ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん98…神戸 『寿司うを勢総本店』の、ネタがジャンボで安い握り

2008年01月10日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 

 昨年のゴールデンウィーク頃に、三ツ沢球技場での横浜FCvsヴィッセル神戸戦の観戦記を綴ったことをご記憶だろうか。神戸在住のヴィッセルサポーターである友人が、アウェイである横浜まで遠征してくれ、今期J1に昇格したチーム同士の雨中の熱戦を応援するも、残念ながらわが横浜FCの完敗。そのまま夜の野毛から伊勢佐木町へと流れ、サッカー談義に明け暮れながらのはしご酒となったものだ。
 そこで秋のアウェイ戦、つまり神戸での試合にはこちらから出向く予定だったが、あいにく横浜FC戦の日は自身の都合がつかない。そこで同じ横浜のJクラブでも、強豪・横浜FMの試合に振り替えていただき、羽田からスカイマークの便で神戸空港へ、1430分キックオフのホームズスタジアム神戸へとはせ参じた。

 試合のほうは、ここで勝てば10位以内が確定するヴィッセル神戸の気迫に、横浜FMがやや押され気味の展開となり、双方決定力に欠けてスコアレスドローという結末。それにしても、築数十年で屋根もないオンボロ球技場の三ツ沢に比べ、ヴィッセルのホームスタジアムはワールドカップも開催されただけあり、最新鋭でとてもきれいなこと。その上、ゴール裏に控えるサポーターの熱気も、横浜をはるかに上回るものがあり、おらが町のチーム、としてしっかり根付いている点はちょっとうらやましかったか。

 地下鉄で三宮へと流れれば、その後の展開は横浜の時と同様、神戸の夜のはしご酒となる。アテンドは友人任せにしたところ、三ノ宮駅の南側から、一杯飲み屋がごちゃごちゃと軒を連ねる通りを抜け、北長狭通り界隈の繁華街へ。まず連れて行かれたのはなんと、寿司屋だ。一杯、の前に軽く腹ごしらえをしてから、というのが今宵最初の趣向のようだ。
 18時をちょっと回ったところなのに、店頭にはすでに数人の客が行列している。夕方の営業は1630分からとあるのに、結構な人気店のようだ。10分ほど待ったところで順番が回ってきて、店内へと足を踏み入れると、カウンターとテーブル席主体の一見、本格的な寿司屋だ。普段は「回る寿司」が御用達の身としては、思わず身構えてしまう。
 2名さんはカウンターの空いてるとこへどうぞ、とお姉さんに案内され、ちょうど空いたところへと腰掛ける。久々の回らない寿司で緊張するかと思いきや、カップルや親子連れなど客層が幅広く、回転寿司のように気楽で居心地はいい。カウンターで「ぼくぜんぶサビ抜き」と頼む、小さな常連さんらしい子供の姿も見られ、なかなか庶民的な店だ。カウンターの向こうには職人さんが5人ほどずらり並び、満席御礼の店内から山ほど飛んでくる注文をランダムに受けてはキュッと握り、と忙しそうだ。

 


三ノ宮駅のすぐ近くにある。多客に応じて板前さんがフル稼働


 そんな店の雰囲気同様、テーブルの上の品書きに書かれた値段は200300円程度、高いものでも500円ほどと、回転寿司値段なのにホッとする。さっそく注文、まずは回転寿司の時のように、まずはイワシ、シャコとサバといった「200円ネタ」で様子見だ。目の前の親父さんにオーダーすると、伝票に手書きで逐一チェックしてから握り始める。皿の勘定がICチップ式の回転寿司に比べ、アナログというか風情があるというか。
 ややしてから目の前のつけ台に敷かれた笹の葉の上に、トン、と出された寿司を見てビックリ、とにかくネタが大きいのだ。小振りのシャリを覆うような切っつけがこぼれ落ちないように頂くと、どれも鮮度がよく歯ごたえがしゃっきり。特に青魚の2種はネタがピカピカ光っており、脂がしっかりのってこれはうまい。値段は回転寿司なのにネタの実力は本格寿司といった、関西らしく値ごろ感がある寿司である。「回転寿司に行っても、あれこれ頼むと結構高くついてしまう。ならここのほうが、ネタがいいからね」と案内の友人の言葉にもうなづける。

 この『寿司うを勢本店』店は、ジャンボなネタで評判を呼んでおり、特に昼時のランチは握り10カンで1000円を切る値段もあって、長蛇の行列必至とか。ネタの大きさに加え、ネタと酢飯のバランスがいいから、味もいいのが人気の秘訣のようだ。大阪の曽根崎、天満などにも、同様な格安寿司の評判店があり、ネタに手を加える「江戸前の仕事」を売りとする東京の寿司に対し、関西の寿司屋は値段の安さとネタの大きさで勝負、といったところか。カウンターで肩肘張らずに気軽に寿司がつまめる、というのは、屋台で供していた江戸前の寿司の本来の姿に近いようにも思えてしまう。


肉厚な白ミル。ネタはどれも2カン単位で握られる


 初手の品に気をよくしたこともあり、アジにモンゴウイカ、鉄火巻きと、定番の品を続々と追加する。アジもサバやイワシ同様、脂がよくのっていてトロリ濃厚、イカは甘みがしっかりしていて、シコシコした身が口の中で跳ね回るようだ。
 気をよくして調子に乗り、ちょっと高めのネタにも挑戦だ。まずはミル貝。白ミルで、磯の香りと甘みがミックスされ、コリコリとした歯ごたえ。続いてサーモンは生のと、品書きにあった「皮の握り」も注文。脂があふれるようにトロトロな生サーモンはもちろん、珍しいサーモン皮あぶりが意外にうまい。焦げ目がつくぐらい皮目をしっかりとあぶってあり、かぶりつくとバリッ、そして脂がジュッとあふれてくる。いわば焼きジャケのテイストで、鮭好きにはたまらない味わいだろう。

 いっそここで腰を据えてしまいたいところだが、店頭の行列は次第に伸びており、飲む前の腹ごしらえで食べすぎてもいけない。腹五分程度で席を立って次の店へ向かうべく、生田通り界隈を流れていく。寿司屋で長居は無粋だし、と粋がってはみるものの、魅力的なネタがいくつかあったので少々後ろ髪を引かれる思いでもある。
 来年のリーグ戦での「ホーム&アウェイ観戦」で神戸に応援しに来た際に、また店を再訪しよう、と思ってはみたが、片や神戸は好成績でJ1に残留、一方わが横浜FCはダントツの最下位でJ2に降格してしまい、来期はマッチメイクの機会がないのでは? 格安ジャンボ寿司を食べたさに、来期は応援するチームを横浜FMに鞍替えして神戸を再訪するかな… 。(200712月1日食記)