伊藤淳史監督の“ボクは坊さん”で、理屈っぽい檀家総代役をしていたイッセー尾形が、深川栄洋監督の“先生と迷い猫”では学校を定年退職し妻に先だたれた頑固な老人を演じている。この作品の終わり方が良い。生前猫好きだった妻、しかし森衣は猫嫌い。それでも一人暮らしのところへノラはやってくる。「妻のことを思いだすから、来ないでくれっ!」と叱り飛ばしたらノラは来なくなってしまった。それから森衣は、猫を探しはじめる。野良ネコ捜査の中でいろんな人との出会いがあり(“神去りなあなあ日常”の染谷将太、ピエール瀧、カンニング竹山、岸本加世子、嶋田久作など)徐々に猫に気が引かれていく。
最後。夜遅く、探し疲れて真っ暗な我が家へ帰った森衣は、玄関に座り込みまどろむ。その時、光射す庭の方から妻の呼びかける声が聞こえる。この幻想シーンは、山田洋次監督の“息子”とよく似ている。三国連太郎が息子に会いに出かけ、誰もいない雪深い我が家へ帰ってくる。そこで昔日の我が家の幻を見る。
子供たちが離れて行き、妻に先立たれた男の哀愁が表現されていることで、この二作品は似通っているけれど、どちらも救われる最後(“息子”は、息子の結婚)となっているのが、なんとも清々しい。