河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

PC版に一覧等リンクあり。
OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

1461-【本】ジャン=ジャック・ルソーと音楽 海老澤敏著 半世紀に及ぶ研究の集大成

2013-02-24 10:43:10 | 本と雑誌

 
本紹介です。
ジャン=ジャック・ルソーと音楽 海老澤敏著 半世紀に及ぶ研究の集大成
1



.
 本書はルソーと音楽を巡る著者の半世紀に及ぶ研究をルソー生誕300年に当たって集大成したものである。すでに『ルソーと音楽』(1981年)他によって「音楽者ルソー」について世界に例を見ない業績をあげ、ルソー研究の一翼を担ってきた著者は、旧著に種々の書きものを加えて新たな一冊とした。
.
 ジュネーヴ生まれの共和主義の政治哲学者ルソーが書簡体小説や自伝的作品を残した文学者でありまた教育思想家でもあったことはよく知られているが、作曲家で音楽理論家でもあったことは周知のことではない。「ルソーはまず音楽家だった」と著者が言うのは決して誇張でない。新記譜法の成功を夢見て30歳でパリに上り、『百科全書』に多数の音楽項目を寄稿し、幕間(まくあい)劇「村の占い師」がルイ15世の前で上演されて大成功を収め、『音楽辞典』を刊行し、「オテロ」の「柳の歌」を作曲しつつ死を迎えたルソーにとって、音楽は生涯の情熱だった。
.
 本書の内容はルソーの音楽体験から、その音楽上の創案、「魂の表白」としての音楽思想、旋律の統一性や和声に対する旋律の優位等の音楽理論、声楽曲を中心とした120曲もの作品中の主要作解説、「むすんでひらいて」の「原曲」探しまで、多岐に亘(わた)る。イタリア音楽への愛からラモーに代表されるフランス音楽を根源的に批判したルソーとラモーの論争やモーツァルトとルソーの「親近性」もさることながら、音楽とは本来何かを問い音楽の本源に常に立ち返るルソーの姿を描くのが本書の眼目であり、最大の魅力でもあろう。こうしたルソー=音楽家観が本書の通奏低音をなしており、著者のルソー理解の真髄(しんずい)でもあるのだが、繰り返しが多いのが多少気にならなくもない。しかしこれもそれだけ著者の思い入れが深いということなのであろう。
.
 残された課題はルソーの音楽思想と彼の文学・哲学・人間学・政治思想との架橋ということになるが、これはそう簡単ではない。まずはルソーの音楽作品の目録完成を期待したい。
.
〈評〉中央大学教授 永見文雄(ぺりかん社・5800円)
.
著者:
えびさわ・びん 31年生まれ。国立音楽大学長・理事長・学園長、新国立劇場副理事長・同劇場オペラ研修所所長を経て、国立音楽大名誉教授。著書に『音楽の思想』『モーツァルトの生涯』など。