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くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「月夜にランタン」斎藤美奈子

2011-01-06 05:10:58 | 書評・ブックガイド
困った。斎藤美奈子の本がこんなに眠いのは初めてです……。買ってからついうとうとする回数が増え、夜も早く寝てしまう毎日。
おもしろいのですよ。でも、斎藤さんこのごろ少し社会派寄りですよね?
わたしも、社会科学の本は嫌いではありません。でも、政治の話題ばっかりなのは嫌なんだなー。本を三冊読んでの書評がメインのはずなんですが。
と思っていたら、第三章あたりはとても楽しかった。中でも頷いたのは、「おそうじに開運パワーを求める信心深き人々」です。「そうじ力の効果のほどもほとんど魔法なみ」「なにからなにまで、もう夢のようである」わ、わかる。わたしはこういうの苦手なので、つい引いてしまうのですが、信じている人はもう本気なのです。ラッキーなことがあったことを全てそうじに絡めるのはどうなのでしょう。じゃあ、そうじが苦手な人はラッキーなことはひとつもないわけ?
欄外に「トイレの神様」についてちょこっと書いてありますが、ヒットソングを出して歌手として成功したことは幸運なのかも知れません。が、家にいづらくなったのとかおばあさんの死の場面とか、ラッキーなことばかりではないと思うのですが。
「映像メディアの手法に見る『演出』と『やらせ』の間」もおもしろい。メディアリテラシーを考えるきっかけになりますよね。
象のCM(水中に転落した子象を助けるものですね)について書いている部分を読んで、俳優が演じるのだったらみんなそのつもりで見るであろうに、動物だとドキュメンタリーみたいに読み取ってしまうのかもと感じました。
「月夜にランタン」(筑摩書房)という書名は、いうなれば「夏炉冬扇」と同意です。

「推理日記」佐野洋

2010-12-23 07:33:59 | 書評・ブックガイド
佐野洋「推理日記」一冊めを発見! 古本屋価格四百円でした。潮出版なんですね。
日記の連載を始める前に他誌でやった「ミステリー我如是閑」なども収録されていて、佐野さんがどういうきっかけでミステリー時評を書くようになったかもわかります。
しかし、この本に載っている作品、懐かしいを通り越している! もう入手できないんではないかと思うような。
わたしが読んだことのある作品はというと、「アルキメデスは手を汚さない」くらいしかない(笑)。しかも、赤川次郎が「幽霊列車」でデビューしたことに触れて、有望新人だと言っている!
わたしが中学生のとき、彼がすでに流行作家だったことを思うと、不思議な感じです。タイムスリップしたみたい? 言葉って、こうして閉じ込めておくことができるんだなーと、しみじみしました。
読んだことがないからといって、この本がつまらないということはありません。佐野さんの小説についての考えが、初期ゆえにダイレクトに書かれていて興味深いです。
視点や状況設定からのアンフェアではないかという問題。旧知の作家との作品についての会話。
中でも印象的だったのは、友人作家がホテルでカンヅメになって原稿を書いている場面を目撃して、前号も読み返さず、人物設定表も手元に置かず、よくもすらすら書けるものだと感心する部分です。わたしはかえって、佐野さんが作品世界を自分のインナーワールドに生かしていないのかと驚きました。
小説を構成するとき、登場人物の暮らしや他愛のないことって、自然に頭の中に浮かんでくるもののようにわたしは感じるのですが。たとえその場面を実際のストーリー展開には活かさないにしても、そういう部分がないとキャラクターは動かない。
これは、佐野さんがトリックや動機に主眼をおく作家だからでしょうか。人物はミステリーの味が伝わればそれでいいのかな。AさんBさんではあんまりだから設定しているだけ?
仮名という話題でいえば、地方都市や警察の設定をどうするかという話題もありました。実在の警察署を使うと、悪徳警官ものは書きづらい。架空の町にすると、どのような規模でどのような地裁があるのかを説明しなければならない。そんなネーミングに関わる話題を、生島治郎さんたちと熱心に語らっています。
そして、佐野さんは西村京太郎氏をものすごく評価していて、あふれるような物語とスピーディーな展開に拍手を送っています。でも、物語を構築する根本の部分にミスがあり、ある受賞を逸したようでした。トラベルミステリー以外の作品はもう書かないのかしら。初期の評判のいい作品群、気になります。
あとは「瀬峰次郎の犯罪」(だったかな)という短編が気になるのですが、でもどう考えても読めそうにないですからねー。
同じ本屋でもう一冊「推理日記」の前の方の巻を買ったので、そちらも楽しみですー。

「キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る」木村晋介

2010-10-19 05:17:07 | 書評・ブックガイド
夫に頼んで買ってきてもらいました。「キムラ弁護士、本と闘う」。あー、よかった。安心安心。
で、一冊めも読み返してしまいました。「キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る」(筑摩書房)。
最初はですね、その後読んだ作品だけを読み直すつもりだったんです。「容疑者X」と「人間の証明」を。
しかし、これがまた鋭いところをえぐる解明で、もう爆笑です。ついつい全部読んじゃった。
語り口はほとんど変わらないのですが、どちらかというとこちらの方が、専門家的な感じがしました。うーん、穴を感じさせる作品が多く収録されているといいましょうかね。
ミステリーはキムラ弁護士の手にかかるとほとんど穴だらけです。「マークスの山」も「十二人の怒れる男」も「長いお別れ」も。これがまた痛快。とってもおもしろいのです。
弁護士としての職務に関わることとして、オウムのことが何箇所か書かれていたことも印象深いです。坂本弁護士とのいきさつとか……。
わたしがとくに気になったのは、「甲賀忍法帳」と「運命峠」。
それから水上勉作品に関する考察もすごくおもしろかった。こういう見方ができるのは、やっぱり文学的なものがキムラ弁護士にあるからでしょうね。藤村の「新生」についてのあれこれも興味深かった。
木村さんのものの見方は、物語のすじを追うことよりも、全体に齟齬がないかを見極めたもののように思います。所詮は「つくりもの」なのだから自分にとっての感動ポイントがあればよいと考える人もいるようですが、やっぱり現実を反映したものでなくてはね。
わたしも「そんなことないってばー」と言いたくなるようなエピソードにぶつかることがあります。特に教師もの。いちばんのけ反ったのはこれですね。庄司陽子「生徒諸君! 教師編」。なんと校長自ら、「かつては道徳というすばらしい科目がありました」とおっしゃる。……ないんですか、この学校?
多分、新学習指導要領で道徳を正規の科目にするかどうかというニュースを曲解したのでしょう。
たしかに、こういう瑣末なことはストーリーから受ける感動とは関係ないという方もいると思いますが、わたしはそういうちょっと調べればすぐわかるようなことをそのまま曲げて解釈するのはどうかと思うのです。それとも、この世界、パラレルワールドなのでしょうか。中学校では道徳を履修しない世界……?
話が曲がりました。すみません。でも、キムラ弁護士も、きちんと調べればいいものをいい加減に済ませるのは作者としてよくないって言ってたよ。(「本と闘う」にて)
わたしも付箋を貼りながら、本を読んでみましょうかね。あ、でも付箋をどこに置いたか忘れてしまうタイプなので、なかなか本の中身までたどり着けないかもしれません。

「キムラ弁護士、本と闘う」木村晋介

2010-10-15 02:06:09 | 書評・ブックガイド
きゃーっ、いつの間に出たのですかっ「キムラ弁護士、本と闘う」(本の雑誌社)。
図書館で発見して借りてきましたが、これは自分で欲しいのです。
木村晋介さんは、澤野ひとし氏や椎名誠氏、渡辺一枝氏と親しい弁護士さん。本を読むのは苦手だけれど、商売柄裁判記録は日常的に読む。では、その視点で本を読み、小説の欠陥を探し出すことはできないか。そういうコンセプトで書かれています。
前作「キムラ弁護士ミステリーにケンカを売る」(筑摩書房)がむっちゃくちゃおもしろくて、本棚の手の届くところに並べてあります。(今回も早速読み直しています……)
二作めになってもキムラ弁護士の切れ味はすばらしい。次々と切っては投げ切っては投げ……。もうやめられないおもしろさです。
ところで、わたしはこの本を借りたあとあるスーパーに寄ったのですが、そこで「福田パン」を売っていました。岩手では有名なパン屋さんで、自分の好きなペーストを挟んでくれるんです。今まで食べたことがなかったんですが、「チーズ・ホイップ」とか「バナナ・ヨーグルト」とか「粒ピーナッツ・ピーナッツ」とかすごいおいしそうで、つい買っちゃいました。で、このパンを食べながら読んでいたのですが、気がつくとあっという間に一つ食べてしまっている……!
た、たいへんに心地よいひと時なのでございます。
なんいっても、キムラ弁護士、文章がおもしろい。踊るような弾むような、はたまた散歩にいくような。このテンポと呼吸に吸い寄せられてしまうのです。
「たから、間宮兄弟の気持ちはすごくよくわかる。目黒も同じような青春時代を送ったんだろうね、この本を絶賛してるくらいだからさ」
「しかし、偶然×偶然×偶然×偶然はほとんど0に近いからねぇ」
「やはり、超能力の見せ場は、テレビだろう、ショーだろう。ここにさえ出てしまえば、やはり超能力者は、すごいのだ。だって、スプーンが曲がるだけであの騒ぎだったんだぜ」
今回おもしろかったのは、「硝子のハンマー」に関する考察。この密室を巡って、犯人は幾度か忍び込んだと語っている。そのときに毒でも仕込めばもっと簡単なのでは。
クリスティの代表作に対しての考察もおもしろい。
今回は四連発でした。それほど海外ものを読まないのですが、児童むけの「ABC殺人事件」と「アクロイド殺し」は読みましたよ。「これはやっぱり絞殺にしたほうがよかったんじゃないかなぁ、アガサ」には笑いました。
キムラ弁護士のすごいところは、読んだことのない人でも楽しめるところ。もちろん、読んだ人にはさらにおもしろい。
わかりやすく工夫してらっしゃる手法として、登場人物が記号化してあることがあげられると思います。
ほしかったので、仙台まで車を飛ばしました。でも、売ってなかった……。よよよ……。

「向田邦子と昭和の東京」川本三郎

2010-06-25 02:06:11 | 書評・ブックガイド
さあ、今日から向田邦子だ! と思って、取っておいた「向田邦子と昭和の東京」(新潮新書)を読みました。
川本三郎さんが、向田作品を俎上に載せて、昭和の家族をテーマに語ってくれます。
わたしも向田さんのエッセイが大好きで、五年おきくらいに読み返します。きっかけは、授業で「ごはん」とか「字のないはがき」とかを取り上げる際についほかのものも、と思って読んでしまうんですよね。
だから、紹介される出来事のほとんどはお馴染みです。「向田邦子の手料理」(講談社)も持ってます。「触れもせず」も妹の和子さんが書かれたエッセイも読みました。
それらを統合して、また新しい顔を見せてくれる。川本さんの本読みとしての眼力に恐れ入りました。
とくに、ここ。
「向田邦子は決して、食を食だけでは語らない。(略)向田邦子が食を語るときは、いつもそのうしろに、家族の記憶がある」
目から鱗、です。
「ごはん」を読んだらなるほどなるほど、川本さんのおっしゃることが、実感としてつかめてきたのです。
そこで、この作品のあらすじを学習したあと、向田家の家族構成を確認してから「字のないはがき」を読んで、誰か一人を取り上げてその人について思ったことを書かせてみました。
当然のようにほとんどの子はお父さんを選び、厳しい中に優しさがあるということを書いてきます。でも、下の妹について書く子や、「僕は女性に手をあげるなんて許せません」という子もいる。
ところで、かつて向田家が仙台に住んでいたことを知り、わたくし躍起になって探したことがあります。「琵琶首」という地名を何かで読んだので、いろいろな人に聞いたのですが、どこにもそれらしき場所がない。区画整備で消えてしまったようですね。
結論としてわかったことは、「評定河原」あたりなのではないかということと、一カ所だけアパートに「琵琶首」という名前が残っていたことです。
それにしても、この本の章扉に使われている向田さんの写真、どれもいいのです。美しい。
ここは「メルヘン誕生」も読み返すべきかと本棚を探ったのですが、どうも深くしまいこんでしまったようですね。高島先生、すみません。

「ホンのお楽しみ」藤田香織

2010-05-03 19:24:01 | 書評・ブックガイド
「だらしな日記」の藤田香織さん、本のご紹介本です。「ホンのお楽しみ」(講談社文庫)。
何年か前に連載していたものを改稿して、ブックリストも新しくしたというこの本、結構楽しかったです。
犬と猫二匹とマンションで暮らす藤田さん。食べることが好きなのと外に出るのが億劫なのとで、体脂肪が上がったり、離婚を経験してから「恋」なんて関心がもてなくなったり、そういう日常が明るいタッチで綴られます。
藤田さん自身、仕事をしたくないという気持ちの高ぶり(?)を書いていますが、わかるわかるー。「仕事である」と思った途端に辛くなることって、あるのだと思うのです。
まあ、何はさておき、本!
自分が読んだことのある作品も、おそらくは将来的にも手にとることはないであろう作品もいろいろあります。ワンテーマごとに三冊。
読んでみたいのは、前川麻子「ファミリーレストラン」、垣根涼介「君たちに明日はない」、日向蓬「サポートさん」、辻村深月「ふちなしのかがみ」、藤野千夜「親子三代、犬一匹」、岡林みかん「本日もご立腹なり」、春口裕子「女優」、井上荒野「静子の日常」。
結構多いなー。紹介の仕方が上手いので、いろいろ読んでみたい気持ちになるのです。実際に読んだら好みじゃないのもあるかもだけど。
とりあえず、今度図書館に行くときはリストアップした作品を忘れないようにしなくては。

「間違いだらけの少年H」山中恒・山中典子

2010-04-27 05:41:08 | 書評・ブックガイド
妹尾さんの「河童が覗いた」シリーズがすごく好きだったわたし。でも、「少年H」は読んでいません。どうしても食指が動かなかったのです。戦争ものもなるべく読むようにしているのに、冒頭でもう関心をなくす。装丁もいいのに。
多分文体が気に合わないのでしょう。没頭できない。
それからしばらくして、高島俊男さんが「お言葉ですが…」でこの作品について触れているのを読みました。戦時中の世界観が違うというのです。あの戦争のさなかにこんなことを考える少年はいない。この思考は現代のもの。今の視点でさも当時自分の家族だけが先進的なものの考えをしていたように描くのはいかがなものか。
そこで紹介されていたのが、山中恒・山中典子「間違いだらけの少年H」(辺境社)でした。
その後図書館で発見したのですが、ものすごく分厚い。先送りしているうちに随分経ってしまいました。
意を決して借りてみたのですが、二百五十ページ読んでまだ四分の一くらい……。スピンをはさんだ部分がなんとなくあわれです。
でもこれ、おもしろいよ!
山中恒さんが、なぜこの作品を「間違いだらけ」と評するかというと、戦時中の思想のみならず、時系列が間違っている。しかも、その章の中だから接近した事項なのだろうと思うとさにあらず。冬なのに入道雲が出ているわ、まだデビュー(?)していない力士の絵をブロマイドにするわ、とにかく山中さんの目からみるとおかしなことだらけなのですね。
二宮金次郎の像を供出するのは戦争末期のことなのに、時系列でたどるとかなり早いうちに学校から無くなったように書かれている。どこから読んでもいいように書いたということなんですが、非常に曖昧な設定であり、いつのことなのか書かれていない。だから、Hの年齢で判断するしかないのですが、そうすると時代が合わない。とにかくそういうことが続くのだそうです。
うー、残りもすごく読みたいのですが、そろそろ返却しないとまずいようです。また近いうちに借りたいと思います……。

「うちのめされるようなすごい本」米原万里

2010-04-19 19:45:52 | 書評・ブックガイド
この本は、米原万里によるブックトークといっていいと思います。ロシア文学に興味がある人もない人も、ぜひ! 「うちのめされるようなすごい本」(文春文庫)。
週刊文春の「読書日記」での連載をまとめたもので、テーマを決めていろいろ紹介されています。教科書問題、テロ、ホロコースト、サッカー……。

しかし、この本の紹介をブックトークとして実際の場面で応用できるかというと、中高生には無理でしょうね。高度すぎて。
先輩のオススメ本として貸して戴いたのですが、他の本を読んでいる合間にさらっと目を通せます。ただ、そういう読み方をしているのでなかなか終わらない。厚いし。いつ返せるのかと思いながら(笑)。
米原さんの文章の切れ味がすばらしく、ぐいぐい読ませます。本はかなり前に出版されたものが多く、今手にとって読めるのかしら。確か「モダンガール論」を単行本で持っていたはずのわたしですが、文庫化してもまだ読んでないなーと思い出したり。
結構奥田英朗がお好きなんだなと思ったり。
なんだかんだで昨年十一月から借りたままだったので、興味深いところをピックアップして読もうと思ったのはいいのですが、あれあれ、ここは前にも読んだぞ、と。
関心がある場所は同じ、でも内容は何となく忘れてしまった自分に気づくのでした……。

「ひげうさぎ先生の子どもを本嫌いにする9つの方法」

2010-04-15 05:25:04 | 書評・ブックガイド
再読です。「ひげうさぎ先生の子どもを本嫌いにするの9つの方法」(つげ書房新社)。押入を片付けていたら発見しました。
昔ウェブサーフィンをしていて、この本について語ったものを二つ発見し、興味を覚えて買ったものです。
どうすれば、本を読まない子どもになるのか。逆接的に描かれたこの作品を、真っ正面から捉えて批判する人がいるという驚きが書かれていました。
ひげうさぎ先生。当時、教職経験が二十年という小学校教師。神奈川県在住だそうです。
ブックリストがおもしろい。低学年から高学年まで33冊。どれもとてもリズミカルに紹介されていて、子どもならずとも読みたくなること請け合いです。真剣に読み聞かせをしようかと検討しましたが、朝の会が5分しかない現状では難しい。それなら授業で、とも思うけど、進度がずれてくることを考えると躊躇してしまうのです。
そういう余計なことを考えずにやればいいのでしょうけど、なかなか難しい。
せめてブックトークを少し増やすくらいはしたいと思います。
この本のリストでいちばん気になるのは、三田村信行「おとうさんがいっぱい」。それから金治直美「さらば、猫の手」。桂文我「ごくらくらくご」。今度探してみようと思っています。
そういえば、この本を読んで「おひさま」を購読するようになったのでした! あれは息子が入院したときからだから、もう五年前なのですね。「おひさま」も隔月刊になってしまいました。

「あの作家に会いたい」児玉清

2010-02-05 05:39:50 | 書評・ブックガイド
読書家で知られる児玉清さんが、様々なジャンルの作家にインタビューしたものをまとめた本です。「あの作家に会いたい 人と作品をめぐる25の対話」(PHP)。
結構コンパクトにまとまっていて、なるほどなーと感心させられます。対談本は好きなジャンルなのですが、キーになる人物の語りがポイントだと思うのですよ。
児玉さんは作品を読み込んでいて、その作家のテーマ性をよくつかんでいる。だから、とてもわかりやすい。インタビューを通して、作家の思いを捉えることができる本になっていると思います。
わたしは好きな作家順に読みました。まずは上橋菜穂子でしょう!
上橋さんの小説に対する考え方。「物語とは、最初から最後まで読んだ時に初めて立ち昇ってくるいわく言いがたい何かが伝わるものだと思うのです」というのは納得だなあ。
それから、森絵都、宮部みゆき、北村薫というように好きな作家の項を読み、最終的には全員、という感じ。
気になる台詞を並べてみましょう。
「私は、ある距離を置いて、手を出さずに物陰からじーっと観察している人間なのだと思います。(略)小説も書き手の感情を入れないほうがうまくいくんですよ」(小川洋子)
「文章のほうが、実物とはちょっと違うにしても、本物よりもずっと本物らしいですね。未だにそういうふうに物を見てしまうところがあります」(江國香織)「ある人が面白いと言ったからといって、自分にとって面白いかはわからないけれども、読んでみる。そうやって面白く味わえる作品が増えていくということは、幸せが増えることだと思うんですよね」「単純ストレートな温かさではなくて、『絶望があるから幸せがある』ということです」(北村薫)
印象的だったのは、北原亜以子。「『父の戦地』を書いて戦争を知らない人にもその悲惨さを伝えたいとある人に話したら、『伝えてどうするの?』と言われ、唖然として言葉を失いました」。
伝える、ということは、言葉を遺すことだと思うのです。言葉は、人よりも長く生きることができる。
わたしも戦争については、祖父から繰り返し聞かされてきました。その時代の空気のようなものを感じさせるのは、やはり直接体験をした方の言葉だからこそ、という気がします。
「伝えてどうするの?」といった人のニュアンスがよくわからないのですが(否定的なのか楽天的なのか)、伝えていくのは大切なことだと思うのですよ。
小説として形を残すことも、同じように考えさせられます。
普段自分では読まない作家のインタビューも、なかなか興味深く、また次につながっていく本だと感じました。