映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

カンザス・シティ(1995年)

2014-09-29 | 【か】



 政権中枢部にいる大物の奥さんを人質にとって、自分の夫の命を救おう、っていうすごーく無謀なオネェちゃん。ジャズシーンがちりばめられる中、オネェちゃんの計画は、意外に上手く進みそう・・・。

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 うーん、これは、私はダメだわぁ。アルトマン作品で、「ダメだ、こりゃ」と思った、記念すべき第一号ですな。

 何がダメって、まぁ、非常につまんないってことですね、映画として。ストーリーは、冒頭に書いた通りで、かなり単純。一応、サスペンスの要素もあるので、最後までどうにか見られますけれど・・・。

 アルトマンはジャズ好きだったそうだけれども、だから、こういう作品を撮りたかったのかなぁ、というのは何となく分かります。それくらい、ジャズシーンが多い。途中、サックスのバトルはジャズ史に残る有名なセッションだったとか。これは、後でネットで調べて知りました。でも、作品を見ていて実際にあったのかと思わせる大迫力です。なので、ジャズ好きの方は、これを見るだけでも本作は楽しめると思います。

 が、しかし、私はジャズはメジャー中のメジャー、ビル・エヴァンスくらいしか聴かないもので、そういう視点での楽しみ方はちょっと厳しい・・・。となると、どーしても、映画としてのあれこれにとらわれて見てしまう訳ですね。

 人質にとられる奥さんがアヘン中毒で、かなりイカレているんだけど、これがキモ。この人質でないと、このオハナシは成り立たないので。片や、人質を取ったブロンディはもの凄い蓮っ葉(歯も汚いし、喋り方も独特、メイクも怖い)だけど、夫一筋で、ギャングに腹を掻っ捌かれた夫を見て、あんな風に取り乱してしまう、、、という対比の描き方が、アルトマンらしいといえば、そうなのかな。

 そして、虫の息の夫に「一人では生きていけない」と取りすがって泣くそのブロンディの姿を見て、ちょっとネジが飛んじゃっている奥さんは、それなら2人一緒にあの世へお行き、とばかりに、、、。まあ、その方がブロンディも幸せかも、と見ている者を納得させるところもあります。

 アルトマン作品は、確かに音楽も素敵です。彼の音楽的センスというのは、こういう時代背景と、生育環境に培われたものなのか、と、見終わってしばらくしてから感慨深く思いました。

 でもまあ、もう一度見たいか、と聞かれれば、それはNoなので、★は少な目です。


アルトマンの「俺はジャズが好きなんだぞ」映画



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ゴッホ(1990年)

2014-09-24 | 【こ】



 自分が死んで約100年の後、自分の描いた絵が58億円もの価格で売れたことを、あの世で彼はどう思っているのだろうか・・・。
 
 信仰にも、絵にも、友情にも、恋愛にも報われなかった彼の人生。彼の、文字通り生命線だった弟も、報われない。ないない尽くしの彼の人生を、常に「貧乏」というBGMで描く、アルトマンにしては珍しい伝記映画であります。

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 とにかく、ティム・ロスが、数あるゴッホの自画像からそのまま抜け出てきたみたいで、なんだか本当にゴッホってこんなだったんだろうな、と思わせる凄みがあります。

 ・・・が、私、アルトマン作品を見てくる中で、初めて睡魔に襲われました、これ。しかも、ほんのちょっととかではありません。何度も、何度も。なので、何度も何度も見るハメになりました。後半、耳切り事件以降は覚醒しましたが。眠くなったのはちょっとショックだったけど、でも、これは仕方ないなー、と。

 俳優さんたちは、皆、熱演なのですが、なんつーか、こう、アルトマンっぽさはもちろんあるんだけれども(冒頭のオークションシーンからのオーバーラップとか)、アルトマンにしては、ものすごくベターッとした感じで、ずーっと同じトーンで展開するので、これが私にはキツかった気がします。

 もしかして、登場人物が、ほとんど、ヴィンセントとテオとその妻が中心で、彼お得意の群像劇でないから、人物描写が単調になった、ってことでしょうか。まあ、いずれにしても、話自体も非常に暗く救いのないもので、気分的に滅入るだけでなく、怒りさえわいてくるというか(だったら眠くならんだろう、という気もするが)・・・。

 もちろん、怒りの対象はヴィンセントですが。とにかく、彼は、「お金」はどこからかもらってくるものであり、稼ぐという概念が1ミリもないわけです。自分の絵が売れないことに彼は怒るけれども、じゃあ、売れる絵を描こう、ということも絶対しない。そうすることは、絵描きの矜持を捨てることにもなりかねないからできっこない、ってところなんでしょうなぁ。まあ、大なり小なり、芸術家ってのはパトロンの世話になっているもので、彼にはそのよき理解者が現れなかった、ってことだわね。それくらい、彼の絵はアクが強すぎた、ってことなんですかね。

 私は、絵を見るのは好きな方ですが、美術に関する一般常識はあんまし持ち合わせていないので、ゴッホについても、通り一遍のエピソードくらいしか知りませんが、本作は、その通り一遍のエピソードを超える話がほとんど出てこなかったのも、睡魔に付け入る隙を与えた一因かもしれませぬ。終盤の、麦畑で自身を撃つシーンはなかなか良いと思いますけれど。

 ・・・例の「ひまわり」は、学生時代、購入した会社の美術館でバイトをしていたので、実物を飽きるほど見ましたけれども、こんなものになんで58億円も出すんだろう、と思ったのが正直なところです。というか、58億円って何なの? どれくらいのお金なの? 絵一枚に掛けるお金として、それってアリなの? もっと生きたお金の使い方ってあるんじゃないの? ということが頭の中でグルグルしておりました。ゴッホだって、いまさらそんな天文学的な値段つけられたって、「なんのこっちゃ」だと思うんですけれど。本作のティムゴッホを見て、ますますそう思いましたね。あ、これってアルトマンの術中にハマったってことでしょうか。


お金は稼ぐもんじゃなくてもらうもの byゴッホ



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戦慄の絆(1988年)

2014-09-19 | 【せ】



 一卵性双生児・・・。この遺伝子的には「まったく同じ」2人の人間という不思議な存在は、いつの世も、創造心を刺激する。全く同じ外見で、全く同じ遺伝子を持つ2人でも、人格は別々なのだから「心」までは同じではないはず。

 ・・・本当に?

 聞いたことない? 双子の間でテレパシーみたいなのを感じ合う話。あれって、ただの兄弟姉妹とは違って、心も同じってことじゃない・・・? 

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 ビジョルドが好きなので、あと、まあジェレミー・アイアンズが双子役ってんで、ずーーーっと前にDVDをゲットしておりましたが、このほど、ようやく見た次第。

 クローネンバーグについては、私はいわゆる「食わず嫌い」でして・・・。どうも「グロ過ぎ」というイメージが強くて。なので、彼の作品は『エム・バタフライ』に次いで2本目です、これが。

 でまあ、お約束の通り、ジェレミー・アイアンズは「堕ちてゆく」役を演じておられました。この人、もう、こういうのばっか。てゆーか、私の見ているこの人の出ている作品が、こういうのばっか。で、私はそういう彼が、まあ、割と好きなのであります。ダメンズとは違う、どーしよーもなく情けない男を演じるジェレミー・アイアンズがね。ちなみに、『エム・バタフライ』にも、まんまの役で出ていました。

 ただ、本作では、外見はそっくりだけど、キャラの違う双子――社交的な兄と、研究者肌の弟――、つまり一人二役を演じていたんですが、まあまあ上手く演じ分けていたのではないでしょうか。序盤、ビジョルド演じるクレアを双子兄弟で共有するところとかどっちがどっちかちょっと分からないですけれど。

 子どもの頃、知り合いに可愛らしい男の一卵性双生児がいて、何年かぶりに高校生になった彼らを見たら、イケメンツインズになっていて、それはそれは驚きました。校内でも評判の美男子双子で、頭も良いし、女子たちの噂の的でキャーキャー言われてましたねぇ。ま、私は、短パン履いていた頃の彼らを知っていたので、キャーキャー言う気にはなりませんでしたが・・・。彼らは、今、どうしているのだろうか、そーいえば。

 自分と同じ外見の人間がもう一人、身近にいるという感覚・・・。分からないですが、想像するとちょっと怖いかなぁ。つーか、こんなのがもう一人この世にいるかと思うと、たとえ中身はゼンゼン違ったにしても、それだけでホラーな気がします。自分一人で十分というか・・・。

 確か、ちょっと前にテレビで、マナカナさんたちのどちらかが「片方が思っていることが、もう片方に通じていることがある」らしく、「そういうとき、双子やなーと思う」みたいなことを言っていましたっけ。

 そうはいっても、やはり別人格ですからね。現実は、一人と一人なはずです。

 でも本作は、一心同体の一卵性双生児。DVDのケースには「完全なる精神的均衡」とあります。そう、彼らは、そもそも一人じゃ生きていけない存在となってしまっていたのでした。これは、大変な悲劇です。

 2人のジェレミー・アイアンズ(いやエリオットとベヴァリー)が互いに堕ちてゆく終盤、特に、弟が兄を文字通り「分離する」シーンは、ゾッとします。そこで使われる弟の開発した医療器具の造詣がまたおぞましくも美しい。その医療器具を使用して患者を手術するシーンの印象的な赤といい、この辺は、クローネンバーグの美的センス全開、といったところなのでしょうか。とにかく、おぞましいけれども目を背けられない美しさです。

 惜しむらくは、ビジョルドが、一応キーパーソンなのにもかかわらず、実質的にはキーパーソンですらない、通りすがり的存在に描かれてしまっていることですかねぇ。しかし、この作品でのビジョルドはやつれが気になります。同時期の『モダーンズ』では感じなかったのに・・・。

 まあ、映画として面白いとは思うけれども、見終わった後何かが残る作品ではなかったので、★は少なめです。


お前ナシじゃ生きられない・・・それは悲劇でしかない



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Dr.Tと女たち(2000年)

2014-09-16 | 【と】



 まさに女難のダンディー(?)産婦人科医トラヴィス。やっとこさ出会った、この人こそ! と思える女性ブリーは、しかし、彼がこれまでのモテモテ人生で知らず知らずのうちに自分で塗り固めてきてしまった「女なんてこんなもの」を遥かに超えた女性であった・・・。ごーん、、、(鐘の音)

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 リチャード・ギア、好きじゃないわぁ。にやけ切った顔は、まあ、仕方ないとして、俳優としてそんなに深みのある人に思えないんだよなぁ。別に彼じゃなくてもイイじゃん、的な存在というか・・・。とにかくそう思ってきたわけです。本作を見るまでは。

 本作では、産婦人科医であるからして至極トーゼンと思われるんだが、とにかく女に囲まれたドクター・T=トラヴィスなる男を演じておいでです。彼は、ルックスも良く、人当たりも良いので患者(年増のオバサンが多いんだが)からモテモテであり、恐らく、若い頃から女にモテモテだったことが察せられます。

 彼は、自分に迫ってくる女=彼の医者としての名声&イケメン&モテ男&お金持ちを目当てにしている女どもには飽き飽きしています。一方で、妻は幸せすぎるが故に神経を病んで離婚したいと言い出し、2人の娘たちもちょっと問題アリ。彼はきっと毎日こう思っていたことでしょう。「ったく、女ってのはどーしよーもない」

 しかし、彼の前にちょっと雰囲気の違うステキな女性ブリーが現れ、どーしよーもない女どもに、遂に愛想を尽かした彼は、ブリーにプロポーズするんです。

 ・・・が。

 そのプロポーズの言葉に、彼がこれまでどーしよーもないと思っていた女どもにすっかり毒され、世界中の女を十把一絡げで見下していたことが露呈しており笑えます。「君はもう働かなくていい! 一生、楽できる! 何の心配もない!」、、、、もう、救いようのないバカです、トラヴィス。

 だーかーらー。魅力のある女ってのは、男に寄っ掛かって生きる、なんてことはしないんだってば。もっと言っちゃえば、男に幸せにしてもらおうなんて思っていない、期待していないわけ。てゆーか、男に期待していない、というよりは、「男性性」に期待していないのね。パートナーに期待するものがないわけじゃないが、それは「自分を幸せにして」ではなく「一緒に幸せになろう」なわけ。

 そういう、きちんと年齢を重ねてモノを考えてきたおじさんだったら普通に分かっていることを、モテモテに甘んじて脳みそ働かせてこなかったトラヴィスはゼンゼン分かっていない。これは、メチャクチャ可笑しいです。すごいピエロでしょう。

 本作はネットで見ると評判イマイチなんですけれど、恐らく、ここで笑えるか否かが評価の分かれ目ではないでしょうか。私は噴き出しましたが・・・。

 で、思ったのです。こんな大馬鹿野郎なピエロ役を、他に誰が演じられましょう。そう、ギア様しかいないでしょう、これは。

 トラヴィスに迫られたブリーが彼に見舞った一言が痛烈。「イヤだわ、そんな生き方」、、、そらそーでしょ。残念なのは、自分がピエロだと、この期に及んで、砂漠にまで飛ばされていながら、気付いていない風なトラヴィス氏。能天気にboyを逆さにして笑っています。もう一度言います、「救いようがありません」。

 ま、でも、世間にはいくらでも「男に幸せにしてもらいたい」可愛いorキレイな女はゴマンといらっしゃるので、何も世のハイスペック殿方は絶望するには及びません。でもって、そういう女性が好きな男もいるのです。需要と供給の世界ね。

 アルトマンさま、素晴らしい配役でございます。またまた脱帽です。でも、ラストがなんだかヘンテコだったので、★1コマイナスです。


モテモテ産婦人科医の実態は男尊女卑思想のピエロだった



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ぼくを探しに(2013年)

2014-09-15 | 【ほ】



 33歳のポールが一言も言葉を発さないのは、2歳の時に両親の死の瞬間を目撃してしまったから・・・。でも、具体的な記憶はゼンゼンなく、ひたすらおっかない父親と優しい母親の出てくる悪夢に悩まされる日々。

 悪夢から目覚めれば、年中変わり映えのしない1日が、育ての親である叔母2人の調子っぱずれな歌で幕を開ける。

 ある日、階下のマダム・プルーストなる女性に不思議なハーブティーをごちそうになったことから、彼の埋もれていた記憶がだんだんよみがえるのだけれど、これがまた、今まで見ていた悪夢より悲惨な内容っぽい。えっ、、、お父さん、DV亭主だったのーーー!? がーん、、、 しかも、マダム・プルーストは重い病でいなくなってしまう。まだ記憶の全体像はよみがえっていないのに。がーん、、、

 果たして、意を決して記憶の全貌に迫るべく、ポールはマダム・プルーストが置いていったハーブティーの葉っぱを口にする・・・!

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 新聞か何かの批評欄で知って、見てみようと思った次第。監督がアニメ作家出身というだけあってか、セットなど独特の美的センスで、ビジュアル的には十分楽しいです。音楽も素敵。途中、1か所、ミュージカル風シーンがありますが、夢の中なので違和感なく印象的なシーンになっています。ポールが弾くピアノ曲も、どれも愛らしい。終盤、彼がコンクールで弾く曲は、室内楽とジャズのどちらにもなるという、なかなかのアレンジでよく出来ているなー、と感心しました。

 ハーブティーを飲むと、ポールは昏倒するのですね。これ、いわゆる“脱法ハーブ”ってやつでしょう。今は危険ドラッグって言うんですか。ま、どっちでもいいけど、かなりヤバい飲み物です。でもって、昏倒したまま突っ立っていることもあるんです。これだけで十分ヘン。

 マダム・プルーストの名前から、プルーストの「失われた時を求めて」か? と思ったけれど、パンフ読んだらやっぱりそうらしいです。読んだことはもちろんないんだけれど、ハーブティー飲んだ直後にマドレーヌ食べるところとか、まさしくオマージュだそうです。

 本作は、結局のところ、もう手垢のついたテーマ「自分探し」モノなんです。最終的に、自分を抑圧してきた叔母2人からの脱却とか、その象徴でしょう。ただ、それがものすごーく変化を効かせた展開&描写なので、既視感を観客に抱かせることなくスンナリ受け入れられるのですね。ヘンな設定も、なぜかリアルな感じがしてしまうのです。

 出てくる女性陣が軒並み超個性的で、圧巻。ポールの育ての親の叔母2人は、恐らくこの歳までバージンだろうと想像させるキャラで、お揃いの服着たり、動作が同じだったり。マダム・プルーストも植物を栽培している部屋に住み、あんまし上手くないウクレレを弾きながら人間ウォッチングに余念がないし、ポールに言い寄ってくる中国人チェリストは「あなた童貞?」なんていうストレートな質問をぶつけてくるし。おかし過ぎでしょ、この人たち!

 DV亭主かと思っていた父親が、実は・・・とか、両親が死んだ理由が、実は・・・とか、観客の期待を心地よく裏切る展開は、見ていて飽きません(これ書いちゃうとネタバレ通り越して、かなり興醒めになると思うのであえて書くのやめておきます)。

 序盤、叔母2人が、朝起きてグランドピアノの屋根を開けると窓からの光を遮り、ポールのいる部屋が真っ暗になるというシーンが、今、ポールが置かれている状況を端的に表していて、さらに途中は悲惨なことがてんこ盛り。でも、オープニングのシーンと被るようなラストシーンで、ポールの人生が日が差しているという対比。救いのある作品となっています。

 まぁ、とはいえ、それほど好き!って感じもしなかったんだけれど、嫌みのない逸品であることは間違いないです。主演のギョーム・グイは、おっかない父親役も演じているんだけど、これがポールと同じ人に一瞬見えないのも凄い。ちなみに、パンフレットのデザインもなかなかです。

 この監督のこれまでの作品、追々見てみようかな。


日の当たらぬときも当たるときもある、それが人生



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イヴ・サンローラン(2014年)

2014-09-13 | 【い】



 一目あったその日から、恋の花は咲いてしまい、生涯、イヴ・サンローランのパートナーとなるピエール・ベルジェ。天才のイヴを公私にわたり支えるが、イヴは自らの才能に押しつぶされそうになり、神経をすり減らしてドラッグ&アルコールに走り、ピエールとの仲も何度となく危うくなる。

 しかし、その一方で、イヴは何度もデザイナーとしてはよみがえり、世界を牽引する伝説のイヴ・サンローランに・・・。観客とモデルの拍手・賞賛に包まれ、彼はステージ上ではにかむ。

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 何でも、ブランド公式認定映画とか。個人的に、ファッションに対する興味はごくごく人並みであり、ブランドにも詳しくないし、当然ファッション史など無知と言って良いレベル。ただ、ベルジェの全面バックアップの下に作られたというだけあって、これでもかと溢れる華やかな衣装の数々は、まさしく絢爛豪華そのもの。これらを見るだけでも、本作は一見の価値アリかもです。

 まあ、いくら無知でも、イヴ・サンローランがゲイだったことくらいは知っていたわけですが、結構、ゲイのラブシーンが頻繁で、これはちょっと参りました。まあ、きわどいところでカットしてくれているのでぎりぎりセーフではありましたが、それでも何度もキスシーン見せられるのはちょっとツラいとこ。

 冒頭で、彼がいかに天才だったかを描写したシーンが出てきます。そして、自身のブランド立ち上げ直後のショーの最後に、観客の前で挨拶のお辞儀をするシーン。ここで、イヴがどんな人かを端的に描いていて、秀逸だと思いました。

 、、、ただ、まあ、こういう天才アーティストにありがちな「ゲイ+ドラッグ+アルコール」が3点セットで出てくると、これが史実なんだから仕方ないのだけれど、なんつーか、もう食傷気味で、オエッ、って感じでして・・・。あー、ハイハイ、と言いたくなるというか。そういう描写がかなりしつこく出てきたから余計にそう思ったのかも知れませんが、別にここまでその描写にこだわる必要って・・・、まあ、やっぱりあるんでしょうねぇ。

 3点セット抜きに、彼の人生が語れないのは分かるけれども、そこでもがきながらも、いかにデザインの世界で苦闘したか、どうやってデザインを生み出していったのかに焦点を当てても良かったんじゃないのかしらん。他のライバルデザイナーに抱いた対抗心とか、世界にもっと認められたいという向上心とか、虚栄心とか、そういう苦しみもあったんじゃないかと思う訳です。それが、全部3点セットにつながるんだよ、と言われたら、はいそーですか、としか言いようがないんだけれど、これじゃあんまり芸がないんじゃないでしょうかね。

 ま、その辺りが、ベルジェのバックアップの限界だったのかもという気もします。ベルジェとの関係性に重きを置かざるを得なかった、、、とか。邪推ですけど。小耳にはさんだところでは、ブランドの許諾を得ていない、別の「サンローラン」映画が近々公開されるらしいのですが(イヴをギャスパー・ウリエルが演じているそうです)、こっちも見比べてみると面白いかもです。

 ところで、本作は、彼の晩年は描かれておらず、バレエ・リュスのコレクション発表がラストシーンとなっています。バレエ・リュスといえば、こないだまで開催していた「魅惑のコスチューム バレエ・リュス展」に行きそびれたのだけれど、あー、つくづく惜しいことをしたものだと本作を見て改めて後悔。映画と違ってリバイバルとかDVDとかないからなぁ・・・。行きたい、と思った催し物には、必ず行くべし。


アーティストにはお約束の3点セットの描写が食傷気味な作品



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相続人(1997年)

2014-09-11 | 【そ】



 きっかけも嵐の夜。見知らぬ女の車が盗まれたところに遭遇した女タラシ弁護士が、ずぶ濡れになっているその女を送ることから、どんどんおかしなことに巻き込まれていく。

 カルトっぽい女の実父やその仲間たち、女や弁護士の子どもたちの目に穴を開けた写真入り脅迫レター、子どもの誘拐騒動、、、、さらに自分のこれまでの弁護士としての在り方に足元をすくわれ、果ては・・・。

 何なんだ、この女、と気付くのが遅過ぎる弁護士。そして、気付いた後もまた嵐。彼の人生も大嵐。

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 さて、ケネス・ブラナーです、、、。うー、私はこの人がどーしても好きになれないのです。なぜか。多分・・・理由その1:彼の監督作品があんまし好きじゃない。理由その2:仕事仲間と次々ステディになり、私の大好きなヘレナ・ボナム=カーターと同棲までしていた。理由その3:ルックス。てなところだと思われます。でもって、本作では、理由その3のルックスが、やっぱりダメな最大の理由かも、と感じた次第。ファンの方、すみません。

 小柄な割に、頭がデカいんだけど、肩幅は狭くて、うーん、なんというか押し出しが弱いというか、、、。顔も、その半分くらいが額で、顔のパーツが下方に集中しているので、どうも訴訟に強い弁護士、っていうイメージじゃない。

 とはいえ、それを補って余りある演技でございました。つーか、彼一人が空回りしてドタバタしているばかりで、自分で自分の首をどんどん絞めてしまうのですね。でもって、自分の過去が自分をさらに追い詰めるという皮肉。自分のやったことは、良くも悪くも自分に還ってくるものなのです。

 大体、見知らぬ男の前でいきなり素っ裸になる女なんて、それだけで警戒するだろう、頭のイイ男は。だから、一晩の情事で終わるんですよね、賢い男は、きっと。だが、彼は自信&自意識過剰の鼻持ちならないヤツで、まんまと女にその虚像を見抜かれ利用されちゃうわけです。ハッキリ言って、まあ、自業自得でしょう。

 アルトマン作品にしては分かりやすい展開で、アルトマン節を期待して見ると確かに裏切られるかも。でも、私は、これは結構良いと思いました。ストーリーのネタバレ的な部分に、恐らくアルトマンはあまりこだわっていない気がします。サスペンスとして観客を裏切ることに重きを置いていないのでは。

 それより、人物描写の巧みさ、さばき具合の良さが相変わらず素晴らしいです。冒頭、マロリーと情事を交わすまでの無駄のなさ(とっととベッドインせちゃう)とか、クライドの登場のさせ方(女にだらしないってのがすぐ分かる)とか、マロリーの実父が仲間の助けで精神病院を抜け出すシーンをマロリーとリックの情事のシーンと交互に描くことで実父がマロリーに襲い掛かってくるのではないかと見ている者に恐怖心を抱かせるとか。しかも、この精神病院が墓場の隣にあって、ここだけ見ているとホラー映画みたい。

 そして、あのジンジャー・ブレッドマンの挿話の効果と、一旦去ったと思った嵐(ハリケーン)が戻ってくるというリックの置かれた状況の象徴する巧みさ。いや~、アルトマン、さすが! ってのは、私が彼を愛しているからという偏向評価ではないと思うんだけど、、、。世間の評価はイマイチですね。

 ダリル・ハンナは最後まで分からなかった! ファムケ・ヤンセンは美しいし、エンベス・デイヴィッツもナイス。女優陣は素敵なのに、主役の男優はなぜアイツなんだろう。

サスペンスより、アルトマンの人物描写の巧みさ、さばき具合の良さを堪能する作品



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バンテージ・ポイント(2008年)

2014-09-08 | 【は】



 三角だと思っていたものが、別の角度から見たら丸かった・・・、という作りにしたかったんだろうけど、ちょっとその点では企画倒れっぽいです。

 大統領狙撃事件に至るまでとその直後の出来事を、別々の視点から見せるために何度も繰り返すわけですが、これが、視点が違うことで別物に見える、という風にはなっていないのですな。死角になっていた部分が視点を変えたことによって見えてくるだけで、つまり、単なる説明になっちゃっているという、、、。見えなかったものが炙り出された、というわけじゃぁないのよね、、、残念。

 でもまあ、全体としては飽きずに最後まで見られるし、手に汗握るところもあり、あんまし何にも考えずに娯楽作品として見る分には、及第点でしょう。消費されるだけの映画ですね、ハッキリ言って。でもそういう作品にも存在価値はもちろんあるのですから。

 本筋とは関係なく、特筆事項(?)として、本作を見ている間中、私、デニス・クエイドがハリソン・フォードに見えて仕方がなかったのです。よく見ると、そんなに顔は似ていないと思うけれど、もう、身体張ってSPやっている姿は、どーにもこーにも、ハリソン・フォード。ハリソン・フォードを見て、デニス・クエイドに見えるってことはまずないだろうから、これって、どーなんでしょ。眉間のしわとか、にこりともしないとことか、ヤバい!ってときの一瞬の表情とか、そっくりじゃないかなぁ。・・・と思ったのは私だけだろうかと、ネットを検索すると、同じことを感じていた人がいらっしゃって、少しホッとした・・・。その方は、もっと辛辣なことをお書きになっていたけれど。

 シガニー・ウィーバーも冒頭だけの出演だし、フォレスト・ウィテカーは、まぁ狂言回しってことだろうけど、何より、マシュー・フォックス(この人、私より歳上だったなんてー。信じられん)の役回りは早々にネタバレでしょうが。おまけに、ウィリアム・ハートは大統領の威厳も風格も感じられず、どーして彼を大統領役にしたのだろうかと疑問。

 そもそも、あのテロリストは、その容貌からして、真っ先にSPや警備に目を付けられそうなもので、おまけにあんなにスマホだか何だかいじっていたら、怪しいどころじゃないだろう、って。私が警備員でも職質して、その場から追っ払うよなぁ。いくらSPの一人がグルだって言っても、他の人の目は欺けないと思うんだけど。せめて、もうちょっと違うルックスの役者さんを使っていれば、もう少しマシだったと思うけれども。

 まあ、でも本作にリアリティなんて求めても仕方がないし、本当のテロリストは少女だって平気でひき殺すに違いないし、そういう意味では、やっぱり、ちょっとハラハラドキドキを感じる娯楽映画と割り切って見るべき作品でしょうな。そこそこ楽しませていただきました。

「物事は多面体である」にトライしてあえなく挫折しました作品
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オネーギンの恋文(1999年)

2014-09-02 | 【お】



 9月号の文芸春秋を間違って買ってしまい(本当は季刊秋号を買う予定だったのに・・・。池上&佐藤の対談を読もうかと思って)、あんまし興味ない内容ばっかだなー、などと思いながらパラパラ見ていたら、いきなり「レイフ・ファインズ」の文字と、彼のすっかり老けた写真が目に入って、なんだなんだ、と思ってよく見ると「スターは楽し」という芝山幹郎氏のコラムでありました。vol.99とあるので、随分長い連載なんだと思うけど、初めて見たわ。まあ、分厚い冊子の、ほんの見開き2ページだから見過ごしちゃってたのかなぁ・・・。たまにしか買わないしね、文芸春秋。

 で、芝山氏、えらくレイフ・ファインズをホメていらっしゃいます。へぇー、なんか意外。『グランド・ブダペスト・ホテル』で、彼が新境地を開いたと非常にお喜びです。確かに新境地は私も同感だわ。良かったですねー、パチパチ。

 というわけで、レイフ・ファインズです。本作は、彼に尽きる映画なわけですが、まぁ、長年彼を見てきたけれども、やっぱしこういう、どーしよーもない男が実に似合いますね、この人は。ジェレミー・アイアンズと、「ザ・情けない男」を演じさせたら大ハマり、で双璧でしょう。

 オペラにもなっているくらい有名なお話なんで、ストーリーはともかく・・・。まあ、オネーギンがタチアナの思いを拒絶するってのは、非常によく分かります。若い男性、特に、オネーギンのような世の中斜に構えて見ているニヒルなヤツは、若いが故に分からないんですよね、失うととてつもなく痛手を負うもの=愛、ってのが。でも、歳を重ねて、世間が見えてくると、急に、失ったものの大きさが分かってくるんだけれども、すでに時遅しの場合が多く、本作でももちろん「遅すぎる」とタチアナに拒絶されます。哀れなり、オネーギン。

 ただ、再会したタチアナが、以前に増して美しくなっていたことと、何より「公爵夫人」になっていた、ってことが、オネーギンの喪失感に火をつけたのは間違いありません。タチアナが、以前よりやつれ、貧乏貴族か成金の妻になっていたら、オネーギンは若かりし日の自分の選択の正しさを再確認して終わりだったわけで。ここが、人生の皮肉ですねぇ。そう、女が、自分を振った男へ復讐したいのなら、今の100倍美しくなること、そして現代女性ならば玉の輿婚なんぞでなく、確固としたものを身に着けていること、これに尽きます。

 象徴的なシーンがあります。若いオネーギンは、タチアナからの情熱ほとばしる恋文をいったん暖炉に投げ入れるんだけど、思い直して取り出し、丁寧にたたみます。一方、2人が再会後、オネーギンからの哀切極まる恋文を受け取ったタチアナは、ビリビリと破いて暖炉に放り込み、手紙は灰となります。一方のオネーギンは焦げ付いたタチアナからの手紙を後生大事に胸にしまっているのです、ずーっと。嗚呼、オネーギン!!

 でも、私はタチアナを拒絶した若いオネーギンを「大馬鹿野郎」の一言で嘲笑う気にはなれないのです。男に限らず、女だって、若い頃は、若さゆえの怖いもの知らずな傲慢さを持っています。一人でも生きていける、なーんて思っちゃう。でもでも、やはり一人で生きる、ってのは言葉で言うほど簡単な、いや、楽なものではないのです。パートナーがいたらいたで苦しみは生じるけれども、一人で生きることの寂寥感は、歳を重ねてみないと分からないのではないですかね。そうして、傲慢だった自分が自ら手放したものの大きさに押しつぶされる、、、。まあ、恋愛に限らずですが、こういうことは生きていれば誰にでも経験があるわけで、オネーギン、君だけじゃないよ、愚かなのは! と言ってあげたいです。

 ところで、芝山氏のコラムでは、レイフ・ファインズのDVDベスト3として『シンドラーのリスト』『クイズ・ショウ』『ことの終わり』が挙げられているんだが、この中で、同意できるのは『クイズ・ショウ』だけかなぁ、私は。恋愛ものじゃないのも結構イイんです、彼。

オネーギン、君だけじゃないよ、愚かなのは!
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