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くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「日本文学ふいんき語り」麻野一哉・飯田和敏・米光一成

2013-06-14 21:59:22 | 書評・ブックガイド
 風邪気味です……。葛根湯を飲んでいます。でも、大会近いのと法事のために休む隙などないわたし。あっ、でも、本を読む隙はある!
 「日本文学ふいんき語り」(双葉社)。著者はゲーム作家の麻野一哉・飯田和敏・米光一成の三氏。ゲーム興味ないんで全く予備知識もありませんが、彼らがとっても楽しそうに語るんですよね。有名作品を読み直してゲーム化しようというコンセプトなんですが、テキストを読み解くうちにいろいろな要素を絡めてきて、なんか少し離れたような着地になるのがなんともいえません。
 だって、村上春樹なんかデコトラの計画なんだよ!
 「ふいんき語り」というのは、なんとなく語りあっている感じといいますか。ゲーム化の話をしながら、本質に迫っていくんですけど、文学論のような堅苦しい感じではないんです。でも、なるほどと思わされる部分は多い。
 例えば「こころ」、「先生」はKのセリフを収集して効果的に叩きつけることで追い詰めるのだと米光さんは言います。このセリフ、「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」のことですよ。
 そういわれてみると、現実にもそういうことをする人っているなぁ、と。麻野さんは「人間の屑だよ!」といってくれています。
 章扉には作家プロフィールがあるんですけど、ちょっとトリビアルな知識が書いてある。「教師時代のニックネームは鬼がわら」「貧乏時代、チャルメラを吹いてラーメン屋台を引いていた」「プロレタリア文学時代のペンネームは大藤熊太」「自決の年の正月、ディズニーランドにいきたがったが、妻に反対された」
 宮沢賢治が「中二病」っぽいというのもおかしい。でもわかる。わたし、嫌いではないですが、なぜ賢治がこんなにもてはやされるのかわからないんです。
 あと「三島っち」がおもしろい。携帯型育成ゲームなんだって。「きんかくじもやしてこい」「とつにゅうだ」なんて言ってる。ちなみに育成しても一年で死んでしまうそうです……。
 ラストには米光さんから「対決する高校生のための国語教科書」の提案があって、ほとんど読んだことないものばっかりなんですけど、おすすめに従ってみたくなります。森達也の「ドキュメンタリーは嘘をつく」、石原千秋「大学受験のための小説講義」、長谷川櫂「古池に蛙は飛びこんだか」とか。「微分積分俳句(俳句盲腸)を実践」ってなんだ? なんかつぎはぎにしちゃうの?
 脚注もあるんですが、「ペ・ヨンジュン」の解説が「ヨン様」だったのには笑いました。


 
 

「マンガホニャララ」ブルボン小林

2013-05-05 16:17:07 | 書評・ブックガイド
 ふと目についたんです。ハットリくんが寝転がってマンガを読んでいる。文春文庫新刊「マンガホニャララ」、筆者はブルボン小林です。かつて「活字倶楽部」を愛読していたので、もちろんブルボン小林が何者かはわかっております。ちらっと立ち読みして、すぐ買いました。
 マンガ書評です。複数の雑誌に連載したものをまとめたとのこと。
 いやー、おもしろく読みました。でも、どんなにすすめられても「打姫オバカミーコ」は読まないな。麻雀興味ないし。弟のヤンマガも、かたやままさゆきは飛ばしていました。
 でも、もうひとつのお勧め「The STAR」はすごい懐かしいよ! 長瀬優也!
 担当編集さんが泣いてしまったというラスト、すっかり忘れているけど、あれ? なんかヘリコプターかなんかで秋奈と再会するんだっけ?
 「ガラスの仮面」に関する考察、わたしも携帯電話には違和感を覚えましたよ。一巻と後半に物語の時代背景が崩れると思いました。ハミルさんもいつ登場するのかと。
 でも、全体的にマンガの好みは合っていないと思います。ほぼ同年代なので、読んでいる有名マンガは共通していますが、やはりわたしは少女まんが寄り。こうやって見ると、男子と同様には少年まんがを読んでいないですね。特にジャンプを読んでない。わたしはマガジン系列でした。(弟が買っていたので)
 ただ、好みのジャンルでなくとも、洞察を楽しみました。冒頭のマンガがニュースになる話。山岡と栗田の結婚は知らない人が多いけれど、海山と和解したことは報じられる。島耕作が社長になるのも記事になる。で、そこにキャプテン翼があねごと結婚と書いてあって、びびびっくり。(ジャンプ読んでなくとも、もちろんこれは読んでます)
 さすが翼くん役の声優さんと結婚しただけあるよ、高橋陽一。首尾一貫ですね!(違う?)
 「ドラえもん」が絵本を駆逐し、「こんとあき」はその影響下にあるとすら言ってますよ。まあ、確かにロングセラー絵本は出にくくなりましたが、「ドラえもん」のせいだというなら、それ以前の本だって売れなくなるのでは?
 さらっと読み返してみて、実は読んでみたいというマンガがないのも不思議です。「ミーコ」だけでなく、あんまりわたしの好みではなさそう。でも、主張も考察もおもしろいんですよ。特に、「金田一少年」の、世の中がみんな伏線に見えてくるという話題は傑作! 続編も読みたいと思います。

「百年の誤読」岡野博文・豊崎由美

2013-04-06 05:17:28 | 書評・ブックガイド
 これも古い日記から。「文人悪食」と対になっている感じがします。

 ダ・ヴィンチ連載中からいちばん好きなコーナーで、毎号楽しみにしていた。二〇世紀中の「ベストセラー」と呼ばれる本を選んで、今の視点で評価していく対談。徳富蘇峰の『不如帰』から『ハリー・ポッター』まで百年百冊! (その後、二〇〇〇年以降の十冊も附録として紹介されているので、収録は一一〇冊)
 本誌にあった「いま読んでも鑑賞に堪え得る度」ランキングがなくなっているのが残念~。私は春樹・ばなな系統が苦手なので、その辺の作品が出てくると「ふーん……」としか思わないのだが、あとは大体妥当だった。あ、でも『恩讐の彼方に』は好きなんだけどなぁ。
 脚注もおもしろくて、そこでやっと三島の本名を発見。平岡公威(きみたけ)。なるほど。華族さんだっけか。でも、嵐山光三郎の本名にはびっくりした。祐乗坊英昭 だって。本名の方がペンネームみたいじゃないか!
 思わず膝を打ったのは『だからあなたも生きぬいて』。「巧妙に書かれずにいることがいくつかある」として、代表的な二点をあげている。
 � A子に声を掛けられたのに返事をしなかったことがいじめられる きっかけだったというが、なぜ返事をしなかったのか。また、そのときのA子の心象はどうだったのか。(あとから取材すれば判ることだろう、とのこと)
 � 司法試験の勉強をしているときの生活費はどこから出ていたのか。(これもわざと伏せているのでは? との推測)
このことから、「人生のつまずきのいちばんの理由から目が逸らされている。根本が全く解決していない」と語る。
 私はこれを読んだとき、どうして極道の世界に堕ちていったのか、その中でどういうエピソードがあったのか、そういう部分が全く書かれずにさらりと次に行ってしまうので、ちょっと待ってよー、私が読みたいのはあなたの人生のその部分なのにー、と思ったものだ。正直、司法試験に受かるところよりも、そのへんに筆を費やしてほしかった。変か?
 それから、『積木くずし』。
   岡野 きつい言い方かもしれないけど、これは「虐待」本だと思うよ。
   豊崎 この本を出すこと自体が虐待ですよね。
   岡野 こんなふうに自分のことをあからさまに書いた本が出たとして、学校に行ける?
 というやりとりは肯かされる。私はこの本読んでないけど。
 でも、娘の由香里さんが死んだときのワイドショーにゲスト出演する穂積の厚顔無恥ぶりにボー然とした。ふつう出ないだろう! さらにその死をネタにして新しく本出してるし。信じがたい。
 さて、特に今回おもしろかったのは、最近のベストセラーについて語っている「附録」の部分。紹介されているのは『バカの壁』『世界がもし一〇〇人の村だったら』『盲導犬クイールの一生』など。
 中でも大ウケしたのは、『Deep Love  第一部 アユの物語』に関する豊崎さんのあらすじ紹介。「グレた女子高生が援助交際の果てにエイズになって死ぬ。その過程で、犬、ばあさん、少年、オヤジなどに会う、それっきりの話。筋とおってない、理屈とおってない、意味わからない」。 
 ぶははははは! 本文を引用している部分も笑えるし、ケータイの小さい画面に表現されていたから、主人公アユの視野が狭くなっているのではないかという指摘も可笑しかった。
 作者・Yoshiのインタビューを読んだことがあるけれど、ストーリーが全部できあがる前に読者からのメールがどんどん入ってきて、それにかなり影響を受けたらしい。辻褄が会わない部分があっても、読んでいるときのおもしろさを優先させたというようなことを云っていた。それはちょっと小説を書く上で許されること? と思ってたら、「小説」ではなくて「物語」を書いているつもりなんだってさ。なんかなー。こういうナルシスティックな人は、苦手だ。『Deep Love』、本屋に平積みしてあっても、胡散臭くて手に取らなかったが、やっぱりそうだったか。
 そして、噂の『世界の中心で愛をさけぶ』。
 「主人公の朔太郎っての、究極のバカ。だって最後の最後まで、世界の中心で愛をさけびたいくらい好きな恋人、アキちゃんの名前を漢字でどう書くか知らないんだよ」
 ……笑った。読んだことないし読む気もないけど、生徒の書いてきた読書感想文であらすじは聞いている。そんなんだから二人で修学旅行のやり直しをしよう! としたこともばれるんだよ。
 それにしても、出版当時同僚のうち二人までが「好きな本」として名前をあげた『チーズはどこへ消えた?』。文字通り、消えちゃったんですかね。ベストセラーの寿命、短し。

「文人悪食」嵐山光三郎

2013-04-05 05:06:56 | 書評・ブックガイド
 今回も古いものから。……「ソロモン」長くてなかなか終わりません。

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 嵐山光三郎、もっと読まなくては! 『文人悪食』、ひじょーーーーにおもしろかったよ。国文学出身には、たまらない一冊だった。
 漱石から三島まで三十七人の「文人」の好んだ「食」についてまとめた本。文体にも軽やかなリズムがあり、うまい。読んだあと、その作家の作品をひとつでも読んでみようかという気にさせられる。
 彼が担当編集者だったという壇一雄と深沢七郎の回は特におもしろかった。昔の本棚から『壇流クッキング』を取ってきてみたよ。
 直哉の章には座談会の内容が箇条書きされているけど、実際に喋っている文を読みたい。こんな冗談まで紹介されている。
  
 �南方に行って二人でワニを撃った。一人は本物のワニを撃ったが、もう一人は海亀を撃った。これはアリゲーターではなくてマチゲーターというワニである。

 私にとって文人たちの新しい「素顔」を見せてくれたのも感嘆の一つ。特に石川啄木。「わがままで自分本位の性格」で、「函館へ逃げてからは妻の義弟である宮崎郁雨にたかり、東京へ出てからは金田一京助にたかった」。金田一の記録によれば、二人でそば、天ぷら屋に行き、さらに洋食を食べてビールを飲んだとあるが、「京助はおごってやったとは書いていないが、京助が払ったのに決まっている」!
 さらにうけたのは谷崎。『美食倶楽部』を構成する五人のメンバーについて、「大きな太鼓腹を抱えていて、脂肪過多のためでぶでぶに肥え太り頬や腿のあたりは豚坡肉(トンポウロウ)の豚肉のようにぶくぶくして脂ぎっている。つまり、晩年の谷崎潤一郎が五人いると想像すればよろしい」だって!
 こういうオトシのきいた文章を読むのは楽しい。梶井については、
「この世に写真がなければ、梶井基次郎は、九歳上の芥川龍之介に負けない世俗的人気を得ていたはずである」と書いている。
 そうそう、写真といえば、中也の「黒帽子の美少年像」は大岡昇平によると複写されつづけて「まるで別人」になっているという話。聞いたことある。嵐山氏はグラビアでその変遷史を作ったこともあるそうだ。見たいよ! 三十歳の中也は、「どこにでもいるオトッツァン顔」なんだって。
 中也は酒癖が悪くて太宰にしょっちゅうからんでいたとか。あの写真のイメージだと中也ってすごく若いような感じがするから、よく年齢関係が判らないので生年を確認してみた。中也の方が二つ年長だった。
 文壇一の大男は高村光太郎(推定一七七センチ)、次いで太宰の一七五センチ。対して小男は三島で、一五八センチくらいだという。
 三島のペンネームは「三島へ行く男」をもじってつけられたそうだ。三島! もう随分前に旅行して市内をうろつき回る楽しさを味わった場所なのでなつかしい。でも、彼の本名って何だっけ? 啄木とか鴎外なら知っているんだけど……。


「怖い本と楽しい本」1998ー2004

2013-01-22 21:43:04 | 書評・ブックガイド
 わたしが間違っておりました。
 数ヶ月前、仙台の書店で発見してよっぽど迷った結果買わなかった本があります。「毎日新聞『今週の本棚』20年名作選」(毎日新聞社)。
 執筆者が豪華で、高島俊男先生をはじめ、杉浦日向子、三浦しをん、池澤夏樹……。買うかどうか逡巡して、でも3500円もするような本は手が出ないと諦めたのです。
 今日、部活がなかったので図書館にいったら、その本があるではないですか。おおおっ、と思って借りてきたんですが。
 あれ? 高島先生も三浦しをんもいないぞ? 杉浦さんは一カ所しかない。あれれ? 立ち読みしたときに索引を見たら結構あったような記憶があるのに。と思って索引みたら、ここには項立てすらありませんでしたよ。どういうこと?
 冒頭の、池澤さんの文章を見て想像するに、どうもわたしが逡巡した本と今回借りた本は違うらしい。なにしろ「20年名作選」ですからね。そのうちの1998ー2004ですから、七年分しかない。三巻本みたいです。多分これは二冊めでしょう。丸谷才一・池澤夏樹の編集「怖い本と楽しい本」。
 学校では地方紙と毎日新聞をとっているので、ときどきスクラップして掲示板に貼っております。学習とかスポーツ選手の講演の概要とか、本に関わる情報ですね。そのときに書評欄も読んでいます。
 ただ、こうやって一年をダイジェストでまとめると、これがもう「ほとんど読んだ本がない」んです。
 最近、自分の書評の読み方は「読んだことのある本の感想を知る」であることに気づきまして。これから読みたいような本を求める機会が少ないように思いました。新聞紙上ならまた違うんでしょうけど。
 一枚一枚タイトルと評者を見て、読んだことのある本をチェックしていくと、あらら、ただ開いただけのページのなんと多いこと。困ったな。「漢字と日本人」「半七捕物帳」「似顔絵物語」くらいしか読んでないんですよ。
 だから、この本自体を「読んだ」とはとても申せません。あ、一応この記事以外にも「苦海浄土」とか「東電OL」とか井上光晴やイサム・ノグチについてなどちょこちょこは目を通したんですが、自分の読む範囲の狭さを感じています。まあ、狭く深くの精神でいきたいところですかね。
 三冊めをなんとか探したいと思っています。

「読むのが怖い Z」北上次郎・大森望

2013-01-01 13:55:12 | 書評・ブックガイド

 あけましておめでとうございます。
 北上次郎・大森望「読むのが怖いZ」(ロッキング・オン)。シリーズ三冊めです。
 Zってことは、もう出ないのですか? 最終巻? いや、是非とも続けて読みたい。
 大森さんのあとがきによると、別にそういうことではなさそうなので、少しほっとしました。
 2012年ベストを考えているときに、今年はあんまり読んでないなー、百七十冊くらいだから例年の四分の三くらいか、と考えて、そういえばこの本について書いていないことに気づきました。そりゃそうでしょう、完読してませんでした。いつも、自分の読んだことがある本、好きな作家の本をさっと読んでしまい、続けて前から読み込んでいくんです。読み終わるのもったいないから、先に読んだ分も読み返します。そのうちなかなか読み終わらないと思って他の本を読み始め、次に手に取るときにはどこまて読んだか忘れているという。自分の不真面目さが顕著に出ていますね……。
 でも、北上さんだって結構読んだそばから忘れるって言ってるよ。(と、正当化してみる)
 北上さん、大森さん、編集部がそれぞれ推薦する三冊(だから、毎月九冊)についての合評です。二人とも好き放題言ってます。2010年の秋はこんなラインナップ。編集部:「あんじゅう」「七人の敵がいる」「音もなく少女は」。北上:「火群のごとく」「卵をめぐる祖父の戦争」「アナザー修学旅行」。大森:「スリープ」「トッカン」「ワイオミニング生まれの宇宙飛行士」。AとかBとか記号を付けて評価してくるのですが、この回は結構好評のような気がします。Cがない。
 わたしもこのうち四冊は読んでいますね。「トッカン」は前半だけ。お二人の的確な読みになるほどなるほどと頷かされます。「あんじゅう」の挿絵の入れ方、いいよね。あとは、大森さんが桂望美の「週末は家族」について、視点が移る一人称の文体は「だんだんうっとうしく」なってくるといっていて、これがもう納得です。
 わたしは書評好きなので、この年末も三浦しをんとか「一個人」のベスト本特集とか読みますが、この本を読んで思ったのは、どちらかというと「多数」より「個」の読みの方に揺さぶられる傾向が強いのではないかと。たくさんの人が投票するベストよりも、お二人が話してくれる作品に興味がわきます。
 津原さんの「11 eleven」とか籾山市太郎を読んでみようと思いました。(今日読んだ終盤のあたりからしか記憶にない……かなしい)
 あとはですね、やっぱり自分のこれから読むべき本を探すよりも、もう読んだ本について評者と比較しながら考える方が楽しいことにも気づきました。また少しずつ読み返します。
 なんだか最近、まんがばかり読んでいる毎日ですが、今年もどうぞよろしくお願い致します。


「本屋さんで待ち合わせ」三浦しをん

2012-12-28 21:48:56 | 書評・ブックガイド
 御用納めの日に日直。明日からは少し休めるので、図書館に寄って帰りました。
 カウンターに三冊持って行ったら、借りたままの本があるとのこと。そうでした……。この本を読みかけだったのですよ。しまった。あと二十ページくらい残っていたのに、他の本を読んだりしていた。
 でも、とりあえず二冊借りたので、まずは萩尾望都「なのはな」(小学館)を読みました。この美しい装丁! カバーも扉も後ろの見返しも、少しずつ呼応していて。この作品自体が、放射線を浄化しようという萩尾さんの思いそのものなのではないかと感じました。
 「プルート夫人」「雨の夜-ウラノス伯爵ー」「サロメ20××」は、三部作とあっていずれも同工異曲なのですが、なんというか、これを描かずにはいられない萩尾さんの悔恨というか苦痛というか、そういった混沌としたものが強く感じられる作品だと思います。
 チェルノブイリ事故があったとき、主人公ナホ(菜穂?)の母親は仙台の大学に通っていたそうです。二十六年前。
 そのとき自分は何をしていただろう。チェルノブイリをテーマにした作品が課題図書になったときに、放射能の影響のないところでしばらく過ごすことが、当地の少年にとっては必要だと読んだように思います。まさか、数年後に自分たちもその危機にさらされるなんて、ね。
 で、大分浸ったあとに一気に読みました。三浦しをん「本屋さんで待ちあわせ」(大和書房)。「お友だちからお願いします」と斜交いの位置、ほんの少しあとにこの表紙はあるのかしらと考えてしまいました。スカイエマさん、いいですよね。
 三浦さんが主に読売新聞に書いた読書エッセイをまとめた、といえばいいのかな。
 わたしは読売の読書欄が好きだったので、にたにたしながら読みましたよ。最近、毎日新聞の書評を集めた本を買うかどうか悩みましたが、これが読売だったら買ったのに。
 しかし、このところ、読書エッセイを読みすぎたためか、どの話を読みたいと思うのか記憶していられなくなったように感じるのです。
 とりあえず三田完はおもしろそうなんですが。「読まずにわかる、東海道四谷怪談」もすてがたい。
 なんか、今もうすごく眠いので今日はこれまで。もう寝ます。

「本のおかわりもう一冊」桜庭一樹

2012-10-29 21:16:28 | 書評・ブックガイド
 いつ出るのかと待ち続けて半年。(三月に出ると思ってました)
 先日本屋に行ったらありました。もったいなくてちょっとずつ読んだんだけど、最後の対談で、東京創元社が「十社の書店員が推薦する文庫十冊フェア」をしたという話題があって、あぁっ、こういうことをして時間をつぶせばよかったんだ、と気がつきました。この日、前沢の「おがた」(牛肉店)で一時間待ったのです。諸事情あって、本は読めません……。
 どんなときでもどんな場所でも、本とともに過ごす桜庭さん。読書日記も五冊め。「本のおかわりもう一冊」(東京創元社)です。あいかわらずおもしろかった。本読みとしてのスタンスが好き。わたしは桜庭さんの小説はあんまり読んでないんですが、本への愛と的確な読みに共感。今回は震災後に仙台にきたことも書いてありました。六月十八日に荒浜辺りまで歩いて行ったんだって。
 わたしはそのへんの時期何をしていたかなーと思うに、陸上大会の練習ですかね。終わって一息ついたころかな。 
 震災で飼えなくなった犬を引き取り、引っ越しをし、編集さんや書店員さんと語り合う。仕事も忙しいし、本もたくさん読む。桜庭さんの日常はこの五冊の間安定しているように感じます。毎日原稿を書いたあと、本を一冊読むペースなんだって。早いよね。わたしは二日で一冊くらいかな。しかも、桜庭さんの読む本は厚い。海外作品も多く、こういう本はあんまり自分は読まないだろうと思うんですが、それでも桜庭さんの読書エッセイはおもしろいのです。
 ノーベル賞作品とは知らずに読んだチャーチルの本、それから莫言氏の講演にも出かけています。今回はわりと児童名作が多くて、乱歩とかバーネットとかケストナーとか出てきます。「バンドーに聞け!」を読んでみたい。「時の娘」も気になる。あ、でも読んだことあるかも。違う本かな。木内昇の短編「女の面」や桜庭さんの「伏」も読んでみたい。いろいろと気になって何度もぺらぺらとめくり直してしまうのです。
 それにしても、今回(前回もだけど)旦那さんの影が全く出てこないんですが、どうなんでしょうか。震災後も一言もない。気になります。
 六冊めも楽しみに待ってます。できれば巻末に、紹介された本の索引がほしい……。

 

「文学賞メッタ斬り! ファイナル」大森望・豊崎由美

2012-09-24 21:17:56 | 書評・ブックガイド
 「メッタ斬り!」もこれが最後の出版になるらしいとのこと。楽しみにしてたのに残念だなあ。豊崎さんと大森さんの掛け合いが楽しかった。でも、こうやって振り返った対談を読んでみると、芥川賞にしても直木賞にしても、わたしエントリー作品をほとんど読んでないんですよね。「鷺と雪」「きのうの神さま」「利休にたずねよ」ぐらいです。この本を読んでから「乙女の密告」を買ってみましたがまだ読んでません。「ちいさいおうち」と「ラブレス」は気になる。
 この本も夏休みに読んだんですが、感想を書く気力がなく……。このところ、読んではいるのですが、ツールに慣れないためになかなか筆がすすまない。一気に書き上げるタイプではないので、苦戦しています。つなぎっぱなしに抵抗があるのと、何冊か並行して書けないのが不満かな。
 で、「文学賞メッタ斬り! ファイナル」(PARCO出版)ですが、これまでのシリーズとは違い、芥川賞と直木賞の候補作品の下馬評と結果、それに付随するインタビュー形式の対談で構成されています。これまで巻末についていた各賞の評価がないのが残念……。思えばわたしは、「このミス」でも「覆面座談会」がいちばん好きだったんですよね。各賞受賞作のあれこれを語り合う趣向がおもしろかったので。
 もうずいぶん前に読んだため、細かい部分は忘れていますね。今後はネットでの活動を主力にしていくそうなので、紙媒体ではなくなっていくのでしょう。
 ところで、とびとびに読んだのですが、三國隆三「消えるミステリ ブックガイド五〇〇選」(青弓社)もおもしろかった。各国ミステリを読み比べて、人物喪失のパターン分けをしていくもの。
 人が姿を消すパターンは、AからZまでの多岐にわたるそうですよ。「火車」のあらすじが新橋喬子の視点でまとめてあるような、かなりネタバレの部分もありますが、興味深いです。内外のミステリを読み込んだ方ならでは。出版が1995年ですから、もう流通していない作品もあるかも。巻末の書名索引を見ているだけでも楽しい。「もう生きてはいまい」「燃え尽きた地図」「明日訪ねてくるがいい」「狼を庇う羊飼い」「古狐が死ぬまで」……。原寮は読んでみたいような気がします。

「ホラー小説時評」東雅夫

2012-07-08 11:50:49 | 書評・ブックガイド
 東雅夫の「ホラー小説時評」(双葉社)! おもしろいですよー。東さんが十年間雑誌連載した書評が、全部載っています。惜しむらくは、なにしろ初期が二十年も前なので、読みたくてもおいそれとはみつからない本がある。森真沙子の「女生徒」読んでみたいなあ。図書館で探したけど、角川ホラー文庫はなかった。森さんの本自体二冊しかないし。
 二十年間、わたしも本を読み続けてはきたので、既読の作品も結構あります。「屍鬼」とか。板東眞砂子が全盛です。「死国」も「蛇鏡」も「山姥」も読んだよ。「狗神」がいちばん好き。岩井志麻子……「ぼっけえきょうてえ」も「狗神」をすすめてくれた幼なじみに借りたんだなーとか。「夜なきの森」も、「八つ墓村」と同じエッセンスだったので読みましたよ。後年、かなり破天荒な人だと思うようになりましたが。
 松浦寿輝「幽」とか東郷隆「そは何者」とかも気になる。
 小野不由美「屍鬼」の話題もあります。キングやクーンツを始めとして、海外ものの話も多い。どこか適当なページを開いてちらほらと読むのもあり、です。
 若竹七海の「遺品」が好評ですが、わたしとしてはこの作品のラストが好きにはなれませんでした。作品リストの話題が出るのってこの本だっけ?
 高橋克彦の本でもう一度読みたいものがあったのですが、「私の骨」であることが判明。「ゆきどまり」が読みたいのですよ。
 いろいろなことを思い出しながら読める本ですが、なかでもおかしかったのは「リング」の変遷。なにしろ十年。最初の本について、東さんは非常に好意的です。わかるわかる。わたしも読んだあとは一人でいるのが怖かった。でも! わたしは二冊め以降はさっぱり好みではなかったため、鈴木光司の本をずっと読んでいません。
 とりあえず「リング」続編についても、東さんは「メタフィクション」ぶりを楽しんだそうです。で、「バースデイ」。
 帯文に、映画でいえば編集作業で切り捨てられたフィルムのようなものだと紹介してあるのを評して「切り捨てられるにはそれ相応の理由もあるのてはないか……というのが(略)率直な感想」とおっしゃる。
「あの救いない『リング』が、めぐりめぐったその果てにこんな臆面もない「愛は世界を救う」的な感動のグランド・フィナーレを迎えてしまってよいものだろうか。きっと今ごろ貞子も怒って……」 
 には、爆笑しました。さすがですね。
 わたし、考えてみるとあんまりホラーは読まないと思っていたんですね。夫はよく読んでいますが、その本を借りて読むのは少ないかも、と。でも、自分が思っていた以上には読んでいました。ホラーの解釈はもっと広いのかも。
 東さんの書評、もっと読みたいな。