映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

イーダ(2013年)

2017-06-29 | 【い】




以下、Movie Walkerよりストーリーのコピペです。

=====ここから。

 1960年代初頭のポーランド。孤児として修道院で育てられた少女アンナ(アガタ・チュシェブホフスカ)は、ある日院長から叔母の存在を知らされる。興味を持ったアンナは、一度も面会に来たことのない叔母のヴァンダ(アガタ・クレシャ)を訪ねるが、そこで彼女の口から出た言葉に衝撃を受ける。

 「あなたの名前は、イーダ・レベンシュタイン。ユダヤ人よ」

 突然知らされた自身の過去。私は何故、両親に捨てられたのか?イーダは自らの出生の秘密を知るため、ヴァンダとともに旅に出る……。
 
=====ここまで。

 修道院の院長が、叔母に会いに行け、と言ったのは、アンナが修道誓願式を控えていたから。式を終えれば、もう引き返せない。だから、今のうちに、、、。

   
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 本作は、公開時に見に行きたかったのに、行きそびれてしまった作品。TSUTAYA DISCAS にはレンタルがないので、DVDを購入した次第。これは買って正解だったかも。

 イーダ=アンナ、なんだけれども、便宜上、ヴァンダに本当の名前を聞くまでをアンナ、その後をイーダとして書き分けます。


◆叔母ヴァンダ

 叔母のヴァンダは、どう見てもワケアリ。

 アンナが訪ねて行ったところの登場シーンが、はだけたガウン姿で、部屋の奥にはベッドに男が、、、。しかも、アンナに向かって「院長に何も聞いてないの? 私の仕事のこと」などと言うので、てっきり娼婦かと思ってしまった。

 が、実は、ヴァンダは判事。以前は検事でもあった。堅い職業の女性が、男をとっかえひっかえ自宅に引っ張り込んでいる……。まあ、判事だからって別に性生活がどうだろうが構わないという気もするが、若干の違和感は覚える。しかし、ヴァンダがこんな生活をしている理由はすぐに分かる。

 この時代のポーランドで、検事を務めていた、ということは、当然、共産主義に基づいて、罪なき人を罪人にした過去もあるはず。実際に、中盤、イーダに「前は検察官だった。大きな裁判で、死刑に導いたこともある。50年代初頭、赤いヴァンダよ」と言っている。また、判事に転向した現在の法廷でのヴァンダの姿を描くシーンもあるが、どこか虚ろな表情で、ぼんやりと検事の言葉を聞いている感じ。法廷の壁には(多分)レーニンの肖像画が掛かっている。自分のこれまでの仕事に虚しさを感じているのか。

 そして、次第に明かされるイーダの出生にまつわる事実とヴァンダの過去。

 アンナと顔を合わせた直後、ヴァンダは、アンナに「なぜ(私を)引き取らなかったの?」と聞かれ、こう答えている。「お互いにとって、幸せでないからよ」、、、そうして、アンナにその出生を伝えると、一旦は、イーダを追い返すのだけれども、駅の待合室にいるイーダを見つけて連れ戻す。この辺の描写も、ヴァンダの複雑な心情を表わしているかのよう。

 自宅に戻ると、実母の写真をイーダに見せ、そこには、幼いイーダと男の子が写っていたのか(映像には出ない)、イーダは「私には兄がいたの?」と聞くが、ヴァンダは「一人っ子よ」と言うのみで、その男の子については何も語らない。

 イーダが、両親の墓があるピャスキに墓参りをしたいと言うと、ヴァンダは「ユダヤ人の遺体はどれも行方知れず、森の中か湖の底かもね」と、にべもないのだが、イーダが現地で確かめたいとさらに粘ると、ヴァンダはこんなことを言う。

 「神など存在しないと知ることになっても?」

 一体、イーダの生まれ故郷に、何があるというのか、、、。敬虔なカトリックの修道女になろうともあろうイーダが、神を否定したくなる様な事実があるのか?? と、観客の興味を見事に引きつけ、ヴァンダの憂いの漂う佇まいがナビゲートしてくれる。


◆ポーランド人によるユダヤ人虐殺

 戦後の(戦中もだったらしいが)ポーランドでは、ポーランド人によるユダヤ人殺しも頻発していたらしい。最近、ポーランド関連の本を読んでいるのだけれども、ポーランドにはヨーロッパでもユダヤ人が特に多く住んでいたことから、ユダヤ人社会も発達していたが、同時に、ユダヤ人を嫌うポーランド人も多く、ユダヤ人差別はかなり強いものがあったらしい。

 そういう背景にあって、ユダヤ人であるイーダや母親たちは、とある寒村の農家に助けを求めて逃げ込んだようだ。農家の父子は、近くの森にユダヤ人家族を匿い、食料を運んだりして一時的には助けたらしいが、ユダヤ人を匿っていることが発覚するのを恐れたのか、最終的には殺してしまったのだった。

 十数年ぶりに、イーダと再会することとなった農家の父子だが、父は既に死の床にあり、息子は「これ以上関わらないでくれ、埋めた場所を教えるから」と言って、ヴァンダとイーダを森の中へと誘う。

 森の一角を掘り起こし出てくる人骨、、、。

 イーダは、「私はなぜ助かったの?」と聞く。息子が答えるには「幼かった。ユダヤ人と気付かれない。でも、少年の方は肌が褐色で、割礼していた、、、」

 ヴァンダはどうやら、自分の息子を、イーダの母親夫婦に預けて、“闘いに行っていた”らしい。ヴァンダ自身「何のために……、息子のこと何も知らない……」と悔恨の涙をイーダの胸で流している。ヴァンダは、恐らくパルチザンであったことが、ここからも知れる。


◆どうしてイーダは修道院に戻ったのか

 イーダの出生と、ヴァンダの息子の最期が明らかになり、果たして、イーダは「神など存在しない」と知ったのか。

 一旦、修道院にもどり、修道誓願式に臨もうとするイーダだが、思いとどまる。その直後に、ヴァンダは自室の窓から投身自殺。ただ一人の姪として呼ばれたのか、ヴァンダ亡き後のヴァンダの部屋にたたずむイーダは、修道服を脱ぎ、ヴァンダのドレスをまとい、髪も下ろす。

 その後、ヴァンダとの旅の道中でヒッチハイクした青年と再会して、イーダは修道女としての禁を軽々と犯すのだが、これらの一連のイーダの行動は、神に対するささやかな反逆なのかも知れないし、青年に対する純粋な愛情だったのかも知れない。

 ただ、これまでの展開を考えると、神の存在との関係を暗示していると見ても間違いじゃないと思う。

 私がイーダでも、同じことをするなぁ、、、と思ったし、その後、イーダは修道院に戻るが、私だったら「結婚しよう」と言ってくれている青年と駆け落ちするかも知れない。それくらい、今回の出来事は、自分の人生を根底から覆すものだったのではないか。

 イーダがどうしてラストシーンで修道院に戻ったのか、、、。まあ、いろいろ解釈はあるだろうが、私は、単純に、他に行き場所がないというところに考えが行き着いたからだと思う。いくら青年を好きでも、染みついた修道院での習慣や信仰心はそうそう簡単に拭い去れるものではないし、信仰を捨てる畏れもあったのか、と思う。

 でも、禁を犯した身体で、神を冒涜し続ける道を選んだ、という見方もできるかも。こっちの方が、私的には好みだが、、、。
 

◆その他もろもろ

 モノクロの本作は、全編にわたって、“静謐”という言葉が感じられる。途中、ジャズが流れるシーンや、一瞬の衝撃的なシーンもあるけれども、でもそれらも全て、静謐さの中にある感じだ。

 院長に言われるがまま、叔母に会いに行くアンナ。雪が降りしきる中、雪道を歩いて行くシーンは、それこそ、シ~ンという音が聞こえてきそうなくらいに静謐。アンナの心情を表わしているのか、一連の旅を終えて、ヴァンダに送られて戻ってきたときには、雪は降っておらず、地面の雪も溶けてなくなっていた。

 とにもかくにも、ヴァンダを演じたアガタ・クレシャが出色。彼女の方が、実質的な主役と言って良いかも。壮絶な過去を持って、それが故に、今を虚無の中に生きざるを得ず、そんな人生をどこか達観して眺めつつも、苦しみ悶えていた複雑な中年女性の役を見事に演じている。素晴らしい。

 アンナ=イーダを演じたアガタ・チュシェブホフスカも、楚々とした女性を好演。この後、女優を続けることはないと語っているらしい。もったいないような気もする。

 そして、音楽。モーツァルト、ジャズ、インターナショナル、バッハ、、、と、押しつけがましさのない選曲。ジャズには詳しくないけれど、コルトレーンの演奏シーンなど、見入って(聞き入って?)しまう。監督が、チャック・コリアやキース・ジャレットに影響を受け、一時期ジャズ・ピアニストとして活動していたというから、この選曲も納得。

 また、画面構成がものすごく特徴的。技術的なことはゼンゼン分からないが、スタンダードサイズの、下の方に人物を配置することが多い。しかも、割と顔だけを映しているシーンが多く、画面の上部4分の3は空だったり壁だったり、、、。この空間と人物の顔の配置のバランスが、絶妙な違和感と調和を成しており、不思議な感じを受ける。

 地味で寡黙な作品だが、一見の価値はあると思う。


 





チェンクイエ=ありがとう。ドヴィゼニア=さようなら。
この2語だけ聞き取れるようになったポーランド語。




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