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江戸繁昌記初篇 68 上野 8

(昨日作ったみの柿の干柿の様子/たこ糸による細工の成功)

「江戸繁昌記初篇」の解読を続ける。

武人頓首し言いて曰く、僕生れて武を好み、馬を馳せ剣を試み、武教全書を右にし、武門要鑑を左にし、甲越二流の兵学、今、その奥(義)を窮む。門徒三千中、に達する者、七十余人。日、相与するに、城を築き、陣を布(し)くの事を請(こう)ず。
※ 頓首(とんしゅ)- ぬかづくこと。
※ 武教全書(ぶきょうぜんしょ)- 山鹿素行の著した、山鹿流の兵法書。
※ 武門要鑑(ぶもんようかん)- 謙信流の兵学書。衆生済度や慈悲に根差した仏教思想を、武法体得の中に取り入れているのが特徴。
※ 訣(けつ)- 簡潔に言い切った秘伝の文句。奥義。
※ 与する(くみする)- 仲間に加わる。味方する。


常に恨む、不幸にして太平の世に生れ、羽扇を秉(と)り、天文を数え、四輪に駕し(乗り)三軍を麾(さしまね)き、八門遁甲、これをことに施すことを得ざることを。墜(遂)卒に席上に死せんのみと。今老たり。漸く前言の非なるを悟る。
※ 羽扇(うせん)- 鳥の羽で作った扇。諸葛孔明が軍の指揮を、羽扇を以ってしたことは有名。
※ 三軍(さんぐん)- 古兵法の先陣・中堅・後拒、または左翼・中軍・右翼。転じて全体の軍隊。全軍。
※ 八門遁甲(はちもんとんこう)- 中国に伝えられた卜占の方法の一つ。天地の鬼神が各方隅を循環して生殺するとの信仰から生じたもの。
※ 卒に(そつに)- にわかに。
※ 席上(せきじょう)- 座席の上。敷物の上。(「たたみのうえ」とルビあり)


願うは、天下太平、四海無事、羽扇、四輪の労を見ざらんことを。近時、節を折りて、儒生某に従い、七書の講義を受く。顧(おも)うに、二流の奥義、全くその囲範(範囲)中に在り。吾が秘訣と称するもの、その実は屁の如し。然るに誓いを立て、神を誣(し)い、年来この屁を伝えて、許多(あまた)の銀両を収むは、紙上の空談、傲然世を欺(あざむ)く。
※ 七書(しちしょ)- 武家七書。「孫子」「呉子」「尉繚子」「六韜」「三略」「司馬法」「李衛公問対」の七書。
※ 二流(にりゅう)- 甲越二流の兵学。
※ 傲然(ごうぜん)- おごり高ぶって尊大に振る舞うさま。


今にしてこれを思うは、神に戦(おのの)き汗出づ。自ら罪の重きを知る。懺悔に罪を滅すと聞く。願いは仏、かくの罪過を救いて、子孫繁昌、弥勒の世を終るまで、太平のを浴すらんことを。これ望む。これ望む。
※ 罪過(ざいか)- つみ。あやまち。罪悪。
※ 弥勒の世(みろくのよ)- 仏教で、弥勒菩薩がこの世にくだって衆生を救うとされる未来の世。
※ 澤(たく)- めぐみ。恩恵。恩沢。
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