無意識日記
宇多田光 word:i_
 



本日18時半にサム・スミスの公式アカウントからツイートがあった。

MIDNIGHT TONIGHT JST
4PM TODAY BST
@utadahikaru
https://x.com/samsmith/status/1826552796910366948?s=46

これを@Hikki_Staffがリポスト。予てから話が上がっていたサム初期の代表曲「ステイ・ウィズ・ミー」のタイトル名とヒカルの名が並んでいる。サムとのデュエットを披露する期待が高まっている今夜である。

この話が出る前から「サム・スミスと歌えばいいのに」という話はいつもどこからともなく湧いて出ていたものだ。サムのヴォーカル・スタイルはいわばなりくんのお手本みたいなものなので(本人はもっと昔の歌手の名前を出してきて否定するかもしれんが)、今まで幾度となくあった宇多田ヒカルと小袋成彬のコラボレーションを楽しめた人ならほぼ必ず気に入ってくれる組み合わせと言える。楽しめてなかった人も聴いてみて欲しいけどね。「なりくんは苦手だったけどサムならいい」という人も在るだろうから。「なりくん苦手だったけどサムはもっと苦手!」という人も、まぁ、ね!

スタイルもそうだが、それに伴い人脈的にも必然的なのが今回のコラボレーションといえる。「ステイ・ウィズ・ミー」のクレジットを確認すると、

プロデューサー:スティーヴ・フィッツモーリス
エンジニア:ダレン・ヒーリス
ドラム:シルヴェスター・アール・ハーヴィン
ベース:ジョディ・ミリナー
弦楽指揮者:サイモン・ヘイル

といったお馴染みの顔触れが並ぶ。スティーヴは言わずもがな『Fantôme』以降ずっとヒカルのサウンド・メイキングを司ってきた人(SFの新録や再録も彼だ)、ダレンはそのスティーヴの相棒みたいな役割をしてくれてる人だ。アール・ハーヴィンは『Laughter In The Dark Tour 2018』のツアー・ドラマー、ジョディは同ツアーのバンマスで『One Last Kiss』でA.G.クックが入れ忘れたベースラインを急遽補填させられ(て弾いた演奏が各所で絶賛され)た人だ。サイモンはあの『花束を君に』の感動的なストリングスを指揮した人だと言えば通りがいいか。もうみんなみんなヒカルに縁のある人ばかりの曲なのだサム・スミスの「ステイ・ウィズ・ミー」は。

更に、同曲はグラミー賞二部門を受賞しているのだが、そのバージョンが「ダーク・チャイルド・バージョン」でして。そう、あのヒカルの『タイム・リミット』の前奏間奏でやたら「ダーク・チャイルド♪」と呟いてるおっさん、あの「ダーク・チャイルド」さんのことなのだ。別名ロドニー・ジャーキンス。あ、逆か。ホイットニーやらマイケル&ジャネット・ジャクソンやらを手がけてきた超有名プロデューサーさんですわ。


…という感じで最早「我が家」状態のこの曲でヒカルがどんなパフォーマンスを見せているのやら、ですわね。で、サムは昔この曲をメアリーJ.ブライジとデュエットしてるんです。メアリーといえば彼女のセカンド・アルバム「マイ・ライフ」が「宇多田ヒカル生涯の一枚」として数えられる程にヒカルに影響を与えた人物でな…という話はこの日記で散々してきたから省略するとして、もしヒカルがメアリーと同じようにサムとデュエットしているのなら比較されてしまう事必至なのですよ。どうしたって。

日本での知名度がどれくらいか知らないけれど、メアリーはこの日記でも「宇多田ヒカルが歌唱力でとても敵わない」人物の代表格として名前をずっと出してきてる事でわかる通りメチャメチャ歌が上手い。この「ステイ・ウィズ・ミー」での歌唱も取り立てて名演という程ではないけれど、「ゴスペル寄りのオーソドックスなソウル・ナンバー」という同曲の立ち位置を第一声から絶妙に指し示す声のファイン・チューニングぶりを見せている。うぅん、ヒカルこれと比べられちゃうの??いやーん。

てことで、ヒカルがどんな角度からアプローチをしてくるのかに注目したいので、曲を聴く前にこうやって日記をいそいそと(急ぐとか忙しいとかの意味で使う人が減らないのでこれそのうち辞書でも併記されそうよね…ここでは嬉しい様子で、という意味です)書いているのでした。果たして、メアリーのようにゴスペル風味をほんのり出してくるのか、それとも開き直っていつもの客演みたいな歌い方をするか(『By Your Side』とか『Do You』とか『T』とか)、はたまた思いもかけないスタイルでレコーディングしているのか。あたしとしてはデュエットでなくソロでこの曲をカバーしてみて欲しいんだけど、まぁそれは今回は無いか。バックの演奏が再録として、仮にいつもの勝手知ったる仲間たちに囲まれて歌ったというのなら、いつも通りの高品質なパフォーマンスが期待できる。でも今回ばかりはいくらなんでも比較対象が厳しい。私は誰と比べるでもなく、ヒカルの歌唱そのものを楽しむつもりで聴くよ。


追伸:最後に、ヒカルからのメッセージがサムのオフィシャル・サイトに載ってたから転載しとくわね。

https://inthelonelyhour.samsmithworld.com/

『Sam Smith has the kind of voice you hear once and you always remember. The first time I heard them was on the song "Latch", at a music festival I went to London soon after I moved there from Tokyo. I looked up the song right away to find out who that voice belong to. Then came "In The Lonely Hour" and the rest is history. 』

「サム・スミスの歌声は一度聞けば二度と忘れないですよね。初めてサムの歌を聴いたのは、私が東京から引っ越して間もない頃にロンドンで観た音楽フェスでの「ラッチ」(※2012/10/8リリース)という曲で、でした。その歌声の続きを知りたくてすぐにその曲の事を調べたんです。そうこうしてるうちに(サムのソロ1作目)「イン・ザ・ロンリー・アワー」がリリースされて、後は皆さんご存知の通り!」(i_さん訳)

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また2024/8/11のEIGHT-JAMから。

『私が感じ取ったものを、そことは切り離してまた膨らますみたいな。ちょっとお餅貰ったけど切り離してまた膨らます…殖やした、みたいな。…喩えが変だな…漬物の菌とかの方がいい? ちょっと分けて貰った(笑)。』

これはタイアップの制作話の時にヒカルが出した例え話のくだりですわね。サバンナ高橋に切替スピードを絶賛されてたけど、本来なら芸人さんの現場での切替スピードはもっと早い。それでも感心されたのは、ヒカルさんてインタビューで予め問答を想定してなくてその場でひとつひとつ考えながら言葉を発するからね、これ収録の現場ってより、ネタ出しとか打ち合わせの間合いなんですよバラエティで言うなら。漫才師がコンビでネタ合わせしてアイデアを搾り出してる時にこのスピードで「ここは餅…いや漬物か」って即座に代替案出されたら「あ、この人頭の回転早いわ」ってなるよね。それ。

つまりヒカルさんは最初「切り離して膨らませる」というキーワードを抽出してその特徴の当て嵌まる食べ物としてお餅を出してきたのだけど、

「待てよ、お餅は確かに膨らませるものだけど、量が増えるわけじゃないよね? 単に中に空気が入って容積が増えるだけで質量はそのまんまだな。いや私のやってる事は、メインのタイアップ相手のストーリーを元にして“新しく歌を作り出す”ことだから、最終的なアウトプットの総質量は増えてないといけないんだよね。だとしたら餅の喩えは不適切だな、なんか同じものを分けて貰って質量が増えるもの…ああ、お漬物だとそうなるか!」

…とか考えて喩えをスイッチしたんだろうね。動画と音声があると思考過程が追い易くて嬉しいぜ。


抽象的思考の基本的な推移の一例として、これは非常に参考になるのよね。

・切り離す
・膨らます

の2点の性質だけ抽象してそれに合致する餅という具象を返してはみたものの、元の被比喩対象にとっては不十分でもうひとつ

・最終的な総質量が増えている

という条件を加える事で今度は十分さを担保する。確かに、私の普段の思考過程もこれの繰り返しだわ。対象の特徴や性質を項目毎に抽出して言語化し固定化(ここが大事なんだけどまだあんまり一般的になってないな)して幾つかのサブルーチン(プログラム/ロジック/アルゴリズム)に放り込んで答えを返して貰ってまた対象の性質と突き合わせて齟齬がないか確認する。…ふむ、思考過程だけじゃないな、人との会話であろうと、技術の習得だろうと、自然相手の実験や観察であろうと、基本的にこういうプロセスだわね。

なので、何をするにしてもこの「餅と漬物」のくだりはとても参考になるエピソードだと思うし、なんだったら「コロンブスの卵」や「トロイの木馬」や「臥薪嘗胆」みたいに、普通に文章中に故事成語の一種としてこれから用いていくことになるかもしれないわ。どうなりますやら、だけどね。


P.S. なお、餅や漬物でなく栗まんじゅうならドラえもんの「バイバイン」。あれもSFちっくなエピソードとしては秀逸でしたな。今や「指数関数的増加の具体例」としては最も有名なもののうちの一つかも?? 知らない人はググってね。

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