『幻肢』を新宿のK’s cinemaで見てきました。
(1)谷村美月が出演するというので映画館に行ってきました。
本作(注1)は、自分が運転する車で交通事故を引き起こし、事故に関する記憶、特に同乗していたはずの恋人遥(谷村美月)に関する記憶を喪失してしまった医大大学院生の雅人(吉木遼)が(注2)、友人の亀井(遠藤雄弥)や准教授の川端(宮川一朗太)などの協力によって、うつ病の治療に使われるTMS(経頭蓋磁気刺激法)を受けながら、徐々に記憶を取り戻していくというお話です。
はたして雅人はどんな記憶を取り戻していくのでしょうか、そして交通事故の真相は、………?
本作は、「奇抜な着想、巧妙なトリック、読むものを幻惑させるストーリーテリングで、数多くの話題作を発表し続けている島田荘司の初映画作品」と謳われており期待したところ、サスペンス的な要素よりもむしろラブストーリー的な要素のほうが大きいように思いました。それでも、92分の長さの中に上手く全体をまとめており、さらにはクマネズミの棲家からほど近いところにある井の頭恩賜公園やその周辺(注3)がふんだんに出てきたりもして、最後まで愉しむことが出来ました(注4)。
(2)本作を基本的に支えているのは「幻肢(あるいは幻影肢)」の問題です。
本作の冒頭では、佐野史郎扮する教授の宮沢が、脳科学者ラマチャンドランの名前を黒板に書きながら、その「幻肢」の説明をしています。
宮沢教授の話によれば、ラマチャンドランが、患者のジョンに「このカップを掴んでください」と言って、ジョンの失われた左手がカップに届いた瞬間にカップを引くと、ジョンは苦痛に満ちた叫び声を上げ「とても痛い」と言った、とのこと。
つまり、ジョンの左手の指は幻覚にしても、その痛みは本物ということなのでしょう。
この幻の手足という「幻肢」はどのように説明できるのか、と言いながら、教授が鏡のついた箱を取り出して中に自分の手を入れたところで(注5)、講義の場面は終了します。
そして、雅人は、この「幻肢」によって「幽霊」を説明するということを思いつき(注6)、ラストでは、教室の皆の前でその仮説についての論文を発表します。
こんなところから本作のミステリーも解明されていくのですが、なんといっても本作はサスペンス物ですから、「幽霊」の話がなぜここで飛び出すのかなどについて詳しいことは見てのお楽しみといたしましょう。
なお、この「幻肢」に関しては、次回のエントリにも関連事項を書き込みましたので、御覧ください。
(3)前田有一氏は、「いったい事故のとき何が起きていたのか。周りのよそよそしい雰囲気はなぜなのか。観客の好奇心を刺激しながら物語は進んでいく。退屈とは無縁だ。私は本作で、久々に作り手と観客のガチのだましあいを堪能した」、「低予算だが、本当によく工夫された、良質なエンターテイメントである」として70点を付けています。
また相木悟氏は、「ミステリー映画の新境地を切り開かんとする意欲はかいたいのだが、少々物足りない一作であった」と述べています。
(注1)原作は、島田荘司著『幻肢』(文藝春秋社:未読)。
なお、最初に島田氏の原案に基づいて、本作の藤井道人監督が脚本化し、それから島田氏がノベライズしたという経緯があるようです(なお、原作と映画とでは主人公が入れ替わっているとのこと)。
〔追記:原作については、10月27日の「本よみうり堂」に書評が掲載されています〕
(注2)雅人が「事故の時、遥は俺と一緒にいたはず。そして俺は助かった。遥は死んだのか?」と言うと、友人の亀井は「遥のことは俺の口からはちょっと、………」と言葉を濁し、「とにかく、自分の体だけ心配しろ」と言います。
(注3)雅人と遥の二人は、井の頭池のボートに乗るだけでなく、動物園の方へ行ったり、神田川の起点あたりを前にして置かれているベンチに座ったり、吉祥寺駅と井の頭公園の間にある商店街を散策したり、ハモニカ横丁に入ったりもします。
(注4)俳優陣の内、最近では、谷村美月は『幕末高校生』、佐野史郎は『偉大なる、しゅららぼん』、遠藤雄弥は『永遠の0』、宮川一朗太は『黒執事』で、それぞれ見ました。
(注5)「箱の中に鏡を入れ、虚像のところに実際の手があるように見せかけて、幻肢や幻痛を消滅させる治療法」を、教授は説明しようとしたものと思われます。
なお、ここらあたりは、この記事を参照しました。
(注6)雅人は、海岸に置かれている大きな岩のところに遥を連れていって、この岩にまつわる伝説から「幻肢」に興味を持った、と話します。
その伝説というのは、夫が海に出て帰ってこなかった妻が、この岩に雷が落ちた際に祈ったところ、夫の姿が目の前に出現したというもの。落雷によってこの岩が磁場を帯びたことと夫の出現とが関係するとすれば、TMSと幻肢(ひいては幽霊)との間にも関係があるかもしれないと雅夫は考えつき、研究に取りかかったのだ、と話します。
★★★☆☆☆
象のロケット:幻肢
(1)谷村美月が出演するというので映画館に行ってきました。
本作(注1)は、自分が運転する車で交通事故を引き起こし、事故に関する記憶、特に同乗していたはずの恋人遥(谷村美月)に関する記憶を喪失してしまった医大大学院生の雅人(吉木遼)が(注2)、友人の亀井(遠藤雄弥)や准教授の川端(宮川一朗太)などの協力によって、うつ病の治療に使われるTMS(経頭蓋磁気刺激法)を受けながら、徐々に記憶を取り戻していくというお話です。
はたして雅人はどんな記憶を取り戻していくのでしょうか、そして交通事故の真相は、………?
本作は、「奇抜な着想、巧妙なトリック、読むものを幻惑させるストーリーテリングで、数多くの話題作を発表し続けている島田荘司の初映画作品」と謳われており期待したところ、サスペンス的な要素よりもむしろラブストーリー的な要素のほうが大きいように思いました。それでも、92分の長さの中に上手く全体をまとめており、さらにはクマネズミの棲家からほど近いところにある井の頭恩賜公園やその周辺(注3)がふんだんに出てきたりもして、最後まで愉しむことが出来ました(注4)。
(2)本作を基本的に支えているのは「幻肢(あるいは幻影肢)」の問題です。
本作の冒頭では、佐野史郎扮する教授の宮沢が、脳科学者ラマチャンドランの名前を黒板に書きながら、その「幻肢」の説明をしています。
宮沢教授の話によれば、ラマチャンドランが、患者のジョンに「このカップを掴んでください」と言って、ジョンの失われた左手がカップに届いた瞬間にカップを引くと、ジョンは苦痛に満ちた叫び声を上げ「とても痛い」と言った、とのこと。
つまり、ジョンの左手の指は幻覚にしても、その痛みは本物ということなのでしょう。
この幻の手足という「幻肢」はどのように説明できるのか、と言いながら、教授が鏡のついた箱を取り出して中に自分の手を入れたところで(注5)、講義の場面は終了します。
そして、雅人は、この「幻肢」によって「幽霊」を説明するということを思いつき(注6)、ラストでは、教室の皆の前でその仮説についての論文を発表します。
こんなところから本作のミステリーも解明されていくのですが、なんといっても本作はサスペンス物ですから、「幽霊」の話がなぜここで飛び出すのかなどについて詳しいことは見てのお楽しみといたしましょう。
なお、この「幻肢」に関しては、次回のエントリにも関連事項を書き込みましたので、御覧ください。
(3)前田有一氏は、「いったい事故のとき何が起きていたのか。周りのよそよそしい雰囲気はなぜなのか。観客の好奇心を刺激しながら物語は進んでいく。退屈とは無縁だ。私は本作で、久々に作り手と観客のガチのだましあいを堪能した」、「低予算だが、本当によく工夫された、良質なエンターテイメントである」として70点を付けています。
また相木悟氏は、「ミステリー映画の新境地を切り開かんとする意欲はかいたいのだが、少々物足りない一作であった」と述べています。
(注1)原作は、島田荘司著『幻肢』(文藝春秋社:未読)。
なお、最初に島田氏の原案に基づいて、本作の藤井道人監督が脚本化し、それから島田氏がノベライズしたという経緯があるようです(なお、原作と映画とでは主人公が入れ替わっているとのこと)。
〔追記:原作については、10月27日の「本よみうり堂」に書評が掲載されています〕
(注2)雅人が「事故の時、遥は俺と一緒にいたはず。そして俺は助かった。遥は死んだのか?」と言うと、友人の亀井は「遥のことは俺の口からはちょっと、………」と言葉を濁し、「とにかく、自分の体だけ心配しろ」と言います。
(注3)雅人と遥の二人は、井の頭池のボートに乗るだけでなく、動物園の方へ行ったり、神田川の起点あたりを前にして置かれているベンチに座ったり、吉祥寺駅と井の頭公園の間にある商店街を散策したり、ハモニカ横丁に入ったりもします。
(注4)俳優陣の内、最近では、谷村美月は『幕末高校生』、佐野史郎は『偉大なる、しゅららぼん』、遠藤雄弥は『永遠の0』、宮川一朗太は『黒執事』で、それぞれ見ました。
(注5)「箱の中に鏡を入れ、虚像のところに実際の手があるように見せかけて、幻肢や幻痛を消滅させる治療法」を、教授は説明しようとしたものと思われます。
なお、ここらあたりは、この記事を参照しました。
(注6)雅人は、海岸に置かれている大きな岩のところに遥を連れていって、この岩にまつわる伝説から「幻肢」に興味を持った、と話します。
その伝説というのは、夫が海に出て帰ってこなかった妻が、この岩に雷が落ちた際に祈ったところ、夫の姿が目の前に出現したというもの。落雷によってこの岩が磁場を帯びたことと夫の出現とが関係するとすれば、TMSと幻肢(ひいては幽霊)との間にも関係があるかもしれないと雅夫は考えつき、研究に取りかかったのだ、と話します。
★★★☆☆☆
象のロケット:幻肢