書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

齋藤文俊 『漢文訓読と近代日本語の形成』

2018年03月01日 | 日本史
 出版社による紹介

 漢文訓読体は基本的に過去・完了の助動詞は使わない、使うとしてもキ・タリ・リの三種のみ」(要旨・第二章126頁)と言われても、なぜそうなのかを説明してもらわないと、私のような者はどうにも頭に入りにくい。また、明治後の邦訳聖書で二人称代名詞として「爾(なんじ)」と「あなた」の二種が使われていると言われても(第八章231頁から)、前者は漢訳聖書からの流用つまり漢語の二人称代名詞であって日本語のそれではないし、「あなた」はもともと指示代名詞である。聖書の翻訳において原語の人称代名詞の訳語として使われた結果、日本語としても人称代名詞として認識されるようになったのかもしれぬと、素人は素人なりに可能性のある疑問を抱くのだが、すくなくともそのあたりの検討と、そういうことはないという念押し(つまりそれ以前から「あなた」は人称代名詞であり人称代名詞として使用されていたという事実の確認)がなされていないと、何も知らず理性のみを持って知の世界を読み進む者には、歩む道中が寒くてたまらない。

(勉誠出版 2011年2月)