映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ルナ・パパ(1999年)

2023-08-27 | 【る】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv31473/


以下、特集HPよりあらすじのコピペです。

=====ここから。
 
 マムラカットは女優を夢見る17歳の少女。ある月の晩、暗闇から声をかけてきた男の子どもを宿してしまうが、男は忽然と姿を消す。

 古いしきたりの村で周囲から冷たい仕打ちを受けるなか、マムラカットは父と兄とともに男を探す旅に出る。

 シャガールの絵画のように美しい村を舞台に、未来を切り開こうとする少女がくり広げる荒唐無稽な極上のファンタジー。マムラカットは「国家」「大地」を意味する言葉。

=====ここまで。

  6月ユーロスペースにて上映された、特集「再発見! フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅」のうちの1本。バフティヤル・フドイナザーロフ監督は、タジキスタン出身で、内戦中もめげずに6本もの作品を撮影しながら、2015年に急逝。


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 名前は聞いたことあるけどよく知らない、、、という俳優とか監督とか、特に外国の方の場合は多いのだけれど、このフドイナザーロフもそうで、だいたい、亡くなっていたことも知らんかった!!

 今回、特集が企画されたというお報せがTwitterでも流れて来て、ちょっと興味があったのだけど、絶対見たい!!というわけでもなかったので、何となくスルーしそうになっていたところへ、映画友から「面白い!見た方が良い!!」と熱いメールが届き、んじゃ見ておこうか、、、くらいの感じで、見に行ったのだった、、、。

 4本のうち、本作を選んだのは、主演のマムラカットを演じているのがチュルパン・ハマートヴァだから。本作を見るちょっと前に「インフル病みのペトロフ家」(2021)を見たのだけれど、これがすごく良くて面白くて気に入ってしまい、、、。そこで主人公の妻を演じていたのが、このチュルパンさんなのですよ。なので、本作を選んだ次第。ちなみに「インフル病み~」の感想は、もう1回か2回見てから書くつもり。

 見終わった直後に感じたのは、これはクストリッツァの映画にすごく雰囲気が似ているなぁ、、、ということ。全編エネルギッシュで、ガチャガチャ感に満ちているんだけど、根底に流れるのは人生賛歌。生きることの素晴らしさ!を、直截的ではない描写で、でも見ている者の心にストレートに訴えて来るという、、、。実際、公開直後はクストリッツァの二番煎じ的な映画だという批判もあったらしい。

 でも、雰囲気は似ているけど、何かが決定的に違うとも感じた。何が違うんだろう、、、と考え、ネットを検索していたら監督のインタビュー記事を発見! それを読んで、少し合点がいった気がしたのだった。

 多分、女性の描き方の違いである。

 思えば、クストリッツァ映画に出て来る女性は、男の影響を受ける存在だった。ある意味、彼の映画は、マッチョ的であったとも言える。それが、ちょっと変わったんじゃない??と感じたのが「オン・ザ・ミルキー・ロード」(2016)で、クストリッツァ自身も女性を意識して制作したとインタビューで言っている。

 本作の場合は、そもそも主人公が少女であるし、監督自身も言っているが、母親が不在であることでより母親の存在が意識される構成になっている。何より、少女自身が母親になることがストーリーの柱になっているわけで、、。とはいえ、監督自身は特に母親との葛藤を抱えているとかいうこともなく、ごく平和な母子関係の様だから、本作のような、母親に対してネガティブな印象がほぼ感じられない作品になっている、というのは割と納得である。

 ストーリーだけ見ればかなり悲惨な内容だと思うが、不思議なくらいに明るい。チュルパンちゃん演じるマムラカットがとにかく愛らしくて、男に訳も分からず(ぶっちゃけて言えば)強姦されて妊娠した割には、悲壮感はなく、中絶に失敗しても、周囲に白眼視されても、彼女はあっけらかんと生きている。女性の妊娠が重要なファクターになる話はあんまし好きじゃないけど、本作にはそういった嫌悪感を抱かなかった。

 ラストのマムラカットが宙に浮かんで行くシーンとか幻想的だったし、何より、タジキスタンの荒涼とした風景と、アクの強い人々が結構ツボだったので、もう1回見たいな、、、と思っている。強烈なインパクトはあった割に、クストリッツァの「アンダー・グラウンド」を見た後みたいに、いつまで経っても衝撃冷めやらぬ、、、という感じではなく、すぐに冷めてしまったのよね。あんまし他の作品と比べるのも良くないと思うけど。

 ちなみに、ロシア人であるチュルパンさんは、ロシアのウクライナ侵攻後、亡命する意思を表明しているとのこと。ロシアの俳優さんたちは、皆どうしているのだろう、、、。

 

 

 

 

 

 


フドイナザーロフ監督作もソフト化・配信してください。

 

 

 

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さらば、わが愛 覇王別姫(1993年)

2023-08-21 | 【さ】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv81662/


以下、公式HPよりあらすじのコピペです。

=====ここから。
 
 京劇の俳優養成所で兄弟のように互いを支え合い、厳しい稽古に耐えてきた2人の少年――成長した彼らは、程蝶衣(チョン・ティエイー)と段小樓(トァン・シャオロウ)として人気の演目「覇王別姫」を演じるスターに。

 女形の蝶衣は、覇王を演じる小樓に秘かに思いを寄せていたが、小樓は娼婦の菊仙(チューシェン)と結婚してしまう。

 やがて彼らは激動の時代にのまれ、苛酷な運命に翻弄されていく…。

=====ここまで。

 公開30周年、レスリー・チャン没後20年特別企画として、4Kリバイバル上映。

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 本作は、確か、昨年(かその前年)に「版権が切れるのでこれが国内最終上映!!」と銘打って、連日、渋谷のル・シネマが満員だった気がするんだけど、今回は4Kだから版権は別ってことですかね? 10年くらい前にも「これが国内最終上映!」って、やっぱり言っていた気がするんだけど、最終上映ってどういう意味?

 ……それはともかく。本作は、大分前にDVD(orVHSだったかも)で見たことはあるが、スクリーンでは見ていなかったので、クリアになった映像をスクリーンで見てみよう、、、と映画友と意見が一致、公開直後に見に行ってまいりました。

~~以下、本作やレスリー・チャンがお好きな方はお読みにならない方が良いです(悪意はありませんが悪口になっているかもです)。~~


◆うーん、、、ごめんなさい。

 実は、本作に対する印象はあんまし良くなくて、世間で絶賛されていることが不思議だった。でも、当時はまだ自身が若かったから理解できなかったんだろう、、、と思っていたので、今回はスクリーンで見て、自分の中で評価が変わることを期待して見に行った。

 ……が、結論から言うと、変わらなかったのだった、、、、ごーん。

 理由は大きく2つあって、1つは、正直言って、私にはレスリー・チャンがあんまし“美しい”とは思えなかったってこと。

 ネットで絶賛している方々の感想を読むと、京劇の虞姫を演じている彼が美し過ぎる!!と書いてあるのが目に付くのだが、あの独特のメイクをした様式美は、ある程度の顔立ちの役者さんなら相当綺麗になるのは当然じゃない? 歌舞伎だってそうでしょ? 元の顔立ちがよっぽど醜悪でもなければ、それなりになるようにできているのが“様式美”なわけで、、、。

 メイクなしのレスリーは、、、まあ、小柄なアジア系の男性、、、にしか見えない(すみません、飽くまでも私の目にはってことです)。つまり、カッコイイとはゼンゼン思えない、ということ。

 元々この役は、ジョン・ローンが演じる予定だったと聞いたことがあるのだが、きっとジョン・ローンだったら文句なしに“美しい”と私も思ったと思う。彼は素で美しいので。

 もう1つは、ストーリー的に終盤ずっこけた、、、ってこと。実は、これは以前見たときも感じたのだが、やはり今回も同じように引っ掛かった。

 それまでにも、やや展開に飛躍があるなぁ、とは感じていたものの、何とか無理矢理着いて行けていたのだが、文革の自己批判シーンで、あまりのえげつなさに脳内???が飛び交い、その後、ラストシーンまでもう復活できなかった。あの醜悪な罵り合いは、お互いがかばい合って、、、というにはグロすぎる。つまり、ゼンゼンかばい合っていたのではなく、積年の恨みつらみ交えての罵詈雑言の応酬だったということ。

 その11年後(?)に、何事もなかったかのように再会している2人。あれは妄想?と解釈する向きもあるらしいが、多分リアルでしょ。だとすれば、余計に分からんし、分かりたくもない。あんな罵り合った人と、恩讐を越えてまた昔のように、、、ってどんだけファンタジーなんだよ、、、としか思えない。

 ……というわけで、ウン十年前に見たときからまるで進歩がないのか、それとも単に本作が合わないだけなのか分からんが、映画友ともども世間の絶賛ムードに取り残されて、グッタリ。見終わってから2人で大いにグチを言い合って、モヤモヤを解消して帰路につきましたとさ。


◆魅力的な登場人物が、、、(泣)

 そもそも、小樓って男、そんなに魅力的か? 私はそこが理解できん。蝶衣があそこまで翻弄されるのがねぇ、、、。そら、恋は第三者には分からんものだとはいえ、これは映画である。見るものに、「あー、あんなエエ男ならしゃーないね」と思わせる小樓の魅力を描いてくれなくては。描いているシーン、ありましたっけ?? 幼年期の思い出を抱えているだけでは?

 項羽という役を演じている小樓に惚れてただけやないのか??と思っちゃうのよね。そういうのってあるじゃん。共演して恋仲になるけど、しばらくして別れちゃうとか。別れない人もいるけど。

 レスリー・チャンの魅力がイマイチ分からない私には、蝶衣に対してもあまり好感を持てなかったなぁ。まあ、割と普通の人だよね。京劇のスターという肩書を取った蝶衣という人自身の描写を反芻しても、あまり素敵だと思えるシーンが浮かんでこないのだ。これは、私の理解力の問題でもあるけれど。

 美しいと言うのなら、蝶衣の少年期を演じていたイン・ジー(尹治)の方がキレイだった。中性的で体温低そうな、あんな少年だったら、さぞや美しい女形になるだろうな、、、と思わせる。

 みんシネにも書いたけど、やっぱり私はチェン・カイコー監督作なら「北京ヴァイオリン」(2003)の方がゼンゼン好きかな。彼が演出した北京オリンピックの開会式は北朝鮮のマスゲームみたいでかなり興ざめだったなぁ、、、そう言えば。あれ以来、チェン・カイコーにもあんまし興味がなくなっていたけど、その後もコンスタントに映画撮ってるのね。知らんかった。また見てみようかな。

 ……というわけで、本作やレスリー・チャンのファンの皆様の神経を逆撫でするようなことばかり書いてしまいましたが、京劇のシーンは見応えありました(と、ムダなフォロー)。

 

 

 

 

 

 

 

 

コン・リーの「上海ルージュ」をまた見たくなったゾ。

 

 

 

 

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“絵金さん”に会いに行く ~大阪目的地のみピンポイントの旅~ ③

2023-08-14 | 旅行記(国内)

につづき

 2日目は民博に行って、あとは帰るだけ。

 民博は10時開館なので、9時前に宿を出れば十分だろう、、、ということで、ゆっくりめに起きて7時半頃朝食へ。

和洋混在、、、たこ焼きも♪

 

 お腹の調子がイマイチと言いながら結構食べる。一人、窓際の席で外を眺めながらダラダラ食べるの、幸せだ、、、。

 部屋に戻ってコーヒー飲みながらダラダラを延長。9時20分前くらいに部屋を出てチェックアウト。いざ、駅へと向かう。

昨日と反対方向に乗って千里中央まで

 

 この日は土曜日だからか人もあまり多くはない。車内でも座れて、千里中央まで約20分。

千里中央駅。大阪の地下鉄駅は天井が高く開放感があって良いなぁ、、、

 

 ここから、モノレールに乗り換える。モノレール乗り場まで少し歩く。民博のある、万博記念公園駅には2駅なので10分もかからずに到着。

 

 問題は、駅から民博までかなり遠いこと。まあ、上野駅から東博までもまあまあ歩くけど、こっちの方が大分遠い感じ。

 

太陽の塔が見える

 

 この日は、公園でイベントが複数あったらしく、かなりの人、、、。

ここで民博の入場チケットも買う

 で、入場ゲートをくぐると、ど~ん、、、

結構デカい太陽の塔

 

 幼い頃のアルバムに、大阪万博に行った写真があるんですよね。覚えていないけど。私は50年以上前にここに来ていたらしい。

 この万博記念公園について、wikiを読んだら、なかなか面白いことが書いてあった。万博の跡地として、色々な案があったらしく、地理的に(幹線道路の要衝なので)物流センターなども候補に挙がっていたとか。経済的にはそっちの方がよほどカネになるところ、当時の大阪市長は公園案を強力に推し、経済団体も後押ししたんだとか。結果的に公園案が現実路線となり、民博もそのおかげで今があるということだ。

 今の市長や府知事なら、絶対こうはならんかっただろうなぁ。で、民博はこの場所になかったし、コレクションもここまで充実することはなかったかも知れない。当時の市長が佐藤栄作に言ったという言葉を読むと、この市長も色々あるみたいだが、なかなか良いことを言っている。


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 民博まで延々公園内を歩くこと15分、やっと建物が見えてくる。このときは、「ラテンアメリカの民衆芸術」という企画展示がされていた。

 

 まずは、企画展示から。

 

 

  

ペルーの2世紀ごろの土器とか、、、

 

14世紀ごろのアステカの石彫

 

  

メキシコの「死者の日」祭壇/ボリビアのカーニバル衣装

 

 

 

 

企画展のポスターにもあったオアハカの木彫/右は「悪魔」だそう

 

生命の木

 

細部を見ると面白い、、、

 

  

いろんな仮面とか

 

2014年にメキシコで起きた軍と警察による学生43人拉致事件(未解決)の真相究明を求めた「アヨツィナパ文書」

 

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 お次は、常設展示へ、、、。

 

「エクソシスト」を思い出してしまった、、、が、こちらはポリネシアのティキ像(割と新しい物みたい)/メキシコの骸骨人形(ミニチュアで欲しい!(^^)!)

 

アステカの暦石(レプリカ)

 

 

 

楽器コーナー、面白過ぎる、、、

 

チャルメラの分布って、、、(^^♪

 

 

 台湾(左)とモンゴル(右)の民族衣装

 

 画像はキリがないのでこれくらいで。

 世界各地をヨーロッパ、アフリカ、、、等々と地域を分けて民族的コレクションを多数展示していて、面白いのだが、あまりの数の多さに時間が足りない、、、。いやこれ、マジで3日くらい連続で通いたい。


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 今回は、絶対に乗り遅れることが出来ない新幹線の時間があるので仕方なく切り上げることに。博物館の中では感じなかった疲れがドッと出る中、再び駅まで延々歩く、、、。あー、しんど、、、。

 

 ショップで、ゲットしたのはこちら。置物と図録、欲しかったエコバッグ。

  

 

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 この後、新大阪駅まで戻り、551で肉まんを買い、東京で私の行動範囲に全くないミスドでドーナツをゲットし、売店でお約束の赤福を買い、無事に新幹線に乗って東京まで戻って来ましたとさ、、、。

 

 

 

 この2日、約14,000歩・約10キロ/日歩いていました。まあまあ歩きましたね。

 メモみたいな旅行記、これにて終わりです。最後までお読みいただきありがとうございました。

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ナチスに仕掛けたチェスゲーム(2021年)

2023-08-12 | 【な】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv81599/


以下、公式HPよりあらすじのコピペです(青字は筆者加筆)。

=====ここから。
 
 ロッテルダム港を出発し、アメリカへと向かう豪華客船。ヨーゼフ・バルトーク(オリヴァー・マスッチ)は久しぶりに再会した妻と船に乗り込む。

 かつてウィーンで公証人を務めていたバルトークは、ヒトラー率いるドイツがオーストリアを併合した時にナチスに連行され、彼が管理する貴族の莫大な資産の預金番号を教えろと迫られた。それを拒絶したバルトークは、ホテルに監禁されるという過去を抱えていた。

 船内ではチェスの大会が開かれ、世界王者が船の乗客全員と戦っていた。船のオーナーにアドバイスを与え、引き分けまで持ち込んだバルトークは、彼から王者との一騎打ちを依頼される。

 バルトークがチェスに強いのは、監禁中に書物を求めるも無視され、監視の目を潜り抜け盗んだ1冊の本がチェスのルールブックだったのだ。仕方なく熟読を重ねた結果、すべての手を暗唱できるまでになった。

 その後、バルトークは、どうやってナチスの手から逃れたのか? 王者との白熱の試合の行方と共に、衝撃の真実が明かされる──。

=====ここまで。

 シュテファン・ツヴァイクの小説「チェスの話」が原作。


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 オリヴァー・マスッチのこと、地味にお気に入りなんです。なので、本作は公開前から楽しみにしていたのですが、何しろこの暑さ、、、の上に、公開劇場が都内では新宿の1館だけという超冷遇。ま、公開されただけマシですが。

 夏休みは話題作がいっぱい公開されるのが常なので、そら、このテの作品はこんな扱いされても仕方ないんでしょうけど、都内で1館て、、、あんまりじゃない?? だって、この映画、多分、何度見にも耐える格調高い文芸作品で、しかも見ていて頭フル回転で使う、素晴らしい映画でしたよ。こんなヒドい扱いで終わらせるなんてもったいないと思うのですが。

~~以下、ネタバレしておりますのでよろしくお願いします。~~


◆尋問とチェスの試合

 ……と、前振りで褒めておいてナンなのだが、実は序盤はちょっと退屈かなぁ、と思って見ていた。この日、都心はもの凄い雷雨で劇場内まで雷の轟音が聞こえ響いてくる有様。

 だけど、前半途中、船内でヨーゼフが「昨夜、私は妻と一緒に食事した!」と話すのに対し、船員が「いえ、お客様お一人でした」と答えてヨーゼフが混乱する辺りから、え??となって一気に引き込まれた。

 そこまでは、いわゆる“時系列ゴチャゴチャ系”の構成だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。考えてみれば、彼がホテル・メトロポールで監禁されていた部屋の番号と、船室の番号は同じ。これはもしや、、、。

 原作は未読だが、原作は、チェスと共に、ナチスの行った拷問の一種“特別処理”にもフォーカスした話らしい。特別処理とは、身体的な暴力は加えない代わりに、精神的に追い込むことで、本作では、活字を禁じ、会話も禁じ、食事も同じメニューにし、、、と、とにかく一切の知的活動を禁じられるというもの。これは、一定期間続けば狂うでしょう、間違いなく。

 だが、ヨーゼフは密やかに抵抗していた。同じように監禁されていたある男が飛び降り自殺してしまった騒動のどさくさに紛れて、手に取れた本を1冊盗んでこっそり部屋に持ち込んだ。部屋でそっと広げてみれば、お目当ての小説でなくてガッカリしたが、これがチェスの棋譜を詳細に解説した本で、ヨーゼフは次第にのめり込む。高じて、食事についたパンを捏ねて作った駒と、バスルームの床の模様をチェス盤に見立ててチェスに没頭するように。これで、辛うじて発狂を免れていた。

 けれど、それは長く続くはずもなく、案の定、ある日発覚し、本は没収され、駒は全て破壊され、それを機にヨーゼフの心も破壊されて行く。

 この後、本作は、ヨーゼフがホテルに監禁中に受ける執拗な尋問と、客船内でチェスの世界チャンピオンと闘うゲームを、現実と妄想の境界を敢えて曖昧にしながら進行する。

 チェス駒を破壊された後、ヨーゼフは、本で覚えた棋譜を基に脳内でもう一人の自分とチェスの対戦を延々繰り広げて行ったのだが、それが次第に世界チャンピオンと闘うという想像の世界と融合してしまう、、、というシナリオ。本で覚えた棋譜は、過去の名試合の棋譜ばかりだったこともあるし、ますます監禁の環境が過酷になったこともあったろう、、、とにかく、彼はそれだけ精神的に病んでしまったのだ。

 船内での展開も、最初は、単なる回想シーンとして違和感なく見ていられるのが、次第に、え?えぇ??という感じになり、監禁シーンと交互に描かれることで、だんだん、もしや、と感じていたものが、やはりそうか、、、となっていくのだ。

 で、鑑賞後パンフを見て、尋問するゲシュタポとチェスのチャンピオンを同一人物が演じていると分かって(見ている間は不覚にも気付かなかった)、やはりそうだったのか、と腑に落ちた。


◆妄想?現実?

 結局、ヨーゼフがホテルでの監禁からどうして解放されたのか、、、というのは、ここでは敢えて書かないが、劇場からの帰りにたまたま同じエレベーターに乗り合わせた男女が、原作との違いについて語っていて「原作の、ヨーゼフが発狂して飛び出そうとして怪我をしたため病院送りとなって解放された、、、って方が理にかなっている」という趣旨の話をしていた。女性が「あんなんで解放されるなんておかしい!」としきりに話していたのだが、私はさほどおかしいとも思わなかった。

 これ以上、ヨーゼフを監禁しても目的が果たせないと明らかになった以上、コストを掛けて監禁しているのはムダであるという、人をモノ扱いするナチスらしいやん、、、と私は思ったのだが。殺したって仕方ないしね、、、。

 あと、ネットで、“批評家”を自称する方が、ヨーゼフを“ユダヤ人”と書いていたけど、ユダヤ人なら確実に殺されている(あるいは収容所に送られているか)でしょ。ヨーゼフはオーストリアの貴族という設定で、バルトークという名前から、あるいはハンガリー系なのかも。

 ヨーゼフを尋問するゲシュタポのフランツは、見るからに小者で、ナチスの威を背景にやたらマウントをしてくる男。多分、何も考えていない人。命じられたことを忠実に果たして、自身の地位を上げたいとか、そういうことにしか考えが及ばない。いつでも、どこにでもいる人間だ。パンフによれば、この人物のモデルは親衛隊(SS)のフランツ・ヨーゼフ・フーバーだそう。SSと言えば、「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」(2020)でも書いたが、なるほど、SSとはこういう人間の集まりだったのだなぁ、と改めて思い知る。まさに、組織論理にのみ基づいて動くマシーン。それを、アルブレヒト・シュッヘが巧みに演じている。この人、「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」(2021)のラブーデの人だったのね、、、。

 どこからがヨーゼフの妄想か、、、というのは意見の分かれそうなところ。ネットの感想を拾い読みしたが、客船内~アメリカに渡ったのは全部妄想、という人もいる。私は、客船内は妄想だと思うが、アメリカに渡ったのは現実だったんじゃないのかなぁ、、、と感じた次第。

 ラストがそのアメリカの精神病院と思しき場所でのシーンなんだが、そこで、最愛の妻アンナが出て来る。この人が、看護師としての一人二役なのか、アンナとしてなのか、、、、。私は、アンナ自身だったと思う(願望も入っている)。アンナと二人でアメリカに渡って、愛するアンナに付き添われている、、、と思いたい。原作者のツヴァイクも、妻と二人で亡命したというし、、、。

 マスッチさんは、やっぱり演技巧者。素晴らしい。優雅にウィーンでダンスに興じているときのヨーゼフと、監禁中に脳内チェス対戦に興じるあまり狂っていくヨーゼフの対比が素晴らしい。撮影中は非常にしんどかったとパンフのインタビューにも語っているが、そらそーだろう、、、こんな役。

 何より、このシナリオに唸る。虚実の曖昧さを巧く表現した演出も素晴らしい。監督はフィリップ・シュテルツェル。「アイガー北壁」未見なので見てみたい。原作も面白いらしいので、早速図書館で予約しました。ソフト化されたら(されるよね?してください!)もう一度見たい……(暑過ぎて劇場まで再度行く気力がないのです)。

 

 

 

 

 

 

 


邦題がマズ過ぎる(とりあえず“ナチス”ってつけとけ!みたいの、やめれ)。

 

 

 

 

 

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“絵金さん”に会いに行く ~大阪目的地のみピンポイントの旅~ ②

2023-08-06 | 旅行記(国内)

につづき

 

 絵金については、ネットにいろいろ情報があるのでここで書くまでもないのだが、私が絵金さんを初めて知ったTV番組では、確か“狩野派の絵師で、土佐藩の御用絵師として活躍していたが、贋作事件に関わったとして藩を追放され、街絵師となった”というような紹介をされていた。本名も「弘瀬金蔵」とwikiなどではされているが、何度も改名しているという話もあり、いろいろ謎多き人物である。

 絵金さんの絵は、歌舞伎や浄瑠璃のシーンを描いたものが多いのだが、美術的な価値が認められておらず、保存状態も良くないらしい。現在は、その多くは絵金蔵で保管されているようだが、民家や神社等に保管されている作品もあるらしく、その劣化が危惧されているとのこと。

 絵金祭りでは、民家の軒先に、絵金さんの屏風絵が陳列されて、蠟燭の灯で照らされる、、、ということも、前述のTV番組で紹介されていた。ほの暗い灯に浮かぶ血みどろ絵の映像が、実に幻想的で、俄然、興味を惹かれたのである。

 この展覧会でも、その絵金祭りの様子を再現した展示がされており、それを楽しみに見に行ったというわけ。

 

祭りでは参道に櫓を組んで絵を展示するのだそう(左の画像の裏が右の画像)

 

 参道をまたぐようにこの櫓が組まれていて、祭り客はこの櫓の下をくぐって歩いて行くのだって。

 

高知県香美市土佐山田町の八王子宮の夏祭りで飾られる「手長足長絵馬台」

 

 

 TVで印象に残ったのは、絵金さんの絵の“赤”。血みどろ絵と言われることもあるらしいけれど、赤は血の赤だけではない。どの絵にも必ずといっていいくらい“赤”が効果的に使われていて、その番組でも、“絵金の赤”と紹介していたような。

 屏風絵のほとんどは二曲一隻のようで、お祭りの櫓にはそれを二隻並べて飾っている。TVで見たときは、一隻を、軒先の地べたや土間に置いて、通行人が気の向くままに鑑賞する、、、みたいな光景があったように記憶しているが、会場内でさすがにそれを再現するのはムリだったのかな。

 

こちらは絵馬提灯「釜淵双級巴」

 

 絵馬提灯は、神社の参道を飾る。石川五右衛門が生まれてから、釜茹でにされた後までを26枚の絵で描いたもの。

釜茹でにされる五右衛門/釜茹でされた後の五右衛門、、、

 

 このほか、弟子たちが描いた作品も展示されていたけど、私は屏風絵の前を何度も行ったり来たりしながら見入ってしまって、気が付いたら、あっという間に2時間半以上過ぎていて、次の予定のこともあるので、慌ててグッズ売り場へ。

 掲示されていたポスターが欲しかったのだけど、「これは売っていないんですよ~」と店員さん。……残念。

ゲットしたお菓子とか、、、(あと絵葉書数枚買いました)


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 美術館を出ると、正面に展望台があったので、高所恐怖症だけど一応見学してみた。

 

 あんまし素敵な眺めとも思えず、さっさと通り過ぎて下に降りる。早く宿に行かねば、、、。


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 再び御堂筋線に乗って、今度は梅田駅で降りる。

なんか、東京の地下鉄の駅よりレトロ感や開放感があってステキ

 

 宿は、梅田駅から歩いて10分弱の所にあるのだが、事前に調べても、かなり行き方がややこしそう。宿のHPにはご丁寧に駅から地下街を抜ける動画まであるのだが、何しろ工事中で様子が変わっていてゼンゼン参考にならない。

 絵金展で予定時間をオーバーしてしまっていたので、ちょっと急ぎ気味にホームから改札へ上がる。大丸を目指して地下街を歩き出す、、、けど、全然方角が分からない。
 
 とりあえず、スマホの地図アプリでどっちの方角に向かって自分が進んでいるのかを見ながら、当てにならん表示は無視して進む。……と、その前に、阪神デパートの地下でスイーツをゲットする。大丸はもうええわ。

 で、再び地下街へ出て、一応、方向が間違っていないかだけをアプリで確認しながらひたすら歩いていると、宿の案内表示が見えて、もうすぐだと分かってホッとする。

 フロントまで上がるエレベーターで、大きなスーツケースを持った若い女性2人組と一緒になる。どうやら、韓国から旅行に来たみたいで、一緒にフロントへ行く。

レトロなエレベーター

 

 私は数分でチェックインが済んだのだが、彼女たちは何やらトラブっている様子、、、。大丈夫?と聞くと、ホテルの人が「ここは梅田で、お客様の予約されたのはなんばです」と言っている。同じホテルチェーンの別のホテルに来てしまったらしい。

 彼女たちとはそこでバイバイし、部屋へと向かう。とにかく、なんだかんだと結構疲れていたので一息つきたい、、、。

 

 買ってきたスイーツでコーヒー飲みながら休憩しよう!と、お湯を沸かそうとしたのだが、ポットが作動しない、、、。がーん。あんまし時間ないんだよぉ。でも、スイーツにコーヒーなしじゃつまんないので、フロントに電話すると「すぐ別のものをお持ちします!」と。が、なかなか来ないんだ、これが。

 仕方がないので、先にスイーツを食べ始めたところで、ピンポーン! と。作動するか確認します、と言ってくれたけど、もう時間ないから結構ですとお断りし、急いで電源を繋いで水を入れたら、ちゃんと作動した。良かった。

 結局、コーヒーもあまり落ち着いて飲めず、荷物の整理をして、再び外へ。

 

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 向かう先は、ザ・シンフォニーホール。たまたま、この日、在阪オケ、日本センチュリー交響楽団の定演があるということで、聴いてみることに。地方オケの演奏をライブで聴く機会はあんましないので。

梅田スカイビルが見える

 

 宿からは、歩いて10分ほど。てくてく地図どおりに歩いてすぐに着く。

 

ザ・シンフォニーホール

 中へ入ると、ロビーでアンサンブル演奏が、、、。

 

 人だかりが嫌いなのでスルー。ホール内へ直行。2階後方の3000円の席。

 

天井もステキ

 

 ホールの印象は、、、ちょっと小さい? 割と海外オケとかもよくここで演奏しているみたいだけど、後から調べたら座席数1704とのことで、なるほど、あまり大きくはないのだな。でもまあ、管弦楽のホールとしては、本当はこれくらいがちょうど良いと思う。サントリーは2000席以上あるけど、ちょっと大きいかなと思うこともある。

 指揮者の出口大地という人は、名前も初めて聞くし、キャリアもゼンゼン知らない人。1回聴いただけじゃ何とも言えないけど、指揮っぷりはオーバーアクション気味ながらグッとはこなかった、、、というのが正直な感想。イベールは良かったけど、指揮のおかげというよりは、そもそも良い曲だしね。ドボ6は曲想のせいもあるけど、やや単調でちょっと退屈だった。

 でも、私のこの日のお目当ては、ソリストの務川慧悟。21年のエリザベートで入賞して話題になっていたのだが、動画でちょっとだけ演奏しているのを見て、ライブで聴いてみたいなー、と思ったので。プロコのコンチェルトはピアノもヴァイオリンも面白い曲ばかりなので楽しみにしていた。

 で、実際聞いてみて、良かったです。正直、世界で活躍するにはちょっと地味かな、という感じはした。いや、技術的なことは私は分からないが、少なくとも弾けていないなんて感じた箇所はなかったし。ただ、素晴らしい演奏家は、上手く弾けるのは当たり前なので、結局、聴く人の心を動かせるかどうかが肝心になる。あとは運とか縁とか……、プロとして生き残るには、上手いだけじゃ難しいのよね。まだ若いし伸びしろはあるだろうから、今後の注目株ですな。

 あ、ホールの音は良かったです。サントリーより良かったかも。


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 終わって、宿まで戻る途中で買い物して、夕食はコンビニ飯。お腹の調子もイマイチだったし、今回の旅では食べ物は二の次三の次。

 グッタリ疲れて、さっさと寝ました。
 

 

③につづく


 

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青いカフタンの仕立て屋(2022年)

2023-08-05 | 【あ】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv81303/


以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。

=====ここから。
 
 ハリムとミナは伝統衣装であるカフタンドレスの仕立て屋を営んでいる。ハリムは仕事を愛しながらも、自身を伝統から弾かれた存在であると苦悩し、妻のミナはそんな夫を誰よりも理解し支えてきた。

 しかし彼女は病に侵されており、彼女に残された余命は残りわずか。そんな2人のもとに若い職人ユーセフが現れ、3人は青いカフタン作りを通して絆を深めていく。

 ミナの最期が刻一刻と近づいていくなか、夫婦はある決断を下す。

=====ここまで。


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 本作は、見てからもう1か月以上経ってしまった、、、ごーん。感想を書けないまま時間ばかりが過ぎてしまったのだけど、なかなか良い映画だと思ったので、サクッと感想を書いておきたい。

 上記あらすじにもあるとおり、ハリムとミナは仲の良い夫婦なんだが、ハリムは同性愛者であるということが割と序盤で分かる作りになっている。彼自身がカミングアウトするシーンはないけれども、それを示唆する描写が序盤からあちこちにあり、中盤でユーセフとのやりとりで明解となる。

 本作の紹介では、イスラム教社会での同性愛者が主人公であることが前面に出ているけれど、蓋を開ければ、夫婦と若い男との三角関係を描いたシンプルなメロドラマである。あまりイスラム教とか、同性愛のタブー性とか、それは背景ではあるが、ストーリーや人間の描写については実に普遍的なものであると感じた次第。

 ハリムは自身の性的嗜好に葛藤はあるのだけれども、イスラム社会だからとりわけその葛藤や苦悩が深い、、、という描き方はしていない。妻のミナはそれを知っているし、ハリムは共同浴場で性的欲求を解消することもしている。もちろん、おおっぴらではないが、それはイスラム社会でなくても、欧米でも、もちろん日本でも似たり寄ったりではなかろうか。市民権を得てきたとはいえ、同性愛者が皆、屈託なく自身の性的嗜好をオープンにできる社会になっているとは言い難い。

 最終的に、ミナは病で亡くなり、紆余曲折あったものの、カフタンの仕立て屋はハリムとユーセフの2人で切り盛りしていくことになる。私生活でも2人はパートナーになるのだろう。もちろん、表向きは店の主人と従業員という関係だけれど。

 ときどき映画やドラマで、妻や夫が死ぬときに遺される配偶者に「自分が死んだら、良い人見つけて幸せになって」とか言うシーンがあるけれど、本作はそういうベタな展開はないけど、それに通じるものがあるかなと。特に、若くして亡くなる場合に、こういうシーンが見られる気がするのだが。

 自分ならどうかなぁ、、、と考えてしまった。もうこの歳だと、今さら他のパートナー見つけてよろしくやりなよ、と言うことも言われることも、ちょっとなぁ、、、。よろしくやりたければ好きにしろ、としか思わないし、自分自身はそんな気力もエネルギーもないというか、そもそも面倒クサい。ただ、ウチの人が実はゲイだったら、、、という想定は非現実的なので、バイセクシャルだったら、、、と考えてみたんだが、それでも同じかな。自分が死んだ後、相手がどうしようがどーでもいいし、それでウチの人自身がハッピーならそれが良いに決まっている。私が「良い人見つけてね」なんて言い残して行くのも、何かお門違いな気がするなぁ。

 人間の心というのは、なかなか理屈じゃ説明がつかないわけで、本作は、そういうところを巧みな描写で掬い取って描いている。同性愛というのは、1つのファクターではあるが、同性愛でも異性愛でも、嫉妬や葛藤という感情の動きに違いはないはず。

 伝統衣装のカフタンが美しく、縫製作業も度々映るのだけど、見入ってしまった。日本でいうと、振袖とか、打掛とか、、、そんな感じかしら。インドでサリーを着たときは、見た目よりも締め付けのキツいのに驚いたけれど、カフタンも一度着てみたいな~。

 

 

 

 

 


カフタンのブルーが実に美しい。

 

 

 

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