西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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2008年春季サンド研究会/研究発表

2008年05月29日 | SJES研究発表会
2008年春季サンド研究会は、5月24日、青山学院大学にて無事に終了しました。

研究発表
河合貞子氏 :「ドラクロワの描いたジョルジュ・サンド像に付託した意味-《ショパンとジョルジュ・サンド》(1838)の作品を中心に-」

発表の概略

絵画における19世紀ロマン主義の巨匠ドラクロワは、二点のジョルジュ・サンドの肖像画を描いている。
これらの作品に関する先行研究は、二つに切り取られた「サンドとショパン」(1838)の製作背景、特に作品が描かれた経緯や復元図の研究に留まるものであったが、河合氏は幅広い専門知識を駆使され、この作品が当時の文学界の新たな潮流となっていた世紀末の「メランコリー」に与する、ドラクロワ独自の絵画手法における革新性を具現する作品であることを説得力をもって明らかにされた。
ドラクロワの「メランコリー」は、「人々を魅了し、惹きつける美のジャンル」「魂を高め」「心を魅了する」「神秘的で得も言われぬ美」であるとするセナンクールの美的感覚に通底するものであった。ドラクロワがダヴィッドやアングルの新古典派を批判する所以は、彼らが「古典的主題を使って古典彫刻を模倣する」ことのみに腐心していることにあった。ドラクロワの革新性は、サンドの肖像や「アルルの女」に象徴されるように、古代・古典を範としつつ同時代の感性である「メランコリー」を作品に描き込むことにより、新古典派を凌駕した点にあったのである。
サンドはセナンクールと交流があり、ミュッセに「世紀児」という言葉を初めて使ったとされる。「メランコリー」と世紀病を纏ったサンドの作品『レリア』(1833)には、ドラクロワとの共通項が認められるだろう。
河合氏は、また、切り離された「サンドの肖像」は、ドラクロワが描いた作品の系譜のなかで最も多義性と重層性に富む絵画表現が認められる作品であり、そこには新古典主義に対抗するドラクロワの革新の精神とともに画家の尊敬する女性像が付託されているという点において、極めて重要な作品であることを強調された。

美術分野で博士号を取得された河合会員の発表は主題を絞って見事に纏められており、文学と美術の領域横断的な研究の可能性を示唆したという意味においても、今後のサンド研究に新たな地平を切り拓く画期的な研究発表であったといえよう。
発表後、「サンドとショパン」の絵画が縦画であったのか横絵であったのかといった質問のほか、この作品がサンドの「男装の女流作家」というイメージを宣伝するために出版社の意向により描かれたという事実に関する質疑応答、あるいは、サンドの『レリア』(1833)との相関性に関する指摘などがなされ、多くの参加者を得た今回の研究会は盛会のうちに終了した。

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