くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「短劇」坂木司

2009-11-20 05:31:40 | 文芸・エンターテイメント
黒坂木登場。
かつて北村薫の「語り女たち」に載っていた「別の話」を読ませたら、
「これは黒メロスです!」と言った生徒がいます。そのでんでいうと、これはやっぱり黒坂木。坂木司のブラックな掌編集「短劇」(光文社)。切れ味鋭いナイフのような。いや、それともわざと鈍くして、傷を深めているのかも。
普通に始まったなーと思ったのですが、どんどんどんどんブラックになっていきます。うーん、ショートショートってブラックとシュールが多いかもしれないな、と思いつつ。
気に入っているのは、まず「しつこい油」。
粘着質な復讐に燃えるタイプの女性が、恋人を奪った女のために食中毒を企てる。その結果……。
簡単に言えば、相手の方が一枚上手だった、という話なのですが。
でも、どうなんでしょう。二人の間に立たされた男性はどちらとだったら幸せだったのかな。とも考えさせられるのですね。
恋人のいる男性を奪うために平気で嘘がいえる女と、彼のことを信じる女性。たしかに、いきすぎたハンムラビ法典のような人ですが、それもこれまでに三回のことだし。(多いのか少ないのか、絶妙ですね)
彼女の場合、努力もなしに恵まれた人生を送る人が許せないのだな、という気はします。これまでのつけがまわってきたのか、それとも上には上がいるということなのか。
わたしも古い油で人参サラダ作って気持ち悪くなったこと、あります。(坂木さんの話では味に変化はないようでしたが、わたしのときは明確に違う味でした)
あとは、「肉を拾う」もおもしろかった。始め、なんのことやらわからない場面の描写に戸惑いましたが、なるほどね! と納得する過程です。トカゲかー。そういう肉かー。入浴剤かー。なるほどねー。
着眼に驚いたのは「試写会」です。これは、自分を普通だと思っている男が、客観的に見ると嫌な奴であることを周囲につきつけられる話。このコンセプト、結構書くには難しいと思うのですよ。ショートストーリーならではの作品といえると思います。
「短劇」は、テレビ放映されたオムニバスドラマを彷彿とさせる部分があります。「世にも奇妙な物語」みたいな。(「ヒッチコック劇場」?)
「切れない糸」や「シンデレラティース」の白坂木作品からは感じられないタッチかもしれません。「ホテルジューシー」を買うかどうかずっと悩んでいるわたしなのですが……。
あ、でも「夜の光」に描かれる事件は、結構シビアだったことを考えると、坂木さんとしてありの話なんだろうな、と。
ただあとがきはちょっと悪意が効き過ぎかもしれません。あれはあれで一つの作品なのでしょうけれど、毒が入りすぎかな。
雑誌連載は、すごくおもしろかったろうと思います。まとめて読むとちょっと重苦しいですが、月に一度なら待ち遠しいでしょうね。
うーん、「ホテルジューシー」を買うのはちょっと遠退いたかも(笑)。