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謝罪の王様

2013年10月14日 | 邦画(13年)
 『謝罪の王様』をTOHOシネマズ渋谷で見てきました。

(1)宮藤官九郎の監督・脚本作品として5月に『中学生円山』を見たこともあり、映画館に行ってきました。

 本作では、謝罪師である東京謝罪センター所長・黒島譲阿部サダヲ)の奮闘ぶりが、6つのエピソードで綴られますが、それらのエピソードはバラバラに描かれるわけではなく、相互につながりを持っています。
 例えば、「case1」では、帰国子女の倉持井上真央)が運転する車がヤクザの車に追突してしまった件が取り扱われるところ、倉持はその件が解決すると東京謝罪センターに居着いてしまい、あとのエピソードにも顔を出します(注1)。



 さらに、取り上げられるエピソードは、以前自分の娘にした仕打ちを謝るというプライベートで他愛のないもの(「case4」)から(注2)、外国の国王に日本の総理大臣が謝りに行くという大掛かりなもの(「case5」)まで幅が広く、なおかつ愉快な内容ですから、見ているものを飽きさせません。

 ただ、それらのエピソードは、テーマの「謝罪」という観点から見るとどうかなと思えるものもあり、それほど笑えるものでもないように思われます。
 例えば、「case1」では、黒島の奮闘でヤクザの親分(中野英雄)の許しを得るものの、肝心の倉持は、実際のところほとんど謝罪していないようなのです。
 また「case2」でも、会社員の沼田岡田将生)が共同プロジェクトの担当者の宇部尾野真千子)にセクハラをしてしまった件が描かれるところ、宇部が和解するのは黒島の意表をつくパフォーマンスによるもので、ここでも沼田はきちんと宇部に対して謝罪をしていません。



 興味深いエピソードは、大物俳優(高橋克実)と元妻の女優(松雪泰子)が、息子の引き起こした事件についてする謝罪会見を取り扱う「case3」でしょう。



 毎日のようにTVニュースで謝罪会見が流される今の風潮(例えば、東電の謝罪会見!)を風刺していて、それに着眼したことはとても面白いと思います。
 ただ、ここでもそれほど笑わせてはもらえませんでした。

 あるいは、現実の方が先を行っているような感じで、このくらいのデフォルメでは鋭い風刺にならないのかもしれません。
 例えば、10月8日に行われたみずほ銀行の佐藤頭取の謝罪会見では、頭取が「深々と頭を下げ続けた。その時間、およそ20秒」とニュースで書かれているのです!
 本作でも、「とりあえず20秒間謝ろう」というレクチャーが依頼人に対し授けられます。

 また、ちょうど同日の夜に放映されたNHKクローズアップ現代「氾濫する“土下座”」では、謝罪会見の練習を行う危機管理コンサルタント会社が実際に登場しています(注3)。
 本作では架空とされる「謝罪師」なるものが、どうやらすでに実在しているようなのです!

 こうなると、例えば、阿部サダヲ扮する謝罪師・黒島譲(注4)の仕事に大きな誤りが見つかり、自分自身が謝罪会見するハメになるとか、そんな謝罪会見などは元々無意味だったとかするくらい(あるいは、それ以上)でなければ、現実の事態はすでにどうしようもないことになっているのではないでしょうか(注5)?

 それでも、本作の主演・阿部サダヲの活躍ぶりは眼を見張るものがあり、更には、最後のエンドクレジットで映しだされるEXILEなどによるダンスシーンには圧倒されました。こうしたシーンを映画の中ほどに持ってくれば、インド映画のようにもっと楽しい映画になったのかもしれないと思ったところです。

(2)渡まち子氏は、「バカバカしい謝罪もあれば、本当に人の心をくんで頭を下げるケースも。主人公の黒島がなぜ謝罪師になったのかというエピソードにこそ、その謝罪のエッセンスが詰まっていた。ラストの謝罪ダンス・パフォーマンスまで、たっぷりと楽しもう」として60点をつけています。
 前田有一氏は、「おじぎ文化を持つ日本において「謝罪専門業」という題材は、もっと人々をハッとさせる風刺にもなれたはずで、この程度で収束させてしまった点については不満を感じる」としつつも60点をつけています。



(注1)特に、「case4」で黒島のところに相談にやってくる超一流国際弁護士の箕輪竹野内豊)は、倉持の大学時代の講師なのです

(注2)上記「注1」の箕輪が、アメリカ留学中、大事な試験前だったにもかかわらず3歳の娘がしつこくフザケたので(「腋毛ぼうぼう、自由の女神!」という文句を繰り返しました)、手を挙げてしまったことを酷く悔やんでいます(実はこの娘が、………)。



(注3)同番組では「土下座」の流行について、さらに、映画監督の森達也氏が、「謝罪よりも、恐らく懲罰化しているんでしょうね」、「基本的には、ほとんどの人が土下座をしながらも、本気で謝罪はしてないでしょうし、また僕らも、それをなんとなく感じてるからこそ、見てて、あまりいい感じがしない。つまり屈服ですよね、謝罪ではなくて。全面的な屈服、降伏、そういったものを強要する」などと、また歴史家の山本博文氏も、「日本人は非常に名誉心が強い、その名誉心が強い人を、全面的に屈服させる形にするっていうことが、今の土下座の本質なわけですから、これはかなりなんて言いますかね、社会的には、相手に対する制裁のようなものがあるんですね」などと分析しています。

(注4)黒島は、ガードマンをやっていた時に入ったラーメン屋で、店員(松本利夫)のやったこと(湯切りの作業中に汁を飛ばし、黒島の顔面に当たったこと)を店員自身に謝罪して貰いたかったにもかかわらず、その気持がなかなか相手側に伝わらなかったところから、謝罪師になったとされています(「case6」の中で描かれます)。

(注5)話は飛躍しますが、最近もまた(10月11日)、人権問題について話し合う国連総会の委員会で、韓国の女性家族相が従軍慰安婦問題で日本を念頭に謝罪を要求し、日韓が反論を繰り返す展開となったそうですが、すでに村山談話や河野談話などが出され、アジア女性基金が設けられている現在、いったいどんな解決策がこの問題に見いだせるというのでしょうか〔「case5」のマンタン王国のエピソード(良かれと思ってした“土下座”が、マンタン王国では、相手を侮辱する仕草だったとは!)のように、まともな話が韓国との間では何も通じなくなってしまったような危機的な感じがします〕?



★★★☆☆



象のロケット:謝罪の王様


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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2013-11-04 09:52:20
映画化した時、取りあげられたかどうかを今ではすっかり忘れてしまったのですが、マンガのカイジに相手に謝罪する為に熱く焼けた鉄板の上で土下座するというのがありました。

まさに屈服ですね。

韓国相手にここまでやれば・・・・・いやいやいやいや、図に乗りそうなんだよなあ。
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Unknown (クマネズミ)
2013-11-05 07:08:44
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
漫画の『カイジ』にそんなすごい土下座が出てくるとは驚きです!
でも、韓国相手にそんなことをしても、国民の関心を外に向けることが狙いなのでしょうから、おっしゃるように、次々と新手の要求が出てくることになるだけかもしれません!
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