ひろの東本西走!?

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銀しゃり(山本一力)

2009-08-25 23:09:00 | 17:や行の作家

Ginsyari銀しゃり(小学館文庫)
★★★★’:70~75点

久々に山本一力作品を読了しました。
ここ数年、一力さんの作品には辛口の評価をしたり、注文をつけることが多かったのですが(ブログに感想をアップしていないものもあります)、本作はまずは上々の出来です。食べ物のことを描かせたら抜群の一力さん。鮨職人(握り寿司ではなく、箱寿司的なもの)を主人公にしたことが素晴らしく、鮨(寿司)にはネタと共に最も重要な米を表す「銀しゃり」という書名が良し。

よく書いているように悪人の弱さ、物足りなさは本作でも感じたものの、考えてみれば世間にそうそう悪人(極悪人)が多数いるわけでもないし、大勢の普通の人や善人、少数の小悪党で当たり前なのかもしれません。ただ、悪人のキャラが立っていると小説的には盛り上がりますので。

気骨のある善人としての小西秋之助(旗本勘定方祐筆)と下男の新兵衛、竹蔵(竹屋の主人)、野川勇作(火事場見廻役)などが良し。特に、いったんは孝三に裏切られた秋之助が、自身の業務である主家の金策に苦労しながらも、新吉の誠実な人柄と確かな腕を見込んで様々な助力を惜しまない姿が素晴らしかったです。また、武士でありながら、自ら手を動かし、自宅の竹や柿を使って家の苦しい台所事情をまかなおうとする姿も良かったです。秋之助自身も職人的な気質を持ち、手仕事に対する憧れなどもあったのでしょう。仕舞い屋の元締・伝兵衛も存在感と男気があり、もう少し物語にからんでほしかったところです。

新吉の新しい鮨づくりなどの食べ物に対するこだわり、真摯な姿勢とたゆまぬ努力・工夫、職人としての気概などは一力さんならではもので素晴らしかったです。柿の皮の酢に漬け込んで出る甘みを生かして値段の高い砂糖の分量を減らしたり、鮨に竹製の小刀を付けるアイデアなども面白い。いずれも秋之助の言葉などがヒントになったのですけれど。

長屋暮らしの人々の人情、新吉と順平(新吉の親友で棒手振:いわゆる魚の行商か)の友情、兄・順平を思いやるおけいの優しさ。これらが丁寧に描かれており、一力ワールドの魅力たっぷり。新吉とおけいの思慕の情は微笑ましいというか、ちょっと気恥ずかしいくらいでしたね。

子連れの美女・おあき。新吉がのぼせあがり、途中まで抜群の存在感というか、人を惹きつけてやまない魅力があった彼女であるが、途中からやや中途半端な扱いになってしまったのが最大の不満です。自分やこどもにきつく当たり、出ていったきりになっていた夫が戻ってきて何故それをおあきが受け入れたのか(それが夫婦というもの・・・ではちょっと納得できないです)etc.が説明不足のままでした。また、かつて秋之助から借りた金を踏み倒し、その信を裏切って姿をくらましたソバ屋の孝三夫婦が再びソバ屋として姿を現すが、昔のケリをつけるのが別の日にとなってしまったのも同様に中途半端と感じました。

終盤、思わぬ不幸が訪れたかと思ったものの、一転してのハッピーエンドは良し。ただし、ここでもちょっと展開が性急すぎて、”おきょう”のことが書き込み不足になったのが惜しまれます。Amazonの読者レビューにも書かれていた”雑誌連載をまとめた本の軽さ(? 深みの不足)”がやはり本作にもあると思います。軽み・明るさが山本一力作品の良さの一つでもあるのですが、途中までは、あるいは部分的には直木賞受賞作「あかね空」を思わせる雰囲気もあったものの、結局はそれほどの深み・味わいには欠けたのが惜しいような気がします。ページ数は結構あったので、全体のバランス配分や描き方によっては私にとって「名作!」になったような気もするもので。

と、一力さんのファンとしては、またまたやや辛口の感想を書いてしまいました。しかし、水準以上の作品であるのは間違いありません。ただ、今度は、書き下ろしのずしっとした長編を読みたいものです。最近きちんとチェックしていないのですが、どんな作品があるのでしょうね。

◎参考ブログ:

   エビノートさんの”まったり読書日記”


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