映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ロシア映画2本 @早稲田松竹 2020.02.11

2020-02-22 | 映画雑感

 新型コロナウイルスが凄まじい勢いで広がっている。この騒ぎで、海外旅行をキャンセルした人も多いらしい。私はもちろんキャンセルするなど微塵も考えていなかったけど、ロシアから来るなといわれる可能性はあるなぁ、、、と思っていた。が、どうやら入国拒否などということにはなっていない様子。先ほど、添乗員さんから最終確認の電話を受けたので、行けるみたい。

 むしろ、この時期、超過密人口の街・東京になんぞいない方が良いのかも知れませぬ。きっともう、市中感染なんてあちこちで起きているに違いない。

 というわけで、ロシア行きを目前に控え……などということではなく、これは、上映決定されてから絶対見たい! と思っていた。1週間限定上映だったから、恐らく混むだろうと思い、開館50分前から並んだ。案の定満席。まぁ、想像はしていたけど、いや想像以上に(特にフルスタリョフの方)脳髄を直撃する内容で、2本立てはかなりキツかった。

 なので、2本まとめての感想を書いておくことにいたしまする。


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◆動くな、死ね、甦れ! (1989年・ソ連)

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv16754/

 第二次大戦直後、雪に覆われたソビエトの極東にある炭鉱町スーチャン。収容所地帯と化したこの町では、窃盗や暴力が横行していた。そんな殺伐とした空気に満ちた町に生きる12歳の少年ワレルカ。純粋無垢だが不良ぶっている彼は、たびたび騒動を引き起こし、唯一の家族である母親への反発と相まって、悪戯をエスカレートさせていく。

 そんなワレルカの前に、守護天使のように現れては、危機を救ってくれる幼なじみの少女ガリーヤ。 二人に芽生えた淡い想いは次第に呼応していくが、学校を退学になったワレルカが町から逃亡することで、彼らの運命はとんでもない方向へ転じていく…。

早稲田松竹のHPよりコピペ~

 当時54歳の新人監督ヴィターリー・カネフスキーが自伝的映画として発表し、カンヌで絶賛されたんだとか。

 ワレルカっていう少年が、まぁ、何とも可愛くないガキで、ガリーヤの商売(お茶を売っている)の邪魔ばっかりする。自分もお茶を売っているんだが、「そっちのお茶にはゴキブリが入ってる! こっちは泉の水で入れたお茶だよ!!」なんてことを言う。少年特有のいけずな行為と思えば微笑ましくもあるんだが。

 まあとにかく、、、舞台はソビエトの極東、炭鉱の町。多分、強制収容所とまではいかないが、強制労働をさせられる地区と思われる場所。いつもいつも寒そうである。地面は雪に覆われているか、土が顔を出していても雪の溶けた水を含んでぬかるんでいる。寒そうな風景ってのは、それだけでちょっと見ている方の心が強ばる。

 人々、、、大人たちも何かこう、とげとげしい。共産主義体制下ということもあるだろうが、子供を統制しようとばかりする教師、正気を失った学者、強制労働に従事させられている者などが描かれ、見ているのが辛くなってくる。とにかく全てが“貧しい”。

 ワレルカとガリーヤの淡い初恋の成り行きが、脈絡なく描かれる。本当なら微笑ましく思える設定なのに、そんな余裕を感じられない。ずーーっと切羽詰まった感じ。おまけに、ワレルカを始め大人たちも皆、いつも怒鳴るようにしゃべるので、見ていて疲れる。

 そして、終盤、ワレルカの初恋にいきなり終止符が打たれる。ガリーヤが死んでしまうのだ。でも、その瞬間はよく分からない。なぜ?? 次のシーンは、ガリーヤの埋葬場面。悲しみのあまり気が触れたガリーヤの母親は全裸になって走り回っているという、、、。そして、監督の「ここでいいだろう」という声でエンドマークである。ややドキュメンタリー調だが、この辺も何だかヘンな感じである。

 見ている間は疲れたのだけれど、実は、見終わって時間が経ってからの方がじわじわと胸に迫るものがある。もう一度見てみないと分からないところもたくさんあるし。ワレルカが可愛くないガキだと思っていたが、ラストから遡って思い出すと、イメージがゼンゼン変わってしまうのも不思議だ。

 

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◆フルスタリョフ、車を!(1998年・仏露)

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv31472/ 

 主人公はモスクワの病院の脳外科医にして赤軍の将軍、ユーリー・クレンスキー。大富豪の長でもある彼は、病院と、家庭と、愛人のところを行き来する日々を送っている。決してアルコールを手放すことはない。

 時は1935年、反ユダヤ主義の色濃い時代、将軍はスターリンの指示のもとKGB(秘密警察)が企てたユダヤ人医師を迫害する計画に巻き込まれてしまうことになる。気配を察して彼は逃げようとするが、すぐに捕らえられ、強制収容所で拷問を受ける。ところが突然解放されて、スターリンの側近ベリヤに、ある要人を診ろと言われる・・・。

 タイトルの「フルスタリョフ、車を!」というのは、ソビエトの独裁者スターリンが息を引き取る直前、側近を通して命じたという言葉。映画は、そのスターリンの死の1953年に始まり、約10年後で終わる。

~早稲田松竹のHPよりコピペ~

 いや、もう、この映画は、ホントに見終わった後、脳が揺れている感じで気持ち悪ささえ感じた。

 とにかく、もう、徹頭徹尾“訳分からん!!”なんである。ネット上である人が「クストリッツァの『アンダーグラウンド』を彷彿させる」と書いていたが、私はそれには明確に異を唱えたい。言いたいことは分かる。『アンダーグラウンド』も、最初から最後までフルパワーで疾走する映画なので、めちゃくちゃ疲れるのは同じ。でも、本作よりも分かりやすい、、、というか、ちゃんと見る人が分かる様に作っている。私は、『未来世紀ブラジル』を見たときと同じ感覚になった。見終わって疲弊しまくって、気持ち悪くなる感じ。

 本作は、シーンとシーンのつながりに脈絡はなく、もう完璧に見ている者は置き去り。おまけに、こちらも登場人物たちが皆、怒鳴るようにしゃべるのである。このようなしゃべり方ってのも、この灰色の空が重く垂れ込めた鉛のような社会で抵抗する、、、というか必死に生きるためには、自然にそうなるものなんだろうか。

 本作は、理解しようとする映画ではない。とにかく目の前に次々に現れるものをただただ見る映画である。理解しようとするから、無駄なエネルギーを使って疲れるんだと思う。……でも、私の脳ミソは、大して働きが良くもないのに、映画を見ていると理解しようと足掻くのである。だから、疲れる。

 もう一度見たいとは、正直言って今は思えないのだが、しかし、死ぬまでにもう一度くらいは見てみたいとも思うのもまた事実。ヘンな映画だ。

 ……というわけで、まともに感想を書くことができません。

 

 

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彼らは生きていた(2018年)

2020-02-19 | 【か】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv70358/

 

以下、公式HPよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 1914年、人類史上初めての世界戦争である第一次世界大戦が開戦。8月、イギリスの各地では宣戦布告の知らせと共に募兵を呼びかけるポスターが多数掲出され、志願資格の規定は19歳から35歳だったが、19歳に満たない大半の若者たちも歳をごまかして自ら入隊。よく分からないまま志願した者も多く、国全体が異様な興奮状態に包まれていった。

 練兵場での6週間ほどの訓練を経て、西部戦線への派遣が通達された。

 船でフランス入りしたイギリス兵たちは西部戦線に向かって行軍。イギリス兵たちは塹壕で監視と穴掘りに分かれて交代しながら勤務する。遺体を横切りながら歩き、ひどい環境の中、つかの間の休息では笑い合う者たちもいた。
 菱形戦車も登場し、ついに突撃の日。彼らはドイツ軍の陣地へ前進する。そこへ、突然に射撃が始まり…。

=====ここまで。


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 同じく上記公式HPの「イントロダクション」の全文を以下コピペします。

「イギリス帝国戦争博物館に所蔵されていた第一次世界大戦中に西部戦線で撮影された未公開映像を元に、ピーター・ジャクソン監督がモノクロの映像をカラーリング。3D技術を応用してリアルさを追求した。大戦当時は音を録音する技術がなかったため、音声は主に退役軍人のインタビュー音源を使用。一部の兵士の話す声や効果音などは新たにキャストを用いて演出し、今まで見たことの無いほどの鮮やかで臨場感あふれる戦争場面を復元。

当時の兵士たちの戦闘シーンだけでなく、休息時や食事など日常の様子も盛り込まれており、死と隣り合わせの状況でも笑顔を見せる兵士の姿が非常に印象的。異なるスピードで撮影されていた古い映像を24フレームに統一。戦士した仲間を埋葬するシーンや戦車の突撃、爆撃の迫力、塹壕から飛び出す歩兵たちなどを、アカデミー賞スタッフの力を総動員して、100年以上前の映像とは思えないほど緊迫感にあふれる映画に仕上げた。これまで、遠い過去の話としてしか捉えていなかった第一次世界大戦の戦場を、身近に、生々しくスクリーンに蘇らせることに成功。これぞまさに映画の力といべき、画期的な傑作ドキュメンタリー!」

 つまり、昔の早回しのコマ送りみたいな映像を、違和感なく見られる自然な動きの映像に修正し、彩色し、効果音を入れ、ナレーションを付け、ってことをして、現代人が見てもリアリティを感じられる映像に仕上げている。

 第一次大戦時の映像なんて、モノクロで人間は皆チョコマカとした動きで、どうしたってそこには、“どこか異世界で起きていること”を見ている感じがあった。とても、身近に感じられるものではなかった。

 本作は、冒頭15分くらいはそういうモノクロ&チョコマカ映像が続き、突然、カラーになって動きも自然なものになる。その瞬間から、なにやら急にリアリティを感じて、異世界ではない、地続きな感じが迫ってくる。

 ネットの感想を拾い読みしたが、本作を「ドキュメンタリーというのはおかしい」「兵士たちを貶める行為だ」というようなことを書いている方がいた。映像は実際の映像を元ネタにしているとはいえ、ここまで加工したら、もうそれは創作だろうと。監督はピーター・ジャクソンなんだから、むしろフィクションにしちゃえば良かったのに、とまで書いている人もいる。

 ……まあ、それも一理あると思う。元ネタの映像には音は全く入っていなかったわけだから(同時録音技術はなかったから、らしい)、効果音もナレーションも後付けである。一応、口パクを読唇術でもって音声再現しているというが、そのシーンはあまり多くなかったように思う。ナレーションは、ゼンゼン別の機会に録音されたものだから、本来関係ない映像に合わせてナレーションとして使うこと自体、確かに創作になるだろうと思う。

 そういう意味では、本作をドキュメンタリーとすることに抵抗を覚える人がいるのも当然と言えば当然だ。

 でも、私は、本作が試みた一連の工程は決して貶める行為だとは思わないし、フィクションというのも違うだろうと思った。こうして、カラー映像になり、動きも自然な動きで見せられることで、それまでどこか異世界だった第一次大戦の塹壕戦が、ものすごくリアルに身近なものに感じ、えげつなさは今まで見たどんな映像よりも圧倒的だった。彩色や効果音によって、現実よりも誇張が起きていたかも知れないが、私にとっては、異世界の話でなくなったというだけでも意義深い。

 本作は、1月末から劇場公開されたが、それに先だって、ネット配信されていた。気にはなっていたけれど、ネット配信で映画を見たことがないのでスルー状態だったのだけど、劇場公開されたことで俄然見たいと思った次第。こういう映像は、やっぱりスクリーンで見た方が良いように思う。

 太平洋戦争でのガダルカナル戦などの米軍によるカラー映像は度々見る機会があって、あれも相当のおぞましさを感じたが、本作の場合、兵士たちの戦闘以外の時間の描写も多く、それによってより戦闘の場面はリアリティが増した気がする。米軍の映像もカラーでリアルだが、やっぱりあれもどこか別世界な感覚は拭えない。

 フィクションでは、もうさんざん悲惨極まりない塹壕戦描写は見てきているが、今回ほど何とも言えない気持ちになったことはないように思う。賛否あるとは思うが、私は本作の試みは良かったと思うし、今後、このように映像が修復&再構築される機会は増えても良いのではないかと思う。それによって、遙か遠くと思っていた出来事が自分と地続きで感じられることは、歴史や他文化を身近に引きつけて考えることに大いに助けになるはずだ。

 

 

 

 

 

原題は“They Shall Not Grow Old”。原題の意図が邦題では伝わらない気がする、、、。

 

 

 

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リンドグレーン(2018年)

2020-02-13 | 【り】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv68583/


以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 スウェーデン南部スモーランド地方にある教会の土地で農業を営む信仰に厚い家庭に生まれ、自然の中で兄弟姉妹と共に伸び伸びと育ったアストリッド(アルバ・アウグスト)。

 やがて思春期を迎え、率直で自由奔放なアストリッドはより広い世界や社会へ目が向きはじめ、教会の教えや倫理観、保守的な田舎のしきたりや男女の扱いの違いに息苦しさを覚えていった。

 文才を見込まれ地方新聞社で働くようになった彼女は才能を開花させはじめるが、その矢先に予期せぬ方向に人生が進んでいく。

=====ここまで。

 「長くつ下のピッピ」「ロッタちゃん」などで有名な児童文学作家アストリッド・リンドグレーンの、作家になる前の波乱に満ちた半生を描いた映画。 
 

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 公開しているのは知っていたんだけれど、岩波ホールはサービスデーがない(まあ、あの劇場のコンセプトだからそこは納得しているが)ので、1日の映画の日を待って見に行って参りました。


◆アルバ・アウグスト

 リンドグレーンの本は、小学生の頃に「長くつ下のピッピ」を、ドラマを見た後に図書館で借りて読んだことを覚えているんだが、内容は覚えていない。気に入っていたドラマも、ほぼ忘れている。同じく小学生の頃に放映していた「大草原の小さな家」は割と断片的にではあるが覚えているのに、ピッピの方は、ピッピの姿や格好がうっすら記憶にあるくらいで、この違いは一体何??

 だから、特別リンドグレーン作品に思い入れがあったわけではないが、数年前に見た『なまいきチョルベンと水夫さん』はかなり気に入ってしまって、劇場で見た後DVDまで買ってしまったくらい。あと、岩波ホールの前に掲示されていた本作の看板のスチールがすごく魅力的で、見たいな~、と思わせてくれた。

 、、、というわけで、見に行った次第。その前に午前十時の映画祭で『アラビアのロレンス』を見てヘロヘロになっていたのだけれど、あまり期待していなかったからか、想像以上の感動作で得した気分。

 何しろ、主役のアストリッドを演じたアルバ・アウグストが本当に素晴らしい。映画監督ビレ・アウグストの娘さん。母上も女優さんとのことで、まあ、サラブレッドですね。サラブレッドだからといって、生まれついて才能があるとは限らないところが世の常なんだけれども、このアルバ嬢は、天性のものがあるように感じた。16歳から24歳くらいまでを演じるんだけれど、当時25歳だったとは思えないくらい、10代の少女がハマっていた。

 そういう見た目のことよりも、表現力の確かさが、もう凄いとしか言いようがない。新聞社の社長ブロムベルイと不倫関係に陥るところとか、妊娠して親とも軋轢が生じ戸惑い続けるところとか、何より、どうにか無事に出産できてホッとするのも束の間、息子を手元に置いておけなくなって生木を裂かれるような苦しみにあえぐところか、、、、本当にいろんな側面を表情豊かに演じていて、ただただ圧倒されてしまった。

 この演技でいろんな賞をもらったそうだが、そりゃそーだろう、、、と納得。これは、末恐ろしい俳優の誕生だ。


◆同級生のお父さんと、、、。

 それにしても、アストリッドがハマった不倫の相手であるブロムベルイなんだが、この人、アストリッドの同級生のお父さんなんだよね。ハッキリ言って冴えないおっさん。まあ、アストリッドのことは本気で愛していたみたいなんだが、それでもなぁ、、、。今の日本だったら犯罪だもんね。ただ、この場合、アストリッドもおっさんのこと本当に好きで、どちらかというと彼女の方が積極的だった、、、というふうに本作では描かれている。実際はどうだか分からんが、おっさんに迫るアストリッドは、実にストレートで、ある意味爽快でさえある。あんな風にされたら、おっさんは不可抗力で即陥落だわね。普通だったら、そんなおっさん、スケベ爺ィとか罵ってやりたくなるだろうが、ブロムベルイに対してはそういう感じにならなかった。

 ただまあ、やっぱり、この親子みたいなカップルってのは、どうしたってちょっとムリがあるわけで、そもそもアストリッドが妊娠したことはおおっぴらに出来ないから、ってんで、隣国のデンマークでの出産を余儀なくされる。さらに、ブロムベルイは妻と離婚できないどころか、アストリッドとのことが露見したせいで姦通罪で起訴され、下手すりゃ刑務所行き!!という事態にまで追い込まれる。だから、アストリッドは判決が出るまで息子を施設に預けざるを得なくなる、、、。

 結局、刑務所行きは免れるものの、2人が一緒になることはなかったのは、まあ、道理かなと感じた。アストリッドは、両親(特に母親)の反対などから、赤ん坊をなかなか引き取ることも出来ず、どうにか職を得て息子と一緒に暮らせるようになった頃には、2歳半になっていた息子は施設の里親を“ママ”と呼び、アストリッドを拒絶する、、、。

 ……こんな出来事が、アストリッドが児童文学作家としてデビューする以前にあったのか、と驚いた。本作は、息子と心を通わせるようになったところで終わっており、アストリッドとピッピやチョルベンがすんなり私の頭の中ではつながらないままだが、生まれたばかりの実の息子との2年半にも及ぶ空白は、私の想像を超える爪痕をアストリッドの心に遺したのだろうということくらいはうっすら分かる。


◆その他もろもろ

 アストリッドの母親ハンナは、信心深くて保守的な人間として描かれており、アストリッドの不倫や出産には終始冷たい姿勢を崩さなかった。それでも、彼女なりにアストリッドを心配し、愛しているのは伝わるのだが、この母娘の間にはずっとわだかまりがあったように思う。このまま終わってしまうのか、と思って見ていたら、終盤、思いがけないシーンがあり、ハンナの意外な一面が描かれる。そのシーンは、実にさりげなく、でも、印象的で、この展開だけでも、本作は秀逸だと言えると思う。

 そのハンナを演じたマリア・ボネヴィーがとても美しくて、母親と言うより、少し歳の離れた姉、、、って感じだった。ビレ・アウグスト監督の『エルサレム』(1996)では主役を演じているらしいので、また機会があったら是非見たい。

 アストリッドが息子を預けた施設の里親マリーを演じていたトリーネ・ディアホムは、もうホントに女神のよう。温厚で優しくて寛大で、、、って私にないものばかり持っている素晴らしい女性。こんな人、実在するんだ、、、と唖然としてしまった。

 監督のペアニレ・フィシャー・クリステンセンは女性で、リンドグレーン作品を読んで大人になったというお方。これまでにもいくつか作品を撮っているみたいだけど、今後も楽しみな監督さんだ。

 アルバ・アウグストの父親であるビレ・アウグストの監督作品というと、『レ・ミゼラブル』(1998)、『リスボンに誘われて』(2013)くらいなんだが、『愛と精霊の家』(1993)とか『ペレ』(1987)とか話題作も撮っているのよね。『ペレ』ってパルムドール獲ってるのね、、、知らなかった。今度見てみようかな。
 

 

 

 

 

 

 

2歳半の「息子ラッセを演じた子役の坊やの百日咳の症状は完璧」       

                                ーーby細谷亮太氏(パンフより)

 

 

 

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母との約束、250通の手紙(2017年)

2020-02-08 | 【は】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv68578/

 

以下、公式HPよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 思い込みが激しく負けん気の強いシングルマザーのニーナ。彼女は息子のロマンがフランス軍で勲章を受けて外交官になり、大作家になると信じてその才能を引き出すことに命を懸けていた。

 母と共にロシア、ポーランド、ニースに移り住んだロマンは、その溺愛の重圧にあえぎながらも、幼い頃に母と取り交わした「約束」を果たすべく、いよいよ努力を惜しまないようになっていく。

 ニーナは、自由フランス軍に身を投じ病に倒れ生死の境目を漂うロマンの下へも、激励の手紙を送り続けた。

 ついにロマンはパイロットとして活躍し、同時に念願の小説が出版されることに。しかし相変わらず届き続けるニーナの手紙には、なぜか息子の作家デビューを喜ぶ様子はなくー。

=====ここまで。

 「フランスの三島由紀夫」(?)といわれるフランスの作家ロマン・ガリの、強烈な母親との波乱万丈な人生を描いた自伝『夜明けの約束』を映画化。
 

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 フランスの三島由紀夫って、、、。三島の方が大分若いけど。ロマン・ガリという名は本作で初めて知ったくらいで、当然読んだことないから何とも言えないけど、三島みたいな小説書いているってことなのか? 三島のは、エッセイの方が好き。

 ……まぁ、でも本作を鑑賞するにあたって、それは関係ないです。公開初日だってのに、劇場(シネスイッチ銀座)はガラガラ、、、。大丈夫か? かなり面白いし良い映画なのに、あんまし評判になっていないのは、この邦題のせいじゃないかねぇ。


◆孟母もビックリの猛母見参。

 序盤、ポーランド語のセリフが出てくるので、ん??となる。見ているうちに分かってきたが、このロマン・ガリ氏は生粋のフランス人じゃないのだね。ロシアにルーツを持つユダヤ人で、フランスに移住したと。プログラムの年表を見ると、現在のリトアニアの首都ヴィリニュスで生まれたんだが、このヴィリニュスはロシア領になったり、ドイツに占領されたり、ポーランドに侵攻されたりと、いろいろ複雑な歴史があるらしい。その後、12歳ごろにワルシャワに移って2年ほど暮らしているみたい。本作では、そのワルシャワ時代から描かれるので、ポーランド語が出てくるんだね。

 ……まぁ、とにかく、本作はロマンの母親ニナに尽きる。孟母ならぬ“猛母”。このニナ(実際の名はミナだったらしい)は、なぜかフランスという国家を尊敬し愛しており、ワルシャワで暮らしているときからロマンに「フランスで成功しろ!」と言い聞かせているのである。やはり、フランスはヨーロッパの中心、、、という認識が当時のヨーロッパではあったんだろうか。この、過剰とも思えるフランスへの憧れが、そのままロマンへの教育に投影されるわけだ。予告編にもあるが「男が戦うべき理由は3つ。女、名誉、フランス!」などと少年ロマンに叫ぶように言って聞かせる様は、まさに狂気。

 さらに、「生きている間に成功しろ、死んだ後有名になっても意味がない」と言って、成功の象徴が「作家」であり「外交官」なんである。近隣の住民に「この子は有名な作家になる!外交官になるんだ!!」と宣言するのだから凄まじい情熱だ。

 ちなみに、当然のことながら、画家はダメ。生きている間に成功する画家なんて稀だから、だろう。少年ロマンが絵を描いていると「ダメダメ」と言って絵を取り上げる(これも予告編にあるね)。

 フランスに移住してからも、ロマンが作家になるため苦労を惜しまないニナ。ユダヤ人ということもあったんだろうが、ロマンが空軍に入隊することを手放しで喜んでおり、フランスのために戦え!ということなんだろう。しかし、ユダヤ人だからこそ、ロマンは1人だけ任官されないという憂き目にも遭っている。だが、任官されなかった理由を偽ってニナに報告すると、ニナはむしろ「偉い!よくやった!!」みたいにロマンを称えるのだ。ロマンがニナに語ったウソの理由は、敢えてココには書かないケド。

 ものすごい波瀾万丈な母子の歴史を描いているのだが、ユーモアもあり、……というか、あまりにもニナが激しすぎるからだが、度が過ぎる情は時に滑稽でもあり、結構笑えるシーンが多い。

 ワルシャワでは、元女優だったことを活かして(?)、旧知の俳優仲間と共に一芝居打って、さも一流ブランドの支店であるかのごとく装い仕立屋を経営する。一時的に成功するが破綻し、フランスへ移ってからは、ホテル経営に。このホテル経営に至るまでのいきさつも、なかなかユニークで、ニナの人柄というか、性質というか、まあ、とにかく一筋縄ではない人間だったことがよく分かる。それもこれも、彼女にしてみれば、ロマンがフランスで有名人になって成功するため!!だったのだろう。

 正直言って、こういう“子の人生で自分の人生のリベンジを図る親”ってのは好きじゃないが、ニナを見ていると、嫌悪感はあまり湧かず、ここまで徹することができるのか、、、とむしろ感嘆する。

 ニナのことを近所の悪ガキにからかわれて、泣いて帰宅した少年ロマンに対し、ニナは言う。「今度母さんが侮辱されたら、担架に乗って帰ってきなさい! 母さんを守ることに命を懸けなさい!!」……絶句した。「こんなお母さんでゴメンね」などと、この母親は口が裂けても言わないだろう。ここまで我が息子に言えるというのは、天晴れだと思う。


◆親の期待に応え続ける息子だが、、、。

 で、こんな猛母に育てられたロマンなんだが、もう、泣きたくなるくらいに健気に母親の期待に応えようと頑張るのである。一応、反抗もするが、可愛いモノ。よくぞ、あんな好青年に育ったもんである。

 彼があそこまで頑張れたのは、やっぱりあの母親のため、、、というのが大きかったからなんだろうか。彼自身が何をどう考えていたのか、本作からは今一つ伝わってこなかった。葛藤があるのは分かるが、あそこまで抑圧されて、ほとんど反発しないのがちょっと不思議なのだよね。物心ついたころから、母一人子一人で、母親の苦労を目の当たりにして育ってきたから、、、ってのはあるだろうが、それにしたって、、、である。

 印象的なのは、ニナが糖尿病を悪化させて入院したとき。医者が忙しくて、ロマンの問いにぞんざいに答えていると、ブチ切れたロマンは医者を張り倒して「お前の母親だと思って診療に当たれ!」と怒鳴りつける。このロマンの言動は、ニナそのもの。そして、「今度母さんが侮辱されたら、担架に乗って帰ってきなさい! 母さんを守ることに命を懸けなさい!!」というニナのセリフの裏返しでもある。

 実際、ロマンは母親の宣言どおり、その後、戦場で功績を挙げてユダヤ人であることの負い目を払拭したかのごとく、それが戦後の外交官への道を開くことになる。そして、作家としても着実に功績を挙げていく。

 一応、本作では、ニナの過激な息子への情は実を結んだ、、、ということになっている(んだと思う)。

 しかし、ロマン・ガリの実人生の最後は、拳銃自殺で終わっている。この自殺の背景は全く分からないが、私自身、親のリベンジ願望に自分の人生を利用された子として、ロマンが自殺を選択したことが意外ではないのだ。共感は出来ないが、何となく、自己矛盾を抱え続けた人生だったのではないかという気がする。自分の中に“芯”が一本通らないというか。母親が生きている間はともかく、この世から母親の存在がなくなると、寄る辺ない感じは常にあったのではないか。

 ……まぁ、ゼンゼン違うかもだけど。

 ただ、本作の評で、多くがニナの言動を「激しい愛情」みたいに言うのが引っ掛かってしまうのだ。正直なところ、ニナという人のことは、本作でもよく分からない。彼女がロマンを産む前にどんな人生を歩んできたのかも分からないし、本作中でも彼女が何を考えているのか、分かる様で実はゼンゼン分からない。ただただ、ロマンに自分の理想を押し付けているだけなのだから。

 あれを「愛情」と言って良いのか。私は、敢えてこの文章の中で「愛情」とは書かなかった。愛情がゼロではもちろんないだろうけど、手放しで“無償の愛”と賞賛する気にはなれない。

 
◆邦題とか、その他もろもろ。

 ヒドい邦題ってのはたくさんあるが、本作もその一つだなぁ。原題は、原作と同じ「夜明けの約束」である。実際、原作には「母親の愛のせいで、人生はその始まりの夜明けに、かなわない約束をしてしまう……」という一文があるようで、ここから考えれば、約束の相手は「母親」ではなく「自分自身」であることは明白だ。つまり、この邦題は“誤読”であるということ。別に誤読が一概に悪いとは言えないと思うけど、本作の場合、ゼンゼン制作意図が違って伝わってしまう可能性があり、しかも、「250通の手紙」などという語呂の悪い副題まで付いている。センスが悪すぎてイヤになる。

 これじゃぁ、お客さんが入らないのもムリからぬ。明らかにプロモーションのミスだろう。配給会社は、猛省すべし。

 主役の猛母を演じたシャルロット・ゲンズブールが素晴らしかった。あんまし好きじゃなかったんだけど、本作で見方が変わったかも。ロシア移民の父方の祖母をイメージして演じたとのことだが、とにかく、凄まじかった。

 ロマンは、少年~大人まで3人登場するが、14歳~16歳までを演じた少年だけちょっと異質な感じだったかな。少年ロマンは可愛い感じ。

 大人になったロマンを演じたのは、ピエール・ニネ。『婚約者の友人』で初めてイイ男だと感じたけど、本作でもやっぱりイイ男だった。実際のロマン・ガリよりゼンゼン素敵。空中戦のシーンは手に汗握る。空軍の飛行機と一緒に映ると、よりイイ男に見えた、、、気がする。

 ニナの手紙の秘密が明かされるオチを、イイ話と思えるかどうかで、本作への印象が決まるかな。私は、イマイチ、、、と思っちゃったクチだけど。それまでが良かったから、まあ、そんなに減点対象ではないけれど。あんな、いかにも作り話っぽいオチにしなくても良かったんじゃないかな~、と思うわ。

 

 

 

 

 

 


ロマン・ガリは、日本ではもっぱら“ジーン・セバーグの夫”として有名だったみたい。

 

 

 

 

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盗まれたカラヴァッジョ(2018年)

2020-02-05 | 【ぬ】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv67902/

 

以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 映画製作会社の秘書ヴァレリアは、人気脚本家アレッサンドロのゴーストライターを務めていた。

 ある時、“引退した捜査官”を名乗る謎の男ラックが、1969年に世界を震撼させたマフィアによるカラヴァッジョの名画『キリスト降誕』盗難事件を映画化するよう、ヴァレリアに助言する。ヴァレリアがプロットにまとめると、映画会社は“傑作だ”と興奮し、瞬く間に映画化が決定。

 ところが、アレッサンドロが何者かに誘拐され、昏睡状態で発見される事件が発生。映画の内容を嗅ぎつけたマフィアが動き出したのだ。

 ラックの情報を元に、“ミスターX”としてシナリオを書き進めるヴァレリア。マフィアがミスターXの正体を探る中、映画の制作は着々と進んでいく。果たしてラックの正体は?そして、半世紀に渡る盗難事件は解決するのか……?

=====ここまで。

 サスペンス自慰映画。
 

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 チラシや予告を見ていたときは、こう言っちゃナンだが、まったくそそられなかったんけれど、たまたま新聞の評を読んだら、親子の関係が鍵になる、、、みたいなことが書いてあり、家族のいざこざモノが好きな者としては、ちょっと引っ掛かってしまって劇場までのこのこ見に行ったのでありました。

 ……ったく、予告で感じた印象は大抵当たっているからやめときゃ良かったんだよね。ちなみにサービスデー(水曜日)の昼間に見たんで、ガラガラでした。

 あんましいろいろ書く気が起きないので、思い付いたことを適当に書きます。

 本作は、劇中劇の形をとって、名画盗難事件の真相に迫るというフェイク・ノンフィクションみたいな、一応サスペンスのつもりで撮った映画だと思うんだが、サスペンスにしては、あまりにラストがお粗末で、はぁ~??状態。“謎の男ラック”の正体も、割とすぐに察しが付いてしまうし。

 たとえオチがイマイチでも、ネタが見え見えでも、映画として見どころがあればそれはそれで楽しめるんだけど、本作の場合、そっちもイマイチで。何か、良くない意味で裏切られるのよ。

 例えば、ポスターや宣伝のスチール画像では、ヴァレリアとアレッサンドロの2人が事件解決のために奔走するのかな、、、と思うでしょ、見に来る人は。でも違うのよ。違っても良いけど、主役かと思っていたアレッサンドロは序盤でボコボコにされて、ラスト近くまで昏睡しているんだからね。じゃあ、あのポスターは見る人を惑わせるため?とも思うが、どうもそこまでの意図もなさそう。

 何で意図がなさそうと思うのか、というと、本作の構成がとっちらかっているから。もう少し整理した方がよいような。なんつーか、制作サイドの独りよがり感が漂っているのよねぇ。この辺が、イタリアなのかなぁ、、、と思ったり。粗雑と言っては失礼だが、まあ、そんなとこ。だから、ポスターやスチール画像で観客を惑わしてやろうとか、そこまで考えているように思えないのだ。

 ヴァレリアはあっちこっち動き回っているけど、彼女自身が能動的に動いたことで、何か謎を解く手掛かりを得る、、、とかいう展開がほぼないんだよね。ほとんどがラックのお膳立てで、ヴァレリアはリモコンで操作された人形みたいなのだ。

 んでもって、ラストは、、、というと(以下ネタバレ)

 結局、劇中劇ってことで、これは映画のラストシーンでした!! となって、事件の真相はハッキリは描かれないし、どこからが劇中劇でどこからが本作のリアルなのかってのが、わざと曖昧にされているので、サスペンスとしては観客を宙ぶらりんにさせる終わり方なのだ。そういうのを否定はしないが、あんまし上手くいっていない気がする。

 それでいて、作っている側は面白いと信じて作っているのがビンビン伝わってくるから白ける。

 ……と、ここまで書いてきて分かったんだけど、私が本作にイマイチ乗れなかったのは、これに尽きるような気がする。ゼンゼン面白くないのに、効果音で笑い声がしょっちゅう入るお笑いを見ている気分というか。それに似ている。つまりは、オナニー映画。そうだ、だからピンと来なかったんだ、、、納得。

 というわけで、自分が納得したところで感想文は終わりです。自己完結して満足している辺りは、この映画と本質的には同じですな。面目ない。

 

 


 

 

 

主人公のお母さんの方が若々しくて美しくて頭が良くて……魅力的。

 

 

 

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