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アウトレイジ

2010年07月01日 | 邦画(10年)
 カンヌ映画祭での受賞は逃しましたが、話題性たっぷりということで、北野武監督の『アウトレイジ』を吉祥寺バウスシアターで見てきました。

(1)この映画は、北野武率いる弱小ヤクザ組織大友組が、上の大組織(北村総一朗率いる山王会本家と、その下の國村隼率いる池元組)から無理難題を吹っ掛けられ、そればかりか石橋連司率いる村瀬組も絡んできて、ついには解体させられてしまうというよくあるヤクザ抗争物といえるでしょう。
 組の名前と組同士の関係、誰がどの組に所属しているのかさえ把握してしまえば、今回の北野作品はとても理解が容易で、映画自体を娯楽作品として楽しむことができると思います。
 なにしろ、これまで北野映画の常連だった大杉漣とか寺島進といった面々ではなく、初めて監督の作品に出演するという俳優、それもこうしたヤクザ映画には向いていなさそうな俳優が多数見られるのですから、面白くないはずがありません。
 本家の会長・関内というこの映画ではトップの地位にある親分を演じているのが、『踊る大捜査線』でズッコケ警察署長役を演じている北村総一朗ですし、その右腕の若頭・加藤となっているのが三浦友和(『沈まぬ太陽』で専務の行天を演じています)、大友組のインテリヤクザ・石原に扮しているのが加瀬亮(最近では『重力ピエロ』の兄役が印象的)、悪徳刑事・片岡役に小日向文世(『サイドウェイ』の道雄役)、等々。
 それぞれが、それまで演じてきた役柄とは全く違った雰囲気を持つ役についていながらも、そこは十分にその役になり切って演じている様は、見ていて小気味よさすら感じました〔マア、誰でも簡単に悪人になれるということなのでしょう!〕。

 ただ、問題がないわけではないと思われます。
イ)従来の映画では必ず見られたワケノワカラナイ場面が、今度の映画については1か所も見られないこと。
 もちろん、監督自身が「エンターテインメントを突き詰めてみた」といっているところから、「アートっぽい」ところは求めなかったのでしょう。監督の狙い通り、「一回で理解できる映画」になっていて、その結果大層「面白い」映画になっていると思います。
 ですが、そうなってくると、これまで北野作品に長らくお付き合いしてきた方としては、少しぐらい「アートっぽい」ところがあってもな、とないものねだりをしたくなってしまいます。

ロ)この映画のコピーに「全員、極めつけの悪<ワル>ばかり」などとあって、「悪」が強調されていること。
 とはいえ、この映画で描かれているのは、ヤクザという特殊な集団の中での抗争であって、その外部の者には何の影響もありません〔時折、ヤクを売人から買うとか、大使館の敷地に設けられたカジノに集まったりする一般人らしき人たちが描かれてはいますが、そうした人たちは犯罪行為を承知の上だと考えるべきでしょう〕。
 ですから、このヤクザ抗争で、何件もの殺人が行われても、ワルたちが悪行をなしているとは思えないところです。

ハ)女性の役割があまりにも限定的なこと。
 大友組長(北野武)の愛人とか、その幹部組員(椎名桔平)の愛人など数人が映画には登場しますが、今時の映画には珍しく、単なる道具的な存在としてしか描かれていないように思われます。

 といったところから、さすがに面白い映画なのですが、もう少し工夫の余地があるのではないかと思ってしまいました。

(2)この『アウトレイジ』は、1993年の北野作品『ソナチネ』と比べてみると興味深いかも知れません。
イ)映画で設定される場所は、『ソナチネ』は沖縄で、その美しい風景も映画の中にふんだんに取り入れられていますが、『アウトレイジ』の方は専ら東京であり、その風景などは二の次になっています。

ロ)『ソナチネ』の主人公の村川(北野武)は、自分たちを抹殺しようとする組織の本拠に乗り込んでいって派手な銃撃戦を敢行した後、車の中で静かに自決しますが、『アウトレイジ』では、主人公の大友は、2人の組長を含めかなりの人数を殺すものの、最後は小日向文世扮する刑事に捕まえてもらいます。
 結局は刑務所の中で村瀬組の若頭・木村(中野英雄)に殺されるものの、自分の配下の組員があれだけ殺されているにもかかわらず、刑務所に入ってまで生き残ろうとするのは、これまでに見られなかった展開です〔最後まで解決されないで残ってしまった木村の恨みを晴らさせるために、わざと刑務所入りをしたような感じを受けるところで、ここは今回の映画でただ一つ違和感を覚えた点といえます〕。

ハ)『ソナチネ』では、紙相撲見立てなどの印象的なシーンが見られますが、『アウトレイジ』ではそういったシュールな場面はほとんど見られません。

ニ)『ソナチネ』は、短い会話がぼそぼそっと飛び交いますが、『アウトレイジ』では登場人物は饒舌で、従ってわかりやすくなっているといえます。

(3)この映画に対して、映画評論家は総じて好意的といえるでしょう。
 小梶勝男氏は、「本作は、エンタティンメントであると同時に、北野武監督による暴力論であ」り、「偽善を最も嫌う北野監督らしい、性悪説に基づいた人間観は、決して不快ではない。むしろ徹底ぶりが気持ちいいほど」だし、「暴力をエンタティンメントとして成立させ、他には何も付け加えようとしない。付け加えないどころか、余計なものを一生懸命削ぎ落とそうとしている。その姿勢はB級バイオレンス映画として実に正しいと思う」として77点を、
 渡まち子氏は、「ヤクザ世界を描くことや暴力描写は北野武監督の原点である。だがここにはかつてのキタノ映画に見られた静謐なムードは微塵もない。大量のセリフと怒号が飛び交うこの群像劇には、キタノ映画に初参加の俳優の顔触れが功を奏して、新鮮な“男の映画”の趣があ」って、「残酷描写の連打に目をそむけたくなることも多かったが、それでも北野監督が暴力の世界をリロードして臨む、ニュー・バイオレンス映画には、圧倒的な迫力がある」として65点を、
 福本次郎氏は、「裏切りと駆け引き、ハッタリとだまし合い、銃弾と血がシュールなアートのように飛び交い、男たちの凄惨なバイオレンスがスクリーンを覆う。カネと権力をひとり占めにしたいというストレートな欲望をむき出しにしたヤクザの行動様式はある種の潔さすら覚える」として60点を、
それぞれ与えています。

 ただ、前田有一氏は、「こうしたエンタテイメント作品を撮るときの北野監督に何を期待するか。観客それぞれだろうが、私の場合はあえていうならオリジナリティ、または意外性といったところ」だが、「残念ながら本作の暴力シーンに、現代の映画としてとくに驚くような新味はない。むろん、不快な暴力を自主規制したアメリカの一般向け映画などとは比べようの無い、エグい表現は多々ある。だがそれも、どこかで見たような平凡なものばかりといった印象」であって、「ヤクザ映画としてはそれなりに個性を感じさせるが、北野作品ならではの驚きは薄い。こじんまりとまとまってしまった印象である」として55点しか付けていません。
 これまでどのくらいヤクザ映画を見たかによって、「どこかで見たような平凡なものばかりといった印象」を受けるかどうか違ってくると思いますが、クマネズミには、前田氏が挙げる椎名桔平の殺され方〔「車とロープを使った殺し方」〕が一つあるだけで十分ではないか、他にも変わった殺し方が描かれていたらその印象は薄まってしまうのではないかと思え、そればかりか、國村隼の殺され方〔舌を絡めた殺し方をされます〕、石橋連司の殺され方〔サウナ風呂で、総身の刺青を見せながら仲間とともに壮絶に殺されます〕などヨク見れば様々な工夫が凝らされていて、「平凡なものばかり」という印象は受けませんでした。



★★★☆☆


象のロケット:アウトレイジ


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6 コメント

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TBありがとうございます (ゴーダイ)
2010-07-01 16:42:53
はじめまして。
私はこの映画をコメディとして楽しみました。怖い映画かと思っていたらけっこう笑えるんですよね。
たけしさんの映画は数えるほどしか見ていないのですが、著作についてはまあまあ読んでいる私としては、たけしさん的笑いの映画だと思いました。
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Unknown (リバー)
2010-07-01 22:20:13
TB ありがとうございます。

たしかに、もうひと工夫があればと思いますね
とはいえ 単純に面白くはありましたが

役者陣は良かったですね
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いつもTBありがとうございます。 (KGR)
2010-07-03 20:56:03
毎度評論家の方のご意見は参考になります。

連続猟奇殺人事件でもあるまいし、人殺しに平凡もくそもあるか、と言う気がしますが、
事務所に乗り込んでのマシンガン乱射だけはいただけませんでした。

クマネズミさんのご意見の(ロ)(ハ)は、敢えてそうしていると見ました。
悪を敢えて閉じた世界として表現することで善の世界を考えさせない、
悪と悪の対比、どっちがより悪か、みたいなところに焦点を当てたと感じました。
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Unknown (かからないエンジン)
2010-07-04 20:24:29
TBありがとうございます。

僕も、「面白い!」と感じつつ、やはりどこか物足りなさを感じました。

やはり北野武といえばかなり変わった人ですから、本作の意外なまとまりの良さに少々肩透かしを食らったのかもしれません。

そういう点では、前田氏の言う「北野作品ならではの驚きは感じられなかった」に同意してしまいます。(氏の批評は好きじゃありませんが)

それにしても、大杉漣や寺島進がこの映画に出演していたらどういう役割を担っていたのか、妄想してしまいます。
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Unknown (ふじき78)
2013-03-02 09:05:26
> ハ)女性の役割があまりにも限定的なこと。

三作目が出来るなら「アウトレイジ ビヨンドの女たち」という鉱脈がまだ残されてるという事ですね。
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Unknown (クマネズミ)
2013-03-02 11:05:08
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
例えば、『HANA-BI』などの岸本加世子、『アキレスと亀』の
樋口可南子、あるいは大島渚繋がりで小山明子などの女
組長との対決ではどうでしょうか?
でもやっぱり前田敦子か橋本愛でも呼んでこないことには様にならないかもしれませんね。
もしくは、『脳男』で活躍した二階堂ふみあたりはどうでしょ
うか?
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