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くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「『守り人』のすべて」上橋菜穂子

2012-04-23 21:50:22 | 書評・ブックガイド
 図書室にこのシリーズを揃えたので、ガイド本も買ってみました。上橋菜穂子「『守り人』のすべて」(偕成社)。
 何度か書きましたが、本校図書室、非常に品揃えが悪く本棚も少なく、学習空間としての使い勝手も悪い。今年は委員会も担当できるので、表示をつけたり並びを替えたり学級文庫を始めたりと、正面切って改革に乗り出してみました。
 ちなみにこのシリーズも、「蒼路」で止まっていました。担当がころころ変わって継続購入していなかったのですね。
 今回「炎路を行く者」を読んで、シリーズ全体を読み返したいと思ったのは、多分わたしだけではないはず。そんなときの復習にも役立ちます。
 全体のあらすじと人物紹介、用語解説、各国の情勢といったところや、佐藤多佳子さんとの対談、関わりのある方々からのメッセージなども収録されています。佐藤さんとの対談は初出の雑誌で読んでいるのですが、お二人の熱のこもったお話についにやにや。お互いの作品を読み込んでいるあたりが合評会みたいだったり、共有するバックボーンに肯かされたりします。
 「炎路」についての話題もありましたよ。「下町のしょーもないガキだった頃の話なんだけどね」だって。
 でも、この本でわたしがいちばんおもしろく読んだのは、平野キャシーさんとの対談でした。「守り人」を英語圏に紹介すべく尽力するキャシーさん、編集のシェリルさんと、メールでやりとりしながらの作業のお話がとにかくおもしろい。上橋さんが自腹を切ってでも翻訳をお願いしたいと決意するときに、偕成社が協力を申し出てくれる。日本語と英語の言葉感覚の違い。トロガイが女であることを隠しておかないとチャグムが驚くシーンが活きてこないから、「master」と呼ばせることにしたけれど、男性を表す形容詞だから「ヤクーは、たとえ女性でも、すぐれた呪術の技を持っている者はマスターと呼ぶ」という注釈を入れたという話とか。
 また、「気」という言葉には文化的な概念が強いので翻訳には使いたくないというお話も納得でした。(それなのに「レコ」はいいのか?? とも思いつつ)
 短編「春の光」もいいですよ。タンダとの穏やかな暮らしが見える。どうしても養い親のジグロがクローズアップされてしまう中で、バルサに自分の父親の記憶が残っていることも、なんとなくうれしい。
 ところで、先日新聞に「バルサ敗れる」とかいう見出しがあって驚いたのですが、サッカーのバルセロナチームをそう呼ぶのですか? すみません、世間知らずで。
 「闇の守り人」は読み返したいと、現在痛烈に思っております。

「マンガ大好き!」その2(?)

2012-02-01 22:16:15 | 書評・ブックガイド
巻末の年表で、あさのさんの生い立ちと後に愛読したまんががどの時期に発表されたのかがわかるようになっているんです。紹介されるまんがは260作品余り。みっちりと書かれております。一行のすきもないページもある。
全体として見渡すと、少女まんが・少年まんがの区別もなく、有名なところが網羅されているな、と。
その中で、本文に紹介される「モモンガのムサ」(手塚治虫)のような作品も取り上げられる。多分読んだことがないと思います。手塚作品は時々無性に読みたくなってしまうんですが、なにしろ数が多いから。
わたしが好きなのは、「安達が原」(だと思う)。これも余りメジャーではないかもしれませんが、謡曲と近未来が融合されるという知識の深さ、手料理に毒消しをふりかけるという行為の伏線がなんとも上手い。「火の鳥」ももちろん好きです。
こうやってみると、昭和五十年を境に、自分にとっての「好きなまんが」が急増することに気づきます。その前だと「三つ目がとおる」「ポーの一族」くらいですが、そこから「はいからさんが通る」「11人いる!」「ガラスの仮面」と増え、「うる星やつら」「あさきゆめみし」「日出処の天子」「めぞん一刻」「キャッツ・アイ」「六三四の剣」、それから「動物のお医者さん」「笑う大天使」「天才柳沢教授の生活」。このへんはコミックスも持っていますねー。
ただ、わたしの場合は平成以降のまんがとなると、ここに取り上げられたものをほとんど読んでいません。「イグアナの娘」と、あとはごく最近の「とめはねっ!」「ちはやふる」くらいでしょう。「ドラゴン桜」「MAJOR」「寄生獣」「フラワー・オブ・ライフ」は読んだかなー。
きっと、わたしの読むジャンルはマイナーなんですね。いいですけど……。
ちょっと横にそれますが、先日「らんま1/2」がドラマ化したとき、新聞の紹介欄に、「活発な道場の跡取り娘が、水を浴びると女になる特異体質の青年に振り回される」というようなことが書いてあって愕然としたのです。いや、間違ってはいませんよ。たしかにそういう話ではあります。でも、それでいいのかと。
実際に平成の世の中で、わたしはどんなまんがを読んできたのか。
いろいろ考えましたが、どうも印象深いのはその前、つまり思春期に読んだまんがの方なんですよね。
思いつくままあげると、まず、太刀掛秀子と萩岩睦美がわたしにとっての二大スター。「まりの君の声が」「青いオカリナ」「べべ・ピアティ」、「魔法の砂糖菓子」「パールガーデン」「小麦畑の三等星」……。あさぎり夕「あいつがHERO」、佐藤まり子「あこがれ二重唱」「落ちこぼれカンパニー」(アボガドの種の水栽培してみたい)、曽禰まさこ「海に沈んだ伝説」「不思議の国の千一夜」(セブラン!)、志麻ようこ「なないろ毛糸ラブもよう」、高階良子「はるかなるレムリアより」。
りぼん、なかよし、ちゃお(「名探偵江戸川乱子」とか)、あ、キャロルっていう雑誌も読んでました。上原きみ子さんの連載をやっていたんですよ。わたしは少コミの「青春白書」が好きで。ラストシーン、泣きました。「一人ペア浅倉」のデススパイラル!(知らない人には全くわからないですよね……)
それから、川崎その子「土曜日の絵本」。コミックス多分二冊持ってる巻もあります。「野葡萄」をもう一度読みたい。
沖倉律子「行け!柴崎真澄」とか「卯子その群青色の青春」とか。柿崎普美「ブラッディ・マリィ」
川原泉、佐々木倫子、山口美由紀、池田さとみ、紫堂恭子、杉浦日向子、業田義家……。
思えば、あんまり少年まんがは蘇ってきませんね。満遍なく読んではいるんですが。
真剣に考えた結果、まず小山田いく「すくらっぷブック」「ぶるうピーター」、手塚治虫「七色いんこ」、高橋留美子「人魚」シリーズ(あ、でも「うる星」の竜之介が好きでした。「海が好きっ」)、そして、さだやす圭「なんと孫六」!
この前、本屋で77巻を見かけました。わたしが読んでいたとき、孫六は高校野球をやっていたけど、今は何をやっているんだろう。歳は? なんかあのあとゴルフをやっていたよね?
すみません、あさのさんの本よりも、自分の記憶発掘の方が中心になってしまいました。(まだ書きたらない)
当然のようにわたしも、「マンガ大好き!」なのであります。

「あさのあつこのマンガ大好き!」 その1

2012-01-31 21:22:40 | 書評・ブックガイド
この本を読んで、いちばんの感想は、「あさのさん、もうお孫さんがいるんだ~」。その次は、「あさのさんと柏葉さんて同じくらいの年なのね」でした。
まあ、それはさておき。
先日、女性週刊誌で、あさのさんと三浦しをんさんが「大人読み」できるまんがについて対談するっていうから意気込んで立ち読みしたんですが、うーん、なんか懐かしい作品を並べているなという感じがしました。
この本も、コンセプトとしては同じなんですけどね。「あさのあつこのマンガ大好き!」(東京書籍)。
多分、原稿を書いたというよりはインタビューものだと思うんですが。かなり話し言葉だし。巻末に年表がついていて、あの地震のときには東京のホテルにいたとか。(でも、そんなときなのに、「東京書籍の編集者がインタビューに来たのにはあきれた」とのこと。)
校正間に合わなかったのかも、と思うような改行のミスも二カ所ありました。
仕方がないのかもしれないけれど、アニメと原作まんががごちゃごちゃに語られていることが、厳密な意味ではどうなのかと感じます。特に最終回が違うことなど言及されていました。
あさのさん自身が、自分の作品のメディアミックスにそれほど抵抗がないと語られているので、そのせいもあるんでしょうか。
古い作品ほど、同一視される傾向が強いように思います。「ひみつのアッコちゃん」の呪文なんてアニメだけだし。(あさのさんも「あつこ」だから思い入れが強いそうです)
わたしは、ちょうどあさのさん世代とお子さん方の世代の間なので、自分にとってどんぴしゃという作品は少なかった。読んでいるけど、好みではないものが取り上げられていた感じですね。
その筆頭は、「ホットロード」。ごめん、別マでこれだけ飛ばして読んでいた。全く興味ないです。このころなら、わたしの好みは多田かおるだなー。「ピンクの雪が降ったら」とかデボラさんとか……(タイトルなんだっけ?「きみの名はデボラ」?)。聖千晶もよかった。最近、「お祭りシリーズ」(苫子と峻平ちゃんですね)を読み返してしまいましたよ。
それから「ろくでなしBLUES」も嫌い。いや、不良ものだからという訳ではないですよ。それなりに読んではいるので(弟がそういうの好きなのです)。
この作品の嫌な点はふたつ。ヒロインが好きになれない(敵に捕まるような役立たずは許せん、と思いました)。序盤ギャグ調だったのが、人気とともにシリアスになっていくのが納得できない(ジャンプはいつもそうですけどね……「キン肉マン」までそうなったときには困惑しました)。もしわたしのイメージによる記憶違いだったらごめんなさい。
最後にあさのさん推奨マンガ36タイトルの紹介があるのですが、わたしと被るのは数作品(萩尾さんのと、「らんま1/2」「とりぱん」)くらいですね。うーむ、道理であさの作品との間になんだか隔たりがあると思った。
お好きなのは手塚治虫と吉田秋生だそうです。ただ、「BANANA FISH」がアッシュの死で幕を閉じるのが不満だそう。わたしはあれはあれでいいと思うんですが。アッシュの最期の表情、目に浮かびます。
吉田さんの作品、わたしは「吉祥天女」が好きだったんですが、それについてのコメントはなかったなー。「川よりも長くゆるやかに」や「櫻の園」はあるので、やはりあさのさんの空白期にあたるところが、わたしの思春期だったということでしょうか。(年表にはタイトルが記載されていますが)
こういう企画はおもしろいかも。感化されたらしく、わたしもまんがについて語ってみたくなりました。

「読書の腕前」岡崎武志

2012-01-17 05:43:06 | 書評・ブックガイド
岡崎さんの本を読むのは初めてです。「古本道場」挫折したので……。
でも、こちらはおもしろく読みました。「読書の腕前」(光文社新書)。図書館でぱらぱら立ち読みしたんですが、書評に関するあたりとか興味深かったので借りてきました。なにしろ、ある連載書評について「十中八九、自分なら絶対手を伸ばさないような本が多かった」ですよ。しかも、ここの活字だけ小さいポイントで書いてある。
自分では気に入らない本をどう料理するか。皮肉たっぷりに、ピリッとわさびをきかせてみたり、ときには娘さんが書いているふりをしたり。
ベストセラーを数年後に読んでみるおもしろさにも触れていて、いやいや、楽しい楽しい。
著者は古本の収集でも有名な方ですが、ネットでの買い物はしないそうです。意外と新古書店にも日参していて、某チェーン店などは「ブ」と省略されている。百円の廉価本が目当てですって。
でもね、本ってたまるでしょう。「ツン読」も読書のうちと言われるとホッとしますねー。買った本をみんな読むなんていう人は、要するに購入する本の数が少ないんだという考察、あっぱれです。
そんな岡崎さんは、貯まった本はやはり古本屋さんに引き取ってもらうんだそうで。でも、売りにいった場所でもやっぱり本を買って帰るんだろうなァと推察いたします。
少年時代、国語の教科書がアンソロジーの役割を果たしてくれたともおっしゃいます。そして、授業を通しての先生との関わりが紹介されます。
他の教科の出来は振るわなかったけれど、読書が好きだった彼は、プリントを黙読する課題で、時間内にクリアしたに関わらず、それは嘘だと決めつけられます。どうしても反りが合わない担任に悩んだ彼が救われたのは、このとき引越しがあったために転校をしたことだそうです。新しい学校には、作文の天才だとほめてくれた先生もいて、生き生きと過ごせたようでなによりですね。
国語に目を向け、文学のおもしろさを教えてくれた先生との出会いは、その後中学、高校でもあります。現代国語の授業で、「一つの文章をそれほど深く味わうことができるのか、と目を開かれる思いがした」のだそうです。
実際、岡崎さんは講師として教壇に立っていたこともあるようで。そういう薫陶の場面はしっとりと胸に残ります。
本をどういうふうに読んでいくか。誘導するのではなく、自分なりの読み方ができるようにナビゲートする。わたしは、国語の学習活動にはその考えが欠かせないと思っています。本を読むという行為は、同じようなスタイルをとりながら、やはり、読者の腕前に左右される部分はあるよな、と考えさせられました。
最後におすすめの本が紹介されていますが、文中岡崎さんが自分でいうように、あまり人にすすめられた本って読まないなーと思っていました。でも、高階杞一「早く家へ帰りたい」(偕成社)は言いようのないかなしみを描いた詩集だと思います。つらくて泣いちゃいそうなので、やっぱり読めないかも。

「名文探偵、向田邦子の謎を解く」鴨下信一

2011-10-22 21:17:20 | 書評・ブックガイド
修学旅行で見かけて、買うかどうか大いに悩んだ本です。結局予算とその後の行動を考えてやめたのですが、地元図書館に入ったので借りてきました。おもしろかった。
「名文探偵、向田邦子の謎を解く」(いそっぷ社)。筆者の鴨下信一さんは演出家で、向田さんと組んだドラマ作品も多いそうです。
作品とその人となりとを重ね合わせるのは、知人である人の特権ですね。今年は向田さんが亡くなって三十年になるそうです。こういう本が出版されるのは読者にとってもうれしいことです。
読んでいていちばん感じたのは、「思い出トランプ」への思いいれが強いことでしょうか。この作品、わたしも高校生の頃に買ったのですが、記憶がむくむくとわいてくる感じがして。
「花の名前」「かわうそ」「大根の月」……本は実家にあるのでもう何年も読んでいないのに、どんな内容なのかイメージできる。お皿の裏を使って包丁を研ぐんですよね……。
それから、富迫くんについて書いている「嘘」と、父親の死をめぐれ母の行動の「嘘」を、「胡桃の家」という作品を媒介に説き明かすのが興味深いと思いました。
家長として生きることを拒否したかった。一家の稼ぎ手(ブレッドウイナー)の死は、何かあったら家を継がなければならない恐怖を後押ししていたのだといいます。
教科書に載っている「ごはん」についても筆がさかれています。「コードバンの靴」の注釈は書いてありますが、ここではさらに一歩踏み込んで、「火と水の中を歩くのにはこのくらい頑丈な革靴でなければならなかったからだ」「金属の鋲を打った革底でなければどうにもならなかった」
さらに「紋切り型で切り口上な言い方をするときは怒り心頭なのである」とあり、「空襲」にひどく怒りを感じているというのです。
この作品の明るさやユーモアは、「泣くがいやさに笑い候」であると筆者は語ります。「ごはん」は向田さんにとって珍しく戦争について描いた作品であること、背後には強い反戦の気持ちがあることもよくわかりました。
朗読をするときの特徴の話もおもしろい。「座布団」を「ザブトン」と読む人と「ザ・ブトン」と読む人がいる(後者は年配の方に多い)とか。
「沈黙の石」(サイレント・ストーン)という考え気になります。胆石があっても痛くもなんともない時期のことをいうそうですが。たしかにあるのに、いつもはなりを潜めている。でも最も効果的にその威力を発揮して、痛烈な痛みを引き起こす。筆者は、これを「告発者」とも呼んでいます。
このサイレント・ストーンが埋め込まれているのが、向田作品の構成であり型(フォーマット)なのだそうです。
文学的な作品を読み解くこと。わたしはまだまだ修業がたりません。様々なしかけに目を向けながら、読んでいかなくてはならないと感じさせられた一冊でした。

「誤読日記」斎藤美奈子

2011-04-17 05:23:08 | 書評・ブックガイド
やっぱり斎藤さんの書評がいちばん好き。どうも最近政治寄りなので、こういう造りの本をもっと出してほしい。「本の本」みたいに分厚いと読みにくいので、内容としてもこのへんが妥当ですよね。
斎藤美奈子「誤読日記」(朝日新聞社)。
いやいや全然、誤読なんかじゃないっすよ。まっとう。そして、抜群におもしろい。
「情熱と冷静の間」の装丁は銭湯ののれんみたいだとか、村上春樹のエッセイの照れ具合とか、距離感が絶妙です。(わたしはどっちも読んだことないんですが)
興味あるのは、良純さんが書いた「石原家の人びと」。シンタローの都知事再選にはタイムリーな話題です。でももう売ってないか。
TAKURO「胸懐」も読んでみたくなりました。中高生の副読本になりそうな正統派の青春ノンフィクションだと斎藤さんはおっしゃいます。かつて、GLAYにはまって本もあれこれと読んだので、斎藤さんが引用する部分は非常によくわかる。ただ、こういう流行ものは読みたいと思ってもなかなか入手しにくいですね。
筑摩書店が編集した「二十一世紀に希望を持つための読書案内」に対して、まっとうな意見にたじろいでしまうという意見がありました。高尚すぎるラインナップでは、「若者の読書離れ」を解決することはできないのではないか、と。
わかります。わたしも新聞の読書欄で、知識人の年間ベスト本など見るたびに、こういう本を紹介されても読まないよなあと思ってきました。同じように、もし自分が一冊だけ取り上げるように言われたら何をあげるのか考えてしまいます。
簡単な本ばかり読んでるんだろ、と思われるのが嫌で、見栄をはってしまうかも。
でも、わたしの読書傾向は、YAや教材の補足になるようなものが多いので、余り難解な本は読みません。
ああ、でも斎藤さんがこの書評で俎上に乗せている本を、自分がほとんど読んでいないことに気づきました。でも、読んだ気になるというか(笑)。
連載時に比べて、その後のエピソードがちょこちょこ補足されているのもおもしろい。本って、生物なんだな、と感じさせられます。
書評は好きなジャンルなのでよく読みますが、どの紹介文を読んでもおもしろいというのは稀有なことです。文体模写(モノマネ?)もあり、斎藤さんの「芸」が活かされています。
そう考えると「本の本」はあんまり活かされていないのではないか、と。買ってから本棚のいちばん端に入れてあるのに、なかなか読まない。「誤読日記」や「読者は踊る」「趣味は読書。」は二回三回と読んでいるのに。
文庫では後日談も増えているのでしょうね。そちらも読みたいものです。

「謎のギャラリー」北村薫

2011-03-24 20:37:44 | 書評・ブックガイド
北村さんの本の中で、これがいちばん好きですね。たまに読み返したくなります。今回で四回めかな。
「謎のギャラリー」(新潮文庫)。名作博本館。
北村さんがどのような角度から作品を読み解くかが示されていて、心躍ります。
でも、不思議なことに、作品自体を読むよりも、北村さんの語りそのものの方がわくわくするんですよね。わたしがぽんとその本だけ預けられて、おもしろく感じられるかどうかはまた別問題といいますか。
アンソロジーにあたる「謎の部屋」「こわい部屋」「愛の部屋」も文庫を持ってはいるのですが……。
今回読み返してみて、わたしが翻訳の表現の違いに目を向けるのは、もしかしてこの本の影響なのかもと思いました。具体的に例をあげて紹介されるのはポオの作品と「大きな木」ですね。
チェーホフや阪田寛夫、怪談、リドルストーリー。北村さんの話題は豊富で、自由自在です。
後年、宮部さんがこの本を読み、どうして自分を対談相手に呼んでくれなかったのかと文句を言ったと聞きました。編集者との掛け合いの形式で描かれるこの本、実は北村さんが一人で書いている。架空対談ですね。
それを知ってからの読み直しなので、いろいろと楽屋裏を考えさせられました。
うーん、実際に読むとまた肩透かしを食うかも知れませんが、坂口安吾の「アンゴウ」とマーク・トウェイン「アダムとイヴの日記」大久保博訳を読みたいですね。
宮部さんとの共著「名短編」シリーズも、解説対談のところだけ集めて文庫にしてくれないかしら。

「一生読書好きになる本の選び方」

2011-02-08 05:29:28 | 書評・ブックガイド
買っておいてなんですが、このムックの読者対象って、どんな方でしょう。
「一生、読書好きになる本の選び方」(学研)。「完全保存版」だってよ!
まあ、結構児童書ってロングセラーですからね。うちでは夫が愛読した「からすのパンやさん」や「どろぼうがっこう」を、子供たちが読んでいます。
このムックで紹介されている本は、三十年後でも「現役」かも知れません。
今、小さいお子さんがいて、その子に本を選びたいのかしら?
でも、基本的には皆さんがもうそれなりの知識をもっているような感じに思われるのですが。例えば、学校側でもっと本を読んでほしいと思う基準はクリアしている子供(の保護者対象)に感じます。
陰山英男や深谷圭助へのインタビューで、実際教育界で名のある人の家庭教育を紹介したり、勉強に役立つ本をリストアップしたり。
わたしは学校図書館に入れる本のカタログ的な使用目的に買ったのですが(自分好み以外のジャンルを紹介する本って貴重なのです)、まあ基本的には我が子に本を与えるためですよね。
でも、読んでいてどこか頭の隅っこの方でちりちりと気になることがあるのです。
本を読むことを、なんだかとてもすばらしいことのように提唱するツクリに疑問を感じるのですが。
なんていうか。
本を読むイコール学習効果が高まる。これを直截に考えてやしませんか、と疑問に思うのです。
そりゃ国語教育に携わる者としては、読書が学習に深く関わることはよくわかりますし、読書指導もしょっちゅうします。でも、それは「言語能力を伸ばす」ためではないですし、「国語センスを伸ばす」ためでもないでしょう。「最強メソッド」とあるけど、手法で本を好きにするのかと疑問を感じます。
「本には、学力だけでははかれない、やさしさや思いやりなどの情緒を育み、知恵を養う力があります。」とか「中身のある豊かな人になる」とか書いてあるけど、本を全然読まないけど優しい人もいれば、本好きで性格がきつい人だっているわけです。
そういうことを狙って、手法を用いて本を読ませることに意味があるのか。
冒頭に高田万由子のインタビューがありますが、現在海外で生活している一家を参考にする必要があるのか。
読書感想文のスキルを身につけるためのシートはすごくいいと思うのですが、全体としてわたしにはこの本、もやもやしたものが残る本でした。

「本に埋もれて暮らしたい」桜庭一樹

2011-02-07 21:33:52 | 書評・ブックガイド
ここにならある、と踏んで買いに行った本が、実際ちゃんと売っているとうれしいものですね。二三軒回って見つからなかったのに、面陳列で三冊ありました。やった~。いそいそと買ってほくほくです。
桜庭一樹読書日記四冊め「本に埋もれて暮らしたい」(東京創元社)。もう埋もれてるんじゃないの、とツッコミを入れつつ、おもしろーい、あーこの本も読みたーい、と没入して読みました。
自分とは傾向の違う人の読書日記もおもしろいものです。桜庭さんの作品も三冊しか読んだことはなくて、でも、本読みとして信頼できる。先日学校図書館用のポスターで、桜庭さんの読書家ぶりが紹介され、執筆は裏打ちされた読書の賜物であると書かれていました。
今回は新婚ほやほやなんだし、甘い生活ぶりなのかしらとちょっと警戒しながら(?)読んだのですが、旦那さんの登場はたった一度きり。あとは編集さんと語らって仕事して本を読んで寝る、そんな暮らしです。すごく楽しそー。でもわたしだったら、本に埋まる前にあちこち散らかり放題になってしまうな。まあ、その大半は本でしょうけど。
この本の影響で、高峰秀子の本を買ってみました。あとはスタージョンの「不思議のひと触れ」(河出文庫)を読みたいなあ。わたしは海外ものに疎いので、普段は興味も抱きません。だけど、桜庭さんの語りは、すごくおもしろそうなの。実際のところ趣味に合わないものもあるのでしょうが(わたしががっかりした作品を絶賛してたりね)、ちょっと手に取ってみたいような衝動に駆られる。これは、本に対する情熱のなせる業なのだと思います。
あー、「東大の教室で『赤毛のアン』を読む」(山本史郎)が気になるっ。でも、東大出版会の本なんてどこで入手するのだ。
「親不孝長屋」や「妖異金瓶梅」、四方田犬彦も気になってならない。大岡昇平の「事件」もすっごいおもしろそうです。
それにしても、読んだはずの「ディアドクター」 のこの場面がちっとも記憶にないのですが……。島にやってきたお医者さんの話じゃなかったっけ? あれ? 短編なので印象的な話しか覚えてないのかも。
小泉喜美子さんの翻訳ものも多くて、読んでみようかなーと思いました。
わたしの買った本には書店に着いたらはがすはずではないかと思われる日販のシールがついています。せっかくだからつけたままにしておこうかと。
しかし、このシリーズ、ちょうど話題に上った本が単行本になって出版される時期に書店に並ぶのですよね。今回なら「伏」とか……。
ついつい前の三冊も読み返したい気持ちになる今日このごろなのでした。

「推理日記PARTⅢ」佐野洋

2011-01-22 06:47:51 | 書評・ブックガイド
佐野洋「推理日記PARTⅢ」(光文社)。84年刊です。
「推理日記」も三冊めになると、やっと自分の知っている作品が出てくるような気がします。
「猿丸幻視行」とか「この子の七つのお祝いに」とか「花嫁のさけび」とか。
たしかに読んだのでアウトラインは覚えているものの、あまり細かいところは覚えていないので、「あれ、どういう話だっけ?」という感じなのですが……。
でも、岡嶋二人の「あした天気にしておくれ」は、よく覚えています。文庫も持っているし、その顛末を描いた「おかしな二人」も持っている。
つまり、乱歩賞にこの作品を応募したとき、その時期にはもう「不可能」になってしまったシステムを使ったので少し過去に設定したのに伝わらず、しかもトリックが夏樹静子さんの作品と似ていたので受賞を逸したというものです。岡嶋サイドはオリジナルで作ったものだったので、たいへん悔しい思いをしたのですが、佐野さんは空前絶後のトリックなどありえないのだから、それだけの理由で落選にするのはどうかと思うと言っているわけです。
今、そのあたりの経緯を調べ直そうと思ったら、岡嶋本が見つかりません。何故だっ。
自分の頭の中の本棚に、書名ばかりがはさまっているような気持ちです。
まあ、普通は十何年も前に読んだ本の細部までは覚えてないと思うのですが、ちょっと気になったことがあって。
フィンランド式メソッドの本を立ち読みしたら、子供の速読を自慢するお母さんが出てきて、それをいさめるために筆者は「映画を四倍速で見て、楽しいと思うのか」と聞くのです。
わたしも速読は興味ありません。読み方がまるっきり違うので、自分は速読ではないと思っていますが、でも一般の人と比べると速いのは事実。(同僚の今年の目標冊数は五十冊とのこと)
この筆者の意見からすると、わたしの読み方は二倍速くらいでしょうか。わたしには充分わかりやすい速さなのですが。それこそ「まじめにこつこつ」読んでいるのですが。
味わって読むと、自分が過去に読んだ作品のことはよく覚えているものですか? 読み返さなくとも?
ずれてきたので、戻しましょう。
佐野さんの意見を読んでいると、「視点」にずいぶん気を使っていることがわかります。客観的に書いているのに、時々内部に入り込むのは嫌いみたいですね。
でも、自分が小説を読むときにそういう読みをしているかというと、そうでもない。多少なら視点がぶれても気づかないことが多いように思います。
岡嶋作品に勝って、この年乱歩賞に輝いたのは、「原子炉の蟹」です。佐野さんは、この作品に不満がある。というのも、これまでの受賞作を読んで研究した結果、こういう作品になったのだそうです。「傾向と対策」とでもいいましょうか。推理小説への愛のようなものを感じないのですね。
さらに、新聞記者だったのに社内規定がめちゃくちゃ。こういうのは賛成できないとおっしゃいます。そうだよねそうだよね。
翌年の中津文彦さんの受賞は、そのコメントに比べて期待感を持たせます。同時に岡嶋さんが「焦茶色のパステル」で乱歩賞をとったことについて、自分とタイプが似ているように思うと紹介しています。
当時気鋭の若手だった方々も、二十余年経ってもはや大ベテランですよね。中には一作きりの方もあり、その時間の流れに感慨を受けました。