The love of liberty is the love of others; the love of power is the love of ourselves. by William Hazlitt
「自由を愛するのは他人を愛すること。権力を愛するのは自分を愛することだ」。これは愛読する小野寺健先生の「心に残る言葉」。からの引用だ。
チョウと名の付くものなら盲腸にでもなりたいと言われほど、権力に魅入られる人は多いようだ。しかし本当に長たる人は数少ない。父の語った長に生まれた人N氏のエピソードを紹介しよう。N氏は父の医局の少し先輩で研究臨床に関してはさほど冴えた人ではなかったようだが、どこか人の上に立つ風格があったらしく、教授の抜擢で市民病院の院長になった。父達はNさんは院長しかできないからなどと陰でからかっていたらしい。
六十年前、レントゲンの管球と言えばそれこそ、今の金額で何百万円もするものだったと思う。昔は看護婦もいろいろな作業をしたらしく、看護師になって数年目のAさん、レントゲンの管球を取り替える作業を手伝っていた時手が滑ったらしくうっかり管球を破損してしまった。さあ大変、なんとお詫びをしたら、どうやって弁償すればと思い詰めながら、厳しい叱責と免職を覚悟で真っ青になって院長室に赴いた。縮こまり涙ながらに謝るAさんにN院長は「看護婦はそうやって一人前になるんだ。今後注意して、いっそう研鑽に励め」。と許し、弁償などを求めなかった。Aさんは大変感激して、新たな涙にくれたという。
母はこの話が好きで、長というのはこうでなくてはと頷いていたのを覚えている。時代の背景も異なるし人の心根も変わってきているかもしれないが、長たる人の本質にはさほど変わりはないと思う。