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学校図書館における貸出記録の目的外利用

2018-07-05 13:42:39 | 図書館・情報学
  「炎上しているらしいが、三郷市の彦郷小学校は称賛されるべき」の続き。昨日、都留文の日向良和先生フェイスブック記事のぶら下がりで、新出(@dellganov)氏と議論した話の続きをここに書く。極論めいており、書いている本人も納得してはいない。思考実験として読んでほしい。

  前のエントリでは、情報漏洩を基準にすると、学校図書館と学校の間に境界線を引くことはおかしいとして彦郷小学校の件への「図書館の自由に関する宣言」の適用を退けた。しかし、目的外利用によるある種のプライバシーの侵害があることが指摘された。図書室における本の貸借の管理を目的とした貸出記録であるのに、それを先生が読書指導に転用するのは、「自己情報コントロール権」を侵しているということになる。

  これはなるほどと思った。貸出記録に基づいた読書指導を、個人情報の目的外使用として批判することは妥当であるように思える。論点がいくつかある中で、唯一スジのよい批判に思える。しかし、同時にこの論理は重大な帰結ももたらす。先生による貸出記録の目的外使用が禁止されるならば、司書教諭や学校司書によるそれも禁止されなけれならない、という。児童の「自己情報コントロール権」は、学校図書館の運営者による読書指導に対しても制約をもたらすと考えられる。

  「先生には目的外利用を認めず、学校司書や司書教諭には認める」ということがダブルスタンダードとならない、そのような論理はあるのだろうか。目的外利用を正当化できる基準は、児童生徒の同意があるかどうかだ(「自己情報コントロール権」に対して本人の同意以外の基準があるのだろうか)。おそらく明示的な手続きを採っている学校図書館は少ないだろう。ならばまずは、児童と学校図書館との間に暗黙の合意を想定するというのが抜け道として考えられる。学校図書館の貸出記録が読書指導に使用されることについて、入学時点で合意があると見なす、などだ。しかしながら、まったく同じ論理で児童と学校との間の合意の想定も可能であろう。したがって、これは図書室の管理者と一般教員の間を区別する理論を提供しない。結局、暗黙の合意の想定は、形式的な手続きを踏んでいないので苦しい。

  むしろ一般教師と学校図書館の運営担当の間に優劣をつけるよりも、単純に「司書教諭や学校司書による、児童の同意のない貸出記録に基づいた読書指導を禁止する」方が、論理的に一貫している。禁止をデフォルトとしても、それはサービスの高度化を妨げる弊害があるものの、他の読書振興策も採ることができるので、司書教諭や司書の業務に対して致命的な制約を課すことはないはずだ。仮に禁止がデフォルトで、その後貸出記録に基づいた読書指導をしたいとしても、そういった指導をはじめるのにそれほどコストがかかるようには思えない。その旨を事前にアナウンスするなどなんらかの同意を得た形をとればよいだけだからだ。そのようなアナウンスをすると図書室利用者が少なくなる可能性もあるが、それはプライバシー保護とのトレードオフであり仕方がない。

  禁止のデフォルト化はやりすぎだと感じられるかもしれない。それを可能にする別の解釈は、「学校において貸出記録はそもそも読書指導に使用される情報源として位置付けられるのが常識的であり、目的外利用の際に児童生徒の同意など必要ない」、というスタンスを採ることである。このとき貸出記録とは、教育的関心から隠されるべきプライバシーではなく、教育上の観察対象であるということだ。これならば、貸出記録をもとにした児童への同意なき読書指導を続けることができる。しかし、このような見方がどの程度支持を受けるのだろうか。僕にはよくわからない。

  いずれにせよ、学校図書館と学校の間、あるいは一般の教員と司書教諭・学校司書の間に児童のプライバシーをめぐる境界がある、というわけではないことだ。一般教員に当てはまるならば司書教諭や学校司書にも当てはまり、学校に当てはまるならば学校図書館にも当てはまるという話である。児童の人権からアプローチするならば、学校そのものだけでなく、学校図書館の運営に従事する教職員の活動も制限されることになる。しかし、必ずそうなってしまうのだろうか。現時点でのアドバイスできることは、学校側は「学校図書館の貸出記録は読書指導の参考にされることがありうる」とアナウンスしておくことだ。
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