映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

春を背負って

2014年06月24日 | 邦画(14年)
 『春を背負って』をTOHOシネマズ渋谷で見てきました。

(1)本作を制作した木村大作監督による前作『劔岳 点の記』が良かったこともあって映画館に足を延ばしました。

 本作の最初では、20年前のこととして、雪山を幼いと共に登る父親・勇夫小林薫)の姿が映し出されます。



 勇夫は、「一歩一歩負けないように、自分の力で普通に歩けばいい」と息子に言い、彼が滑り落ちると、引き上げてから殴ったりします。
 そして、二人は山小屋に到着。
 勇夫は亨に、「これが標高3000mの菫小屋だ」と教え(注1)、「これから小屋開けの準備をするぞ!」と息子に叫びます。

 場面は変わって、コンピュータのディスプレイが林立する金融機関の大部屋。
 同僚が「いくら睨んでも数字は変わらんよ。開き直らないとトレーダーなんてやってらんないよ」と言うのに対し、浮かない顔でディスプレイを見ている松山ケンイチ)が「60億ですからね」と答えます。
 部長(仲村トオル)が「どのくらいやられたんだ」と尋ねると、亨は「9億ほどです」と答えるので、部長は「最近どうしたんだ、結果が出ていないが。明日は専務に説明だ」と言います。



 資料の作成などで亨が残業で会社に居残っていると、突然、故郷の母親・檀ふみ)から「父さんが遭難者を助けようとして死んだ」との連絡が入ります。

 翌日、亨は専務への報告を済ませた後(注2)、車で関越道を通って富山の実家に戻り、葬儀に参列します。
 そこでの皆の話から、父親が皆に慕われていたことが分かる一方で、「菫さんも、民宿があるから、菫小屋は手放さざるをえないだろう」との噂話も耳に(注3)。
 そんな時に、亨の会社の部長から「お前の勘が当たって、だいぶいい感じになってきている」との電話も入ってきます。
 さあ、亨はこれからどうするのでしょうか、………?

 本作では、山小屋のある場所から見る朝日や夕日とか高山植物など立山の自然がとても綺麗に映し出されていて素晴らしいとはいえ、描き出されるいくつかのエピソードはありふれたものであり(注4)、筋の運びや台詞などにも問題が散見されるのではと思いました(注5)。

(2)本作は、前作同様に、その大きな狙いが立山の自然の素晴らしさを映し出すことにあるように思われ、その点では制作の意図は十分達成されているように思います。
 菫小屋から見える立山連峰の眺め、タカネスミレなどの高山植物、翼を広げる雷鳥、民宿の庭に咲く山桜、などなど、次々に美しい映像が出てきます。
 そうしたことから、本作については、ストーリーとか人物造形などに異を立ててみてもマッタク意味がないように思われます。

 でも、自然を写すドキュメンタリー作品ではなく劇映画としてみると、どうでもいいことながらいくつか気になる点が出てきます。
例えば、
a.あまりにあっさりと亨が、将来を嘱望されている金融の最前線から身を引いてしまう点〔従来からそのように思っていたというのでもなさそうですし(このところ成績が落ち込んでいるにしても、それまでは至極順調でした)、取引にまつわる事故でやる気が削がれていたわけでもなさそうですし〕(注6)、

b.父の死を聞いて亨が故郷に東京から戻るに際し、大変急いでいるのにどうして東京から車を使ったのかという点(ただでさえ時間がかかるのに、亨の場合は渋滞にも遭遇しますし)(注7)、

c.山小屋に救助用ソリが置いていないのかという点(そうしたものが備わっていれば、部分的には背負わなくてはダメなところがあるにせよ、ソリを持ってきた救助隊に出会うまでズッと悟郎を背負うこともないでしょう)(注8)、

d.蒼井優が演じる(山小屋で働くスタッフ)は心に闇を持っているにもかかわらず(注9)、あまりにも純朴そのものに描き出されている点、



e.亨の親友・聡史新井浩文)の妻の役で安藤サクラが出演していますが、せっかくなのですからもう少しストーリーに絡んできてもいいのではという点(注10)、

など違和感を覚えたところです(注11)。

 それに何よりも、山に登るとその達成感から悟ったようなことを言ってみたくなる気持は良くわかりますが(昔から仙人は山にいました!)、登場人物、特に山男で勇夫の後輩の悟郎豊川悦司)の台詞がどれも名台詞じみているのはどうかなと思いました。



 例えば、初めて重い荷物を持って山に登る亨を見て、悟郎は「あんたは荷物と喧嘩している。荷物とは仲良くしていかないと。一歩一歩、負けないように普通に歩けばいい」と言ったり、またタバコと人間の共通点を聞かれて、「タバコも人間も煙になって初めて本当の価値がわかる」とか、「菫小屋は、皆の心の避難小屋だった。疲れたらここにくるんだ」と言ったりします(注12)。
 そんなわかったような台詞を登場人物にわざわざ喋らさずとも、映像だけでそのことは十分に観客に伝わるのではないか、映画全体の台詞の中に1つ2つあるからこその名台詞ではないか、などと思いました。

(3)渡まち子氏は、「立山連峰を舞台に山で生きる人々の愛と絆が描かれる「春を背負って」。気恥ずかしいくらい真っ直ぐな映画だ」として65点をつけています。
 前田有一氏は、「笹本稜平による原作と同じではあるのだが、この題名は秀逸である。見終わってから真の意味が分かるあたりは優れたミステリのそれをほうふつとさせるが、それが感動につながる点が実に映画的である」などとして70点をつけています。



(注1)父親・勇夫は亨に、「人は、歳を重ねるにつれて沢山の荷物をしょって生きていかなくてはならない。行く先も自分で決め無くてはならない。誰かに助けてもらうわけにはいかないんだ。鶴の群れはエベレストを越えていくが、誰も教えないのに自分らの変えるべき場所を知っている。人間なんかとても及ばない」などとも言います。

(注2)専務からは、「会社は君に期待している。結果を出せば、君は幹部にだってなれる」と言われます。

(注3)さらに、亨の親友の聡史が、「立山杉は一生この場所にいる。俺もこの立山に居残る」と亨に言います。
 なお、聡史は、亨用に椅子(元々は、勇夫が注文したもの)を作って山小屋まで持って上がりますが、これは、『キツツキと雨』において、木こりの克彦(役所広司)が幸一(小栗旬)に監督用の立派な椅子を作ってあげたことを思い出しました。

(注4)本作では、山での遭難事故が4つほど描かれていますが。

(注5)俳優陣の内、最近では、松山ケンイチは『僕達急行 A列車で行こう』、蒼井優は『東京家族』、豊川悦司は『ジャッジ!』、小林薫は『夏の終り』、新井浩文は『永遠の0』、安藤サクラは『かぞくのくに』でそれぞれ見ました。
 また、山小屋に来た後遭難して亨に救助される登山者役に池松壮亮が扮していますが、『ぼくたちの家族』に出演しています〔それだけでなく、この拙エントリの(2)のロでも触れたように、最近まで放映されていたTVドラマ『MOZU』にも出演して活躍しています〕。

(注6)非人間的な金融業界というお馴染みの先入観に本作も毒されているような感じを受けます。
 ただ、木村監督は、劇場用パンフレットに掲載されている「Director Interviw」で「人は自分がおかれている立場を超えて、別の居場所があるんじゃないかと思っている気がするんです」と述べています。あるいは、亨も金融機関で働きながら一方でそう思い続けていたのかもしれません。そういう背景があるものですから、父の葬儀の後、菫小屋に登って父の遺したものを見ると、自分こそがこの後を継ぐのだと突然思ったのかもしれません。
 でも、かりにそうだとしたら、山小屋の仕事を続けている最中に、自分の居場所はここではないのではと思うかもしれないなどと、つまらない揚げ足を取ってみたくなってしまいます。

(注7)なぜ飛行機や新幹線を使わなかったのでしょうか?飛行場や新幹線の駅から亨の実家まで距離があるにしても、タクシーやレンタカーで対応できるのではないでしょうか?

(注8)あるいは、天候が悪いわけではないのですから、ヘリによる救出が考えられないのでしょうか(この際、費用のことは言っていられないでしょう)?

(注9)愛は、亨や悟郎に、「3年前に認知症の父が死に、母も肺がんで後を追ったが、私ばかり犠牲になってという思いもあって、母が亡くなった時は、妻子ある男性と旅行中だった」などと話します。

(注10)亨の母親役の檀ふみにしても、登山客役の市毛良枝にしても、台詞があるのに、安藤サクラは、優しく聡史の行動を見守るだけで台詞がありません(それはそれで難しい演技なのでしょう。上記「注6」のインタビューにおいて、監督は、台詞ではなく「(俳優の)表情が一番気になるんですよ」と述べていますし)。

(注11)友人が「立山山中で携帯が使えるのか?」との疑問を呈していましたが、この記事で見ると立山の「剣山荘」や「一ノ越山荘」などでは使えそうです。

(注12)さらにまた、亨が夕日を見ながら「何万年もこの光景は変わらないのに、僕の仕事は一瞬でおしまいになってしまう」と言うのに対し、悟郎は、「人生は徒労の連続。一歩一歩進んでいく。それが人生」などと答えます。
 愛が自分の過去を話したことに対しても、悟郎は「自分が背負っている荷物を一つ一つおろそうとしている」と論評します。
 総じて、悟郎の名台詞は、亨の父親が言ったことの焼き直しだとも考えられますが。



★★★☆☆☆



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