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事実証談 巻之三 異霊部2 地蔵の利生、恵美須講の珍習




(柚木地蔵)

6月4日、第3話の柚木地蔵を車で取材に行った。袋井市見取の公会堂前の通り沿いに柚木地蔵の祠があった。別名、いぼとり地蔵とも呼ばれている。背後はゲートボール場で、プレーするお年寄りが数人見えた。

第3話
豊田郡見取村に柚木(ゆずき)地蔵と称(い)う石地蔵有りけり。そのわたりなる人ども、萬(よろ)づ祈願するに速やかに験(しるし)有るよし。安永年中の事にて有りしが、向笠郷、甚左衛門という者の姉娘、顔に疣(いぼ)数多(あまた)(いでき)たりけるを、母かの地蔵に祈願せんと、十歳ばかりなる妹娘を伴い行き、祈願するを、かの娘聞き居りて、姉さまの疣を治し給わば、我には疣数多出かして給われやと言いけるを、母聞きて、さる事は戯(たわぶ)れにも言うものならずと、制しつるに、地蔵実(まこと)とや思いけん、日数もたゝぬに、姉娘るすが面(かお)に数多有りし疣は、速やかに平癒(いえ)たりしが、妹娘きわが面に疣数多発(いでき)たるは、いと怪し。

母、さては過ぎし日、祈願せし時、数多出かして給われと言いしを、地蔵、実(まこと)と思いて出かし給いつらんとて、またかの地蔵の許に行きてきわが疣平癒を祈りたりしかば、これもまた平癒せしは、利生(すみやか)なる地蔵なりけりと、ある人の物語なり。
※ 利生(りしょう)-(仏)仏神が人々を救済し、悟りに導くこと。祈念などに応じて、利益(りやく)を与えること。


第4話
伊豆の国君沢郡江奈村に、友七という古道具屋有りしが、壮年の比(ころ)より陰嚢の大(おおき)になれるは、疝気にや有らん。年経れども減る事なきを憂えたりしに、凡(すべ)て伊豆駿河などにては、十月廿日恵美須講祝う節は、恵美須へ備えし食物を、千金万金と祝いて、乞い取り食いけるよし。
※ 疝気(せんき)- 漢方で、下腹部の痛む病気。

天明年中の比(頃)なるよし。ある恵美須講の折り、寄り集える人ども、恵美須に備えし食物を、互いに千金万金と祝い、乞い取りて食しける所へ、ある人来たりて請け取らむと云いけるに、皆取り終りて食らいければ、祝い果てぬと言いけるを、かの友七言うよう、恵美須へ備えし物は果てたれど、我ら持ち料に大金物有り。汝じこれにても求むべきやというを聞いて、如何なる物にかと問うに、我等持ち料の大金物とは大陰嚢なりと答えければ、それこそ大金物よ。五万金にて求めんと、皆一同に手打鳴らして戯(たわぶれ)つゝ、諸共に酒のみ交わして祝いたるに、よりてか、幾程もなく、かの大陰嚢求めんと戯れし男、いつしか陰嚢痛みそめ、漸(ようよう)に甚(いた)く腫れ、重病となりて失せたりき。

かくて友七は、その程より陰嚢縮まり、いつしか若年の比のごとく、人並みの陰嚢となりて、十年余り安く世を経て、文化と言いし年の始めのころ世を去りしは、怪しかりける事なりと、かの友七が口づから語るを聞きつる人の物語なり。
※ 口づから - 自分の口から。自身の言葉で。
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