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「壺石文」 下 16 (旧)二月朔日

(掛川市立図書館の近所で見かけたムラサキカッコウアザミ)

夜、電話があり、金谷宿大学の役員会は欠席ですかと電話があった。慌てて30分遅れで出席した。話が少し前に進んだようで、何よりである。要項の検討に入るということで、その部会に出ることになった。

会が終って、囲碁の教授のNさんが古文書を読んで貰えないかと声を掛けられた。何でも天徳年中の日付が入っているという。天徳年中と云えば、西暦957~961年の年号で、1000年以上前の文書である。それが本当なら、文化財級の古文書だと思う。見せて頂けるというので楽しみである。

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「壺石文 下」の解読を続ける。

如月のつきたち(朔日)、天気(ていけ)は良けれど、風荒らかに吹き、雪高く降り積りたりければ、寒さこよなし。長老は南阿法師と言いて、最上わたりの人なるが、この二年ばかり、こゝに来居て、この寺の主だち、物すとぞ。廿ばかりの若人なるが、いと雅びやかに自重なる本情にて、仏に仕うる。
※ 如月(きさらぎ)- 陰暦で二月のこと。
※ 自重(じちょう)- 言動を慎んで、軽はずみなことをしないこと。
※ 本情(ほんじょう)- そのものに本来そなわっている性質。


六時の念仏の、晦(つごもり)には、書見、歌詠み、物書き遊(すさ)みなどして、おほな/\(ねんご)ろなりければ、うらやす(心安)げなる心地して、こゝに日数を巣喰いにき。
※ 六時の念仏(ろくじのねんぶつ)- 一昼夜を六分して、晨朝・日中・日没・初夜・中夜・後夜の六時に分けて、この時間ごとに念仏などの勤めをする修行のこと。
※ おほな/\(おおなおおな)- 心を込めて。ひたすらに。
※ うらやす(心安)- 心が安らかなさま。


おさ/\訪いくる人も有らざりければ、ただ二人のみ向かい居て、昼はひねもす、夜はよもすがら、埋火(うずみび)の灰、掻き崩しつゝ、唐の、大和の、天竺の、尊く奇(くす)しき法の道、麗しう雅たる古代の手ぶり、(さ)れたる今様のおこ物語など、或るは同じ心に言いしろいつゝ微笑まれ、或るは、こと/\に思い取りて、論論(あげつろ)いつゝ、かたみに(互いに)腹立ち演ずる折節も混じりて、様々をかしさ業なりけり。
※ 戯れたる(されたる)- たわむれの。
※ おこ物語(おこものがたり)- まじめで賢明な人物でなく、人を笑わせる愚か者などを主人公とした物語。
※ 言いしろう(いいしろう)- 言い争う。言い合いする。


登れば下る稲舟の事など、問いみ、語りみ、強いて留むるにしも有らざめれど、この月ばかりとを思いなれど、如何あらん知らずかし。五夜行い、果てぬる頃おいは、風もやゝ治まりて、少し暖かげなり。
※ 稲舟(いなぶね)- 最上川で使われた幅の狭い船。


読書:「一九戯作旅」野口卓 著
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