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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

薩藩史研究会(代表大久保利謙)編 『重野博士史学論文集』 下巻

2011年04月10日 | 日本史
 全3巻。重野博士は重野安繹。
 2011年04月07日「原口虎雄 『幕末の薩摩 悲劇の改革者、調所笑左衛門』」より続き。
 秩父太郎と近思録崩れについて本巻収録の『薩藩史談集』に言及があると聞いたのだがない。『薩藩史談集』は薩摩藩の歴史だが、古代隼人の時代から戦国時代いっぱい、江戸時代初期で終わっている。
 そのかわり、『西郷南洲逸話』がとてもおもしろかった。重野安繹(1827-1910)はもと薩摩藩士・漢学者。通称は厚之丞。幕末維新のおりはすでに成人で、藩校造士館で教鞭を執っていた。志士でこそなかったが、西郷や大久保とは同年輩であり、直に彼らを知っていた。幕末維新にかけての彼らの活動を、同時代人としてずっと見てきた人である。
 その重野が、明治も30年をすぎてから在りし日の西郷を回顧して話した。重野は、西郷を「偏狭な人、度量の小さい人だった」と言う。「いつも誰かを敵にしていないとすまない人だった」とも。島津三郎様(久光)とうまくいかず遠島にされたのも、明治後征韓論を唱えて破れたのも、そしてはては西南の役を起こして自滅したのも、その性格の当然の帰結であると。ただ確かに英雄豪傑であり、強い義侠心があり、さらには人と労苦を共にするのを辞さなかったから、あれだけ人望が集まったのだとも言っていて、かなり公平な観点からする評と思える。

(雄山閣 1939年5月)