くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「真実への盗聴」朱野帰子

2012-09-09 21:33:14 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 この表紙カバーから、てっきり警察もの、もっとはっきりいえば防諜ものだと思っていたのですが。
 まあ、確かにスパイ活動はしていますが、テイストとしては医療SFっぽい。わたしが読んだ中では、乾くるみの「スリープ」が近いように感じました。朱野帰子「真実への盗聴」(講談社)。おもしろかった。ぐんぐん引き込まれます。どちらかというと、このところ本腰が入らずにいたので……。
 この作品には、二十八歳の女性が三人称登場します。「私」こと七川小春、超天才でありながら人の心の機微に疎い石川千沙、新薬の被験者宮沢聡子。
 遺伝子治療の新薬として注目を集める『メトセラ』。サプリメントのように手軽に、寿命を延ばすことができる。
 ブラック企業に嫌気がさして仕事を辞めた小春は、『メトセラ』を開発しているアスガルズという会社の重役黒崎から、ある提案を受けます。子会社に派遣社員として入社し、秘密を探ってほしい。
 どうもそこには「秘密結社」があるようだというんですね。半信半疑ながら、アスガルズの正社員になるべく頑張る小春。実は彼女も幼いころに遺伝子治療を受けたことがあり、その影響かものすごく耳がいいのです。隠しカメラも内緒話も筒抜け、ということですね。
 こういう本筋に加え、背後には日本という国が背負っている問題を浮きぼりにしています。少子高齢者社会、年金制度、パラサイトといわれがちな若い人の苦悩と、将来の不安がさらけ出されるのです。
 秘密結社の内幕を知るには、組織の中に入らなければならない。そう決意した小春は、「赤い○」「緑の○」「青い○」と駒を進めていきます。協力者でありながら今ひとつ信頼のもてない海野との関わりや、千沙の様子なども気にかけながら。
 エンディングはすっきり。小春の旦那さんもいいよね。