花の四日市スワマエ商店街

表参道スワマエ商店街会長のひとり愚痴

賀春

2024年01月01日 | レモン色の町

“賀春”  長田 弘 

 古い鉄橋の架かったおおきな川のそばの中

学校で、二人の少年が机をならべて、三年を

一緒に過ごした。二人の少年は、英語とバス

ケットボールをおぼえ、兎の飼育、百葉箱の

開けかたを知り、素脚の少女たちをまぶしく

眺め、川の光を額にうけて、全速力で自転車

を走らせ、藤棚の下で組み合って喧嘩して、

誰もいない体育館に、日の暮れまで立たされ

た。

 二人の少年は、それから二どと会ったこと

がない。やがて古い鉄橋の架かった川のある

街を、きみは南へ、かれは北へと離れて、両

手の指を折ってひらいてまた折っても足りな

い年々が去り、きみたちがたがいに手にした

のは、光陰の矢の数と、おなじ枚数の年賀状

だけだ。

 元旦の手紙の束に、今年もきみは、笑顔の

ほかはもうおぼえていない北の友人からの一

枚の端書を探す。いつもの乱暴な字で、いつ

もと同じ短い言葉。元気か。賀春。

大日本五道中屏風 四日市市立博物館蔵

本年もご愛顧のほど よろしくお願い申し上げます

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