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峡中紀行下 19 九月十七日、甲州街道の駅戸のこと

(御近所から頂いたゼラニウムの鉢)

夕方、Mさんに「再び」を届ける。肺の持病でゴルフのコースを二度ばかり途中で苦しくなって止めて、ゴルフはやめてしまったようだ。それで、急に年寄りっぽくなったように見える。81才だというから、長兄より一つ上である。忘れずにいてくれたことを感謝された。

荻生徂徠著の「峡中紀行 下」の解読を続ける。

鳥沢を経て、狗目の駅に至る。蓋し駅戸、海内(天下)綰するの孔道(官道)巡述皆繇(したがえ)る所、冠蓋相望み蜚騎塵鶩す、東海一路(東海道)の若(ごと)きものに非ざるにより、則ち(駅戸は)その朝夕、家口を資(たす)くる所、必ず旁(かたわ)耕穡を資けし。用いて公上の需(もと)めに供すなり。
※ 駅戸(えきこ)- 律令制で、諸国の宿駅に所属していた家。一定 戸数が指定され、駅馬の飼育、駅田の耕作などを受け持った。
※ 綰(たがね)する - 集めて一つにまとめる。たばねる。
※ 巡述(じゅんじゅつ)- 巡狩述職。「巡狩」は「古代中国で、天子が諸国を巡視したこと。」「述職」は「諸侯が天子に拝謁して、自分の職務について報告すること。」
※ 冠蓋(かんがい)相望み -(「冠蓋」は、冠と馬車の覆い。)車と車が絶えず続く様子。特に、使者などが引き続いて行く様子を表わす。
※ 蜚騎(ひき)-(「蜚」は「飛」と同義。)早打ちの馬のこと。
※ 塵鶩(じんぼく)-(「鶩」は、乱れ走ること。)砂ぼこりを立てて走るさま。
※ 家口(かこう)- 家の食い扶持。
※ 耕穡(こうしょく)-(「穡」は収穫。)耕す所から収穫まで、農作のこと。


況んや東都有るより来った幾十百年、峡(甲斐)の藩を成す、寔(まこと)に今日に(はじま)る。而(しこう)して、(柳沢公に)封に就くの命、未だ下らず。国臣(家来)も内(一家)を挈(ひっさ)げ、州に属する者あるは、鮮(すくな)しなり。これ乃(すなわ)ち本道の馬、豈によく昧爽、鞍を装い、槽(飼葉桶)を立て、終日秣(まぐさ)を仰ぎて、以って寥々の人影を竢(また)んや。
※ 封に就く - 国(甲斐)に入る。
※ 昧爽(まいそう)- 夜明け方。
※ 寥々(りょうりょう)- ひっそりとしてもの寂しいさま。


その客至りて、馬を田に喚(よ)ぶの遅緩なるを怪しむこと毋(なか)れ。
これを要するに、駅戸の耕を資(たす)くるに非ずして、耕夫の駅を供にする者、則ちまた、その心駅の耕を妨げんことを厭うもののみ。故を以って、吾府城を発して後、欠伸の声必ず駅に発す。
※ 遅緩(ちかん)- ゆっくりしていること。おそいこと。

天目の游(あそ)び、已に竣(おわ)り、家を思うの心、火の如くこれ急にして、その身、轎中に在りといえども、駄包有り、罷僕有り、棄てゝ独り前(すす)むこと克(よ)くはあらず。
※ 羅僕(らぼく)- 連なる従者。
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