ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはんbyFb…酒田 『アンジェロ』の、庄内の食材のイタリアン

2012年12月13日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 庄内のレストランガイドブックを手に、今日は酒田へ。ご当地食材の飲食店は、酒田でも多数掲載されていて、列車内で店の選択を楽しみ始めた途端、いきなり豪雨が降り出した。晩秋のこの地方は雨がよく降りがちで、飲食店街が駅から遠い酒田での食べ歩きに、文字通り暗雲が立ち込める。

 鶴岡の人気イタリアン「アル・ケッチアーノ」に並び立つ、酒田の超人気郷土フレンチ「ル・ポット・フー」が、駅の正面のホテル3階にあるのを思い出し、思い切って行ってみたがあいにくの満席。しかし1階のイタリアンが同系列とあったので、この「アンジェロ」でランチをいただくことにした。「産直」「庄内産」の文字がメニューの各所に踊り、ローカル魚もミートもベジタも欲張り、目移りが止まらない。

 迷った時は店のオススメ、ということで、シェフおすすめランチコースをセレクト。主菜は庄内豚と庄内浜の魚が選べ、寒ダラの香草パン粉焼きに決めた。「迷った時は、両方だ」とはいけないのが、コースの惜しいところか。箸でいただく前菜3品に、焼きたてふっくらながら餅のようにぽってりした米粉のパンと続き、ネギとハマグリのパスタのうまいこと。新潟寄りの鼠ヶ関でとれる小振りのハマグリはポテッと丸く、苦味がなくふくよか。遊佐町のポロネギのほの甘さが下支えになり、味がくっきりと腰が強いパスタによくからむ。

 そして主菜の旬寒ダラも、庄内浜で水揚げされたローカル魚だ。冬の産卵を控えて身がしっかりしており、ぼってり厚い白身が香草のフレーバーと、酸味ほのかなトマトソースに負けていない。身側はスッキリ、皮側は脂が強くと、切り身により食味が違い、米粉のパンよりつや姫の新米が欲しくなりそう。タラは鮮度落ちが激しい魚だが、独特の白身香をあまり感じないのは、水揚げ地が近いこその鮮度のおかげだろう。

 こってり砂糖甘いラフランスのシャーベットをはじめ、熟した庄内カキにリンゴのコンポートなど、締めのデザートもご当地フルーツがあふれている。おかげで庄内のローカル食材秋〜冬編を堪能し、次はこの本片手に春〜夏編といきたいものだ。その際は雨風に煙る日本海ではなく、青空に抜ける鳥海山を拝みながら巡りたいところだが。


旅で出会ったローカルごはんbyFb…鶴岡 『べんけい』の、庄内の食材の料理いろいろ

2012年12月12日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 レストラン「アル・ケッチアーノ」は、鶴岡市街から離れた田園にある立地にも関わらず、東京など遠方からも訪れるお客で賑わう、人気イタリアンである。地元・庄内の野菜など、ご当地食材を多用しているのが特徴で、その魅力の発信に尽力しているのも評価されているよう。ローカルごはん好きとしては、酒田や鶴岡方面を訪れたら一度足を運んでみたいのだが、人気と立地でなかなかタイミングが合わず仕舞いでいる。

 このたび庄内へ行くことになった際、この店の奥田シェフと、食のスペシャリストの藤原浩氏が監修したレストランガイドを知った。件の店は行けずとも、間違いないご当地食材の店情報があれば、庄内の食べ歩きには百人力。さっそく鶴岡の晩に、紹介の「べんけい」の暖簾をくぐった。品書きを見た限りでは普通の居酒屋メニューだが、地物のオススメを訪ねたら「ハタハタ田楽に、サケとキノコのホイル焼きとか」など、地魚料理がいくつか挙がった。

 ともにこの地方では知られた、秋から冬のローカル魚なので、聞き慣れない「馬面」をオーダー。冷蔵ケースでとぼけた顔を見せるウマヅラハギのつくりで、キモ醤油にワサビでいただくと、淡泊な白身がふくよかにふくらみ、これは笑みのこぼれるうまさ。庄内浜に揚がる地物で、冬前のこの時期は身が太りキモの味がよくなるという。同じくこれからが美味しいアンコウのアンキモと共に、さながら冬の海のフォアグラだろうか。

 馬面とともにオススメメニューから頼んだカキグラタンは、大粒のカキがゴロゴロとたっぷり。プリプリの身がチーズとホワイトソースの濃厚さに負けず、芯から温まる一品である。夏の岩ガキは付近の特産だが、あいにくこのマガキは県外ものだそう。そこで地物の確認の上でもう一品、ローカルミートの料理で庄内豚の角煮を追加。繊維が詰んだかみごたえのある肉で、薄めの脂のトロ甘いこと。低コレステロールのヘルシーな肉質らしく、ホロホロの角煮のイメージとはちょっと対照的な食味か。

 庄内のローカル魚とローカルミートをそれぞれ味わったところで、今日は早めにお開きにした。ガイドブックにはまだまだ、地元食材の店が目白押し。明日の酒田を攻めるために、胃袋の余裕と睡眠時間を、今夜はしっかり確保しておこう。


旅で出会ったローカルごはんbyFb…仁賀保 『笹乃井』の、にぎりと稲庭うどんのセット

2012年12月10日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 多島海がそのまま隆起した象潟は、その景観がそのまま海底にも続いており、変化に富んだ海底地形は様々な種類の底魚の生息に適しているという。加えて背後に控える霊山・鳥海山の伏流水が海底から湧出して、栄養価の高い海域を形成。さらに北前船がのってくる暖流・対馬海流と寒流・千島海流が沖合でぶつかり、好漁場をつくり出す。芭蕉をはじめとする、当地ゆかりの自然環境が、魚どころ象潟の後ろ盾となっているように思える。

 そんな立地に期待して、旅の最初の昼食に仁賀保駅前の「笹乃井」にお邪魔。金浦や象潟で揚がる地魚の寿司に定評がある店だが、ご主人に地物の話を振ると、少々歯切れが悪い。というのも11月のこの地方沿岸は時化が多い時期で、この数日は漁に出られていないという。そのため入荷が安定せず、ネタを揃えるのが大変なのだとか。

 ご主人によると、象潟では地元オリジナルの魚介を売りにしようと取り組んでいるが、最近の漁獲量から安定供給と価格が心配という。夏の名物の岩ガキは、震災後に伏流水の流れが変わったことやとり過ぎも原因で、ここ2年ほど水揚げが減少。特にこの夏は気温が上がったため、身がやせていたそうである。サバは「鳥海サバ」と名付けて、一本釣りや活け締めを条件にブランド化。関サバにも劣らない食味とも評価されたが、ブランド化と同時に漁獲が減少した。ほかサケとイクラを売りにするのも考えたが、今年は豊漁ながら毎年漁獲が安定するとは限らない。地元の漁獲をうまく売るために、ご主人は色々苦心の様子である。

 そんな魚事情の中、一番人気のにぎりと稲庭うどんのセットを注文すると、ホタテ、甘エビ、アオリイカ、タラのこぶ締め、マグロの6カンのにぎりが並んだ。マグロ以外は地元で水揚げされた漁獲で、イカはバキバキ歯ごたえが激しく、甘みと粘りは控えめ。甘エビは鮮度がいいから身がプツプツ締まり瑞々しい。マグロのヅケは地元で人気の食べ方で、ムッチリしなやかな赤身が血の匂いがせずスッキリ。そしてこの日の地元ネタの代表のタラは、塩味が効いたソフトな白身にほんのり漂うコンブの香りが、北前船の寄港地らしさか? ご主人によると、タラはダダミ(白子)がおいしくなる前の今頃が、栄養が身から抜けておらず味がいいという。

 稲庭うどんは椀ものがわりで、さっぱりした塩ベースのつゆがこの店のオリジナル。ご飯ものに合うように甘い醤油つゆから変えたそうで、細麺でしこしこのうどんがツルツルお腹に通る。にぎりもいいが、冬の日本海はやはり、温まるローカル魚料理が欲しくなる。タラならじゃっぱ汁、そして冬の秋田の真打ち・ハタハタのしょっつる鍋あたりが気になるのは、熱々の稲庭うどんのお誘いなのだろうか?


町で見つけたオモシロごはんbyFb…横浜中華街 『四五六菜館本館』の、孫・麻婆豆腐

2012年12月05日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 日本人が大好きな中華料理として、3本指に入る麻婆豆腐。四川省で生まれた豆腐料理「陳麻婆豆腐」を日本へ伝えたのは、中華の鉄人陳建一氏の父・建民氏という話は、知る人ぞ知る起源である。当時は今のように、日本人の舌に激辛への耐性がまだない頃で、花椒と呼ばれるサンショウを控えて、辛味を抑え目にしてあったとか。最近の麻婆豆腐専門店ではサンショウたっぷりのを供するようになり、痛く痺れる辛さこそ本場四川省のに近い味らしい。

 陳建民氏がアレンジした麻婆豆腐はいわば、日本人の味覚に合わせた「ジャパニーズ中華」だろう。一方、この日横浜中華街の「四五六菜館本館」で味わったのは、四川料理ながら上海料理にアレンジされた麻婆豆腐である。中華鍋で豆腐を挽肉入り唐辛子あんとジャッジャッと炒めて、が麻婆豆腐の調理のイメージなのが、ここでは土鍋でグツグツ煮立って運ばれてきた。ふたを開けたら、トッピングが実に豊富なこと。ザーサイ、干エビ、カシューナッツに、葉ニンニクと枝豆の緑が赤いドロドロのあんの上で鮮やかだ。

 この料理、オーナーシェフの孫氏が考案したもので、上海料理らしさを出すべく素材の味をそれぞれ楽しめるように仕上がっている。豆や野菜のホクホク、シャキシャキした食感を、トロリとマイルドな豆腐が支え、控え目の辛さの中に時折、赤青それぞれの唐辛子のパンチが炸裂。特筆ものは牛肉で、挽肉ではなく叩いたヒレ肉の存在感がずっしりくる。辛味が食欲をあおりご飯とかっ込む四川風もいいが、これは辛味の中に繊細さがあり、コースの主菜としても充分の食べ応えがある。

 四川省の麻婆豆腐は、考案した料理人「あばた顔の陳おばさん」から、一般的に「陳麻婆豆腐」と呼ばれている。四五六菜館のこれは、品書きに「孫・麻婆豆腐」とあり、陳おばさんの伝統に自らの工夫を重ねている、といった意匠が伺えるネーミングである。いっそ、その味と店内の貼り紙の写真で見た孫さんのイメージから、「孫・厚道大叔豆腐」(穏やかな孫おじさんの豆腐)なんてしてみたら?


ローカルミートでスタミナごはんbyFb…那須町 『なすとらん』の、那須和牛ステーキ丼

2012年12月03日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん

 日本指折りの高級銘柄和牛として挙げられる、神戸牛。調べてみるとほかに神戸ビーフとか神戸肉とか、類する呼称が見られる。いずれも兵庫県産で脂肪交雑値が高い黒毛和牛のことだが、厳密に言えば品質や素性により、それぞれが指すものに微妙な違いがあるという。

 銘柄肉や地域名称肉の定義や基準は、各地の生産者や出荷団体それぞれで設けているのが一般的だ。肉質等級に始まり素牛の素性、餌、肥育地域に期間、競られる土地諸々、評価の要素が多岐に渡るため、銘柄ごとに物差しが異なり実に複雑。定義がとれた海域や水揚げ地ぐらいと、シンプルで分かりやすいブランド魚に比べ、畜肉は生産に人間の手間がかかっている分、評価基準が複雑になるのは道理なのかも知れない。

 那須高原のレストランで銘柄和牛を味わおうとすると、3種の地名銘柄を目にする。いずれも生産地の定義や肉質の評価基準は異なり、「とちぎ和牛」は県産和牛の中から、指定生産者が厳しい格付基準をクリアした高級銘柄。いわば栃木県を代表するブランド和牛である。一方「那須牛」は、A5ランクでBMS値も高い、こちらも高級和牛である。地名をズバリ冠しているが、実は生産地は那須高原ではなく、別の地域の特定の生産者による登録商標である。

 これらから那須のローカルミートとして選ぶなら、もう一つの銘柄「那須和牛」がおすすめだ。JAなすの管内の那須町と那須塩原市、大田原市で生産された黒毛和牛が定義だから、れっきとしたご当地地名ブランドの和牛といえる。この日は地元の生産者と飲食店、流通、レジャーの団体が運営するレストラン「なすとらん」で、那須和牛ステーキ丼を味わうこととなった。サーロインかリブロースを、特製のタレと那須高原で収穫した野菜と一緒にいただくもので、食から那須を発信するのを目指すこの団体の理念にも、マッチした逸品である。

 芯に赤さが残る程度に焼き上げたステーキは、肉汁はほのかで脂の甘みが軽い。飼料に炭の粉を与えているのが独特で、木酢が脂の味を良くするそう。ボリュームがあるが肉自体の味も控えめなので、スッキリ箸が進むステーキである。とちぎ和牛の肉質等級基準が4〜5なのに対し、那須和牛は3〜とやや緩い。客単価を考慮して、手軽に味わえるようにしたため、との説明だが、おかげで財布に優しく胃にも重すぎない、カジュアルに味わえる銘柄肉となったのかも。

 那須和牛は生産のみならず、販売流通もJAなすの管内に定められていて、地元の人や旅行者でほぼ地産地消されているという。「地元産の食材を地元に卸し、地元で売り地元へ食べに行くことが大切」とは、なすとらんの方の至言。各地のローカルごはんも食材も、ご当地名を背負う以上、この精神をしっかり持ってもらいたいものだ。