駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

片目を閉じるのも

2011年01月20日 | 診療

 伴侶や友人と上手くやってゆくには片目を閉じると良いなどと云う。確かにその通りかもしれない。頭だかどこだかに血が上っている時は全部良く見えても、平常心が戻るとあれこれ気に入らないところも見えてくるのが普通で、まあそういうところは片目をつむって寛大にという知恵なのだ。

 これは外を見る目のお話。町中で医院をやっていると人間が内を見る目も気になる。どういうものかほとんどの人は自分には甘いというか見て見ぬふりと云うか、自らを省みる内向きの目は自分に都合よく閉じてしまう。  

 毎日何人もそんな患者さんとお話しする。Sさんは六十代半ばで、いつも年老いた姑に付き添って受診され、厳しくあれこれ世話されている。きびきびと的確な指示判断をされ有能な印象だったのだが、今日は自分の市の健康診断結果を聞きに来られてあれあれということになった。前回健診時、血圧がやや高め148/92だったので、再度測定すると155/97と出た。

「これ、おかしいわ。いつも高くないのよ。130くらいよ」。と詰問調。

「確かに緊張して高くなる方は居られますが」。と云いながら、なんだかこちらが恐縮しなければ悪いような雰囲気が漂う。

「えーと悪いコレステロールLDLが185で凄く高いですよ。それに空腹時血糖が122もある。糖尿病の疑いもありますね」。

「そんなはずはないわ。なんともないのよ」。

「いやあ、自覚症状はないんです。だから怖いんですよ」。いつもはお姑さんに厳しくしている矛先が自分に向かうと、どうも判断が鈍いというか甘くなる。

「おかしいわね。なんともないのに」。と、とても直ぐには現実を直視しにくいようで、まるで間違ったデータを出したんじゃあないのという鼻息が吹いてくる。

 こういうこともあるんですとなだめすかし、食事の注意をあれこれ申し上げ、献立見本をお渡して、一ヶ月後に再検査をしていただくところまで漕ぎ付ける。

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