くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「幸せの条件」誉田哲也

2012-11-12 20:53:39 | 文芸・エンターテイメント
 生まれも育ちも嫁ぎ先も農家、という身の上ですから、新聞の書評で読んで気になったんですよ。誉田哲也「幸せの条件」(中央公論新社)。誉田さんといえばミステリーなんでしょうが、どうもわたしは「武士道」とかこれとかエンターテインメントの話ばっかり読んでますよね。
 理系の大学を出てガラス器機の専門メーカー「片山製作所」に勤務する瀬野梢恵。社長の気まぐれで、長野県まで出張することになります。曰わく、バイオエタノールを精製する機材を開発したから、安い米を作付けしてくれる農家を見つけてくるように。休耕田を紹介してもらえるように、知り合いの農協職員に頼んでおくから。
 ところが現実は大違い。迷惑そうな担当者からリストだけはもらったものの、訪ねてみると門前払い。契約が取れるまで帰れない梢恵は、近隣の田んぼを一手に引き受ける農業法人「あぐもぐ」を手伝うために住み込むことになりますが……。
 「あぐもぐ」の茂樹さんと君江さん夫妻がいいんですよ。どこからも相手にされずにいた梢恵の話を親身になって聞いてくれる。娘の朝子、甥の健介、従業員の行人、知郎。農業は初めてで何をやればいいのか戸惑う梢恵ですが、用事があって東京に戻った日、東日本大震災がおきます。農業で被災者の役に立ちたい。そう思った梢恵は再び長野へ。
 わたしも幼い頃から手伝わされてきたものですから、いろんな情景が目に浮かびます。トラクターをトラックの荷台に載せる。種もみを苗床に植える。代掻き、田植え、稲刈り。うちはコンバインではないので藁が吐き出されるのは見たことがない。精米機も今は使ってないな。なんて、いつも以上に自分と引き比べて読んでしまいました。
 特に文吉さんの部分が好きですねー。息子から土地改良だと勧められたら業者は、建築廃材を埋め立てていく。騙されたと気づいても遅く、文吉さんと息子の仲もぎくしゃく。冒頭読み返すと、訪ねてきた梢恵に「土地改良か」「土地の話ならたくさんだぞ」と語っている。いいですね。丹念な伏線は嬉しくなります。
 ただ、梢恵が気持ちを動かされているのが行人なのか健介なのか、わかりづらかった。皆さん分かるもんですか? それから、「ひろみ」のママのユミさんと君江さんが似ているのはなぜか、なんて引っ張ってオチは「他の人から見たら全然似ていないらしい」ってーのはどうなの? そのへん不満です。「ひろみ」でニラせんべいとキャラメルアイス食べたい。
 ところで西島秀俊って何者なんでしょう。誉田さんの別シリーズに出てくるのですかね。朝子が東京で会った有名人だそうですが。
 震災関連の「思い」も深く感じられて、しっとりと読むことができました。ラストの片山社長の説教がたまりません。