平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
事実証談 巻之三 異霊部18 疱瘡神と疫病神あれこれ
午前中、キリシタン燈籠の取材へ行く。記事は後日。
隣の新堀川で水音を聞いて、覗いてみると写真のような滝が出来ていた。向いの農業用水溝から水が溢れて、下の新堀川に滝となって落ちている。対岸に渡る小さな木橋は昨年秋の増水時に流されて、無くなった。向いの小さな畑の人たちが私的に造ったものだったので、今はそのままになっているから、様子を見に行くには大回りしないと行けない。なあに、田圃に水を入れる一時だけ出来る滝である。放っておいても問題ないだろう。
「事実証談 巻之三 異霊部」の解読を続ける。
第39話
豊田郡池田庄、杉村太七郎、天明五年と云いし比、東池田村にものしけるに、ある家の門の前に、惣髪の人立ち塞ぎたり。よけて通らんとするに通さず。何者ぞ、我を通せと言いつゝ、突き倒し通らんとするに、なお退かず。かくて互いに力足を踏みて押し合いたるに、太七郎力や増(ま)さりけむ。押し除(のけ)ると均しく、かの総髪なる人は消え失せたり。
※ 力足(ちからあし)- 力を込めた足。相撲の四股(しこ)のこと。
太七郎、甚く驚きぞっとして、身の毛よだち、怪しとは思えども、如何なる者とも知られず。家に帰るより疱瘡(ほうそう)煩(わずら)うに、さては疱瘡神にて有りけむと、後に思い合わされつと、則ち太七郎の言えるを書き留めつ。
第40話
周智郡天宮郷、中村家の老母、ある夜の夢に疱瘡神来ましぬと見つるを、怪しみ人にもかくと語りけるに、その翌日より、小児、疱瘡煩い付きつとなん。
第41話
榛原郡志戸呂庄、横山家の老母も、疱瘡神、家に来たれりと、夢見し事を怪しみけるに、これもその日より、小児、疱瘡煩い付きつといえり。すべてかかる流行病は、疫病神の所行にや。
※ 所行(しょぎょう)- 所業。しわざ。多く、よくないことにいう。
第42話
豊田郡森本村、近藤玄瑞の物語に、疱瘡流行(はや)る度毎に、あまた治療しつるに、病者の伽する者の夢に、老翁、老婆の類いを見る時は、必ず順痘なり。若き美男、美女の類いを見るときは、必ず逆痘にして安からずといえり。
※ 伽(とぎ)- 病人の看護。
※ 順痘(じゅんとう)- 疱瘡の経過がよいこと。
※ 逆痘(ぎゃくとう)- 疱瘡の経過が悪いこと。
第43話
豊田郡大谷村、内山家の嫡男、疱瘡わづらう時は、常とは甚くかわり、博奕をのみ好みて、人を集め、昼夜となく、さるわざしたるは、疫病神の心にて有りしか。病い平癒せしかば、即ち博奕の沙汰なかりつといえり。
第44話
ある御方の疱瘡せさせ給ふ時には、いと/\あやしき賤の男、賤の女の形状をのみ、好ませ給えりしよし。これも神心にや。平癒の後、さるわざ、かつてなかりつと、ある人の物語にぞ有りける。すべて疱瘡煩う時は、赤紙を以って疱瘡神を祭るを、家々にて種々の沙汰有りければ、疫病神あること疑いなし。
※ 疱瘡と赤紙 - 疱瘡神はや赤色を苦手とするという伝承があったため、赤い紙で御幣を作って祭ったり、地域によって様々な赤い物を飾ったり、身の回りで使った。
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