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江戸繁昌記初篇 59 日本橋魚市 2

(大代川のアオサギ)

大代川にアオサギが下りて魚を狙うか。しかし、そんな緊張感はない。水面のきらめきに目を奪われているのかもしれない。

「江戸繁昌記初篇」の解読を続ける。

橋の前後、旦々(朝々)市を為す所を新場と曰い、小田原坊と曰う。嘔唖暁に沸き、膻気人を噎(むせ)ばす。春天の板魚(ヒラメ)呴濡丘を築き、秋風の鱸魚(スズキ)、撥刺(はつらつ)江を傾く夜漕の鉛錘魚(カツオ)子規と飛ぶことを爭い、晩市の竹筴魚(アジ)は紫茄(ナス)と時を競う。
※ 嘔唖(おうあ)- 喧しい声。せりの声であろう。
※ 膻気(たんき)- 生臭いにおい。
※ 呴濡(くじゅ)- 水から揚げられた魚が、たがいに息やつばをかけ合って潤しあうこと。
※ 江を傾く(こうをかたむく)-(意味不明)。「江」は江戸のこと。スズキは暴れて危険なことと、鮮度を保つために、水揚げしてすぐに首を折って締めたことから、首が傾き、スズキから見ると、江戸が傾いて見えたと表現したか?
※ 夜漕(やそう)- 夜、船で運ぶこと。
※ 子規(ほととぎす)- 江戸時代前期の俳人、山口素堂の「目には青葉 山ほととぎす初鰹」の有名な句を踏まえている。
※ 晩市(ばんいち)- 夕河岸。


潜送の鯔魚(ボラ)雪輸の河豚(フグ)、琵琶魚(アンコウ)腹寒く、比目魚(カレイ)眼冷きなり。火魚(カナガシラ)、魴鮄(ホウボウ)交錯、尾を翻(ひるがえ)して、火、原に燎(も)え、黒鰻(ウナギ)、海鰻(ハモ)枕藉を横たえて、舟、陸に推す。
※ 潜送(せんそう)-「いけす」とルビあり。
※ 雪輸(せつゆ)- 雪の季節に入荷する。
※ 交錯(こうさく)- いくつかのものが入りまじること。
※ 枕藉(ちんせき)- 互いの身を枕として寝ること。寄りかかり合って寝ること。
※ 鬣(たてがみ)- 魚ではヒレにあたるのであろう。


望潮魚(タコ)の頭は、施餓鬼場の僧より多く、千人揑(びわ蟹の一種)の脚は、無籍乞兒の蝨(しらみ)より多く、牛尾魚(コチ)は牛坊(牛町)の牛の角より多く、馬鮫魚(サワラ)は四谷の馬矢より多し。石首魚(イシモチ)の首は西河原(賽の河原)の石より多し。鍋蓋魚(エイ)の背は、地獄の釜の蓋より大なり。
※ 乞兒(ほいと)- こじき。(無籍乞兒で「やどなし」とルビあり)
※ 馬矢(ばふん)-「矢」に「くそ」とルビあり。


沙噀(ナマコ)の沙(すな)は、以って山鯨各舗の壁を埿(どろ)ぬる。烏賊(イカ)の墨は、以って、闔街の煨薯(焼芋)の招牌(看板)を書すべし。鯯(コノシロ)、鰛(イワシ)、黄爵青魚(ニシン)等の物は塵の如く、土の如し。蜆(シジミ)、蛤(ハマグリ)、魁蛤(アカガイ)の如きは、斗筲、固(もと)より、計るに足らず。想うに、龍王必ず言わん。奈何(いかん)ぞ、これを取ること、錙銖を尽くして、これを用いること、泥沙の如くする。
※ 闔街(れい)- 木戸口のある町。「闔」は「とびら」。
※ 斗筲(とそう)- 1斗を入れる枡と、1斗2升を入れる竹器の意。転じて、度量のせまいこと。器量の小さいこと。
※ 龍王(りゅうおう)-日本では水を司る水神とされた。竜宮様とも呼ばれる。
※ 錙銖(ししゅ)- わずかなこと。また、ごく小さいこと。


石決明(アワビ)、螺砢、艮嶽(比叡山)巌を崩し、拳螺(サザエ)相搏(う)ち、江瑶柱(タイラギ)相支う。東海夫人(ボボガイ)阿房妃嬪を陳(つら)ね、西施舌(ミルクイ)は呉国の帯甲を傾く。
※ 阿房(あぼう)- 阿房宮。秦の始皇帝が建てた大宮殿。
※ 妃嬪(ひひん)- 天子の妻と側室。
※ 帯甲(たいこう)- 鎧を着た兵士。
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