映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ダリオ・アルジェントのドラキュラ(2012年)

2015-10-30 | 【た】



 ご存じ、あの「ドラキュラ」を、あのダリオ・アルジェントが撮った作品。ドラキュラ公を演じるのは、あの、トーマス・クレッチマン。

 ある意味、期待にたがわぬ作品。

 
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 ヴァンパイアものも4本目となりました。本作は、一昨年だったと思いますが、確かレイトショー限定で公開されていました。かなり見に行きたいとウズウズしていたんだけれど、なにせレイトショー、、、終了時刻が日が変わる直前、ってんで見に行く根性がありませんでした。DVDになってようやく鑑賞できることに!

 いや~、正直、参りました。これで、私のヴァンパイアものに対する認識(というほどのものでもないけど)は決定的となりました。はい、それはつまりこーゆーことです。

 ヴァンパイア映画≒バカっぽい

 お好きな方、ごめんなさい。4本だけで決め付けるな、とお叱りを受けそうですが、、、。そしてこれだけは言っておきたいのですが、バカっぽいからダメとか、唾棄すべきものとか、そういうことではもちろんありません。

 でも、もうこれは拭い難いものとなってしまいそうです。1本目『美しき獣』しかり、2本目『吸血鬼』しかり、3本目『ドラキュラ』しかり、そして本作。全てに感じたこととして共通するキーワード、それは「バカっぽい」なのです。

 本作は、もちろん、アルジェントがそれをある程度狙って作ったものだと思います。でなきゃ、あんなわざとらしいペンキみたいな血とか、不必要にエグい殺し方とか、女性の無駄脱ぎとか、稚拙すぎるCGとか、グダグダなストーリーとか、あり得ないと思うんで。だから、きっと、彼もバカっぽさを承知でこういう作品にしたのでしょう。

 ということは、本作は、もしかしてコメディとして見るべきなのか・・・? という疑問も持ちました。少なくともホラーとは言い難い。だって、怖くないもの。私、グロいの基本的には苦手なんですけど、本作はもう“作り物感満載”なんで、ほとんど抵抗なく見れちゃいました。そう、わざとらしいのですよ、全てが。そして、このわざとらしさも、4作全てに共通するものでした。

 ホラーのキャラとして代表的なモノだと、ゾンビでしょうか。ゾンビだって作り物なのに、ドラキュラほどバカっぽさを感じないし、いやそれどころかリアリティさえ感じる。おまけにかなり怖い。同じ“あり得ない”ものなのに、どうしてこうも違うのか。そもそも、映画史上においてはドラキュラなんてゾンビの祖先みたいなもんなわけで。なのに、どうして、、子孫は怖いのに、ご先祖様はバカっぽいのかしらん・・・?

 まあ、でも、ポランスキーもアルジェントも、初めから“三の線”狙いだったんだと思うので、この2作品はバカっぽいのは計算されたものなのだと思えば、それは納得です。でも、『美しき獣』のカサヴェテス娘や、コッポラは、恐らくはマジメに作ったという感じがするのです。それもかなりの気合の入れようで。それでも、バカっぽくなるのは、やはり、このドラキュラの持つ性質にあるのかも。

 ゾンビはもう、人格なんかなくて、会話もないし、ただ、わ~~っって襲ってくるだけ。ゾンビは十把一絡げで個々の性格付けなんてされないので、まあ、例えが悪いかもだけど、ホオジロザメのジョーズとあんまし変わらない。でも、ヴァンパイアには人格があって、キャラが形成される時点で、どうしてもファンタジー要素が入ってしまって、、、。ホラーとファンタジーは相性悪いんですかねぇ。

 化け物でキャラがあると言って思いつくのは、あのフランケンシュタインの化け物ですが、フランケンシュタインも何度か映像化されています(ちゃんと見たのはデ・ニーロのだけですが)が、やっぱりどこかこう、、、ドラキュラほどじゃないけど、滑稽さってあるのですよね。

 思えば、ドラキュラも、フランケンシュタインも、古典文学です。やはり、こういう、妄想上の存在は、映像化するとチープになるのを避けられない、ということかも知れません。文字で読んで、読者の想像の中で物語が展開する分には恐怖も感動も味わえるのですが、それを視覚でバッチリ見せられると、、、。邦画でも妖怪ものとか、笑っちゃうのがほとんどですもんね。

 そうはいっても、やはり、映画としてのドラキュラの金字塔作品が是非出現してもらいたいものです。怖くなくてもいいから、ゾッとさせられたい、いろんな意味で。

 ドラキュラ公を演じたトーマス・クレッチマンは、でも、すごい頑張っていました。ゲイリー・オールドマンより美しいしカッコ良くて、ビジュアルは本作の方がかなり良いかも。ヴァン・ヘルシングもアンソニー・ホプキンスより、本作のルトガー・ハウアーの方が合っている気がします。ちょっとオシム監督に似ている? なかなか素敵です。出番が少なくて、あっさりドラキュラ退治しちゃったのが残念でしたが。

 ミナを演じたマルタ・ガスティーニは美しくてなかなか。ルーシーは、アルジェントの娘さんアーシア・アルジェントが演じておられます。ちょっとお父さんに似ているかな・・・。必然性のない全裸シーンあり。

 






ドラキュラ公は美しい方が良い。




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クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落(2012年)

2015-10-27 | 【く】



 アメリカの大富豪が、ベルサイユ宮殿をモチーフにした(どこが?)全米一の大豪邸を建設しようと計画しているのを知った本作の監督が、その一部始終を記録すべく始まった本作の撮影。

 ところが、事実は小説よりも奇なり。撮影途中で、あのリーマン・ショックが起き、大富豪も直撃を受ける。そして、ベルサイユ計画も頓挫。建設途中で売りに出すハメに、、、。しかも、まるで売れない(買える人も、買いたい人もいないのだ、あまりにも、、、な建物で)。

 はてさて、大富豪一家、このピンチをどうするのでしょうか? 正直、退屈なドキュメンタリーでございました。

 
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 大富豪一家の主は、デヴィッド・シーゲルというお方。それこそ“裸一貫”から起業(?)し、一代で財をなした成り上がりの爺さんで、2代目ブッシュ大統領を大統領にしたことがご自慢らしいです。そして、その31歳年下の若き妻ジャッキーは元モデル。二人とも再婚同士だけれど、二人の間には子どもが何と8人もおり、と~っても仲睦まじい様子から、本作は始まります。もちろん、現在住んでいる家だって、すんごい豪邸です。

 そして、メインのベルサイユ風新豪邸建設現場も紹介されて、、、。工事中の建物の中。ジャッキーが「キッチンだけで○○(←100以上の数字を言っていたと思うが記憶が定かじゃないです)あるの」とか、「スケートリンクもあるわ」とか、、、。まあ、、、家具とかイロイロ悪趣味で、全く魅力を感じることなく、ただただ、へぇ~~~、という感じ。

 ところが! 予期せぬ出来事勃発。それは、あのリーマン・ショック! デヴィッドの会社も煽りを食ってしまいます。でも、本作では、事業の危機はあまり詳しい説明もなく、、、。ベルサイユがどうなるか、それが飽くまでメインテーマ。

 正直、この危機が訪れるまでは、かなり退屈で睡魔に襲われました。そして、リーマン・ショック後は覚醒したかというと、、、。まあ、眠くはならなかったけれど、おめめパッチリ、という訳でもなかったです。

 確かに、危機以降のシーゲル家は大変そうでした。ベルサイユも売りに出しちゃったし。たくさんいた使用人も解雇して、家の中も荒れてきちゃう。犬を何匹か飼っているんだけど、その犬たちがところ構わず糞をするんだよね、これが、、、。そして、それがあちこちに放置されていて不衛生極まりない。子どもたちが飼っていたトカゲや魚も、世話が行き届かずに死んでるし。なんかもう、いくら豪邸でもあんな所で生活なんか絶対イヤ、という状況でした。

 が、このジャッキー、かなりの楽天家というか、そんな状況になってもゼンゼン悲壮感がないのです。買い物は相変わらずジャンジャンし、「シッターがいたから子ども8人も産めたのよ~~!」とか能天気に言っているかと思えば、「(経済的に)タイヘンになっても、その時はその時で、何とかするしかないし何とかなるわ」と笑顔で言っている。「良い時もあれば悪い時もある。私の人生、今までタイヘン続きだったから、別にへっちゃら~~」的な感じなのです。

 彼女は、最初こそ、一見、金目当てで歳の差婚したシタタカ女みたいに見えなくもないけど、どうやら、経済力抜きでもダンナのことをちゃんと愛していて、危機に陥っているダンナを支えなきゃ、と彼女なりに腹を括っている割と純な心の女性のようです。

 むしろ、いけ好かないのはダンナの方。事業が上手く行かなくなったからって、家族に八つ当たり。一番の矛先は妻であるジャッキーに向くんだけど、もうこれが大人げないのなんの。冒頭ではラブラブ夫婦を演じていたくせに、「もうお前なんか愛してない」とかジャッキーに平気で言ったり、電気代を節約したいのに電気を消し忘れた子どもに「電気を消せ! 電気を消せ!」とバカの一つ覚えみたいに言ったり。

 そんなダンナなのに、ジャッキーは怒ることもせず、「愛してるわ」と言い、ダンナの誕生日サプライズパーティをして、家族の輪を大事にしようとする。ただ、まあ、彼女が良かれと思ってしていることは、ダンナの神経を逆なでしていることでもあり、その辺が分からないのがちょっとアタマ悪いかな、とは思いますけれど、でも、信頼できる良い女性ですよ、ホントに。あのダンナにはもったいないくらい。私だったら、カネの切れ目が縁の切れ目だわ、あんな男。

 まあ、概して男性の方が打たれ弱い、とは言いますが、それにしてもあのダンナは、あれでよく経営者が務まるなぁ。

 結局、本作中でもベルサイユは売れず、事業も好転の兆しも見えずで、何か暗い見通しな終わり方だったんだけど、現在のシーゲル夫妻は、勢いを盛り返し、ベルサイユ建設再開しているとか・・・? 金が入るようになったら、またあのダンナはジャッキーとラブラブ夫婦を演じるんですかねぇ。ヤな爺ィだ。

 本作は、新聞か雑誌かに出ていた評を読んで、興味を持って劇場まで見に行こうかとも一瞬思ったんだけど、ほかに見たいものがあったってのもあって行かずじまいでしたが、、、行かなくて正解でした。というか、DVDで十分。金払ってレンタルするほどでもなかったな、と思う次第。テレビの特番レベルかな。せめて、もう少し、内装とか家具とか、趣味の良いものを見せてもらえたら目の保養くらいにはなったかも知れないけど。

 レビューを書くほどの作品でもないんだけど、一応、見るのに時間を割いちゃったから、書かないのも何か悔しくて、駄文以下の落書きを書きなぐってしまいました。悪しからず、、、。

 









ベルサイユ宮殿にゼンゼン似ていないと思ったのは私だけ?




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おとなのけんか(2011年)

2015-10-21 | 【お】



 2人の男の子がケンカをし、片方が木切れで片方の歯を折ってしまった。傷付けた方の両親が、傷付けられた方の両親宅へ出向き、今後について話し合いを持った。

 そこで繰り広げられる2組の夫婦、いい歳した男女4人のシャレにならない本音バトル。

 元が舞台劇の、ワンシチュエーションもの。・・・退屈はしないけど、途中から、なんかいたたまれなくなってきた。

 
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 少し前のBSオンエアを録画してあったのをやっとこさ見ました。・・・これは、正直、自分の姿を見せつけられているみたいで、中盤以降、笑えなくなりました。

 4人のオトナは、ある意味、世間によくいるタイプのカリカチュアでしょう。意識高い系ペネロペ、似非自由人マイケル、自意識過剰ナンシー、エリート傲慢系アラン、、、て感じですかねぇ。

 強いて言えば、私はマイケル型人間かな。ハムスターを放置したのだけは除いて、、、。

 でもって、一番嫌いなタイプは、アランくん。でぇっきれぇ~なタイプ。

 ペネロペとナンシーは、まあ、ありがちというか。少しずつ、自分にも彼女たちのような要素は持っていると思うし。

 息子たちのケンカについて話し合っているうちに、最初は、夫婦VS夫婦で、互いの息子の正当化バトルになるんだけど、局面によっては男VS女だったり、プライド高い系VSマイペース系、こだわり系VS気まま系、と、括りがイロイロ変わり、対立する面々も変わってくる。必ずしも2対2じゃなく、2対1だったり、3対1だったりする。でも、誰かしら、必ず誰かとぶつかる。

 そう、人間って決して一面だけじゃないってことですよねぇ。4人のオトナについてそれぞれカテゴライズして書いたけれど、それだって、一番よく見えやすいものがそうだってことであって、その陰に隠れているものはたくさんあるわけです。夫婦だからってそれを全部見せ合っているとは限らない。夫婦だから見せられる部分と見せられない部分が当然あって、夫婦だから見せられないものでも友人には見せられるものも当然あって、だから、夫の知らない妻を、友人は知っている、とか、、、。

 でもって、図らずも、こういう場面で普段は見えていない部分が、しかもサイアクな形で露呈するという、、、。夫婦にとっては一番避けたいパターンでしょ。

 と書いてきて思い出したんですが、大昔に母親とケンカになったとき、母親に「親に見せてる顔と、友達に見せてる顔が同じわけないでしょ~(呆)」と言ったことがあるんですよね。これが母親にはショックだったのか、怒り狂って「何でそんな使い分けんねや!! イヤらしい!!!!」と、もう手が付けられない激昂振りでした。私としては、そんなのアタリマエ~、な話だったんですけど、、、。だってそうでしょう? “友達”に限らず、職場の同僚or上司、好きな男、近所のおばさん、親戚のおじちゃん、誰にだってぜ~んぶ同じ顔なわけないじゃんか。好きな男の前で見せてしまう顔を、親に見せるはずなかろうが。ちょっと考えれば分かることなのに、母親は、当たり前すぎることを言語化して真正面から娘に言われて、気持ちの持って行き場がなかったんでしょうなぁ。それは分かるけど、あの激昂振りはちょっと酷かった、、、。

 さらに余談だけれど、・・・だから“裏表のない人”ってのは、私は逆にイマイチ信用できないです。悪く言われやすい“弱きに強く、強きに弱い人”ってのはある意味分かりやすい人なわけで。でも、誰にでもニコニコ愛想が良くていい人、ってのは怪しい。人に悪く思われないよう立ち回る、、、むしろ腹黒さを感じちゃう。嫌われたってイイじゃない、人間だもの、、、、って相田みつをかって感じですけど、やっぱりある程度のオトナになると、開き直ってて程々に良くて悪い人が、まあ好きかな。こういう人は、修羅場くぐってるだろうし、だからこそ自信に裏打ちされた相応のプライドをちゃんと持っていると思うし。自分もそうでありたい、という思いもありますが。

 そう考えて本作の4人を見ると、ペネロペ、ナンシー、マイケルは、プライドと自信アンバンランス組じゃないかな。アランは根拠のない自信家だからある意味バランスとれているけど、4人の中じゃ一番幼稚、っていう見方もできる。イイ歳して自分を客観視できないヤツ、みたいな。

 だけど、まあ、プライドと自信をバランスよく形成するって、やっぱり凄く難しいと思う。ちょっと痛いとこつかれて、タガが外れちゃったら、誰でもこんな風になる可能性大いにあると思う。だからこそ、見ていて辛くなってしまった訳で、、、。

 ジョディ・フォスターが額に青筋立てて激昂しているのは、もう演技を超えていました。ケイト・ウィンスレットはもう、、、途中、ちょっと正視できませんでした(もちろんそれは“あの”シーン)。クリストフ・ヴァルツとジョン・C・ライリーも素晴らしい。

 こんな風に、オトナ4人が口角泡を飛ばして罵詈雑言の応酬をしているのを知ってか知らずか、息子同士はちゃっちゃと仲直りなんぞして、生死を危ぶまれたハムちゃんも元気に公園の芝生を闊歩している、、、ってのがサイコーでした。そう、世の中、自分の思いとは全然カンケーないところで勝手に回って行くもんなんですよ、ホントに。いきり立ってるの、アホらしいです。ケ・セラ・セラ~~~

 ポランスキーって、やっぱしスゴイなぁ。この後の『毛皮のヴィーナス』も面白かったし。守備範囲広すぎ。






あなたは4人のうちのどのタイプ?




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モンテ・クリスト-巌窟王-(2002年)

2015-10-19 | 【も】




 無実の罪を着せられ投獄されたエドモン・ダンテスが、脱獄し、モンテ・クリスト伯となって、自分を陥れた者たちへの復讐を果たしていく、、、言わずと知れたアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』原作の映画化。

 後半~ラストに掛けては原作と別物のお話に。

 

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 『巌窟王』、、、小学校の時、読みましたよ。家にあった「世界少年少女文学全集」のうちの1冊でした。当然もう絶版になっているけど、今、ネットで検索してみたら、小学館から刊行されていたものが復刊ドットコムにリクエストされていて、「そう、これこれ!」と思って見入ってしまいました。

 とにかく、1冊がすごい分厚い本でしかも2段組みという、かなり手ごわい全集でした。装丁も豪華で、背表紙が世界の地域ごとに一部色分けされていて、小説のタイトルは確か箔押しされていました。花ぎれやしおりも背表紙の色ごとに違っていて、しかも1冊ごとにケース入り。それがずらりと並んでいるのは壮観でしたが、母親が結構、家計はキツくても、こういう全集は揃えてくれている人でした。そしてなぜか、揃えたのに、姉にも私にも、口うるさく読め読めとは言わなかった、、、。というと、どんな思慮深くて賢い母上かと誤解されそうですが、、、。まあ、そんな母親だったら、こんな娘に育ってないのは間違いないです。娘が大人になってからは、(親が言うとおりの)結婚しろしろ、、、、と、壊れたレコードみたいに言っていたけど、どっちかというと、幼少時に本読め読めと言ってくれた方がありがたかったような・・・。ちなみに、この全集は、もう大分前に母親が近所の公立小学校に全巻寄贈したと言っていました。

 というわけで、思い出のある原作です。確か、読書感想文もこれで書いたと思います。とにかく、エドモン・ダンテスという人に同情しまくってしまい、そしてその不屈の精神にガキんちょながら驚いて心の中でひれ伏したものでした。以前、何かの作品のレビューで「復讐譚は嫌い」と書きましたが、この話は別です。こういう、これこそ「ザ・不条理」という話の場合、復讐に燃えて当然です。、、、そうはいっても、そこはデュマ、やはり復讐の本質を描いていらっしゃる訳ですが、、、。

 ともかく、私なりに原作に対する確固たるイメージを持って本作を見たわけです。果たして、本作の内容は、、、。

 まあ、かなりソフトになってはいますけれど、私のイメージが大きく壊れることのない前半でした。、、、が、後半は、???な展開で、これはもう違う話になっちゃっていまして、ここまで話が変わっていると、別にイメージが壊れるも何もない、という感じでした。

 後半の、話の最大の改変は、かつての婚約者メルセデスと仇敵フェルナンの一人息子アルベールが、実はエドモンの子だった、という部分ですね。う~ん、これはまあ、賛否両論でしょうが、私的にはちょっと気に入らない。これで、本作は、少女マンガっぽくなってしまった気がします。原作は、男臭さ全開の話だけど、本作は最終的には乙女チックになって、本質的に全然異なるものになりました。これはこれで、面白いとは思いますけれども、、、、。やはり、モンテ・クリストとメルセデスが安易に元のさやに納まる、ってのは、私は好きじゃないわ~。

 とはいえ、そもそも、原作が長大な物語(岩波文庫で全7巻!)で、それを2時間の尺に収めただけでも凄いことです。しかも、物語として破綻もなく(いささか都合が良過ぎる部分もあるけれど)、見せ場はあるし、衣装や美術も見応え十分。素晴らしい。

 エドモン・ダンテスは、ちょっと、原作からいくとイケメン過ぎかもですね。ジェラール・ドパルデューも演じています(未見)が、そちらの方がイメージとしては近いかも。こっちのエドモンはカッコ良過ぎです。しかも、13年も投獄されていたのに、あの逞し過ぎる体はちょっと、、、。あんな粗末な食事と過酷な環境なら、骨皮筋衛門でなくっちゃ。

 モンテ・クリストになってからも、社交界にデビューするときのド派手っぷりが笑えます。あまりにも成金趣味で、いささか下品。原作の伯爵もそんなだったっけ・・・? とちょっと記憶が呼び起こせないんだけど、、、もうちょっと、教養のある眼光鋭い、それでいて金は無尽蔵に持っている、怪しい伯爵、というイメージだった様な気がするんですが。本作の伯爵は、あまり翳がありません。金持ちの、謎めいたひたすらイイ男、、、ちょっと少女漫画チックだよなぁ。

 そのモンテ・クリストを演じたのはジェームズ・カヴィーゼル。イイ男ですが、こういう屈託のある役にはちょっと爽やか過ぎる感じです。でも、あの『パッション』(未見)ではキリストを演じているのだというから、意外です。『マイ・プライベート・アイダホ』にも出ていたなんて、、、。全然知らなかった。

 敵役フェルナン・モンデゴを演じたガイ・ピアーズが、ジェームズ・カヴィーゼルのガタイが良過ぎるせいか、どうも貧弱に見えました。顔も細いしね。

 ジェラール・ドパルデュー、あんまし好きじゃないんだけど、ジェラール版モンテ・クリスト伯も是非見てみたくなっちゃいました。






気球に乗って現れる謎のイケメン伯爵





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ドラキュラ(1992年)

2015-10-16 | 【と】



 あらすじはリンク先でお願いします(書くほどのこともないような気もするし、書くとなると長々しくなりそうなので)。

 ドラキュラをゲイリー・オールドマン、ヴァン・ヘルシングをアンソニー・ホプキンス、、、という、逆の方がしっくりきそうなキャスティング。その他も豪華出演陣。エンタメ度高し。

 
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 ちょっと前に『美しき獣』という、なんともいえないヴァンパイアものを見て以来、ちょっと、ヴァンパイアorドラキュラ系の映画に興味を持ってしまいました。今までほとんど見ていないことに気付きまして、、、。

 で、本作は、メジャー中のメジャーなドラキュラものなのですよね・・・? どうも、そこはかとなく漂うB級感、、、。

 BSで大分前にオンエアして録画してあったのを、こないだようやく見ました。どうやら、10分くらいカットされたもののようです(オンエア時間から見て)。でもまあ、大勢に影響なさそうな感じがしたので感想書いちゃいます。

 とにかく、衣装にしても美術にしても、“美”に徹底的にこだわった映画だと思います。

 まず、冒頭の400年前のシーン。王や王妃が着ている衣装も非常に個性的で、特に王妃の衣装は美しい(王の鎧は、なんかちょっと伊勢海老を連想してしまいました、、、)。もちろん、演じるウィノナ・ライダーも輝くばかりの美しさ。その後も、キアヌ演じるハーカーがトランシルヴァニアに向かう途中の赤く染まった空に浮かぶドラキュラの目とか、映像的にも結構凝っています。全体に、赤が効いた美術ですよね~。

 さらに、ドラキュラその人の造形。う~ん、これはキモいけど結構好きかも。あのハート形の髪型と真っ白な顔。なんか、ゲイリー・オールドマン、楽しそうです。途中、ロンドンにやって来た時の彼は、縦ロールのロンゲで、ちょっとジョニデに似ている気がしてしまった。このジョニデ似のドラキュラ公に、二役のウィノナ・ライダー演ずるミナが惚れるんですけど、ミナが惚れるにはちょっと年齢的に爺さん過ぎる気がしたのは私だけ、、、? まあ、歳の差カップルってのはありますけれども、ただでさえ、不気味な雰囲気を醸し出しているのに、さらに爺さんとなると、若くて美しい、しかもキアヌみたいな美青年の婚約者のいる女性がよろめく相手としてはちょっとなぁ。

 でもって、私が一番美しいと思ったのは、ミナの親友ルーシーが、ドラキュラの餌食となり人間としての死を迎えるのですが、埋葬の際のルーシーです。白い花嫁衣裳を身に着け、化け物となったルーシーは棺桶から抜け出し、人間を襲おうとして口から真っ赤な血を滴らせ、、、。この時の真っ白な衣装と赤い血の対比の美しさ。とにかく、衣装が素晴らしく美しいです。棺に横たわるルーシーが息を呑む美しさ。なるほど、石岡瑛子氏がアカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞したのも納得です。

 ・・・というわけで、本作は、ビジュアルを楽しむのには事欠かないのですが、内容的にはちょっと、、、。特に、ヴァン・ヘルシングが登場してルーシーが化け物としても死んだ後、中盤から終盤に掛けては、あんまし面白くないです。なんというか、動く紙芝居っぽい。ゴージャスなビジュアルがアダとなり、仰々しさに溢れ、役者さんたちの演技、特に、ウィノナのミナは、もう、、、いや、役者としてはウィノナの演技は凄いと思うんだけれども、何と言うか、見ている方はその世界にどうしても入って行けない、引いてしまう感じなのですよ。

 序盤で、キアヌ演じるハーカーがドラキュラ城で3人の女ドラキュラに襲われる(犯される?)んですが、その1人が、モニカ・ベルッチで、妖艶でした。こんな美しい化け物に毎日撫でまわされるのも悪くないんじゃない? なーんて。

 王が死んだという誤報に絶望して死を選ぶ王妃、そして、400年の時を超えて、愛の力でヴァンパイアとしての生から解放され天国で王妃と結ばれる王、、、。冒頭の王妃の亡骸にすがりつく王のシーンで、ちょっと、ゼッフィレッリのロミジュリのワンシーンが頭をよぎったのですが、物語的にもロミジュリっぽいですよね。死んでようやく愛を得る、みたいなところとか。こういうのが、逆にB級的な安っぽさを出しちゃったんじゃないかしらん。もっと、突き抜けちゃっても良かったと思うんですが。

 まあ、『美しき獣』ほどじゃないけれど、やはり、多少おバカっぽさは感じちゃいましたね。でも、決して不快なおバカっぽさではありませんでしたし、十分楽しませていただきました。

 ちなみに、今度は、あの『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』を見る予定。楽しみ







美しさにこだわりぬいたドラキュラ版ロミオ&ジュリエット




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吸血鬼(1967年)

2015-10-13 | 【き】



 教授と助手(ポランスキー)が吸血鬼を退治するために、あれやこれやと巻き起こす珍騒動。一応、コメディーらしいけれど、ほとんど笑えるシーンなし。、、、ごーん。

 
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 ポランスキー作品を手当たり次第に見ているので、今回は本作を見ることに。まあ、大して期待していなかったけど、それでもマジで退屈でした。これで楽しめた、と感想を書いている人もいるのだから、つくづく、人間の感性って千差万別なんだわ~~と、実感。

 教授と助手のコンビは、一応、教授がツッコミで助手がボケ、という感じでしょうか。といっても、教授は、別にヴァン・ヘルシングみたいな頼れる男って感じでもなく、肝心なところでヌケているので、だんだん見ていてイライラしてくるし。助手はポランスキーが演じていて、あれこれ八面六臂のご活躍なんだけど、一向に成果に結び付かなくて、これもイライラしてくる。

 あまりないけど強いて挙げる見所は、シャロン・テイトの美しさと、終盤の吸血鬼たちのパーティからシャロン・テイト演じるサラを救い出すところかなぁ。一応、救出シーンは、ちょっとだけハラハラというか、無事逃げおおせろっ!なんて思いながら見ることは出来ます。

 そこまでして救出したサラなのに、ラストでとんでもないオチが、、、。ま、これも、ブラックコメディと思えれば、笑えるんでしょうけれど・・・。

 でも、この作品が発表された翌年に、シャロン・テイトがあのような悲惨な最期を遂げたのかと思うと、その美しさが却って残酷に見えてしまいます。なんという不運。たらればを言っても仕方のないことだけれど、もしあんなことがなければ、彼女はその後もポランスキー作品で素晴らしい活躍をしていたかも知れないし、ポランスキーにもっと違う創造のエネルギーを与えたかも知れないわけで、、、。もちろん良いことばかりじゃなかっただろうけれど、本当に、人生、こんな形で断ち切られるなんてあんまりです。

 そう思って見るからだとは思うけれど、ポランスキーがシャロン・テイトのこと好きなんだな~、と感じるシーンが結構あちこちにあります。サラを必死で救おうと命懸けで行動している助手の演技とか、、、ほかにも随所で役以上の何かを感じます。2人が並ぶと、シャロン・テイトの方が頭半分背が高いんですけどね。ポランスキーは若い頃と今と、ほとんど面差しが変わらないな~、とかも思ったり。

 作品自体を楽しむことはできなかったけれど、ポランスキーの人生のほんの一幕と、美しいシャロン・テイトの魅力を味わいつつ、本作後に起きる悲劇にゾッとしながらこの感想文を書きました。

 




笑いのツボが合わない人にはイラつく映画かも。




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紙の月(2014年)

2015-10-08 | 【か】



 銀行のパートから契約社員になった主婦・梨花(宮沢りえ)。顧客の孫・光太(池松壮亮)と出会い、束の間の恋愛ごっこにハマるが、光太に150万円ほどの借金があることを知り、顧客のお金に手を付けてしまう。

 一度やったら、後はもう止まらない。横領を重ねる傍らで、光太と贅沢三昧の日々を過ごす。けれど、そんなの続くはずもなく、、、。


 
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 原作未読。NHKのドラマは初回だけで脱落、、、。かなり以前に、実際に大ニュースになった女性銀行員の横領事件があったけれど、それにインスパイアされた作品でしょうか。『八日目の蝉』もそうでしたが、角田光代さんの小説は、実際にあった事件を彷彿とさせるものがあります。

 窓口でゼロが何個もつく伝票を事務的に処理するだけではなく、梨花のように、顧客宅を訪問して大金を預かったり渡したりしていると、いろんな思いが去来するだろうな、と思いました。

 ある程度の金額を動かす人の暮らしぶりを目の当たりにすることで、何とも言えない不条理感を抱くこともあるでしょう。なるほど、こういう人なら財産を築いて当然だ、と思える人ばかりではないはずです。当然だと思える人の中にも、人格的に大いに疑問を抱く人もいるでしょうし。

 お金の意味、持つものと持たざるもの、、、、何なんだ、この社会は。と、梨花は自覚することなく、憤りに似た不条理感を潜在意識に埋め込まれていったのではないでしょうか。

 横領した金を若い男との逢瀬に注ぎ込んだから、梨花の行動は共感を呼びにくいけれども、私も梨花のような仕事をしていたら、「こんなお金、もっと有効に使った方が良い!」って考えが頭をよぎりそうな気がします。それは、普段はよぎるだけでも、何かが引き金となって実行してしまう、、、そうならないと言い切る自信は、私にはないかも、、、。梨花の場合、それが光太の借金だった、ということです。

 ただ、その引き金を引くまでの描写が弱いかなぁ。人は良いけど恐ろしく鈍い夫(こういう悪意なく人をグサグサと傷付ける人いるんだよなぁ。大っ嫌い)との色褪せた日々を送る梨花にとって、光太に後をつけられたのは嬉しかったと思います。久々に感じた潤いだったんでしょうね。・・・にしても、光太と深い仲になるにはちょっと、、、飛躍が大き過ぎな気がするんだよな、、、。というか、池松壮亮が童顔過ぎで、(あり得ないけど)私は彼につけられても嬉しくない、、、。玉木宏にならつけられたいけど(あり得ないけど)。

 、、、まあ、でも一旦そうなっちゃったら、後はずぶずぶとハマるのは分かるし、そうなってから聞かされた借金話ですから、梨花が一線を超えるのは十分アリな話です。現金、というか万札を何枚も何枚も常に手で触っていると、万札にいちいち持ち主の名前を書くわけじゃなし、誰の金だろうが知ったこっちゃない! というマヒした感覚になるのはすごくよく分かる気がします。私って、もしかすると横領女気質??

 本作を、若い男に貢ぐために大金横領したバカ女、と切って捨てる評も目にしたけれど、そうじゃなくって、梨花は違う人生を自ら選んだ、ということだと思う。彼女の中にあるフラストレーションのカップが一杯になって溢れだしたときに、たまたま彼女は銀行の契約社員で大金をせしめることができるシチュエーションにいたということ。舞台は整っていて、幕が上がったのです、彼女のもう一つの人生の。

 小林聡美演じる隅より子に「でももうここまで、おしまい」と言われ、窓ガラスを椅子でぶち破った梨花。おしまいにしてたまるか!という梨花の凄まじい執念を感じます。

 宮沢りえは本当に美しいが、やはりちょっと細過ぎる。顔ももう少しふっくらして欲しい。なんか見ていて辛くなる。あと、あのラブシーン。大女優になりたいのなら、あんな中途半端な撮らせ方してちゃダメだと思う。

 本作で一番イイ味出していたのは石橋蓮司さんですね。大島優子も頑張っていて、演技は悪くないけど、何だかちょっとオバサンぽかった。人は良いけど鈍い夫を田辺誠一が好演。役者さんたちは皆素晴らしかった、、、けど、なんだか今一つパワー不足というか、心にグッとくるものがなかったので、は少な目です。

 


 




私のものは私のもの。あなたのものも私のもの。




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水の中のナイフ(1962年)

2015-10-05 | 【み】



 小金持ちっぽい中年夫婦アンジェイとクリスティーナは、週末を湖上のヨットで過ごすべく車で向かっていた。すると、ヒッチハイクの若い青年が現れ、夫婦は青年を車に乗せ、挙句、アンジェイはヨットにまで青年を乗せて、いざクルーズへ。

 なんだかギクシャクする雰囲気。これと言ったトラブルも起きずに一夜を明かし、翌日、ヨットハーバーへ戻ろうとしたその途中、アンジェイと青年は、青年が持っていたナイフが原因で諍いに。そして、青年は湖に落ちて姿が見えなくなる、、、。果たして彼は溺れてしまったのか?

 ポランスキーの長編デビュー作。う~~ん、微妙な三角関係を描いた意味深な映画。

 
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 この夫婦、夫は36歳らしい(リンク先のあらすじにそうある)。結婚して何年目かは分からないけれど、ラブラブ期はとうに過ぎ、子どもはいないみたいで、そこそこ恵まれた環境であることが分かる。そこへ、恐らく20代前半の若さが眩しい青年が闖入することで、夫婦の間の微妙なバランスがどんどん崩れていく。

 これはかなり厳しいシチュエーションです。男2:女1。しかも女は美人、ってのがミソですね。これが並以下のルックスならば、残念ながら、男同士が仲良く盛り上がるというオハナシになるんじゃないかしらん。そう、なんだかんだ言っても、女が美しくないと、オトナな話は始まらんのです。

 これが逆パターンでもそう。ヒッチハイカーが若く美しい女性だったら、、、? これは本作以上にタイヘンで下世話なものになるかも。・・・しかし、若くても残念なルックスの女性だったら、、、、まぁ、ホラーにすることはできるか。

 とにかく、美女を間に男2人が牽制し合います。日頃は倦怠ムードが漂っているくせに、夫は青年に居丈高に接することで妻に自分を大きく見せようとするし、青年はそんな夫の態度に反発し、「ヨットは勝手に流されて進んで行くが、オレは地上を自分の足でナイフで藪を切り開きながら歩いて行くんだ」と気を吐きます。美女はそれをクールを装いながらもしっかり聞いていて、内心ジャッジしているのね。

 ポランスキーは、こういう、じわじわ心理戦を描くのが最初から上手かったのですね。後の『反撥』や『ローズマリーの赤ちゃん』にもつながる描写です。

 終盤、青年が湖に落ち、夫婦は彼が溺れたと思い込んで、ヨットの上で激しい口論となります。ここが本作の見どころの一つでしょうか。互いに罵り合い、クリスティーナは「見栄っ張りの俗物!」と夫を詰り、アンジェイは「もううんざりだ!」と怒鳴る。お互いの日頃の鬱憤がここで図らずもぶちまけられる、、、。

 青年が湖に落ちたのは、アンジェイが青年のナイフをわざと湖に落としたからですが、これはオヤジの若さに対する嫉妬でしょう。ナイフはある意味、若さや向こう見ずな危険さの象徴であり、オヤジのアンジェイにはもう失われたものです。どうやったって取り戻すことは出来ないけれど、せめてそれを湖に落とすことで、自分と同じ土俵に青年を引きずり下ろしたい、という醜い足掻きです。この幼稚な夫の行動に、妻が幻滅しないはずはないのに、なぜ、そんな単純なことが分からないのだろうか、彼は。

 口論の後、アンジェイは、自分のしてしまったこと(青年を溺れさせた)の罪の意識からか、ヨットから泳いで行ってしまいます。甲板に一人になったクリスティーナの下へ、青年は湖から上がってきて、そして二人は引き寄せられるかのように抱き合う。、、、うーーん、正直、この妻の心理、分かってしまう! そうだよね、こうなったらそうするよ、女なら。

 ヨットハーバーに戻るまでに青年は姿を消し、クリスティーナ一人がヨットに乗って戻ってきます。アンジェイは先に泳ぎ着いていて、そのヨットを黙って迎える。ヨットを降りるための作業をする夫婦に会話はなく、淡々と阿吽の呼吸でヨットを降りて行きます。なんか、この描写も寒々しいというか、宴の後の妙な虚脱感が漂う、、、。

 夫がヨットに乗っているときから途切れ途切れにしていた船乗りの話も、ストーリーと微妙にリンクしています。

 帰りの車の中、青年を溺死させたと思い込んでいるアンジェイは警察へ行こうかと、分かれ道の所で車を止める。するとクリスティーナは「彼は溺れていなかった。戻って来て私を抱いたの」と事実を話すが、アンジェイは信じない。妻の優しい嘘だと思い込む(思い込もうとしているのかも)。そして、例の船乗りの話の続きを妻に話すのですが、そのオチは、夫の自省を込めたものにも聞こえます。

 そして、「警察へ」の看板が出ている分かれ道に車を止めたまま、ジ・エンド。 

 う~~ん、なんとも胸の痛くなる映画です。思いがけない闖入者のおかげで、夫婦が互いに見ないようにしてきた部分を直視させられてしまったのですよね。この後、この夫婦はどうやって生きていくのでしょう。今までと同じ、何事もなかったように過ごすのでしょうか。それとも、、、。

 私がクリスティーナだったら、形はこれまでどおりでも、夫に対する侮蔑感と自己嫌悪がないまぜになって夫との間に流れる空気は完全に変わってしまうと思うなぁ。それが何年もすればまた元通りになるのかも知れないけれど。

 アンジェイを演じたレオン・ニェムチックという俳優さんが、ときどきニコラス・ケイジっぽく見えてしまって、どうもダメでした。美しい妻クリスティーナを演じたヨランタ・ウメッカという女優さんは、その後は女優業は続けていないとか。彫りの深い個性的な美人で素敵です。ヒッチハイカーの青年は、うーーん、個人的にあまり好みじゃないというか、あまりイケメンには見えなかった。悪くはないけど、私がクリスティーナだったらときめかないな。、、、って、さっきと書いていることが矛盾しているケド。

 ところどころで流れるジャズ調の音楽が、不穏な空気と絶妙にマッチしていて、見ている者の心をザワつかせます。特に何が起きる訳じゃないけれど、常に緊張感が漂う映画。この独特の不穏さと緊張感は、その後のポランスキー作品にも通じるものではないでしょうか。

 


 




長編デビュー作がこれってことは、やはり天才ですね、ポランスキー。




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BOY A(2007年)

2015-10-03 | 【ほ】



 少年時に殺人事件を犯した「少年A」が、保釈されることに。ジャック・バリッジと名を変え、テリーという保護監察司の全面的なサポートの下、仕事にもつき、職場の友人にも恵まれ、恋人もでき、順調に社会復帰のスタートを切った。

 ・・・が、ある日、ジャックの過去が世間に明るみになる。仕事は問答無用で解雇され、職場の友人には去られてしまい、何より、どこもかしこもかつての自分の話題で溢れている。一体、どうしてジャックの正体がバレたのか。

 少年犯罪について考えさせられる作品。

 
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 上野千鶴子さんの「映画から見える世界」で紹介されていた一本。気が進まないなあ、、、と思いながらレンタルリストに入れておいたばかりにとうとう見る羽目に。

 こんなの、日本人なら誰だって“あの事件”を思い起こしますよね。特に、今年になってからは手記を出したり、HPを立ち上げたりと、話題になっておりますので(ちなみに、私は手記もHPも目にしていません)。イギリスでも、少年2人による凄惨な事件が起きたのは、まだ記憶している人も多いでしょう。本作は、その2つの事件を嫌でも頭の隅に置きながら見ることになります。

 で、見ていて思ったのですが、薬丸岳の小説「友罪」と似ているなぁ、と。小説を読んでから時間が経っているので細かいところは忘れましたが、保釈される少年A、監察司(ではなかったかも。とにかく少年Aの社会生活を支える人です)、監察司と監察司の子どもとの関係、あたりの設定がそっくりです。小説の方の監察司は女性でしたけれど。

 そしてさらに、ジャックが、途中で恋人に自分の過去を打ち明けたくなって葛藤する場面では、成瀬巳喜男監督の邦画『女の中にいる他人』とダブってしまいました。『女の中~』でも小林桂樹演じる主人公の中年男が浮気相手の女を殺してしまった(妻はそのことを知っている)ことを黙っているのが苦痛になり自首しようと葛藤するんですが、家庭と子どもの将来を案じる妻が断固自首を阻止します。

 どうしてそんな映画とダブったのかというと、ジャックが過去を打ち明けたくなったのも、中年男が自首したくなったのも、単に「楽になりたいから」に見えたからです。

 特に、ジャックの場合は、完全に過去を封印して別人を生きなければならないので、確かに苦しいだろうとは思います。しかし、そんな重大な過去を聞かされた人はどうすれば良いのでしょう。その人の抱える苦しみをまったく考えていないのですね。ジャックが苦しむのは当たり前です。それが自分の犯した罪の大きさと向き合うことであり、贖罪につながる第一歩であるのに、彼はそれを、まだ保釈されて日が浅い段階で、もう音を上げている。本当に自分のやったことの重さを理解していたら、殺された少女のことを真摯に考えたら、、、打ち明けて全て受け入れてほしい、などというのは甘い夢にすぎないと分かるはず。彼は、長く服役して好青年になったように見えるけれど、まだまだコトの本質を分かっていなかった、ということです。

 そう、世間はそんなに寛容じゃないのです。私も、ジャックの過去を知ったら、やはり受け入れられないと思うし。人殺しは、私の想像力の範囲を遥かに超えています。生理的にも受け付けない気がする。

 あと、本作を見ていてちょっと不快だったのは、ジャックがとても“かわいそうな子”と強調し過ぎな感じがしたからです。ジャック=エリック・ウィルソンの生育環境は確かに機能不全家族だったみたいだし、学校でも居場所がなくいじめられていた、、、。そして、そんなエリックがようやく出会った心許せる友が、フィリップという実の兄に性的虐待を受けた孤独で暴力的な少年だったのも必然と言わんばかり。でもって殺人に関しては、エリックはあくまで従犯であり、主犯はフィリップで、、、。しかも被害者の女の子は問題がある子のように描かれ、、、。つまり、少年エリックは大人や周囲の犠牲者、、、とでも言いたげなのです。そして、保釈後は人助けをしたり、真面目に仕事に励んだり、、、と、良い面ばかりが描かれる。ちょっと類型的過ぎで白けちゃう。

 かわいそう度でいったら、フィリップの方が遥かに上かも。フィリップは服役中に死んでしまっているんだけど(自殺とされているが実は、ムショ内でのリンチだったらしい)。まあ、フィリップは、到底、更生などあり得なさそうな子でしたが。だからむしろ、彼こそ大人の犠牲者なのでは?

 監督ジョン・クローリーは「人は変わることができる」というテーマで本作を撮影したとのことですが、、、。うーーん、「変わることができる」には賛成ですが、それなら、更生が難しそうなフィリップが変わるのを描いた方が、より説得力のあるものになったのでは?

 本作で唯一共感できたのは、ラストシーンです。あれしかないだろうな、と。ちなみに、『女の中~』の小林桂樹は、新珠三千代演じる妻に毒殺されます。不謹慎かもしれないけどハッキリ言って、溜飲が下がる幕切れでした。ホント、身勝手そのもののオッサンだったんで。、、、引き換え、本作は、後味は悪いです。

 監察司テリーを演じていたピーター・ミュランは、実の息子とはうまく行かない父親を相変わらず渋く演じておられました。この、テリーと息子のギクシャクが、ジャックの過去がバレることにつながったのですが・・・。

 ジャックのアンドリュー・ガーフィールドは、不安定な感じを上手く出していて好演です。『ソーシャル・ネットワーク』での彼とはかなりイメージが違っていてビックリでした。



 




同じ職場のあの人が少年Aだったら、、、




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