JR塩釜駅は市街の陸側の外れで、中心部で海にも近い本塩釜へは20分ほど歩く。軽く登ってから下りで、右奥には塩釜神社の森が青々と見える。突き当たりを右に折れると「鹽竈海道」との愛称の通りへ。黒御影石で舗装された舗道とそばを流れる曲水沿いには、「道そのものが博物館」のコンセプトのもと、様々な趣向が凝らされている。旧町名などを記した道標、塩竈に由来する和歌を百首集めた「塩釜百人一首」の石板、宇治拾遺物語や好色一代男など塩釜を書いた古典の一説を記した屏風石碑、など。追っていくうちに、塩釜神社表参道鳥居へとたどり着いた。
塩釜神社は東北鎮護・陸奥国一之宮、海運の神様として、朝廷を始め庶民の崇敬を集めた古社。起源は奈良時代以前とされ、平安期の「弘仁式」にその存在が記されている。国府と鎮守府を兼ねた多賀城が近く、その精神的支えとなって信仰された所以もある。江戸期には藩主の伊達家が大神主も務め、この頃に社殿も整備されている。表参道は直登の202段の急階段が圧巻で、登ると運気が上がるとか。石段は段差が低くすり減っている上、下り方向が低いので気をつけないと滑りそう。沿道の灯篭を見ながら、ゆっくりと登る。
桃山様式の楼門・随身門から、唐破風のない唐門をくぐると、正面に左右宮拝殿、右手に別宮拝殿が並ぶ。左右宮は左宮に武甕槌神(たけみかづちのかみ)、右宮に経津主神(ふつぬしのかみ)を祀り、ともに武神として権力者に崇められていた。別宮拝殿には、主祭神である鹽土老翁神(しおつちおぢのかみ)が祀られる。三神が祭神で三本殿・二拝殿形式は、全国で唯一なのだとか。別宮は塩の神・安産の神として庶民の信仰が厚く、訪れる参拝客も多い。
芭蕉に詠まれた文治灯篭、葉がハガキにもなる多羅葉の木などを眺め、唐門を出て右へ。撫牛、塩釜桜、舞殿を見て、帰りは東神門から東参道を経て歩く。坂が緩やかなため歩きやすく、途中登りがキツく九十九折りの「七曲がり」の下り口が見える。東参道壱の鳥居から出ると、沿道には蔵造りの建物と古い商家が点在。茶の矢部園、家紋の違丁子がついた浦霞醸造佐浦の石蔵、らくがん「長寿楽」の丹六園は黒塗り板塀格子戸に朱の看板が目を引き、江戸期後半からのイゲタヨ印の仙台味噌の太田與八郎商店など。
芭蕉が曽良と松島へ旅立った「芭蕉船出の地」の碑を見て、塩釜神社の標石を過ぎたら街の中心である本塩釜駅へと着く。明日は、船で日本三景を拝みましょう。