真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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9.11とハマスの戦争とビン・ラーディン

2023年12月02日 | 国際・政治

 現在の世界は、圧倒的な軍事力と経済力を持つアメリカの支配下にあるといっても大きな誤りはないと思います。そのアメリカは、自国はもちろん、西側諸国や同盟国が敵対する国から攻撃を受け、戦争状態になった場合、相手国を話し合いのできない「極悪の国」とするために、いつも相手側の攻撃の実態や被害の詳細を問題にします。
 でも、攻撃に踏み切った相手側の主張はもちろん、過去に遡って、戦争状態に至った原因および経緯を問題にすることはほとんどありません。話し合いではなく、武力で決着させるアメリカが、相手側の立場や主張を考慮することは、ほとんどないのです。

 ウクライナ戦争では、2014年の政権転覆の実態や、その後のNATO諸国のロシアに対する挑発的な軍事訓練、また、親露派の人たちが多く住むドンバス地域に対する爆撃や、ノルドストリームに関わる制裁などを伏せて、ロシアの「特別軍事作戦」を、一方的で不当な「侵略」とする情報を、世界中にばら撒きました。話し合いなど眼中になかったので、プーチン大統領の演説や主張を取り上げ、その過ちを指摘するようなこともまったくなかったと思います。

 そして、今、ハマスのイスラエル襲撃についても同じような扱いをしていると思います。 
 下記は、「イスラームに何がおきているのか」小杉泰編(平凡社)からの抜萃ですが、ビン・ラーディンは、9・11後、アメリカのアフガニスタン空爆を予想して予め収録したと思われるアラビア語の声明を、アラビア語衛星放送局「アルジャジーラ(半島)」から放送したというのです。その声明の内容について、小杉泰教授は、
ビン・ラーディンは、アメリカの国家テロの先例として、再び広島・長崎への原爆投下に言及している。・・・アメリカの原爆投下が、日本との「戦争」状態の中であるがゆえに正当化されるのであれば、ビン・ラーディンが指令したと目される自爆テロ行為も、アメリカとイスラム世界は「戦争」状態にあるから正当性を持つという訳である。
 と書いています。ビン・ラーディンが、日本の広島・長崎への原爆投下に言及しているにもかかわらず、こうしたの声明の内容を知っている日本人は、あまりいないのではないかと思います。ビン・ラーディンの声明が、世界中の人々に知られるようになっては、アメリカが困るからだと思います。また、
アメリカが今、味わっていることは、われわれが数十年間にわたって味わってきたことに比べれば大したことではない。ウンマ(ムスリム共同体)は(オスマン帝国崩壊以来)80年以上にわたってこのような屈辱と不名誉を味わってきたのだ。息子達は殺され、血が流され、その聖域が攻撃されたが、誰も耳を貸さず、誰も注目しなかった。
  とか、
数百万の無実の子供たちが殺されている。何の罪も犯してない子供たちがイラクで殺されているが、われわれは支配者から非難の声もファトワーも聞いてない。このところイスラエルの戦車が大挙してパレスチナを襲っている。ジェニーン・ラーマッラー、ラファハ、ベイト・ジャラーなどのイスラームの地においてである。誰かが声をあげ、行動にでたということも聞かない

 とあります。

 だから、ビン・ラーディンの声明の内容やイスラエル建国以降の、パレスチナの人たちの思いを多少でも理解すれば、ネタニヤフ首相のように、ハマスをテロ組織と断じて、一方的にハマス殲滅を宣言することが許されることなのかどうか、わかるのではないかと思います。
 
 下記は、「イスラームに何がおきているのか」小杉泰編(平凡社)から「ビン・ラーディンのパレスチナ」を抜萃しました。
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                   ビン・ラーディンのパレスチナ

 ところで、ビン・ラーディンは、アメリカのアフガニスタン空爆を予想して。予め収録したと思われるアラビア語の声明を、今回「アラブのCNN」と呼ばれるようになったカタルのアラビア語衛星放送局「アルジャジーラ(半島)」から、10月7日に放送した。さらに翌々日にはビン・ラーディンの指揮下にあるといわれるアル・カーイダのスポークスマン、スレイマーン・アブー・ガイスが「航空機で急襲し、米国を破壊した若者たち」に関して「善い行いをした」と賛美する声明を出した。これを受けて、ブッシュ大統領は9日、アルカーイダの対米闘争声明を放送し続ける「アル・ジャジーラ」を公然と非難し、バウチャー米国務省報道官も「放映される煽動的な話やまったく虚偽の話などに懸念を表明する」と非難して中止を求めた。もちろん、アメリカはアル・カーイダテロ組織と断じているので、テロリストの言い分を撒き散らす報道機関「アル・ジャジーラ」への苛立ちを隠さない。しかし今回、「アル・ジャジーラ」のアフガニスタン報道がなければ、世界のアフガニスタン情報はもっと限られたものとなったであろう。むしろ問題は、情報によるアメリカ一極支配である。情報の隠蔽が事態そのものを歪曲化することは、今に始まったことではない。情報戦も同時に起こっていると考えるべきであろう。
 ビン・ラーディンは、アメリカの国家テロの先例として、再び広島・長崎への原爆投下に言及している。再び、というのは、1998年のファトワー(宗教裁定)「十字軍およびユダヤ教徒に対するジハード」においても、、また、「アル・ジャジーラ」対して送り付けたビデオ映像による声明の中でも繰り返し主張されているからである。アメリカの原爆投下が、日本との「戦争」状態の中であるがゆえに正当化されるのであれば、ビン・ラーディンが指令したと目される自爆テロ行為も、アメリカとイスラム世界は「戦争」状態にあるから正当性を持つという訳である。
 
 そもそも、ビン・ラーディンがその怒りの根源として最も強調するのが、ムスリム虐殺に対する世界の沈黙である。彼は叫ぶ。「アメリカの最も偉大なる建物が破壊されたのだ。アッラーに感謝を。北から南まで、西から東まで恐怖に覆われたアメリカがある。アッラーに感謝を。アメリカが今、味わっていることは、われわれが数十年間にわたって味わってきたことに比べれば大したことではない。ウンマ(ムスリム共同体)は(オスマン帝国崩壊以来)80年以上にわたってこのような屈辱と不名誉を味わってきたのだ。息子達は殺され、血が流され、その聖域が攻撃されたが、誰も耳を貸さず、誰も注目しなかった」。さらにビンラーディンは畳み掛けるように続ける。「数百万の無実の子供たちが殺されている。何の罪も犯してない子供たちがイラクで殺されているが、われわれは支配者から非難の声もファトワーも聞いてない。このところイスラエルの戦車が大挙してパレスチナを襲っている。ジェニーン・ラーマッラー、ラファハ、ベイト・ジャラーなどのイスラームの地においてである。誰かが声をあげ、行動にでたということも聞かない」(衛星放送「アル・ジャジーラ」でのビン・ラーディンの声明)
 ビン・ラーディンが執拗にパレスチナに拘っている事実にもう一度目を向けてみる必要があろう。実は彼の発想の中には、欧米vsイスラームの「文明の衝突」といったハンチントン流の考え方はそれほど強くない。彼のメッセージは、「反米」という極めて単純な言説構造しかもっていない。ウンマ(ムスリム共同体)からアメリカは出て行け、ということに尽きる。そしてアメリカを追い出すためには手段を選ばない、という激しい告白だけである。
 パレスチナなど具体的な地名がビン・ラーディンの声明には出てくる。ほとんどの日本のマスコミはこの地名を省略して紹介した。しかし、パレスチナの具体的な惨状を指摘する彼の言説手法は看過できない。このような言説手法自体に、ビン・ラーディンが世界のムスリムの間で人気を博する秘密が隠されているからである。そう、世界がパレスチナの悲惨な現実に目を向けておらず、そして誰もそれに反対する声を上げていないことに、彼は怒っているのだ。たとえパレスチナが方便であったとしても、である。湾岸戦争の時はサッダーム・フサインが同じ言説手法を戦略的に使った。今度はビン・ラーディンである

コメント (4)
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