脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

中ボケの夫を妻が虐待?ここにも側頭葉性健忘が

2009年08月19日 | 側頭葉性健忘症

先日の勉強会で話題に上った「高齢者虐待」のケースです。

夫婦二人暮らし。
夫の認知症が進んで(たぶん中ボケレベルでしょう)、通所しているデイサービスのスタッフが、さまざまな注意事項ややってほしいことを妻に伝えるのに、まったく実行されない状態が続いたそうです。(内容は具体的に聞いていません)

カヒリジンジャー
2009_0817_170000p1000022_2 心をこめて指導していても、何となく得心して聞いてくれていない場合や、高齢者との人間関係の悪さがベースにあって「とてもこの人に介護は頼めないなあ」と感じることがありますね。

ところが、この妻の場合は夫との関係性に特別の問題も見出されないうえに、聞き方はまじめで真剣にきちんと聞いてくれるのです。それなのに、全然実行されないことが繰り返されたのです。

スタッフは、キツネにつままれたようだったに違いありません。
そして結論。
「これは妻による夫への虐待が行われているということかもしれない」

相談を受けた保健師さんが妻に対して脳機能テストを実施したそうです。

鉄則を思い出してください。
「夫婦二人暮らしで、一方が小ボケになっても片方は正常でいられる。一方が中ボケになったら、ほとんどの場合片方は小ボケになってしまう」

つまり、小ボケの可能性があると考えて脳機能テストを実施したのです。小ボケの人は聞いているようでいて、理解力や判断力が落ちていますから、実行に至らないことはよくあります。
オンシジューム(シャーリーベービー)2009_0817_170500p1000025_2

テスト結果はMMSは22/30、低下順は正常。
それならば、中ボケ?ということが考えられますが、この妻の場合は脳機能の状態が、通常の老化が加速されたタイプとまったく違っていたのです。

かなひろいテスト、完璧に正常。
正答数も多く、内容把握も可能。
老化が加速されていくときにまず低下するのは、前頭葉機能ですから、この妻は老化が加速されたタイプではないことになります。

テスト結果を見るよりも前に、この保健師さんは気づいたそうです。
「もしかして、側頭葉性健忘?(マニュアルC ページ参照してください)」
根拠は、表情が豊か、反応がきびきびしている、当意即妙な受け答えができるでした。これはすべて前頭葉の働きですから!                ハナジンジャー2009_0819_123300p1000001_2

それだけにデイサービスのスタッフは、「前頭葉が働いているので、いかにもちゃんと聞いてくれているのに、海馬が働かないために覚えていられないだけ」ということがこの妻に起こっているとは思ってもいなかったでしょう。

覚えていられないために、やるように頼まれたことができなかったり、やってはいけないと念を押されたことをやってしまったりしたんですね。

悪いことに、その時々の反応はとてもボケている人のようには見えない(ボケていないんです。新しく覚える記憶に障害があるだけです)ために、余計誤解を生じたという「高齢者虐待?事件」でした。


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