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東電刑事訴訟控訴審 第3回公判傍聴記/現場検証も証人尋問もないまま結審

2022-06-09 22:36:30 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
 勝俣恒久元会長ら、東京電力旧経営陣に対する強制起訴刑事訴訟第3回控訴審が6月6日、東京高裁で行われた。

 前回、2月9日の第2回控訴審で「次回結審」が告げられていたものの、避難者賠償4裁判の最高裁判決が6月17日に決まるなどの情勢変化を受け、被害者代理人弁護士はこの間、次回結審としないよう求める上申書を東京高裁に提出。福島原発刑事訴訟支援団も5月20日、公正判決を求める署名1万2140筆を提出していた。

 法廷では、被害者2人が書面で提出した意見陳述が代読された。Aさんは「細田啓介裁判長はなぜ現場検証をしないのか。自分の住んでいた地域が事故でどう変わったか直接見てもらえず悔しい」と裁判長を名指しで批判。「亡くなった母に今も会いたい気持ちが募るのは、最期を看取れなかったからだと思う」と思いを述べた。

 Bさんは、1審判決を見て「裁判所にはわかってもらえなかったと感じた。避難バスに乗せられ、寒さの中で父は亡くなった。なぜ誰も責任を取らないのか。私が結婚するとき、大熊町の実家の父は『大熊には原発があるからな』と、不安を口にした。若かった当時の私は笑い飛ばしたが、その父が原発事故で命を落とすことになるとは思わなかった」と3被告への有罪判決を求めた。

 控訴審第2回公判の際、追加で採用された証拠について、検察官役の指定弁護士が説明。2009年に国が作成した地震動予測地図が地震本部の長期評価を新知見として採用していることは、長期評価の有効性に関する補強となるものである。

 IAEAが1983年に採択し、1985年、日本語にも翻訳された「海岸敷地における原子力プラントに対する設計ベース洪水安全指針」でも、有効な対策として、防潮堤設置、建物浸水防止措置、部屋への浸水防止措置などが決められている事実が示された。

 日本と同じ島国の台湾・金山原発は標高22mの高台に設置されているが、その金山原発と福島第1原発が1994年11月から「姉妹発電所交流」として情報交換を続けていたことを示すスライド資料も法廷内のパネル画面に映し出された。津波対策の重要性について、少なくとも東電はこの時点で知っていたことを示している。

 興味深いのは、このスライド資料の作成者が奈良林直・元北海道大学工学部教授(原子力工学)であることだ。奈良林元教授は、事故わずか半年後の「週刊新潮」2011年9月29日号が企画した「御用学者と呼ばれて~大座談会」に参加、早くも再稼働を主張している。このような確信犯的原発推進派に属する人物でさえ、重要施設の高台設置が有効な津波対策であると主張していたことは、東電にとって確かに痛手に違いない。

 指定弁護士側は「被告人らの刑事責任を否定することは正義に反する。原判決は破棄されるべきである」と、有罪判決を求め弁論を締めくくった。

 続いて、3被告の弁護側が控訴棄却を求め弁論を行ったが、「民事訴訟の事実認定を刑事裁判に適用するのは不適当」「民事訴訟は国家賠償責任(行政庁の権限不行使)を問うのに対し、刑事訴訟は個人の責任を問うもので、責任の質が異なる」などの形式論がほとんど。本質的な議論を避けたい本音が覗いた。

 細田裁判長は、指定弁護士側・弁護側双方に対し、ここで結審としてよいか打診した。指定弁護士側には明らかに不満な姿勢が見えた。被害者代理人の海渡雄一弁護士が(6月17日の)最高裁での民事訴訟で原判決と異なる判決(国の責任を認める判決)が出た場合には、弁論を再開してほしいとの希望を表明した上で、結審となった。

 閉廷後の法廷では裁判所職員が制止する中「被害者の声を聞け」「現場検証をしろ」との怒号が飛び交った。現場検証も証人尋問も行わないまま、わずか3回の公判での結審は、1万筆を超える署名で示された市民の審理続行の意思を無視する不当なものだ。

 2021年6月に控訴審が始まって以来、勝俣元会長は体調不良を理由に出廷していなかったが、この日は武藤栄元副社長も欠席。理由も明らかにされなかった。控訴審に被告人の出席は義務ではないとはいえ、出廷したのが武黒一郎元副社長1人とは驚きだ。「東電は事故から11年経っても何も変わっていない」(Aさんの陳述書)との思いを、傍聴席にいた全員が共有したこの日の法廷だった。

 判決後の報告集会では、河合弘之弁護士が「東電は形式論ばかりだった」と、私とほとんど同じ感想。甫守一樹弁護士は、裁判所が候補日とした判決期日が12月~1月だったことについて「それなりに情勢や他判決の動向を見極め、慎重に判決を書きたいという意思の表れだろう」と分析した。大河陽子弁護士は「今後の展開次第だが、弁論再開も見据えられるところまでこの刑事裁判を押し上げられたのはみなさんの闘いの力だ」と述べた。

 形式論に終始した弁護側に対し、長期評価の有効性、予見可能性、結果回避可能性のすべての面で新たな証拠を積み上げ、事実をもって論証しきった指定弁護士側。「こちらが押していた」との声が報告集会での多数であったことを報告しておきたい。

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