明日は大阪府立大中百舌鳥キャンパスにて第23回女性作家を読む研究会。今回、取り上げられる作家は、マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール Marceline Desbordes Valmore(1786-1859)です。
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マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール Marceline Desbordes Valmore(1786-1859)
サンドより18年早くこの世に生を受け、19世紀ロマン主義時代に詩人として生きた。女性らしい情愛や恋愛の悲しみを歌ったエレジーなど、恋愛の愛の詩を数多く著した。処女詩集は「エレジーとロマンス」(1819)。
作家バルザックや批評家サント=ブーヴに高く評価されたが、世間一般によく知られていたわけではなかったようだ。
彼女の死後、詩人ボードレールに発見され、有名となった。
「女の手紙」は、ヴェルレーヌに最も優れた作品と評価されている(『呪われた詩人たち』)。
こうした詩の他、彼女は1821年の中編小説『アンティル諸島の通夜』(『サラ』を含む)など、クレオールを題材とした作品も残した。『サラ』は、大革命で父が破産し、生活苦から叔父夫妻を頼り母と二人で赴いたグアドループ島での彼女の幼少期の経験をもとに書かれた作品である。通行禁止処分を受けたためにグアドループ島の北西に位置するサン=バルテルミー島に 2 か月間、滞在した後、目的地グアドループ島に到着。島では、黒人奴隷の反乱に遭遇、叔母夫妻は虐殺され、母親も黄熱病で他界。孤児となったマルスリーヌは現地の未亡人のお陰でフランスに帰国し、その後、「グアドループ島の大虐殺から逃れた少女マルスリーヌ・デボルド」の謳い文句で女優の卵としてリールの劇団の舞台に立った。
1832年からは演劇活動を停止し、書くことに専念。叙情性に富む作風と大胆な表現は注目を集め、ルイ・フィリップから年金を保証され、いくつかの賞も受賞した。『子供のための童話』も書いたが、サンドとも親しかったアンリ・ラトゥーシュとの間に設けた子供を始め、その後、結婚で設けた4人の子や、唯一の弟、友人達すべてに先立たれた後、1859年に逝去している。
<マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール の詩>
「心の叫び」Un Cri(壺齋散人訳)
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
太陽や雲を追いかけて
羽ばたくあなたの翼のあとを
どこまでもあなたについていくわ
稲妻のようにすばやく高らかに
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
あなたはもう三年もまえから
わたしの窓辺で歌っていたのね
ひさしぶりに見るこの窓辺は
前とちっとも変わってないでしょ
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
前のことはどうでもいいわ
わたしもあなたと同じように
孤独なため息をつきながらも
心の通じ合える人が欲しい
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
そんな人を探しに行きましょう
北へ 南へ 東のほうまで
もし見つけることができたなら
微笑みながら死んでもいいわ
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
「わたしの部屋」Ma chambre(壺齋散人訳)
わたしの部屋は高いところにあって
窓が空に開いていて
青白い顔の
お月様がお客様
下で誰か呼び鈴を鳴らしてるけど
今日はもういいわ
あの人じゃないんだったら
だれにも会いたくないんだから
他のひとから身を隠して
ひとりで刺繍を編んでいるの
別に悲しいわけじゃないけど
心は涙でいっぱいなの
雲ひとつない青空を
ここから眺めてるの
星を見つめることもあるわ
嵐だって見ているわ
わたしに向き合って
椅子がひとつ誰かを待ってる
あのひとのだったのよ
二人で腰掛けたものだわ
リボンの飾りをつけたままで
まだそこにある
すっかりあきらめきったようにみえる
まるでわたしみたいに
「さよならといわないで」Jamais adieu(壺齋散人訳)
行かないで いっしょにいて
愛しているのよ 信じて欲しい
死は一瞬にして愛するものを引き離す
あなたも同じことをするのね!
生きながらにして死んだも同じよ
だから またねといって さよならとはいわないで
お金のために愛を捨てるなんて!
お金で何が買えるのでしょう?
あなたがいなければ生きてはいけない
あなたなしでは死ぬほうがまし
生きながらにして死んだも同じよ
だから またねといって さよならとはいわないで
あなたはやがていうかもしれない 愛しているよと
でもそのときには知らされるでしょう
「彼女は死んでしまったのだ
青空だけが彼女の死を見取ったよ」と
生きながらにして死んだも同じよ
だから またねといって さよならとはいわない
「変わりたい」L'espoir(壺齋散人訳)
違う愛し方だってあるのよね!
わたしだって幸せになりたい!
でもわたしには愛がつらいの
苦痛にしか感じられないの
幸せになることだってできるのにね!
違う愛し方だってあるというのにね!
わたしだって変われるとあなたはいう
あなたのいうとおり変わってみたいわ
わたしの心はもう何も感じない
だから変わりたい でなければ死にそう
でも死んだら不可能のことも可能になるんでしょ
そしたらあなたのいうとおり 変われるかもね!
「離れ離れのふたり」Les Separes(壺齋散人訳)
書かないで わたしは悲しくて消えてしまいたいほど
あなたのいない夏は 灯りのない夜のよう
あなたを抱けない苦しさから腕をむなしく組んでは
自分の胸を叩いているの まるでお墓を打つように
だから手紙を書かないで!
書かないで いさぎよく死ぬことを学びましょう
わたしがあなたを愛していたとか
あなたがわたしを愛していたとか そんなことは
わたしには届かない天からの声を聞くようなもの
だから手紙を書かないで!
書かないで わたしは怖い 思い出すのがつらい
その思い出の中でわたしを呼ぶあなたの声がつらい
それは飲もうとして飲むことのできない水のようなもの
あなたの筆跡がわたしにつらい思いを甦らせる
だから手紙を書かないで!
書かないで わたしがつらくなるようなことを
あなたの声がわたしの心の中で広がって
あなたの微笑がわたしを焼き尽くしそうになる
わたしはあなたのキスが心に焼きつくのを感じる
だから手紙を書かないで!
参照:フランス文学と詩の世界
http://poesie.hix05.com/Valmore/valmore.index.html
http://poesie.hix05.com/Baudelaire/Discours/507.valmort.html
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マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール Marceline Desbordes Valmore(1786-1859)
サンドより18年早くこの世に生を受け、19世紀ロマン主義時代に詩人として生きた。女性らしい情愛や恋愛の悲しみを歌ったエレジーなど、恋愛の愛の詩を数多く著した。処女詩集は「エレジーとロマンス」(1819)。
作家バルザックや批評家サント=ブーヴに高く評価されたが、世間一般によく知られていたわけではなかったようだ。
彼女の死後、詩人ボードレールに発見され、有名となった。
「女の手紙」は、ヴェルレーヌに最も優れた作品と評価されている(『呪われた詩人たち』)。
こうした詩の他、彼女は1821年の中編小説『アンティル諸島の通夜』(『サラ』を含む)など、クレオールを題材とした作品も残した。『サラ』は、大革命で父が破産し、生活苦から叔父夫妻を頼り母と二人で赴いたグアドループ島での彼女の幼少期の経験をもとに書かれた作品である。通行禁止処分を受けたためにグアドループ島の北西に位置するサン=バルテルミー島に 2 か月間、滞在した後、目的地グアドループ島に到着。島では、黒人奴隷の反乱に遭遇、叔母夫妻は虐殺され、母親も黄熱病で他界。孤児となったマルスリーヌは現地の未亡人のお陰でフランスに帰国し、その後、「グアドループ島の大虐殺から逃れた少女マルスリーヌ・デボルド」の謳い文句で女優の卵としてリールの劇団の舞台に立った。
1832年からは演劇活動を停止し、書くことに専念。叙情性に富む作風と大胆な表現は注目を集め、ルイ・フィリップから年金を保証され、いくつかの賞も受賞した。『子供のための童話』も書いたが、サンドとも親しかったアンリ・ラトゥーシュとの間に設けた子供を始め、その後、結婚で設けた4人の子や、唯一の弟、友人達すべてに先立たれた後、1859年に逝去している。
<マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール の詩>
「心の叫び」Un Cri(壺齋散人訳)
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
太陽や雲を追いかけて
羽ばたくあなたの翼のあとを
どこまでもあなたについていくわ
稲妻のようにすばやく高らかに
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
あなたはもう三年もまえから
わたしの窓辺で歌っていたのね
ひさしぶりに見るこの窓辺は
前とちっとも変わってないでしょ
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
前のことはどうでもいいわ
わたしもあなたと同じように
孤独なため息をつきながらも
心の通じ合える人が欲しい
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
そんな人を探しに行きましょう
北へ 南へ 東のほうまで
もし見つけることができたなら
微笑みながら死んでもいいわ
ツバメさん ツバメさん ツバメさん
この世に愛なんてあるのかしら
もしあるのなら教えてちょうだい
あなたと一緒に探しにいくから
「わたしの部屋」Ma chambre(壺齋散人訳)
わたしの部屋は高いところにあって
窓が空に開いていて
青白い顔の
お月様がお客様
下で誰か呼び鈴を鳴らしてるけど
今日はもういいわ
あの人じゃないんだったら
だれにも会いたくないんだから
他のひとから身を隠して
ひとりで刺繍を編んでいるの
別に悲しいわけじゃないけど
心は涙でいっぱいなの
雲ひとつない青空を
ここから眺めてるの
星を見つめることもあるわ
嵐だって見ているわ
わたしに向き合って
椅子がひとつ誰かを待ってる
あのひとのだったのよ
二人で腰掛けたものだわ
リボンの飾りをつけたままで
まだそこにある
すっかりあきらめきったようにみえる
まるでわたしみたいに
「さよならといわないで」Jamais adieu(壺齋散人訳)
行かないで いっしょにいて
愛しているのよ 信じて欲しい
死は一瞬にして愛するものを引き離す
あなたも同じことをするのね!
生きながらにして死んだも同じよ
だから またねといって さよならとはいわないで
お金のために愛を捨てるなんて!
お金で何が買えるのでしょう?
あなたがいなければ生きてはいけない
あなたなしでは死ぬほうがまし
生きながらにして死んだも同じよ
だから またねといって さよならとはいわないで
あなたはやがていうかもしれない 愛しているよと
でもそのときには知らされるでしょう
「彼女は死んでしまったのだ
青空だけが彼女の死を見取ったよ」と
生きながらにして死んだも同じよ
だから またねといって さよならとはいわない
「変わりたい」L'espoir(壺齋散人訳)
違う愛し方だってあるのよね!
わたしだって幸せになりたい!
でもわたしには愛がつらいの
苦痛にしか感じられないの
幸せになることだってできるのにね!
違う愛し方だってあるというのにね!
わたしだって変われるとあなたはいう
あなたのいうとおり変わってみたいわ
わたしの心はもう何も感じない
だから変わりたい でなければ死にそう
でも死んだら不可能のことも可能になるんでしょ
そしたらあなたのいうとおり 変われるかもね!
「離れ離れのふたり」Les Separes(壺齋散人訳)
書かないで わたしは悲しくて消えてしまいたいほど
あなたのいない夏は 灯りのない夜のよう
あなたを抱けない苦しさから腕をむなしく組んでは
自分の胸を叩いているの まるでお墓を打つように
だから手紙を書かないで!
書かないで いさぎよく死ぬことを学びましょう
わたしがあなたを愛していたとか
あなたがわたしを愛していたとか そんなことは
わたしには届かない天からの声を聞くようなもの
だから手紙を書かないで!
書かないで わたしは怖い 思い出すのがつらい
その思い出の中でわたしを呼ぶあなたの声がつらい
それは飲もうとして飲むことのできない水のようなもの
あなたの筆跡がわたしにつらい思いを甦らせる
だから手紙を書かないで!
書かないで わたしがつらくなるようなことを
あなたの声がわたしの心の中で広がって
あなたの微笑がわたしを焼き尽くしそうになる
わたしはあなたのキスが心に焼きつくのを感じる
だから手紙を書かないで!
参照:フランス文学と詩の世界
http://poesie.hix05.com/Valmore/valmore.index.html
http://poesie.hix05.com/Baudelaire/Discours/507.valmort.html