くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「さよならクリームソーダ」額賀澪

2016-06-21 20:36:27 | 文芸・エンターテイメント
 登場人物たちが、それまで受け入れることのできなかったことを認める物語だと思いました。
 額賀澪「さよならクリームソーダ」(文藝春秋)。
 舞台は花房美術大学。油絵を学ぶ友親は同じ寮に住む若菜先輩(男)と親しくなります。母親の再婚がらみで仕送りを断っている友親に、彼はかなりの大金を貸してくれます。
 ひょうひょうとしている割りにはクールで秘密主義、モテるけど特定の相手は聞かず、そのくせ好意を利用する若菜先輩。彼のおすすめの喫茶店で白いクリームソーダを見かけ、注文してみるのですが、届いたのは違うもの。
 実はこのクリームソーダ、若菜先輩の思い出が詰まっており、お店で特別に作ってもらっているのだとか。
 先輩のことを探るように強要する女子大生の恭子ちゃん、個性的な先輩方(和尚先輩、バーナビー先輩、小夜子先輩など)、友人の有馬、義理の姉とのエピソードが積み重ねられて、素敵な青春小説になっています。しかも、舞台は寮生活ですからね。
 挿話として語られる「ヨシキ」との日々が、尾崎の曲と重ね合わされて胸に迫ります。わたしは尾崎苦手なんですけどね。でも、若菜先輩が尾崎を口ずさむ理由はすごくわかります。
 若菜先輩の絵のモチーフには、たびたび「ヨシキ」が選ばれますが、彼にとっては「似てるのに、違う気がする」のです。
 おそらくクリームソーダも、ヨシキが作ってくれたものとは「似てるのに、違う気がする」のではないでしょうか。だけど、それを受け入れられるようになる。
 若菜先輩の家族も彼の思いを汲んで自立を許し、友親は母の再婚を肯定します。
 ひりひりとした切なさで描かれる日々が、さわやかで美しいです。