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塵摘問答 14 六月一日餅、盆、枡

(散歩道のベゴニア)

昨日と一転して快晴の一日。南海上の台風が東へ去り、台風一過の一日であった。ムサシの散歩の畦道には、秋の彼岸に備えて、曼珠沙華の花茎が二本、三本と伸びていた。

塵摘問答の解読を続ける。

(六月一日餅)
一 男問いて云わく、六月一日に餅を食い候はいかなるゆえ候や。

老僧答えて云わく、六月一日に丹波の氷室山より、御門へ氷が毎年参り候。禁裏の仰せなれは、夏も氷が張るぞという心なり。この謂れにより氷餅と名付けて祝い候なり。詳しくは内裏の神事という巻物に見えたり。


(盆)
一 男問いて云わく、盆に死人を弔い候は、いかなる故候や。

老僧答えて云わく、釈尊の御方便にて、多宝仏現じ給ひて、七月十四日に、一百三十六の地獄の釜の蓋を開けられ候間、盆に亡者(もうじゃ)を弔い候。しかれば、獄卒阿房羅刹ども、早や地獄に返し給えとて、叫びけり。
※ 多宝仏(たほうぶつ)- 法華経に登場する、東方の宝浄国の教主。釈尊の説法を賛嘆した仏である。
※ 獄卒(ごくそつ)- 地獄で死者を責めるという悪鬼。
※ 阿房羅刹(あほうらせつ)- 地獄で亡者を責めたてる鬼


獄卒どもを慰めんがために、五百人の羅漢たちに仰せ付けられて、太皷、鉦を拵え、踊りを始め給うなり。獄卒どもはこれに見惚(みほ)るゝ、その間に死人をとりて弔い給うなり。盆の踊り、このまねび(学び)なり。

また、施餓鬼目蓮尊者の始め給う。一度死したるもの、人間に帰る事はなけれども、仏の遊ばされたる儀なれば、かように弔い候。たとえば打つと響くとの心なり。主師、生親、兄の冥加のためにて候。詳しくは盂蘭盆経に見えたり。
※ 施餓鬼(せがき)- 盂蘭盆(うらぼん)に寺などで、餓鬼道に落ちて飢餓に苦しむ無縁仏や生類のために催す読経・供養。
※ 目連尊者(もくれんそんじゃ)- 釈迦の十大弟子の一人。弟子中で神通第一といわれる。餓鬼道に堕ちた母を救うための供養が、盂蘭盆の始まりとされる。
※ 冥加(みょうが)- 神仏の加護・恩恵に対するお礼。


(枡)
一 男問いて云わく、枡(ます)の底を一枚底にせぬと申すは、如何なる故候や。 老僧答えて云わく、釈迦如来の御入滅の時、御舎利に成り給う。五百の大弟子、集まり計りてみんとありし時、寡少の方便廻らし、枡の底を割りて漏らし取り給いて候。その故に、一枚底をせぬと申し候。
※ 寡少(かしょう)- 非常に少ないさま。わずか。
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