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「水濃徃方」の解読 28


(庭の松の木のセッコク)

松に着いた石斛(せっこく)、今年は花の数が少ない。雨が少なかったせいであろうか。もっとも、まだ蕾もあるから、もう少しは花は増えると思うが。

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「水濃徃方」の解読を続ける 。

連れ立ちて来る、引解袷(ひっときあわせ)、縄の帯、うそ汚れたなりふりに、不気味(ぶきみ)なから風雅も名聞(みょうもん)。何と晋子(しんし)が乞食の酒盛り以来、無い図(ず)な楽しみ。風雅冥理(みょうり)に叶(かな)いしと、連れ立って来る間に、湯も沸いて、足を洗い、ねぎ味噌の湯豆腐で、酒を勧(すす)むれば、辞宜(じぎ)なしに引き受けて呑む。
※ 引解袷(ひっときあわせ)➜綿入れの着物の綿を引き抜いて、袷(あわせ)の形にしたもの。
※ うそ汚れる(うそよごれる)➜ うす汚れる。どことなく汚なくなる。なんとなく汚ない感じである。
※ 名聞(みょうもん)➜ 名声が世間に広まること。世間での評判・名声。。
※ 晋子(しんし)➜ 宝井其角の別号。江戸前期の俳人。蕉門十哲の一人。酒を好み、作風は派手で、平明かつ口語調の洒落風を起こした。
※ 冥理(みょうり)➜ 人の目には知られない神仏の考え。また、隠されている道理。
※ 辞宜(じぎ)➜ 遠慮すること。

其元(そこもと)発句(ほっく)をなさらぬか」と云えば、「知りませぬ」と云う。「然らば歌でも詩でも」と聞くに、「イマそんな事はなおなりませぬ」と咄しもせず。物も云わねば、はて存の外(ぞんのほか)やくたいなわろ。そして「何を楽しみになさる」と云えば、「楽しみと云うものは、咄しになるものでは御座らぬ」と云う。「それは尤(もっとも)。朝夕の営(いとな)みに、事は欠けはしませぬか」「イイヤ、往来の馬の置いて行く、朝三暮四(ちょうさんぼし)の粮(かて)は沢山。これを取れども、禁ずる人無く、掃(さら)えども、また生ず。」
※ 其元(そこもと)➜ 対称。近世、同等またはやや目下の相手に対して用いる。
※ 発句(ほっく)➜ 俳句。
※ 存の外(ぞんのほか)➜ 思いのほか。存外。
※ やくたいな ➜ 迷惑な。難題な。
※ わろ ➜ 人を卑しめ、また親しみをこめていう語。やつ。野郎。
※ 朝三暮四(ちょうさんぼし)➜ 生計。くらし。

「其元方の楽しみは、外から見ては楽しみの様で、心の内は、私が百分一も楽しみは御座るまい。我等、形(なり)こそ可様(かよう)なれ、馴(な)るれば冬も寒むからず。今日の様に雪降りて、往来の絶えたる時は、相応に傭書(ようしょ)の頼人(たのみて)ありて、十二文の酒呑まぬ時なく、親戚なければ誰一人歎きかける者もなく、火事按じず、盗人(ぬすびと)の恐れを知らず。」
※ 傭書(ようしょ)➜ 人にやとわれて文字を書くこと。やとわれて筆耕すること。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「神奥の山 大江戸定年組 7」 風野真知雄 著
読書:「浪人奉行 七ノ巻」 稲葉稔 著   
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