くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「かわむらまさこのあつい日々」村中李衣

2009-05-28 05:12:14 | YA・児童書
あとがきを最初に読んじゃったの。この話はモデル小説らしいです。だから、かもしれませんが、この小説は川村さん本人の語りで読みたかったという気がするのです。
村中李衣「かわむらまさこのあつい日々」(岩崎書店)。
主婦川村まさこは、夫と子供二人(高校生の三和子と小学生のひろし)、そして姪のてるみの五人暮らし。そこに留学生のセーラがホームステイすることになりました。三和子が、まだステイ先が決まらないと聞いてつい引き受けてしまったのです。
セーラは、なんでも「ダイジョーブ」で乗り切ってしまい、ボランティアの募金活動にも駆り出されます。しかも、その様子をテレビ局が取材に来ちゃう。市長さんが恰好よく募金しようとしたところに、入院しているはずのまさこたちが現れ、撮影はしっちゃかめっちゃかに。
なぜ入院か。天ぷら鍋をひっくり返して全身に火傷を負ったから、なのです。意識が戻るまでずっと「たたたたた」と呟き続けていたまさこ。このへんのページ構成がおもしろかったです。内澤旬子さんのイラストはいいかんじ。
さて、新米のお医者さんに毎日患部の記録写真を撮られ、それがまた下手くそなのです。ある日は写真整理には日付がないと不便だからと、メモ書きをさ骨に貼られてしまいます。
「かんじゃは、きずより心がいたむんだ」
と、そのお医者さんを張り飛ばすまさこ……。
似たようなエピソードをもうひとつ。好きな女の子のランドセルを覗き見たことで、担任から生け花をやっていることだし、いっそ女みたいにリボンをつけてきたらと嫌味を言われたひろし。毎日毎日リボンをつけて登校し、とうとう好きな女の子から「もう、いい。もう、わかったから」といわれるのです。(いや、でもわたしにはわかんないよ!)
んーと。この担任をまさこの物語に近づけるためなのでしょうか。わざわざ彼が病院にやってきてひろしの行動を説明したようです。でもまさこにとってはたいしたことではないんでしょう。へらへら笑っていたら、いつの間にか帰ってしまった。
しかも、彼は三和子に会って自分のクラスにいた子供だと言い、さらにひろしが変なのも頷けると言って去って行きます。
ちょっと待ってー。なんでこのときまで自分が担任した子の弟だと気づかないの? でも三和子の顔を見てすぐに思い出すなら、そんなにひどい人じゃないのでは。(小学生から高校生では、大分印象が変わると思うんです)
この話、ひとつひとつの分量は少ないんですよ。非常にさくさく読めます。五分で三つくらいは読める。でも、非常に読みづらいのです。何故って、これが「外側から見たことしか書いていない」んです!
普通、小説は誰か視点になる人物がいます。その人の目を通して、事物を見るのですね。そして、登場人物の考えというフィルターを通した物語が展開される訳です。
しかし、この小説、誰も自分の思いを吐露したりはしません。先に書いたお医者さんに怒りの鉄拳をお見舞いするまさこですが、一体どの時点で怒り始めたのかわからないです。だってその前は、疑問は口にしているけどとくに傷ついた様子じゃないよ。
「どうして、笑っちゃいけないのかねぇ」とは言っていたけど、決して怒りを我慢しているようには見えませんでした。
ですから、「行動から心情を読み取る」しかないんですよ。でも、それがわたしには辛かったのです。
だって、登場人物が個性的(すぎ)なんだもの。
出張先で飲んだくれて、警察に通報されるような父。わざわざやってきた担任の話を聞き流す母。(普通は病院まで保護者を訪ねて行かないのでは?)
女の子の荷物を覗き見したくせに、反省するでもなくリボンをつけて登校する弟。
まあ、別に三和子が主人公ではないのですが(何しろ誰の感情も書かれないから、誰が主人公なのやら……川村家全体なんでしょうけど)。
三和子も変わった子だとは思うのです。しかし、その子がセーラに対して冷たい態度をとるようになったきっかけが、よくわからない。留学生なのに一緒の授業を受けず、個別授業を受けているから? 病院の看護婦さんに「タダで英語を教えてもらってるの? いいわねぇ」と言われてむっとする気持ちはわかるのですけど。
そしたらラストに書いてありました。
「あの子、ここんところ日本にこだわりすぎてたからね。あたし、みててイライラしてたんだ」
えっ……。
そ、そうなの? 日本にこだわっているようには全然見えないんだけど。どちらかというと、オーストラリアから来たことに日本の人たちが過剰に反応することに対して不満があるのでは。
まーそのー、多分書き方によってはおもしろいんですよ。ベットを並べた病室で、川村さんのおしゃべりを聞くようなのであれば。でも、この文体で、この内容では、ごめんなさい。わたしの感想は率直に言って、「非常識な一家、だよね」。