駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『歌妖曲』

2022年11月08日 | 観劇記/タイトルか行
 明治座、2022年11月6日17時半(初日)。

 昭和40年代の東京。歌謡界に彗星のごとく登場し、瞬く間にスターダムに駆け上がった桜木輝彦(中川大志)。そのベールに包まれた経歴の裏側には、戦後の芸能界に君臨する鳴尾一族の存在があった。元映画スターの鳴尾勲(池田成志)が手がける、愛娘の一条あやめ(中村中)と愛息の鳴尾利生(福本雄樹)はスター街道を驀進中。背後にはフィクサー・大松盛男(山内圭哉)が控え、今や世間からは大手芸能プロダクションと謳われていた。だがそんな鳴尾一族にあって、存在を闇に葬られた末っ子がいた。ねじ曲がった四肢と醜く引きつった顔を持つ鳴尾定(中川大志)。一族の穢れとして闇の中で生きてきた定は、闇医者の施術で絶世の美男子・桜木輝彦に変身を遂げ、裏社会でのし上がろうとするチンピラ・徳田誠二(浅利陽介)と手を組むが…
 作・演出/倉持裕、作曲・音楽監督/和田俊輔。これからのエンターテインメントを担わんとし、ケレン味とスペクタクル感を持つ作品を作ろうと明治座、東宝、ヴィレッジが三銃士として企画した作品の第二弾。サブタイトルは「中川大志之丞変化」。全2幕。

 中川大志主演で、『リチャード三世』を昭和歌謡界に置き換えた音楽劇を、というコンセプトの企画だったそうですね。私は実はシェイクスピアの『リチャード三世』をちゃんと観たことがなくて、菅野文『薔薇王の葬列』だけ読んでなんとなく史実を知った気でいるとというていたらくなので、このキャラクターがシェイクスピアでいうとこれにあたる、みたいなのは全然わかりませんでした。てかリチャード三世は別に整形したりしないしね…そしてあれは単に王位争いの物語で復讐の話ではないのでは、と私は思っていたので、どちらかというと『モンテ・クリスト伯』や『マクベス』、『ノートルダムの鐘』、『オペラ座の怪人』なんかを想起しました。異形と蔑まれたり迫害されたりしていた者が、姿を変えて復讐するお話…まあノートルダムやマクベスは姿を変えはしないのでちょっと違うか。
 まあでも別に元ネタがあろうとなかろうとなんだろうと、おもしろければいいのです。その意味では、脚本はもうちょっと練れたかな、と思います。時間が行ったり来たりするのにあまり意味を感じなかったし、私は定は施術で綺麗に生まれ変わったのだと思っていたので、輝彦の姿でいられるのは1日数時間だけであとは身体が元に戻ってしまうのだ、というような設定がよくわからず、時間経過も混乱して終盤までけっこうワケがわかりませんでした。なのでコレ、要る?と思ってしまった、というのはある。でももっと一直線に話を進めてもいいと思ったし、必要な説明は他にもっとあるし、でもいくらたっぷりやる娯楽の殿堂・明治座公演ったって3時間15分ってけっこう長いし、逆にこれだけやるなら芝居パートはもっとタイトにぎゅっと煮詰めて、ナンバーを増やすか1曲の尺を伸ばすかしてもっと伝統の歌謡ショーとしての華やぎを増した演出にした方が、盛り上がり楽しい演目になるんじゃないかな、と思ったのです。歌謡曲ってミュージカルの楽曲よりだいぶ尺が短いので、わりと一瞬で終わってしまって公式ペンラなんかそんな振る暇ないじゃん、って気もしちゃったんですよね。あとはずっとわりと重く暗い芝居が続く印象だったので…まあこれは私が観たのがたまたま初日だったので(ここしか行ける日がなかった…)、このあと芝居が練れて緩急ついて、一本調子感は薄まるのかなとは思いますが。空回りして見えたユーモラスな部分なんかも効いてくると、より良くなるでしょうしね。
 なんかでもホント、松井玲奈の悪女なヒロイン・杏(松井玲奈)とか、誠二との奇妙な三角関係っぽい感じとか、半分しか血がつながっていない姉・あやめの屈託とか、暴力団と芸能プロダクションの癒着とか、でも実はそんなヤクザが定たちの母親である女優にかつてけっこうマジだった、というのがキモだったんじゃないの?みたいな部分とか、ロマンチックでドラマチックでおもしろい要素がいろいろあったように思えただけに、もうちょっとビシッとハマってエンタメでジェットコースターで泣き笑いできて最後にせつなくなるような作品に仕立てられたんじゃないのかなー、と思ったんですよね…そして死体山盛りの中、ダークヒーローの主人公が絶望して終わる、暗転、ってのはアリだと思うので。
 ただしその場合はやはりカーテンコールというか、フィナーレというかラインナップにもう一工夫必要でしょう。それこそここから客席オールスタンディングにさせるくらいノリノリの曲にすべきだし、もっとひとりずつゆっくり出すかなんかして時間を捻出して、中川くんには必死で裏を走ってもらって、袖からではなく階段てっぺんから再登場させるべきですよ! ライトがっと当ててさあ!! それがスタァってもんですよ!!!
 それでいうと、そもそも1曲目の「彼方の景色」のメロディが今ひとつ歌謡曲っぽくなかったのが痛恨だったと思いました。私が直前に明治座で観たのがKiinaの舞台だったってのもあるかもしれないけれど、ぶっちゃけあっちの方が断然出来がよかったし、どっちも三階席しか買わなかったけど断然お得感、納得感がありましたもん。あれをもっと研究すべきだったと思うし、つかみの1曲目はホントもっとベタベタな歌謡曲メロディを必死で作曲させるべきだったと思いました。ここがぬるいんじゃダメなんだよー、中村中のバラード絶唱がすごいのとかはあたりまえで、それが圧巻なだけじゃダメじゃん。プログラムには昭和歌謡に関する濃いコラムなんかがあるのに、肝心の楽曲が今ひとつぬるいのがホント残念でした。この時代の空気感が本当の意味でわかるのは私よりさらに歳上の世代かと思いますが、それでも私も昭和の女なので、昭和を舐めんなよ、と言いたかったです。
 だって、中川くん、めーっちゃ歌えるのに!
 彼はこれが初舞台だそうですが、一年半ボイトレを積んだというだけあって声がいいし、顔は当然いいしタッパあるし動けるし歌えるしもちろん芝居ができるので、舞台でも活躍できる、映える役者だということをこれ一本で証明してみせました。ど直球ミュージカルもこなすと思うなー、いつかカッキーと共演するといい! 大河の主役もマジで見えていると思いますが、ホントいいスター来たー!感が何より素晴らしい、そんな舞台でした。
 グループ現役時代から好きだった松井玲奈がまたよかった。二幕の歌がまさしく昭和アイドル歌唱で、高音が出きらないところとかホントよかった。あと浅利陽介がホント絶妙。ホント上手いなー。私は初めて観るかな?な福本雄樹もとてもよかったけれど、中川くんと並ぶとほっそりしすぎて兄に見えないのがやや残念だったかもしれません。おじさんふたりが素晴らしいのはもちろん、何役もこなすアンサンブルもとてもいい按配でした。
 役者はみんなしっかりしていたなー、なのでここから力技でさらになんとか良くしてくるんだろうな-、と思えました。だからこそ、脚本がちょっと足りていないというか未整理な感じがもったいないと思ったのでした。
 でも、おもしろかったです。ワクワクしました。そういうグルーブ感って観劇には大事ですよね。私は楽しかったです。
 このあとキャナルシティと新歌舞伎座でクリスマスまで、無事の完走をお祈りしています! そして中川くんの舞台は次もまた行きたいです!!

 しかしチケ代が高かったのでA席の三階正面席一列目を取ったのですが、手摺りが視界の邪魔になるな! 役者が舞台の前方に出てくると、背伸びするか前屈みになるか逆に椅子に沈み込んで手摺りの下のガラス板越しに覗くかしないと何も見えない…もっと座高のある男性客を想定しているなら、この通路の狭さでは入れないでしょう。どうにかしていただきたいです。










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