと思っています(『ヘッズ・アップ!』にも同じことを思いました)。
 これは私があくまで秀才タイプの凡人であって天才ではないから、もっと言えば作家ではないから、そう考えるのでしょう。でも勉強や良識やちょっとした気遣い、工夫でできることはたくさんあって、それだけで埋められる穴がたくさんあるのに、その穴が開いたまま売り物として世に出てるもののあまりの多さにときどき絶望的な気分になることがあるので、たとえ少数派なのだとしても、こういうことはしつこく言い続けていきたいと思います。この作品は、いい、ちゃんとしている、よくできている、素晴らしい。
 そしてもちろんこの作品は、そういう、ある程度誰でも習得できる基本的な技術やノウハウだけで作られただけものなんかではなくて、ちゃんと作家の愛と情熱と萌えが詰まった、見せたいこと、伝えたいことがきちんとある作品でした。そこが何より素晴らしい。よくできていたって「で、だから?」ってなっちゃうような作品では、創作の意味がないからです。残念ながらこういうものも多いんだ世の中には!
 生田先生、ありがとうございました。この時期のこの宙組に、新作オリジナルの二本立て公演、かつ良作、本当に本当にありがたかったです。これを踏まえて『王家』再演、そしい大作『エリザベート』への挑戦と、組は羽ばたいていけます。その次の全ツも演目発表になれば今年は終わったも同然ですが(笑)、この先も楽しみしかありません!!

 まぁ様を主人公に若き日のシェイクスピアの愛と青春、迷いと成功を描く。企画として大成功でしたし、ウィリアムをエキセントリックな天才に描かなかったところが最大の勝因だったと私は思っています。
 まぁ様のウィルは才能と夢と希望にあふれた、まっすぐでごくまっとうな青年で、偏屈だったり変人だったりするところはまったくありませんでした。
 作家が作家を描くとき、まして天才作家を描くとき、才能あるがゆえに常識はなくて社会からははみ出していて家庭にも恵まれず栄光を得るが転落し…みたいな、悲劇的で英雄的な仕立てにすることが多いものですが、生田先生は踏みとどまりました。そこが何よりの勝因だったと思うのです。
 確かに、実際のシェイクスピアの作品に出てくる詩的な台詞の数々を、別の登場人物たちがしゃべってしまうことも多いので、ウィルの天才性とかウィルの言葉だけが持っていたはずの魔力とかが薄れてしまっていて、たとえばエセックス伯(桜木みなと)が土壇場でああまで彼を庇う理由がわかりづらくなってしまっている、とかの弊害はあったのかもしれません。でも私はここなんかも、単にウィルがいいヤツだったから庇ってやりたくなったんだ、でいいんでない?とか思っていました、すみません。それくらいまぁ様が素敵に、魅力的にウィルを演じてくれていましたし、だからそれで十分だったと思うんですよね。天才の苦悩とか、凡人の観客には興味ないし関係ないもん。でも恋する男の苦悩は大好物なワケですからネ!
 史実から悪妻だとか不仲だったとかされることも多いという妻アンも、トップ娘役でありまぁ様の相手役であるみりおんに演じさせて物語のヒロインとする以上、きちんと主人公の恋の相手に据えその恋をきちんと描き山あり谷ありでもハッピーエンド、とするべきであり、ちゃんとそうしたのも勝因のひとつでした。宝塚歌劇の観客が観たいものはトップコンビのラブでありロマンスでありハッピーなのです。ここを外してワケわからなくなっちゃってる演目のなんと多いことか。みりおんの母性や落ち着きが、アンがウィルより年上の女性であること、母となり息子を失いそれでも夫を愛している女性であることに、うまく生かされていました。
 二番手スターは物語の中で恋敵か仇役、あるいは親友みたいなポジションで活躍することが多いものですが、今回のゆりかはウィルのパトロンとして劇団を主宰(?)するジョージ・ケアリー(真風涼帆)役。芸術にも理解があるし心情的には盟友といってもいいけれど、自分の政治権力掌握のためにウィルの人気を利用しようとする面もある色濃い役で、これもハマっていました。これまた終盤のコミカルパートが唐突だ、という意見もいくつか聞きましたが、私はこれまた上手い笑いとユーモアの投入だな、と感心したんですよね。笑わせるのって難しいし、しょうもない駄洒落とからちもないドタバタに落とすんじゃなくて、これまたちょっと役者の個性を生かしたおもしろいアイディアで、真面目に一本調子に辛気臭くお涙ちょうだいにまとめるんじゃなくて気が利いているなと思いました。
 愛ちゃんにしたって、おもしろくなりすぎちゃっているということはなかったと思います。もしそうだったとしても、三番手くらいまではコメディリリーフもやっていいと思うのですよ、カッコつけるのはこれからいくらでもできるんだから。『SANCTUARY』とかちゃんと生で観てたらわかりますよ、あれができていてこその今なんじゃん、これからなんじゃん。宙組は大丈夫です、磐石です。
 エリザベス女王役の美穂圭子お姉さまがさすがで、劇団の看板役者リチャード(沙央くらま)のコマもさすがでした。酒場の場面、ベタではあるけれど、あの芝居はなかなかああはできないものです。こんな重要キャラクターなのに大劇場公演では中盤まで名前が出てきませんでしたが、東京で脚本を一部改訂してきた生田先生ホントGJ。冒頭にベン(星吹彩翔)とリチャードとポープ(澄輝さやと)の名前を出させること、は私が手を変え品を変え訴え続けてきたことなので、別にその意見が採用されたのではなく生田先生が自分で気づいて修正したんだとしても、嬉しいことに変わりはありませんでした。東京初日に席で小躍りしていましたからね私!
 一座の役者仲間であり回想場面ではウィルの親友役を演じたりくとそらもいい仕事をしていて、女形を務める少年役者役のせーこがさすがで、一座の座長かけるがさすがすぎて、ジョージの政敵たちであるりんきら、てんれー、さお、ゆいちぃもいい仕事をしていて、ウィルの両親まっぷーとあおいちゃんも手堅く、ハムネット(遥羽らら)ららたんが激キュート。りおがちゃんとしててかなこが美しくまりなは可愛い。あきももなっつも目立って見えてたなー。
 ジョージの妻ベス(伶美うらら)役のゆうりちゃんの尋常でない美貌と確かな芝居、チャーミングさが存分に発揮されて、二番手娘役格として燦然と輝いていたのも素晴らしい。女官sはみんな美しくてたまらん。『冬物語』の役者たちはみんな男性俳優の女装姿なのだと思うのもまたたまらん。
 進撃のまどかもきっちり役割を務めていたと思いました。
 最後に我らが(笑)あっきー、可愛かったよチャーミングだったよ! 明るい役を楽しそうに演じていて良かったよ!! このあたりは近々「澄輝日記」でしつこく語らせていただきますね。
 うん、宙組、充実してるな、磐石だな! 本当に本当に楽しい、いいミュージカル公演でした。

 ダイナミック・ショーは作・演出/藤井大介、作曲・編曲/青木朝子、手島恭子。
 全場大階段出しっ放しの効果は正直そんなになかったと思うし、マジでダイスケお休みもらった方がええんちゃうかとか思うし、ホントはB先生とかダーイシとかスミオちゃんとかのショーが宙組で観たいとかの要望はあるし、それでもやっぱり楽しく観ました。宙組にショーがあるだけで嬉しいし、ダンサーでありショースターであるまぁ様がロケット以外の全場面に出て踊りまくるなんて、ファンとして楽しくないわけがないのです。
 すっしぃ、あおいちゃん、きゃのんにてんれーという濃い(特にてんれーが)4人の魔法使いに導かれ、まずは娘役ちゃん全員の銀橋ダッシュ! 先頭のエビちゃん超イイ笑顔! 東京では銀橋が長くなってタイヘンだったそうですが、ゴージャスで観ていてとにかく高まるプロローグでした。
 そこからの大階段に板つくまぁ様のシルエットの美しいこと! 打ち鳴らす手の音がよく響くこと! そしてまずゆりかが下手から、愛ちゃんが上手から現れて。ホントはそれぞれ拍手を入れたいところだけれど、まぁ様が歌っている途中だから遠慮して、ひそやかに始まっていくのも美しい。さらに下手からあっきーが出てきたらもう私は他が見られないので全貌がよくわかっておりません…今回ホントにまぁ様のすぐ右手とか右奥とかにいることが多く、見やすくて嬉しかったです。
 一度引っ込んだあとはあきゆうりという美の暴力カップルで再登場、ニコリともせず踊るタンゴがまたカッコいい! 男女のホールドがときどき正式なものと逆になるのは、ソシアルダンス・ビギナーとして見ていて気持ち悪いけれど、まあ目をつぶろう。
 そしてガラリと空気が変わって主題歌突入! 最初のうちは覚えづらいと思ったものでしたが、慣れると歌詞がいかにもまぁ様っぽくて明るくて楽しくて、すぐ歌えるようになりました。客席下りもホント楽しかった!
 銀橋に愛ちゃんと娘役ちゃん4人が残って、ありさの指差しがビシバシ決まって、ここも楽しかったです。
 ダービー帽にフォッシー・スタイルの「Jumping EYES」場面はまたまた大階段板つきのまぁ様がカッコよくて、まゆたん譲りの「フッ」の掛け声も凜々しくて、またまた上手でニコニコバリバリ踊るあっきーが可愛くて至福。ここはあきエビ。ロケットの蹴りも美しい。どピンクのシャツも可愛かったなー。ラストにまぁ様に寄っていくときにすっごいいい笑顔でまぁ様を見るので、下手で観劇のときはよくおこぼれをいただいていました。
 「Dark EYES」場面は、ゆりかの銀橋の歌がうまく聞こえないタイプのもので残念でした。あと「♪ガラスの夜」とかを鼻濁音で発音しなくてもよかったのではなかろうか…ゆうりちゃんのセリ上がりには拍手入れたかったなー。金髪と黒髪の鬘を交互にチェンジしているさおとかなこ、美しかったなー。まぁ様はエクステがある方が人外感が出ていて好きでした。全然すべてのパートが見きれないうちに終わってしまいました、さすがはヤンさん振り付けの場面であったことよ…
 中詰め突入、三組のヤングカップルではららたんガン見でした。顔とスタイル、踊りはまいあちゃんが好きなんだけど、ららの「可愛い芸」(同じタイプのものに愛ちゃんの「イケメン芸」というものがある)に惹きつけられざるをえませんでした。ゆりかの「Eye of the Tiger」ではゆいちゃん、しーちゃん、ふみなガン見。
 続いてコマの「め組のひと」と、今や女子ダンスリーダーのエビちゃん。でもすぐオラオラザカザカ階段下りてくる人がいるのでそちらをガン見。ウィンク、指差し、開眼、ホント毎回ひどかったごちそうさまでした…
 圭子さまの貫禄が素晴らしく、みりおんの「天使のウィンク」ではりくのアイドルっぷりとりんきらのサラサラ前髪にやられ、まぁ様の「ダイヤモンドアイズ」ではかけるのダンスの上手さは知っていたけどさおもホントすごくて、見惚れていました。そのあとのまぁ様の客席下りがまたよくてねー! 全ツ『シト風Ⅲ』のときみたいなメロウでマイルドなのもいいけれど、こういう元気でアグレッシブなのもホントいい。本舞台からもみんなオラオラ視線くれるし、前方席だと大変でした。
 コスミっコ7は…「Baby」の数を数えて精神統一を図るしかありませんでしたよね…萌えすぎてつらかった、ありがとうございました…
 「Mysterious EYES」では闇のゆみちゃんしーちゃんガン見。ジャガーたちのあまりのトンチキ衣装に、ここのメンバーに入らなくてよかったと心底思っていましたが、ダンス自体は素敵でずんちゃんやかける、ゆいちゃんをガン見。そして現れる光の男の神聖さたるや…! 演奏が盛大にトチる回に遭遇したことがありましたが、動じずつないだみんな、すごかったなあ。
 そこからのまぁ様ノクターンも素晴らしい。当初はもっとシンプルなお衣装でもいいのでは…とも思いましたが、照明ともあいまって本当に美しい。一度、男性の声で「まなと!」と掛け声が飛んで空気がぶち壊しになった回がありましたが、まぁ様はさすがの集中力ですぐさま世界を引き戻して見せてくれました。
 フィナーレはコマの「満点の瞳」での銀橋渡りがあって、そらのロケットボーイが颯爽と現われ、懐かしい『ファンキー・サンシャイン』ひまわりのお衣装で下級生たちが踊ります。ここもららまどかガン見。
 「Exotic EYES」はゆいちゃんガン見。本当に理想的なスタイルと切れ味のいいダンスをする娘役ちゃんです。この場面のラスト近くは大階段をオラオラザカザカ下りてくる人を見るのに忙しくて展開がよくわかっていません…ハラリ前髪シケとニヤリ笑いはホントにギルティ。そのあとの三組デュエダンはゆうりちゃんガン見でした。誰と組んでも本当に美しく、愛らしい。
 新調のお衣装でのパレードも豪華できらびやかで、嬉しかったです。ああ、楽しかったなあぁ。千秋楽のカーテンコールで、シャンシャンを持っていないので手を上げる振りがガッツポーズみたいになっているのもツボでした。まぁ様の「がんばりましょうネッ!」みたいな声に「ハイッ!!」ってみんなでお行儀良く応える感じとかもすごーく可愛かった。いい組になりました、これからも楽しみです。
 甘々モードですみません…





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 珠城日記&愛希日記2~月全... | トップ | 宝塚歌劇月組『Voice』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルさ行」カテゴリの最新記事