アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

キャリー

2007-07-03 20:21:12 | 映画
『キャリー』 ブライアン・デ・パルマ監督   ☆☆☆☆

 DVDで鑑賞。ビデオで持っていたがテレビを大画面に買い替えたのでDVDを買った。B級ホラーの香りがぷんぷんする映画だが妙に好きなのである。

 ブライアン・デ・パルマの名を一躍有名にしたフィルムであり、私も最初に観たデ・パルマ作品はこの『キャリー』だった。原作はスティーヴン・キングの超有名なデビュー作。キングの原作は新聞記事や裁判記録などをふんだんに引用したルポルタージュ風の小説で、後のキングと比べると実験的でこじんまりしている。しかしこの映画はもうデ・パルマ節全開で、小説にはない怪しさと過剰なまでの甘酸っぱい香りに満ち満ちている。

 あらすじはこんな感じ。念動力を持つ超能力少女キャリーは学校ではみそっかすでみんなにいじめられている。級友の一人が善意から、ハンサムでフットボール選手で詩の才能もあるという奇跡的な好青年トミー・ロスに頼み、キャリーをプロムに誘わせる。トミーは最初はしかたなくキャリーを誘うが、当日美しく変身したキャリーを見て驚く。二人はいい雰囲気になり、さらにキング&クイーンにも選ばれ、キャリーは幸福の絶頂。どころがどっこいいじめっこグループは残酷ないたずらを計画しており、キャリーの頭上にバケツに入った豚の血をぶちまける。それを見て笑う友人達、教師達。ついにキャリーの理性のたがが外れ、すさまじい念動力が暴走し、プロム会場に殺戮の嵐が吹き荒れる。という話。

 ストーリー展開はいたってシンプルだ。最後のプロム会場での殺戮のシーンがクライマックスだが、ドレスを着たキャリーが血まみれになった姿は異様なまでにまがまがしく、非常にインパクトがある。一度この映画を観たら脳裏に焼きつくことになる。DVDジャケットの写真もこのシーンだ。全体にB級っぽい小粒の映画なのにホラー・クラシックの地位を獲得しているのは、こういう印象的な「絵」があちこちにあるからだろう。冒頭のシャワー・シーン、キャリーに初潮が訪れるシーンもなかなか強烈だし、狂信的なキャリーの母親がキャリーの念動力によって磔の形になって息絶えるシーンも印象的だ。それからまたシシー・スペイシクの顔が怖い。血まみれになってくわっと目を剥いたあの顔はもう半端じゃなく怖い。この映画のイメージがあまりに強くて、私は長い間シシー・スペイシクという女優そのものが怖かった。まともな人の役をやってるとものすごく違和感があった。彼女をキャリー役にもってきたのは大正解である。

 しかしよく考えるととても不自然な話だ。キャリーの級友スーは自分のボーイフレンド、トミーにキャリーをプロムに誘うように頼み、自分はプロムを諦める。映画ではスーのこの行動が最初キャリーを罠にはめる計画の一部のように思わせ、実は善意の行動だったと分かるようになっているが、ありうるか、そんなことが。それから豚の血。いくらなんでもそこまでやるか。最高に不自然なのは豚の血をかけられたキャリーを見たみんなのリアクション。最初は静まり返るが、だんだん爆笑に変わっていく。生徒も教師も。ありえない。大体トミー・ロスはバケツで頭を打って昏倒しているのである。あの状況で笑えるのは人ではなく人間に化けたデーモンだけだろう。

 と、不自然さ満載のストーリーだが、いいのである。大体ブライアン・デ・パルマの映画だ、うさんくさくいかがわしいのは当たり前。映像面でもスローモーション、ぐるぐる回るカメラなど得意技をここを先途と使いまくっている。トミーとキャリーが踊るシーンなんてぐるぐる回り過ぎて目を回してぶっ倒れないか心配になる。

 冒頭スローモーションのシャワー・シーンで始まり、最後は悪夢シーンのサプライズで終わる。まるで同じデ・パルマの『殺しのドレス』と双生児のような構成になっているが、『殺しのドレス』が18禁アダルト路線なのに対し『キャリー』は完全にティーンエイジャーの世界である。キャリーが初潮を迎えるシーンで始まるこの映画は、劣等感、怯え、異性への目覚め、といった思春期特有の不安や甘酸っぱい感傷をあざといほどに盛り込んである。これはホラー映画でもあるが、青春映画でもある。そしてデ・パルマのソフトフォーカスの画面や、とことん甘美な音楽がその世界にぴったりマッチしている。あざといまでの甘美な不安、それがこの映画の特質だ。

 最後のサプライズもこの映画の売り物の一つだろう。これほどまでに心臓に悪いエンディングは珍しい。最初観た時は死ぬかと思った。また別の時、私は再見だったが、一緒にビデオを見ていた女性があのシーンで文字通り飛び上がったのを目撃したことがある。心臓が悪い人はマジで用心した方が良い。


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