『Avonmore』 ブライアン・フェリー ☆☆☆☆☆
久しぶりにブライアン・フェリーのアルバムを購入。大昔に『Boys & Girls』を買った時以来だ。ロキシー・ミュージックはたくさん持っているしよく聴くが、なぜかフェリーのソロはほとんど聴かない。ロキシーの『Avalon』に感動した余韻で『Boys & Girls』を買い、あまり気に入らなかったせいだと思う。おまけに最近のフェリーは加齢で声質が変わってしまったので、ますます関心を失っていた。
が、この『Avonmore』は良い。iTunesでたまたま一曲目の「Loop De Li」を試聴し、「もしかするとこれは非常にイイのでは」と胸騒ぎを感じ、アルバムをダウンロードしたらこれがもう大当たり。なんとも渋く、妖しく、そして芳醇な音楽が詰まっていた。確かにフェリーの声はしわがれている。若い頃のあの美声はもはやなく、それを思うと悲しい。が、このハスキーなかすれ気味の声も、このアルバムの音楽には合っている。『Avalon』の透明感のある儚げなサウンドにはあの声がマッチしていたが、このアルバムのサウンドはもっと硬質で、ざらっとした触感がある。従って今のフェリーのしゃがれ声でも違和感はないし、むしろ渋さを増しているとも言える。
声質の変化とともに、歌い方もウィスパリング風に変わっている。まあこうならざるを得ないのだろうが、それにしてもこれほど若い頃と印象が変わったヴォーカリストも珍しいんじゃないか。「Midnight Train」あたりでは昔と変わらない気もするが、弾き語り風に始まる「Soldier of Fortune」ではもはや渋すぎるしゃがれ声で、どこのじいちゃんかと思った。この声で昔の曲を歌うと一体どうなるのだろうか。
サウンドは、アシッドジャズ的なリズムトラックをベースに、エレクトロニクスと、ピアノやギターのオーガニックな音が入り混じって複雑な味わいを醸し出す。ベースは全面的にマーカス・ミラーが参加しているが、派手なスラップは封印してひたすら渋くボトムを支えている。ギターやエレピは『Avalon』直系の音で、曲調も『Avalon』を思わせるものが多い。そういう意味では本作は間違いなくあの名作の延長線上で、いわば第二の『Avalon』として構想されたと思われる。それはタイトルの『Avonmore』からもうかがい知ることができるが、音の感触は『Avalon』よりも音のごった煮化が進み、どこまでも青く澄み渡ったようなあの透明感はない代わりに、濃厚なスープの如き旨味とコクを湛えている。キラキラ感は昔より減ったが、味は深い。そんな感じだ。これが円熟というものだろう。
先に『Boys & Girls』を気に入らなかったと書いたが、『Avalon』の清澄な欧州的ロマンティシズムに魅せられた私は『Boys & Girls』を聴いて、ゴージャス感は増しているものの、これじゃキラキラが行き過ぎて退廃の域に入っていると感じたのである。しかしここへ来て、お得意のゴージャス感も金ピカ性が薄れ、枯れて渋みが加わり、うまい具合に熟成した。このサウンドのこなれ具合は、まさに熟成というにふさわしい。
全11曲入っているが、まずは冒頭の「Loop De Li」がえらくかっこいい。メロディもフェリーの歌唱もクールで、一方サウンドはギターやシンセサイザーやサックスが渾然一体となって渋い。サビには女性コーラスが入って華を添える。フェリーのロマンティシズムに渋みが加わり、円熟した感じの曲だ。次の「Midnight Train」もよく似たムードで、快調に疾走。フィル・マンザネラ風のエレクトリック・ギターがよく似合う。
次の「Soldier of Fortune」はテンポゆったり目で、ひときわフェリーのかずれ声が目立つ。「Driving Me Wild」はまた「Loop De Li」路線に戻り、リズミックなサウンドとサビの展開がかっこいい曲。そして生ピアノの音が美しい「A Special Kind of Guy」から、タイトル・チューンの「Avonmore」へ。これは速いテンポの非常にグルーヴィーな曲で、ギター、ピアノ、シンセサイザーとフェリーのヴォイスが一体となって奔流のようだ。
次の「Lost」は「Avalon」そっくりのゆったりしたバラードで、やっぱりこの人の醸し出すエレガントなムードは変わらないなあと思わせる。ギターでマーク・ノップラーが参加している。クールなダンディスムを見せつける「One Night Stand」をへて、最後の2曲はカバー。スティーヴン・ソンドハイムの「Send in the Clowns」はゴージャスかつ劇的で、往年のハリウッド映画を観るような贅沢感。そして静かに始まるロバート・パーマーの「Johnny & Mary」はメロウでロマンティック、かつての『Avalon』の幻が蜃気楼のように脳裏に去来する、儚い美しさに溢れた曲だ。
まあなんだかんだ言って、ブライアン・フェリーのミュージシャンシップは本物だったと感じさせてくれるアルバムだ。彼の美意識の結晶、または集大成といっても過言ではない。やはりこの男、単なるええかっこしいの伊達男ではなかった。
久しぶりにブライアン・フェリーのアルバムを購入。大昔に『Boys & Girls』を買った時以来だ。ロキシー・ミュージックはたくさん持っているしよく聴くが、なぜかフェリーのソロはほとんど聴かない。ロキシーの『Avalon』に感動した余韻で『Boys & Girls』を買い、あまり気に入らなかったせいだと思う。おまけに最近のフェリーは加齢で声質が変わってしまったので、ますます関心を失っていた。
が、この『Avonmore』は良い。iTunesでたまたま一曲目の「Loop De Li」を試聴し、「もしかするとこれは非常にイイのでは」と胸騒ぎを感じ、アルバムをダウンロードしたらこれがもう大当たり。なんとも渋く、妖しく、そして芳醇な音楽が詰まっていた。確かにフェリーの声はしわがれている。若い頃のあの美声はもはやなく、それを思うと悲しい。が、このハスキーなかすれ気味の声も、このアルバムの音楽には合っている。『Avalon』の透明感のある儚げなサウンドにはあの声がマッチしていたが、このアルバムのサウンドはもっと硬質で、ざらっとした触感がある。従って今のフェリーのしゃがれ声でも違和感はないし、むしろ渋さを増しているとも言える。
声質の変化とともに、歌い方もウィスパリング風に変わっている。まあこうならざるを得ないのだろうが、それにしてもこれほど若い頃と印象が変わったヴォーカリストも珍しいんじゃないか。「Midnight Train」あたりでは昔と変わらない気もするが、弾き語り風に始まる「Soldier of Fortune」ではもはや渋すぎるしゃがれ声で、どこのじいちゃんかと思った。この声で昔の曲を歌うと一体どうなるのだろうか。
サウンドは、アシッドジャズ的なリズムトラックをベースに、エレクトロニクスと、ピアノやギターのオーガニックな音が入り混じって複雑な味わいを醸し出す。ベースは全面的にマーカス・ミラーが参加しているが、派手なスラップは封印してひたすら渋くボトムを支えている。ギターやエレピは『Avalon』直系の音で、曲調も『Avalon』を思わせるものが多い。そういう意味では本作は間違いなくあの名作の延長線上で、いわば第二の『Avalon』として構想されたと思われる。それはタイトルの『Avonmore』からもうかがい知ることができるが、音の感触は『Avalon』よりも音のごった煮化が進み、どこまでも青く澄み渡ったようなあの透明感はない代わりに、濃厚なスープの如き旨味とコクを湛えている。キラキラ感は昔より減ったが、味は深い。そんな感じだ。これが円熟というものだろう。
先に『Boys & Girls』を気に入らなかったと書いたが、『Avalon』の清澄な欧州的ロマンティシズムに魅せられた私は『Boys & Girls』を聴いて、ゴージャス感は増しているものの、これじゃキラキラが行き過ぎて退廃の域に入っていると感じたのである。しかしここへ来て、お得意のゴージャス感も金ピカ性が薄れ、枯れて渋みが加わり、うまい具合に熟成した。このサウンドのこなれ具合は、まさに熟成というにふさわしい。
全11曲入っているが、まずは冒頭の「Loop De Li」がえらくかっこいい。メロディもフェリーの歌唱もクールで、一方サウンドはギターやシンセサイザーやサックスが渾然一体となって渋い。サビには女性コーラスが入って華を添える。フェリーのロマンティシズムに渋みが加わり、円熟した感じの曲だ。次の「Midnight Train」もよく似たムードで、快調に疾走。フィル・マンザネラ風のエレクトリック・ギターがよく似合う。
次の「Soldier of Fortune」はテンポゆったり目で、ひときわフェリーのかずれ声が目立つ。「Driving Me Wild」はまた「Loop De Li」路線に戻り、リズミックなサウンドとサビの展開がかっこいい曲。そして生ピアノの音が美しい「A Special Kind of Guy」から、タイトル・チューンの「Avonmore」へ。これは速いテンポの非常にグルーヴィーな曲で、ギター、ピアノ、シンセサイザーとフェリーのヴォイスが一体となって奔流のようだ。
次の「Lost」は「Avalon」そっくりのゆったりしたバラードで、やっぱりこの人の醸し出すエレガントなムードは変わらないなあと思わせる。ギターでマーク・ノップラーが参加している。クールなダンディスムを見せつける「One Night Stand」をへて、最後の2曲はカバー。スティーヴン・ソンドハイムの「Send in the Clowns」はゴージャスかつ劇的で、往年のハリウッド映画を観るような贅沢感。そして静かに始まるロバート・パーマーの「Johnny & Mary」はメロウでロマンティック、かつての『Avalon』の幻が蜃気楼のように脳裏に去来する、儚い美しさに溢れた曲だ。
まあなんだかんだ言って、ブライアン・フェリーのミュージシャンシップは本物だったと感じさせてくれるアルバムだ。彼の美意識の結晶、または集大成といっても過言ではない。やはりこの男、単なるええかっこしいの伊達男ではなかった。
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