歌舞伎座、2024年10月19日16時半。
仁左玉、そして玉三郎六条に染五郎光源氏とあって完売した今月の夜の部ですが、お友達のピンチヒッターで急遽行けることになりましたありがたや。もしかしたら私が仁左衛門さんを生で観るのはこれが初めて…かもしれません。人間国宝カップル、堪能させていただきました。
『婦系図』は作/泉鏡花、演出/成瀬芳一。1907年の新聞小説で、翌年新富座で初演(脚本/柳川春葉)。新派の代表的作品だそうで、歌舞伎座では1981年以来の上演とのこと。今回は「本郷薬師縁日」「柳橋柏家」「湯島境内」の上演。
柳橋で全盛の芸者・蔦吉(坂東玉三郎)は若きドイツ語学者の早瀬主税(片岡仁左衛門)と愛し合う仲となり、芸者を辞めて飯田橋の主税の家で一緒に暮らしている。しかしこれは主税の恩師である酒井俊蔵(坂東彌十郎)の許しを得ていないため、お蔦は世間を憚る身であった…
というところからの、恩師の叱責に血を吐く思いで別れを承諾する男…という場面と、それだけで単独でも繰り返し上演されるという男女の別れの場面、という構成です。しかし「俺を棄てるか、女を棄てるか」と迫る恩師ってのはすごいな…この台詞は知りませんでしたが、「別れろ切れろは芸者のときに言う言葉、今の私にはいっそ死ねとおっしゃってください」ってのと「静岡って箱根より遠いんですか」は知っていて、わあこの作品のものだったのか!となりました。
もともとの小説は、主税が恩師の娘の系図調べ(身上調査みたいなものかな? 実は生母が蔦吉の姉芸者で…という筋があるらしい)をしてきた縁談の相手方の乱脈ぶりを暴く…みたいな報復劇だそうですが、芝居は主税とお蔦の純愛を中心に脚色されているそうです。そして湯島境内の場面はそもそも原作にはないのだとか…おもしろいものですね。
仁左衛門さんはちょっと声に張りがなく感じられたり、回によっては足下がおぼつかなげなときもあったそうですが、ちゃんとそれなりの歳の若造に見えるんだからそれはたいしたものだと思いました。そして初デートに浮かれるお蔦の玉三郎さんがもうホントきゃいきゃいしていて可愛いのなんのって! 普段日陰の身なんで、初めて自分の男と連れ立って出かける…ってシチュエーションにハイになっていて、ウザいギリギリのはしゃぎようで、いじらしくて…それが後半の涙、涙の展開に効いてくるのでした。素晴らしかった!
歌舞伎の幕引きって「ここで終わるんかーい!」ってなものが多い、と私は個人的に考えているんですが、この場面に関してはこれしかないという感じで、絶妙でした。
でも前後の話もちゃんと観たい、とも思いましたよ…この「婦」は「おんな」と読みます。「職業差別や男の立身出世を第一とする風潮が根強かった時代の悲劇」、まさしく…でした。
後半は新作、なのかな? 脚本/竹芝潤一、監修/板東玉三郎、演出/今井豊茂による「六条御息所の巻」で六条御息所/玉三郎、光源氏/染五郎、左大臣/彌十郎、葵の上/時蔵。盆の上にいくつもの几帳が並び、盆が回ると左大臣邸から六条御息所の邸に場面が変わる、美しくもスタイリッシュなセット(美術/前田剛)がとても印象的でした。
染五郎の光源氏はそら輝くばかりの美しさ、そしてそれを嵩にかかった傲慢さ…絶品でした。それに対して恨みがましい、賢しらで素直でない年上の女の玉三郎六条…重い、たまらん!
しかしラストは解せませんでした。六条が葵を取り憑き殺し、高笑いして、光源氏が泣き濡れて床に突っ伏して終わるようなラストこそふさわしいと思うのだけれど…息子も無事産んで家庭円満、光源氏と葵と赤子でわっはっはと笑って終わるとか、『源氏物語』を舐めてんのか!?とかちょっと思っちゃいました、すみません。夜の部でくらい終わり方はどうか…とか配慮したのかもしれませんが、むしろ光源氏の愚かさに震えて我が身を反省し、帰宅して家人に優しくするまでがセットでしょう。もったいないというか、ぽかーん案件で残念でした。
今回の夜の部は新派と新作なので歌舞伎材の大歌舞伎らしくない、とも言われているそうですね。この世界もいろいろあるんだなあ…昼の部の『俊寛』は観てみたかったです。
若手と共演して芸を伸ばすことに熱心な玉三郎さんは、再来月は團子ちゃんと『天守物語』をやってくれるんですよね…! 楽しみすぎです、絶対観ます!!
仁左玉、そして玉三郎六条に染五郎光源氏とあって完売した今月の夜の部ですが、お友達のピンチヒッターで急遽行けることになりましたありがたや。もしかしたら私が仁左衛門さんを生で観るのはこれが初めて…かもしれません。人間国宝カップル、堪能させていただきました。
『婦系図』は作/泉鏡花、演出/成瀬芳一。1907年の新聞小説で、翌年新富座で初演(脚本/柳川春葉)。新派の代表的作品だそうで、歌舞伎座では1981年以来の上演とのこと。今回は「本郷薬師縁日」「柳橋柏家」「湯島境内」の上演。
柳橋で全盛の芸者・蔦吉(坂東玉三郎)は若きドイツ語学者の早瀬主税(片岡仁左衛門)と愛し合う仲となり、芸者を辞めて飯田橋の主税の家で一緒に暮らしている。しかしこれは主税の恩師である酒井俊蔵(坂東彌十郎)の許しを得ていないため、お蔦は世間を憚る身であった…
というところからの、恩師の叱責に血を吐く思いで別れを承諾する男…という場面と、それだけで単独でも繰り返し上演されるという男女の別れの場面、という構成です。しかし「俺を棄てるか、女を棄てるか」と迫る恩師ってのはすごいな…この台詞は知りませんでしたが、「別れろ切れろは芸者のときに言う言葉、今の私にはいっそ死ねとおっしゃってください」ってのと「静岡って箱根より遠いんですか」は知っていて、わあこの作品のものだったのか!となりました。
もともとの小説は、主税が恩師の娘の系図調べ(身上調査みたいなものかな? 実は生母が蔦吉の姉芸者で…という筋があるらしい)をしてきた縁談の相手方の乱脈ぶりを暴く…みたいな報復劇だそうですが、芝居は主税とお蔦の純愛を中心に脚色されているそうです。そして湯島境内の場面はそもそも原作にはないのだとか…おもしろいものですね。
仁左衛門さんはちょっと声に張りがなく感じられたり、回によっては足下がおぼつかなげなときもあったそうですが、ちゃんとそれなりの歳の若造に見えるんだからそれはたいしたものだと思いました。そして初デートに浮かれるお蔦の玉三郎さんがもうホントきゃいきゃいしていて可愛いのなんのって! 普段日陰の身なんで、初めて自分の男と連れ立って出かける…ってシチュエーションにハイになっていて、ウザいギリギリのはしゃぎようで、いじらしくて…それが後半の涙、涙の展開に効いてくるのでした。素晴らしかった!
歌舞伎の幕引きって「ここで終わるんかーい!」ってなものが多い、と私は個人的に考えているんですが、この場面に関してはこれしかないという感じで、絶妙でした。
でも前後の話もちゃんと観たい、とも思いましたよ…この「婦」は「おんな」と読みます。「職業差別や男の立身出世を第一とする風潮が根強かった時代の悲劇」、まさしく…でした。
後半は新作、なのかな? 脚本/竹芝潤一、監修/板東玉三郎、演出/今井豊茂による「六条御息所の巻」で六条御息所/玉三郎、光源氏/染五郎、左大臣/彌十郎、葵の上/時蔵。盆の上にいくつもの几帳が並び、盆が回ると左大臣邸から六条御息所の邸に場面が変わる、美しくもスタイリッシュなセット(美術/前田剛)がとても印象的でした。
染五郎の光源氏はそら輝くばかりの美しさ、そしてそれを嵩にかかった傲慢さ…絶品でした。それに対して恨みがましい、賢しらで素直でない年上の女の玉三郎六条…重い、たまらん!
しかしラストは解せませんでした。六条が葵を取り憑き殺し、高笑いして、光源氏が泣き濡れて床に突っ伏して終わるようなラストこそふさわしいと思うのだけれど…息子も無事産んで家庭円満、光源氏と葵と赤子でわっはっはと笑って終わるとか、『源氏物語』を舐めてんのか!?とかちょっと思っちゃいました、すみません。夜の部でくらい終わり方はどうか…とか配慮したのかもしれませんが、むしろ光源氏の愚かさに震えて我が身を反省し、帰宅して家人に優しくするまでがセットでしょう。もったいないというか、ぽかーん案件で残念でした。
今回の夜の部は新派と新作なので歌舞伎材の大歌舞伎らしくない、とも言われているそうですね。この世界もいろいろあるんだなあ…昼の部の『俊寛』は観てみたかったです。
若手と共演して芸を伸ばすことに熱心な玉三郎さんは、再来月は團子ちゃんと『天守物語』をやってくれるんですよね…! 楽しみすぎです、絶対観ます!!