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今シーズン2008-2009は、東京ではまだワーグナーの出し物があまりない。
新国立劇場オペラ・パレスでは来年2009年の春に東京リングの再演のうち、ラインゴールドとワルキューレが行われる。これは必聴だが、その前に、N響が定期でトリスタンの第2幕をやるということで、これまた必聴。
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2008年11月16日(日)3:00pm
NHKホール
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ワーグナー/「トリスタンとイゾルデ」より
前奏曲と愛の死
ソプラノ、リンダ・ワトソン
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(休憩)
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ワーグナー/「トリスタンとイゾルデ」より
第2幕全曲(演奏会形式)
イゾルデ、リンダ・ワトソン
ブランゲーネ、クラウディア・マーンケ
トリスタン、アルフォンス・エーベルツ
国王マルケ、マグヌス・バルトヴィンソン
メロート、木村俊光
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ゲスト・コンサートマスター/ペーター・ミリング
イルジー・コウト指揮
NHKso.
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絶対爆演!!
コウトは1937年生まれだから70歳を越えているが、今日の指揮は激しく、たとえば第2場でトリスタンが現われる場面での音楽の盛り上げは尋常ではなく、度を越した振りぶりであった。
ワーグナー遣いが日本のオーケストラにその解釈方法をトランスファーしにきたわけだが、事実、コウトがいなかったらまともな演奏にならなかったかもしれない。でも逆に、あの激しい指揮ぶりは完全にオーケストラを信じきったうえでの棒であり、練習通りに引っ張っていくというのではなく、そのうえを目指している姿であった。N響は十二分にその期待に応えた激情の愛のシーン第2幕であった。
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コウトはやせていて普段はポッポッポッというかんじで軽快にポーディアムに歩いてくるが、今日は演奏後、オヴェイションを受けポーディアムを行き来するその足がふらついてフラフラしていた。それだけ激しい棒だった。内容も完全に満足するものだったと思う。
ワーグナーものはオケピットにはいったオーケストラの音もいいが、たまにはこうしてオーケストラをステージにあげての演奏を聴くのもいいものだ。音が変にぶよぶよしていないし、整理整頓されており、さらにN響の几帳面な音作りのおかげもあるが、垢が全部落ちた様な演奏は気持ちがいい。
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コウトのドライブはものすごく、先ほど書いたような場面転換の音楽でさえ全く弛緩することなく、むしろそこに重要な旋律が多数入りこんでいるのだよ、とでもいいたげにとくとくと、ときには圧倒的に、聴衆の脳裏に刻ませる。
スペシャリストの一筆書き的伸縮自在でダイナミックな爆演であった。
ワーグナーのスペシャリストは少なくなってしまったが、日本にも一人いると思うが、(経歴からいっても)カリスマ性は持ち合わせていながら、能力あるオーケストラに恵まれない、というかそのようなオーケストラととも一大興業のワーグナーものを連発するには環境的に無理がある。
今日のような放送局付きオーケストラによる演奏会形式の場合ですら、第2幕という異色のプログラムであることを差し引いても、日本人はメロート一人しか本当に用意できないものなのだろうか。
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今日のN響はやたらと素晴らしく、やっぱりドイツ物の系譜の指揮者たちの連続だった歴史というものがあり、自負があり、それがありありと出ている。
まずはハーモニーがきれい。ピッチが良く合い響きが美しい。またフレーズのコントロール