映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

黒部の太陽(1968年)

2020-10-27 | 【く】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv22183/

 

 言わずと知れた「黒部ダム」の難工事を描いた同名小説の映画化。


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 少し前に、たまたま見た「ブラタモリ」でタモリが訪れていたのが、黒部ダムでした。割とその内容が面白く、興味を持っていたところ、Luntaさんのブログを拝読し、見てみたくなった次第。長いし、画面が暗いとの評判で、眠くならないか心配したものの、眠くはなりませんでした。なりませんでしたが、、、


◆ダム工事映画やないの?

 まあ、ブラタモリでもさんざん「トンネルを掘るのがいかに大変だったか」と言われていたから分かってはいたが、本作は、ダム工事というより、トンネル掘りの映画だった。もちろん、ダムにも当時の技術の粋が集められているのだが、本作ではそっちはほぼ無視、“彼らはこうして破砕帯を突破した!!”ということのみがフォーカスされ、延々描かれている映画だった。

 本作には、テレビ放映用にカットされたバージョンもあるらしいのだが、完全版は196分、、、つまり、3時間以上。正直、これだけの時間をかける必要があったのか、少々疑問。暗がりの、代わり映えのしない背景のシーンが延々3時間ってねぇ。

 だからだろうが、主役2人(三船&裕次郎)の家族の話とかのサイドストーリーも必要なのは分かるが、なくてもよかったような気がする。三船演ずる北川の娘が白血病になる、、、という展開は、ちょっとなぁ、、、と思ってしまったが(難病ものアレルギーなんで)、北川のモデルとなった芳賀公介氏のご家族の実話だとか(とあるブロガーの方の記事による)。……まぁ、本当に実話だとしても、やはりなくても良かったんじゃないか、と思う。原作小説にもあるんだろう、多分。

 ただ、撮影エピソードを知ると、それはそれは大変だったみたいだから、あんまし“いらんシーン”などと言うのも心苦しくはある。……あるが、映画作品として見た場合、やっぱりちょっと、制作側の自己満足感は否めないよなぁ。

 三船と裕次郎の事務所が提携しての共同制作ってことで、当時としては撮影以外の面でも難しかったらしいから、まあ、そんなこんなを乗り越えて完成させることが出来て良かったね、、、とは本心から思うが、そんなビッグプロジェクトを組む映画には不向きな材料を扱ってしまったんじゃない?ってのも正直なところ。もう少し、起伏の出しやすい題材を選ぶべきだったような。

 興行的にも、失敗とまではいわなくとも、大ヒットとは言い難いようだし。……だって、つまんないもんね、ハッキリ言って。話題性だけで、そこそこの客を動員できても、打ち上げ花火みたいなものだから。危険で困難極まる工事シーンを、「こんなにタイヘンだったんだゼ!」と見せられても、見ている方としては、あれもこれもそれもほとんど同じ画にしか見えんわけです、残念ながら。途中でナレーションの解説が入るものの、何がどう難しいのか、実感として分かりにくい。画面からはひたすら大変そうなことだけが伝わってくる。

 これは、シナリオとディレクションのミスでしょう。長い映画ってのは、気合いが空回りしがちだけれど、本作もその轍を踏んでしまっている。


◆三船&裕次郎

 でも、さすがだと思ったのは、やはり三船敏郎。いるだけで画が締まるというのは、こういう役者さんのことを言うのだろう。破砕帯を突破したシーンや、遂にトンネルが貫通した場面での感極まったスピーチは、本作での数少ない見せ場だった。

 おかげで、もう一人の主役のはずの裕次郎は思いっきり喰われていた。

 ……というか、裕次郎がこんなに神話化しているのも不思議なんだが、存命中から、彼の何がそんなに魅力なのか、さっぱり理解できなかった。本作を見ても、その疑問は解消されなかった。演技も、、、さほど巧いとも思えず。ルックスも、、、そりゃあ、当時としちゃ背が高くて脚が長かったのかも知らんが、10歳年上の三船と並んでも、三船の方が圧倒的な存在感だしカッコイイ(裕次郎ファンの皆さま、すみません)。

 彼の出演映画は、(多分)本作以外見たことないが、TVドラマなら「太陽にほえろ」「西部警察」あたりを再放送で何度も見た。もうその頃の裕次郎は、子供の私にとっては既にどこから見ても“オッサン”でしかなく、顔がイイとも、全体にカッコイイとも思えなかった(当時の私のお気に入りは篠田三郎だった、、、)。

 本作を撮影した頃の彼の実年齢を超えた今見ても、演技が素晴らしく良いとも思えないし、やっぱり彼の魅力は謎のまま、、、。今、彼の若い頃の映画を見てみれば少しは分かるのかしらん。

 彼は本作の撮影中にかなりの怪我をしているらしい。トンネル工事シーンはCGナシで全てセットでの実写だなんて、ちょっと想像を絶する。まあ、内容はともかく……というのも失礼だが、邦画史に残る作品ではあるだろうし、そういう作品をプロデュースし、自ら主演した、っていう意義は大きいと思う。
 
 なんだか、とってつけたようなフォローで終わるのもナンだが、感想終わります。

 

 

 

 

 

 

一度は行ってみたい、黒部ダム。

 

 

 


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敬愛なるベートーヴェン(2006年)

2020-10-23 | 【け】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv35558/

 

以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 “第九”の初演を4日後に控えたベートーベンのアトリエに楽譜を清書するため、アンナという女性がやってくる。最初は女性というだけで怒り心頭だったが、やがて彼女の才能を認め、2人の間には師弟愛以上の感情が芽生える。

=====ここまで。


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 『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』のパンフを見たら、本作も、アグニェシカ・ホランドの監督作だと書いてあって、知らんかった、、、ので、見てみることにしました。
 

◆第九シーンなんてどうやったって盛り上がる。

 前にも書いたが、“楽聖モノ”で良かったと感じた映画はほとんどないので(ないわけじゃない)、本作も全く期待しないで見たんだけれども、それでもさらにガックシ来てしまった。

 何がマズいって、ものすご~~~く人物描写が薄っぺらいこと。ベートーヴェンもだけど、アンナもね、、、。上記にコピペしたあらすじだと、何となく2人の間に恋愛感情的なものが生じるような書きっぷりだけど、そうではない。……ないんだけど、だったらどんな感情なんだ? というと、それが今一つピンとこない描写なのよ。いや、アンナはベートーヴェンのことを尊敬しているのは分かるし、ベートーヴェンがアンナに敬意を持っているのも分かる。分かるけど、そんなの別にフツーやろ、と。

 女が来たからと、最初はアンナを露骨に侮辱する、、、というところから入り、それがだんだん彼女の才能に気付いて敬意に、さらに信頼感に変わっていく、って当たり前過ぎの話で、……で??としか思えないわけよ、見ている方としては。だって、敬意を持てない相手と仕事なんか出来ないでしょ。2人で仕事したって話なんだから、そんなのはストーリー以前のものなのだよ、こういうジャンルの映画の場合。さらなるプラスアルファを見る方が求めるのは、求めすぎでも何でもなく、標準的な要求です。

 そんなことくらい、ホランド監督ともあろう人が分からないはずはないのであって、それでいてこういう作品を撮ったってのは、一体彼女は何を表現したかったのか、、、?

 本作の言語は英語。しかも、主役はハリウッドの大御所エド・ハリス。……ということで、満を持しての商業映画狙いだったのかなーー、と。でもその割には地味だし、シナリオ的にも盛り上がりに欠ける。

 本作の一番の盛り上がりは、何と言っても中盤の“第九の初演”のシーンだろう。既に聴力がほぼ失われていたとされるベートーヴェンが指揮台に上がり、アンナがステージからベートーヴェンに合図を送るという設定で、これが見事に成功するという筋立てだ。

 この演奏会のシーンはなかなか豪華で見物。演奏の音源はもちろん吹き替えだが(エンドロールで確認したが、確かマズア&ゲヴァントハウスだったと思う)、これがかなり良くて、実際こんなに完成度の高い演奏だったかは疑問だけれど、感動的なシーンになっていた。

 でも、本作の見どころはほとんどここだけ。第九の演奏シーンなんて、ああいう曲だから、ある程度どうやったって盛り上がるんだよね、、、。このシーンより前はアンナがベートーヴェンに信頼されていく過程が、この後はベートーヴェンが苦悩して死んでいく過程が描かれているものの、書いてきたとおり、ピンとこないまま終わってしまう。

 何より残念なのが、アンナが才能ある女性作曲家として、ベートーヴェンの死後どうなったのかが、まったく予想できないエンディングになっていること。ベートーヴェンが亡くなると、アンナは一人、どこか寒々しい野っ原を歩いて行く、、、、で終わり。見ている私は、……はぁ??何ソレ状態。これじゃぁ、ただ、ベートーヴェンのアシスタントガールがいました、ってだけの話じゃんか。ベートーヴェンという太陽がいないと輝けない月みたいな存在だったとでも言いたいわけ? つまんねぇ、、、。

 音楽の才能がある、当時は“珍しい”とされた女性が、ベートーヴェンと出会って、彼女の人生にどんな影響を与えたのか、、、ってのがキモになるんじゃないの? それが全く描かれていないって、、、。詐欺みたいな映画だ。
 

◆エド・ハリス56歳(当時)。

 とまぁ、文句ばっかし書いてきたけど、何もかもがダメダメだと思ったわけではありません。

 ベートーヴェンを演じたエド・ハリスは、やはりさすがの一言。作曲家としては天才だが、だらしがなく、無神経なキャラを巧く演じていた。多分、特殊メイクをしているんだと思うけど、かなり顔が違って見えた。ヅラも被ってたしね、、、。

 アンナが作って来た曲を、「こりゃヒドい、オナラみたいだ!」などと茶化して、変な音を口で発しながらピアノで弾くシーンは、本作でのベートーヴェンのキャラを見事に表わしている。ピアノを弾くその手つきや姿勢は素晴らしく、手元だけ吹き替えなどという姑息な手段ではなく、実際にエドさんが弾いている(音は吹き替えだと思うが)。あれは、ふざけたシーンだが、彼がピアノの演奏経験がないのだとすれば、相当訓練と練習を積んだに違いない。

 エド・ハリスの好演は確かなんだけれども、ベートーヴェンの変人っぷりとかの描写は極めてありきたり。逆に、どれほどの天才だったのかは、ほとんど描写できていない。難しいのは分かるけど、これじゃぁね、、、。

 アンナを演じたダイアン・クルーガーは、結構頑張っていた。品のある正統派美人なので、才能があることを自覚していても嫌みがない。やはり、知性って大事よね。第九のシーンでの指揮っぷりは、画になっていたし、かなりトレーニングしたんだろうなぁ。エドさんのピアノといい、この辺は監督の指示かしらね。

 第九の初演の後は、大フーガの作曲に苦悩するのがメインなんだが、大フーガのモチーフをアンナに聞かせると、アンナは確か “terrible” って言っていた。でも、折角、才能ある女性作曲家ならば、当時は酷評された大フーガの先見性に気付くという展開にすれば良かったのに。ロマン派を一気に飛び越えて近代音楽の萌芽を感じさせる曲を作るとか。どうせフィクションなんだからさ~。


◆ベートーヴェン250歳(今年)。

 本作を見ていて、途中から、バーナード・ローズ監督の『不滅の恋/ベートーヴェン』の方が断然好きだわ~~、と思っていた。『不滅の~』でベートーヴェンを演じていたのは、ゲイリー・オールドマン。ゲイリー・ベートーヴェンもエド・ベートーヴェンとは全然違うキャラだけど、それはそれで素晴らしかった。第九の初演シーンの描かれ方も全然違い、多分、『不滅の~』の方が史実には近い感じだったろう。……まぁ、こういうジャンルの映画で史実云々言うのはナンセンスだが。

 また『不滅の~』見たいなぁ、、、と思うけれど、残念ながらレンタルどころか、DVDは絶版みたい。amazonでとんでもない値段で出ている、、、。

 本作の第九のシーンを見た後、先日、Eテレの「クラシック音楽館」とやらで「いまよみがえる伝説の名演奏」と題して、バーンスタイン&ウィーンフィルの第九をオンエアしていて、一応録画しておいたので見てみたのだが、残念なことに4楽章だけだったけれど、バーンスタインが大汗かいていて、そこにばっかり目が行ってしまった、、、、 私はオペラとか声楽とかにあんまし興味がないので歌は全然詳しくないんだけれど、初めてクルト・モルの歌声をじっくりと聞き、シビれてしまった。ものすごい艶のあるバスで、美しいことこの上ない。……ていうか、4人の歌手があまりに豪華でビックリ。ギネス・ジョーンズ、ハンナ・シュヴァルツ、ルネ・コロ、、、私でも知っている名歌手揃い。第九はホントにスゴい曲だわ、、、と改めて実感させられた。

 それにしても……。今年は、ベートーヴェン生誕250周年で、年明けから様々な企画がされていたのに、コロナでぜ~~んぶオジャン。4月に来日するはずだったクルレンティス&ムジカエテルナの第九も中止になったし、、、。第九、実はライヴで聞いたことないから楽しみにしていたのに。GWのラ・フォル・ジュルネも、ベートーヴェンがテーマで、チェックしていたプログラムがいくつかあったんだけど、これも中止になってしまったし。

 ……まったく、今年は、コロナコロナで明け暮れた一年となりそう。折角のベートーヴェン・イヤーだったのにねぇ。ベートーヴェンさんも、あの世で残念がっていることでしょう。 
 

 

 

 

 

 

優れた監督にも、やはり駄作はあるもんなんだなぁ、、、。

 

 

 


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マーティン・エデン(2019年)

2020-10-15 | 【ま】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv71497/

 

 イタリア・ナポリの貧しい船乗りマーティン・エデン。ある日、住む世界の違うブルジョワ家庭の美少女エレナと出会ったことで人生観が180度変わり、文学を志すことに。必死の努力が実って作家デビューを果たし、小説も売れるようになるのだが……。


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 チラシを一目見て、これは是非見たい、、、と思う映画って、1年で数本……いや、そんなにないかもね。本作の場合は、まさにそれ。公開の翌週に、ようやく見に行くことができました。


◆格差恋愛

 前回の『ある画家の数奇な運命』と同じで、格差恋愛(いずれも女性がアッパー)が描かれている映画。……だけれども、本作の方が圧倒的に悲劇である。『ある画家~』のクルトは、成功後も名声を高めて、彼のモデルとなったゲルハルト・リヒターは88歳になった今も生きているけれど、本作の原作者ジャック・ロンドンが投影されたといわれる主人公マーティンは、ロンドン同様、ラストは自死してしまうのだから。ロンドンが亡くなったのは40歳。

 原作は、アメリカが舞台だが、映画ではイタリア・ナポリに舞台を移し、現代に近い時代設定にしている様だ(時代については曖昧)。

 序盤のマーティンがエレナに一目で心奪われるシーンから、小説家としてデビューを果たす中盤過ぎまでは見ている方も希望を感じて見ていられるのだが、終盤はもう、マーティンの心と同様、見ている方も坂を転げ落ちるように気持ちがドヨヨ~ンとなっていく。

 エレナの棲むブルジョアな上流社会に這い上がりたいと必死に努力していた頃のマーティンは、小説家になって成功して金持ちになれば、バラ色の人生が待っている、と素直に信じていられたのだけれど、いざ、小説家になってみれば、そんな単純な話じゃなかったんだと痛感させられたんだろうねぇ。

 どんなに小説家として教養を身に付けたところで、金を得たところで、自分は絶対にブルジョアにはなれないし、なりたくもなくなった。“教養のある人間=ブルジョア”ではないと気付いてしまったんだわね。独学で、しかも短期間で教養を身に付けたマーティンの目に、ブルジョア社会に棲む人々は、差別主義で通り一遍の教養しか持っていなくて、現実社会に向き合おうとしない軽薄な集団に見えたんだと思う。

 エレナが、マーティンの書く小説に「生々しすぎる」と根本的に拒絶反応を示すのが、その象徴的なシーン。結局、エレナは、自分の棲む世界以外の世界を見ようとはしないのだ。マーティンには「教育が必要だ」などと言っていたくせに、自分は未知の世界を知ろうとしない。しかも、その未知の世界は、自分が愛している男が育ってきた環境なのにもかかわらず、だ。

 そりゃマーティンが苛立つのもムリはない。エレナを自分が暮らす地域へ引っ張っていき、その劣悪な環境をこれでもかと見せつける。それでも、エレナは直視しようとしない。それどころか、マーティンが政治集会で演説したことで、社会主義者だと決め付けて決別の言葉を口にする。

 マーティンは、社会主義者どころか、社会主義者を批判する演説をしたのだ。いっそ、社会主義者になれればまだマシだったかも。社会主義者の思想にも、マーティンは賛同できなかったのよね。自分の居場所がないわけ。

 それでも、小説家として我が道を行く、、、と開き直れれば良かったのだけれど、切っ掛けがエレナへの憧れだったから、足下がぐらついて、根無し草みたいな感じになっちゃったのかな、、、と。成功を手にしたけれど満たされないのは、エレナに対する幻滅だけが理由ではないでしょう。これは、私の勝手な想像だが、社会の断絶に対し、自らの教養と小説だけでは太刀打ちできない、圧倒的な無力感みたいなものに押し潰されたんじゃないかしらね。超えられない壁に絶望した、というか。

 生きる意味とか、人生とは……とかから脱却できれば、さらに小説家として良い作品が書けたかも知れないけれど。そうなるには、マーティンは情熱があり過ぎたし、真面目過ぎたんだろうな、、、。

 荒れるマーティンの下に、エレナが「やり直したい」とすがってくるが、追い返す。マーティンとしては、半分はやり直した気持ちがあったんじゃないか、、、と感じた。けれど、やり直したところで上手く行かないのは分かるし、昔のようには彼女を愛せないのよね。そうして、泣きながら去って行く彼女を窓から見るマーティンの目に、若かりし頃……小説家を目指していた頃……の自分が颯爽と歩いている姿が映る、、、というシーンはラストへ向けての暗示。ここからはもう、悲劇しか待っていないと分かる、、、けど、分かるからこそ切ないし、見ていて辛くなる。

 エンドマークで、頭を抱えてしまった映画は久しぶり。


◆エレナ、ドビュッシー、マリア、、、。

 エレナがマーティンの前に初めて現れたときのシーンが印象的。マーティンにとって生まれて初めて見るような、高価な調度品や多くの書物が並ぶ手入れの行き届いた部屋に通され、その奥から出て来たのが、これまた生まれて初めて見るような上品で美しい少女のエレナ。しかもエレナはマーティンの前でピアノを弾くのだが、その姿を見ているマーティンはもう、すっかり魂を奪われた、、、という顔。

 本作では、ドビュッシーの音楽がよく使われているのが意外。イタリアが舞台なのに、、、。あと、所々でマーティンの心象風景っぽいイメージ映像が挿入されるんだが、終盤の転げ落ちていくところで出てくる映像が、大きな帆船が沈没していくシーン。……これ、あまりにも直截的過ぎて、ちょっと引いたわ。

 マーティンが、ナポリの義姉の家を追い出された後、郊外のある家に間借りすることになるんだけれど、その家の主である未亡人マリアがとても素敵な女性。貧しいが、子ども2人を育てながら、心豊かに生きている。マーティンの夢にも理解があって、彼が小説家として成功後に荒れているときも、彼女だけは彼の良き理解者であり続けた。

 あとは、彼の才能を早くから見抜く老紳士ブリッセンデンが、私にはイマイチよく分からない存在だった。マーティンの理解者でありながら、彼の小説が評判になることにネガティブなことしか言わないし、政治集会にマーティンを連れて行ったのもこの人なんだが、その辺のやりとりが、私の理解力不足で、ちょっとピンとこなかった。しかも、この老紳士も、自死を選んでしまうんだよね。


◆その他もろもろ

 チラシにインパクト大で映っていたルカ・マリネッリは、いかにもイタリア男って感じ。野性味溢れるその風貌は、マーティンにピッタリだったと思う。演技も巧く、前半は希望を持った元気な青年、後半は世に絶望した退廃的な色男、と見事に演じ分けていた。後半の方がセクシーだったなぁ。まあ、ちょっと顔が濃すぎて、私の好みではないが、作中でも“イイ男”という設定で、確かに彼ならイイ男でしょうよ。

 エレナを演じたジェシカ・クレッシーは、エレナ同様、品のある美人。笑顔が可愛らしい。マーティンへの手紙文を、カメラ目線で語るシーンがあるんだけど、実に可愛らしくて、思わず笑ってしまった。

 『ある画家~』の主人公クルトとマーティンの違いは何だろう、と考えたんだけれど、、、。まあ、もちろん本人の性格や思考を含め、色々な要素があるとは思うが、クルトは、“ひとかどの画家になり画家として生きる”ことが目的そのものだったけれど、マーティンの場合、小説家になるのは“アッパーに這い上がる”という目的を達成するための“手段”に過ぎなかった、、、この違いかなという気がする。もちろんどちらが良いとか悪いではない。ただ、もし、彼がクルトと同じように、物心ついたときから物書きになることを目的に生きていたら、、、現実世界の過酷さに絶望しても、死を選ぶことはなかったんじゃないか、と思うのだ。なぜなら、そういう人にとっては、書くことが救いであり自己解放であり、自由になれるからだ。
  

 

 

 

 

 

 

 

格差恋愛は、文学や映画の不朽のテーマですな。

 

 

 


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ある画家の数奇な運命(2018年)

2020-10-11 | 【あ】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv71177/

 

以下、上記リンクよりあらすじのコピペです(青字は筆者加筆)。

=====ここから。

 叔母の影響で芸術に親しんできたクルト(トム・シリング)。彼には、精神のバランスを崩して強制入院していた叔母の命をナチス政権の安楽死政策によって奪われた悲しき過去がある。

 終戦後、クルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリー(パウラ・ベーア)と結婚。ところが、エリーの父親(セバスチャン・コッホ)こそがクルトの叔母を死に追いやった元ナチ高官だった。

 やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、エリーを連れて西ドイツへと逃亡し、創作に没頭していく。

=====ここまで。


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 このセンスの悪い邦題にゲンナリしそうになりながらも、監督はあの『善き⼈のためのソナタ』のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクだし、上記キャストに加え、『帰ってきたヒトラー』のオリバー・マスッチ氏もご出演とあれば、まあ、3時間超えでも見ておこうかな、、、と。

 3時間超えなんて、久しぶりだし大丈夫かなぁ、と心配しながら劇場へ行ったものの、杞憂に終わりました。


◆フィクションかノンフィクションか。

 作品にもよるが、私はあまり事前予習はしないで見る方だ。でも、旧作の場合は、みんシネで評判が良さそうなものだと“見てみようか”となることもあるので、その場合は、大抵ネタバレのレビューも平気で読んでしまう。ネタバレが致命傷になりそうな映画の場合は読まないこともあるけれど、あまりネタバレに神経質ではない。

 ……というのも、どんな作品も、実際に見てみないとレビューで書いてあることなどピンとこないと経験上分かっているから。見る前にレビューやプロの書いた批評をどれだけ読んでも、結局はボンヤリとしか分からないのであり、作品を実際に見て感じて、その上でレビューを読めば、そこで初めてレビューや批評の文章がくっきりと輪郭を持って頭の中に入ってくる。たとえネタバレを読んでいても、それが実際の作品鑑賞の妨げになったことは、多分、一度も無い。

 本作も、某全国紙の評を事前に読んでいた。そして、そこには、本作の主人公クルトのモデルが、あのゲルハルト・リヒターであることが書かれており、私でもその名は知っているので「へぇ~」とは思ったが、実際に劇場で鑑賞している間、その予備知識が鑑賞の邪魔になることはなかった。

 しかし、ネットの感想を見ると、リヒターの半生を描いた映画、つまり“ある程度ノンフィクション”という前提で感想を書いている人が結構いるので驚いた。公式HPに「映画化の条件は、人物の名前は変えて、何が事実か事実でないかは、互いに絶対に明かさないこと」という監督とリヒターの間の条件が紹介されており、それについて、伝記映画としてあり得ない!と怒っている人もいた。リヒターの名前を謳っておいて、中身はフィクションじゃねえの??と。

 けれどもたとえ、リヒターの伝記映画として宣伝していたとしても、映画は映画であり、映画で描かれていることなんて基本はフィクションだと思って見ておいた方が安全なのではないか。フィクションとノンフィクションというのは極めて曖昧で、自伝を基にした映画であっても、映像化している時点で最早“作りモノ”になっている、という前提を、見る側はきちんと弁えなければならない。基にした自伝だって、どこまで真実が書かれているかなんて、著者以外、誰にも分からない。もっと言えば、ドキュメンタリーだって、被写体がカメラの存在を認識している時点で、既に作りモノになっている可能性は高い。「ドキュメンタリー=完全なる真実」などと無邪気に信じる人は少ないだろうが、「ある程度真実」だと捉える人は少なくないだろう。この辺が、映像作品の危うさだと思う。

 だから、本作は、飽くまでもリヒターの人生をモチーフにしたフィクションなのだ。リヒターの半生を描いた映画ではない。ところどころで符合点があったとしても、だからノンフィクションということにはならない。これは、映画なんだから。


◆画家映画の割に、、、

 序盤で出てくるクルトの叔母エリザベト(ザスキア・ローゼンダール)が本作のキーパーソン。幼いクルトに強烈な影響を与えることになるこの女性は、美しく、感性豊かで、ナチが唾棄すべき退廃芸術とこきおろす美術作品を「大好き」と言うような人。このエリザベトとの序盤のシーンがどれも画的に非常に印象的で、画家映画のお約束、“作風が決まるまでの苦悩”から脱出するに当たっての鍵になると、見ている誰もが予測がつくだろう。

 そして、実際、クルトが作風を確立させていく過程で、エリザベトが生前残した言葉「真実は美しい」「真実から目を逸らさないで」が、クルトの作品となって具現化される。真実は美しい、、、かどうかは疑問だが、この辺りの展開はなかなか感動的。そして、その作品が、クルトの義父ゼーバント教授に、義父がひた隠す過去に直面させることになり、二重の意味を持たせているのもなかなか巧みな構成だと思う。

 クルトと恋に落ちて結婚する相手エリーの父が、エリザベトを死に追いやった元ナチ高官、という設定はいかにも出来過ぎで、ちょっと鼻白む感じもあるが、だからこれは映画なのだということである。

 このゼーバント教授という男、ホントに最低な人間で、見ていて非常に不快だった。SSの隊員でもあったこの男は、とにかく名誉欲と自己保身の塊みたいな人間であり、信念などなく、いかに安全に世渡りするかということしか頭にない。戦後、ソ連の捕虜になったときでさえ、「ゼーバント教授」と呼ばれることに拘り、自らの保身のためには娘の身体を傷つけることも厭わないという、狭量かつおぞましい人間なんである。

 しかも卑劣漢で、統合失調症と診断されたエリザベトを「不要な人間」判定しておきながら、自ら手を汚すのはイヤだからと不妊手術は部下にやらせる。部下が拒んでも押し付ける。

 ……まぁ、こういうエリートは、私も現実に何度か遭遇したことがあるので、いつの時代にもどこにでもいるんだろう。私が現実に出会ったのは、ほとんど(というか全員)男だったが、エリート(というか、いわゆるその時代でステータスがある)とされる男は、ゼーバント教授ほど卑劣ではないにしろ、基本的には冷血で自己中だった。別にそれならそれで構わないが、人にそれを指摘されると逆ギレするところが、どうにもこうにも小っちぇんだよね。自覚して開き直ってるんならむしろ尊敬するのに。どんなに偏差値が高くても、ああいう手合いはサイテーだ。

 あと、全体に気になったのが、エリザベト以外の女性の描き方。エリーは、服飾デザイナーの卵のはずだったんだが、クルトとデュッセルドルフに来てからも服を作っているシーンはチラッと出てくるだけで、基本、クルトとセックスしているシーンがほとんど。親の支配から脱しきれないところとかも含めて、エリーの人物像がぼやけているのはいただけない。また、エリーの母親(演じている女優さんが、ケイト・ブランシェットによく似ている)もかなり??な人で、自分の娘の堕胎手術を夫がするのに止めようともしないし、基本、全て夫の言いなりなんである。まあ、あれだけ強権的な男を相手に為す術無し、、、ってことかも知らんが、あまりにも夫婦間で葛藤がないのが不思議だ。かと言って、陰では娘に寄り添うとかでもなし、ホントに主体性のない女性で、見た目は美しいのに中身空っぽでガッカリする。

 とはいえ、全体に見れば3時間という長尺にもかかわらず、緊張感が途切れない良い作品であることには違いない。特に、東ドイツ時代の描写が面白かった。あんな絵ばかり描かされていれば、疑問を抱くのも当たり前だろう。ホントに、独裁国家ってロクでもないことばっかり国民に押し付けるんだな、と改めて認識した次第。ベルリンの壁が出来る前に西側に出られて良かったよね。

 画家映画だから、当然、画家として作風を確立するまでの苦悩が描かれ、それが本作の後半なんだが、正直言って、この後半は退屈はしないが東ドイツ時代ほど面白いとは思えなかった。私自身が現代アートに全く興味が無い(というか、ゼンゼン分からない)ので、そういう世界を見せられても、何だかなぁ、、、という感じになってしまうのよね。

 まあでも、画家映画=不幸映画、という私の勝手な公式は、本作には当てはまらないです。クルトはちゃんと成功するし。エリーは、父親のひどい仕打ちに苦しみながらも、子どもを授かることが出来たし。最初は格差婚だったけれど、それも解消されたし。


◆その他もろもろ

 クルトを演じたトム・シリングは好演していた。『コーヒーをめぐる冒険』のときより、かなり大人になったなぁ、、、という感じ。6年で印象が変わった気がする。エリーを演じたパウラ・ベーアと身長がほとんど変わらないみたいで、小柄なのかしらね。

 そのパウラ・ベーアはほとんど裸のシーンばっかりで、こりゃ撮影大変だっただろうとお察しする。もちろんキレイなんで良いのだけど、前述したとおり、役者としてはあまり演じ甲斐がない役なんじゃないかしらん、、、。

 本作の真の主役と言っても良い、ゼーバント教授を演じたセバスチャン・コッホは素晴らしかった。虚栄心に満ち、シレッと卑劣なことをしてしまう、サイテーな人間を、実に巧みに演じていた。終盤、クルトの描いたエリザベトの絵を見て打ちのめされたシーンは、本作の白眉だろう。ほとんど、クルトを喰ってしまっていた。

 でも、私が一番素敵だと思ったのは、美大の名物教授ファン・フェルテンを演じていたオリバー・マスッチ。芸術家として何が大事か、ということを、クルトに気付かせる。そのシーンでのマスッチ氏がめちゃくちゃカッコイイ。こんな教授がいる学校、羨ましい。この人にもモデルがあるらしく、戦後ドイツの現代アートの基盤を気付いた人だということだ。

 画家の映画だけど、絵はあまり出て来ない、、、というか、出てくるんだけど、本作内ではあまり重要なファクターとしては扱われていない、、、ように感じた。

 まぁ、良い映画だと思うけれど、『善き⼈のためのソナタ』の方がかなり優れている映画だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

現代アートをどう見れば良いのか、分からない。

 

 

 

 


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